ミナミカワトンボ類の腹部鰓進化における比較発生学的研究
    
〜翅起源に関するトンボ目からのアプローチ〜

 昆虫類に多様性をもたらしたキーファクターとして考えられる 「翅」 がどのように獲得されていったのか?その起源を追究しています。具体的には、翅の起源に関する議論の中で、現在最も有力視されている 「鰓起源説」 を比較発生学的アプローチにより検証していきます。
 翅の鰓起源説は、付属肢の突起(exite)・鰓(gill)・翅(wing)の相同制を唱えたものであり、この検証には体節的な鰓が欠かせません。つまり、水生昆虫であるであることが望ましいと考えられます。さらに、祖先的な形質を多く留めている原始的なグループであることも重要な要素です。これら該当するグループとして、カゲロウ類・トンボ類・カワゲラ類などが挙げられますが、従来、トンボ類は体節的な鰓構造をもたないためにこの議論には用いられてきませんでした。しかし、例外的ではありますが、トンボ類の中に腹部に体節的な鰓構造(腹部鰓 abdominal gills)をもつ珍しいグループが存在します。それがミナミカワトンボ科 Euphaeidae に属するトンボ類なのです(日本には、コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma とチビカワトンボ Bayadera brevicauda ishigakiana Asahina が八重山諸島固有種として生息)。我々は、これらのもつ腹部鰓に注目しています。そして、翅の起源に関する議論に新たにトンボ類からの検証が可能になることを期待し、研究を行っています。