信州大学 地域連携フォーラム2008
「環境としての宇宙から地表まで」

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黄砂・大気エアロゾルの長距離輸送:環境問題とのかかわり

岩坂泰信 金沢大学フロンティアサイエンス機構 特任教授

大気は文字通り、気体から作られている広大な領域である。しかし、その気体の領域は岩石や海からなる領域と接しており、当然ながら、境界独特の現象が見られる。このような事情は、物質科学の中で表面現象・表面過程が独自の領域として扱われていることと繋がるものがあるように思われる。地球を扱う学術諸分野の中で、そのような境目(さかいめ)領域に関する学術は、大気や海洋そのものを扱う学術からはるかに遅れて整備されはじめた。

人間の生活はこの境目領域で営まれており、その規模は年を追って拡大している。この境目領域では人間社会が作った規範(快適な生活の追及、金銭的価値を極める、国境を設ける、等)に基づく活動が広範に行われ、この領域の自然状態が人間活動によって大きく変動する事態に立ち至っていると考えられる。「人間は境目に生じる様々な自然現象を利用しつつ活動しているために、境目に起きている諸現象に対するある程度の知見を必要としている」という現実がある。必要性は常に人間活動に左右され留まる所を知らない。この常ならぬ必要に影響される学術とはどんなものなのか。

ここで取り上げる大気エアロゾルに関する科学では、そのような事がらを考えさせる事例が多数見つかる。大気中に目に見えないほど小さな気体以外のものが存在することについて、いささかの考察を加えたことを以て大気エアロゾル学の始まりとするなら、200年ほど前にこの分野が芽生えたことになる。わが国では、35年ほど前にこの分野の学術組織が作られ、ほぼ同じ頃アメリカやヨーロッパでも学会が組織化された。環境問題がやかましく言われるようになっていたこともあり、学術上の知見が国や地方自治体に積極的に生かされた事例も多々存在する。しかし、それらは学術と社会の関係の全的な調和を示したものではない。M.ギボンズが提唱した科学活動の分類「モード1の科学、モード2の科学」が大きな話題を呼んだこと自体が、「環境の科学」をめぐって多くの科学者が模索中であることを暗示しているのではなかろうか。

ここでは、黄砂を取り上げて最近の研究成果を紹介しつつ、黄砂の科学が境目領域の科学の典型的なものであること、それ故、環境問題と向き合わざるを得ない面が在ること、それによって科学が抱え込んだ問題などを議論したい。

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宇宙環境と地球:宇宙線でみた宇宙環境

宗像一起 信州大学理学部物理科学科 教授

宇宙は生命に有害な宇宙放射線(宇宙線)で満ちており、人類の生存圏である地球環境は、宇宙の激烈な放射線から生命を保護している。また、地球周辺の宇宙環境は、太陽風を放射し続ける太陽によって、一層激烈な銀河の放射線から防護されている。さらに、太陽風の勢力範囲(太陽圏)は局所星間雲と呼ばれる構造内の境界面近くにあり、太陽の相対運動の結果、数千年後には星間雲の外へ出るらしいことも判ってきた。現在の人類の生存環境は、長い年月を経てこうした階層構造の中で形成されてきたものであり、その未来も様々なスケールの変動と無縁には存在し得ないだろう。本講演では、宇宙放射線環境を切り口として、地球環境を取り巻く宇宙の階層構造を最近の研究に基づいて紹介し、その中での地球環境について議論する。

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環境と生物

藤山 静雄 信州大学理学部生物科学科 教授

環境は生物の分布、生存等に大きな影響を与えている。これに対し生物はさまざまな形で環境に反応し、適応している。適応の仕方は、種毎にさまざまであり、その多様性と適応の巧妙さには驚かされる。暗闇で活動するホタルの適応を見てみよう。 われわれは環境と生物の関係をできるだけ客観的に捉えようと、いろいろな物理的、化学的尺度を用いて環境を評価しようとする。しかし、そうした環境評価はわれわれの知識不足等からか必ずしも適切でなかったりする。それは生物にとっての環境が、ヒトが考えるような客観的なものでなく、時に主観的であったりするからである。そうした認識の違いが、生物保全において問題になる。昆虫を例に考えてみよう。 今日、人による環境変化のために生物種が激減し問題になっている。生物種の保全の成否には、生物と環境との関係の理解が特に重要であることを指摘すると共に、そうした生物の保全は人の生存にも要となるだろうことを指摘する予定である。