コオイムシ Appasus japonicus
         独特の繁殖戦略と発生の関係について

〜卵塊剥離における側脚の機能の検討〜

【背景】
生物の繁殖戦略の中に“ paternal care”と呼ばれる戦略が存在する。この戦略は、雄親が子の世話を行うという戦略である。鳥類を除く陸生動物の中では、雄が単独での保護を行う種の例は非常に稀である。このユニークな形質がどのようにして進化してきたのか?という観点で様々な研究が行われており、今回の研究材料であるコオイムシが属するコオイムシ科内のタガメ亜科、コオイムシ亜科は共に“ paternal care ”を行うことで研究対象となってきた。しかし、保護の方法はこの両亜科ではコオイムシ亜科の雄は卵を自信の背に産み付けさせ、孵化に到るまで保護を行う。この背中に産み付ける行為は卵の保護及び卵の成長という観点からみると、とても有利な戦略のように思われるが、雄の背中は面積的な制約により制限される資源であるため、1度の繁殖における卵の個数は少なくなってしまう。このため、コオイムシでは繁殖期に複数回繁殖を行うがこの際には卵塊剥離が起こる必要が生じ、卵は雄の世話が無いと発生が進まないため、雄の繁殖戦略上、孵化直後に卵塊剥離することはとても重要性が高い。このため(安藤1991)により、胚発生中に1次的に形成される腹部第一節の付属肢である側脚が、Slifer (1937)によってバッタの1種で見つけられたように孵化酵素を分泌し、卵塊剥離現象に関与していると考え、先行研究(川野2003)では、孵化後の雄による剥離行動以外に胚発生中に卵塊と翅との間で固着力の低下が見られるなどこの仮説を支持するデータが出ている。
【目的】
コオイムシにおける卵塊剥離において、側脚由来の孵化酵素が卵下部の半月状紋部を介して染み出し卵塊と雄の翅間の固着物質に影響を与え固着力を低下させ、コオイムシの卵塊剥離をスムーズにしているのではないかとの仮説を立て、この仮説の検証を行う。