集水域の窒素動態
 農耕地での施肥、降水にともなう窒素負荷、下水道の普及等により、陸上生態系における窒素循環が変化しつつあります。集水域での窒素動態と河川水・地下水・湖沼の水質との関連解析、窒素負荷増大にともなう森林林床の窒素循環の変化を調査しています。

○河床付着物の窒素安定同位体比から窒素汚染源を探る
 河川には流域から様々な物質が流入し、河川内の生物群集は多大な影響を受けている。窒素源としては、降雨、土壌、化学肥料、畜産排泄物、ヒトの屎尿や雑排水があり、それらは異なる窒素安定同位体比を持っている。千曲川では下流ほど下水処理水や畜産排泄物由来の窒素が増え、それらの窒素同位体比が高いため、河床で成長する付着藻類の窒素同位体比も下流ほど高くなる(図1)。逆に付着藻類の窒素同位体比から流域の窒素汚染源を推定することが可能である。
関連論文:Toda, Uemura & others (2002), 戸田・椎名ほか(2004)
図1 千曲川上流から中流にかけてみられる   付着藻類の窒素安定同位体比の上昇。
○森林での窒素負荷実験(乗鞍岳西側)
 酸性雨に含まれる窒素成分が、森林での「窒素飽和」を引き起こし、森林からの窒素流出、渓流水の硝酸イオン濃度の上昇をもたらすことが懸念されている。年間20〜40 kg N ha-1 yr-1の人為的窒素負荷により窒素流出が引き起こされた。
関連論文:Toda, Takatsu, Wakahara, Kaneko & others (2004)

○長野県内の渓流水の硝酸態窒素濃度
 長野県全域の渓流水の硝酸態窒素濃度を測定したところ、県西部で低く、東部で高い傾向がみられた(図2)。この分布が大気汚染に起因するものかを調査中。
関連論文:戸田ほか(2006)、木平ほか(2006)

○高山湖沼における物質循環
 高山腐植栄養湖(白駒池)を対象として、動物プランクトンに至る食物連鎖(物質フロー)を解析する。白駒池では、流域の針葉樹林からの溶存有機物の流入が多く、それらを栄養源とする細菌生物量は大きいが、原生動物や植物プランクトンは少ない一方、動物プランクトン生物量は大きい(図3)。細菌による溶存有機物分解では、低分子画分(<1kDa)の分解率が高いこと、分解率は集水域からの新鮮な溶存有機物の流入と硝酸態窒素濃度に左右されることがわかってきた。

図2 長野県内の渓流水の硝酸態窒素濃度。県西部で低く、東部で高い傾向がみられる。
図3 白駒池におけるプランクトン生物量