(A)現在の仕事

(1) 地震発生と地下流体

地震発生に地下深部の流体が大きな役割を果たしていると考えている.どのように関わっているのか明らかにしたい.断層中にある流体は,間隙物質を弱くするだけでなく,高圧である流体は断層面を両側から押さえている力(法線応力)に抗して,断層面の摩擦力を弱める.このような流体が,あるとき地下深部から断層に入り込み断層の一部を弱くして断層がすべり始めるきっかけになるのであろう.

流体の大部分は水であるが,高温高圧下で水は臨界状態を越え液体ではなく気体と液体との中間の性質をもっている.化学反応も活発で,周囲の岩石を短時間の内に溶かし飽和状態になっているであろう.次に多いのは炭酸ガスである.これは高圧下では液体になる.水と溶け合い,あるいは混合しあった状態で存在するのであろう.

こんな地震発生のモデルが正しいかどうか検証するには,@理論的研究,A実験的研究,B野外観測による研究などいくつかのアプローチの方法がある.信州大学で地の利を得た研究を進めるには,Bの研究方法をとるのが良さそうである.そんなわけで,わが研究室ではBの手法による研究に力を入れている(とはいっても,卒業論文や大学院の研究テーマを見ても分かるように,実際に試料採取や分析をして研究を進めている主体は,もっぱら4年生や大学院生であるが).

(2) 長野県内の温泉の研究

温泉水は,地下深部で起きている現象(地震もその一つ)を伝える情報を持っていると考えている.そんな観点から温泉水を詳しく調査している.温泉水から地下の情報を得る方法を構築したい.研究室の学生の努力により,分析値がたくさん蓄積された.これをどのように解釈するかは当面の学生のテーマであるが,わたしの興味あるテーマでもある.

(3) 長野県内の活断層と地震

長野盆地西縁活断層系(150年前善光寺地震M=7.4を発生させた活断層),牛伏寺断層を含む糸魚川―静岡構造線活断層系について,既存のデータや研究報告をまとめている(「善光寺地震に学ぶ」「地震と防災」いずれも信濃毎日新聞社,1600円).

糸魚川―静岡構造線活断層系については,地下水調査によって松本盆地内を走るその位置を推定しようと,研究室の学生が分析をし,まとめようとしている.

(4) 日本列島の地殻応力

応力方位についてはおよそ明らかになったが,その原因についてすっきりした解答がない.頭の隅に置いて考える課題か.

(B)略歴

(1) 千曲市(旧戸倉町)出身,1944年生

(2) 上田高校,東北大学理学部卒業後,名古屋大学大学院理学研究科博士課程進学

(3) 科学技術庁国立防災科学技術センター,首都圏地震予知研究室 研究員として就職(1974)

(4) [科学技術庁長期在外研究員として米国地質調査所 地震部門に1年間出張 (1989-90) ]

(5) 同センター地震地下水研究室長(1983)

(6) 同センター(現:防災科学技術研究所)地殻力学研究室長(1990)

(7) 信州大学理学部 地質学科(教授)(1992)

(8) 同 物質循環学科(教授)(1995)

(C)研究履歴

(1) 大学院生〜研究生の時代(1960末〜1970初期)

名古屋大学で,高温高圧超低速度変形j実験装置(熊沢峰夫先生の苦心作)を何とか動かすことができるようになり,マントル最上部を構成しているカンラン岩を試料にして,岩石の流動特性を実験的に明らかにしようと努力した.固体であるマントルの流動的な性質に興味があった.実験は,先輩の小林洋二氏(現:筑波大学)と共同で行っていた.

(2) 国立防災科学技術センターに職を得た初期の時代(1970中期)

国立防災センターが,微小地震観測網とボアホール型地殻傾斜計観測網を関東・東海地域で大きく展開,拡大しようとする時期にあたり,これらの観測網の拡大,整備の仕事に大部分の時間を割いた.

(3) ボアホール(ボーリング孔)を利用した地殻応力測定を開始する(1977)

ボーリング孔を利用して,地下深部の岩盤に蓄積された応力を測定する方法の開発は,数年前にアメリカで開始されていた.石油採掘の技術を応用するもので,日本はあまり得意な分野ではない.アメリカの研究者と情報交換をしつつ試行錯誤し,地表下90mの応力を,ボーリング孔を使って日本では初めて測定することに成功した.測定・研究は,池田隆司氏(現:北海道大学)と共同で実施した.

(4) さらに深部の応力をはかる(1970末)

ひずみエネルギーの蓄積している深部の応力を測定したいと考え,東海地域の複数地点で,地表下400mの応力測定に成功した.

(5) アメリカで応力測定(1979-1980)

地震予知研究分野で,応力測定実験を進めているアメリカ地質調査所のDr. Mark Zoback氏の研究室に1年間滞在し,米国最大の断層 サンアンドレアス断層周辺何カ所かで地殻応力を測定した.

(6) 日本各地で応力測定(1980前半)

地質学的,地震学的に性質の異なる多数の地点の地殻応力を測定し,関東・東海地域の応力状態の概略を明らかにできた.このことにより,共同研究者の池田隆司氏とともに科学技術庁長官表彰をうける(1983).

(7) 地震発生深度での地殻応力測定(1980後半)

浅い群発地震が活発な栃木県足尾町に2000mのボーリングをして,震源域の応力状態を測定した.地域全体としては差応力が非常に高いこと,断層の極近傍では差応力が激減すること,を明らかにし,理論的意味づけも行った.

(8) 日本全域の応力状態をまとめた(1980末-1990初)

日本全域で,無数に発生している小地震データから推定されている応力方位をまとめ,応力状態を明らかにした.単純に,プレートの運動だけでは説明困難な応力状態の地域もあることを指摘した.論文のうちの一つは,地質学会論文賞を受賞した(1991).

(9) 「しんかい2000」「しんかい6500」で海底断層調査(1980後半-1990初)

吉田則夫氏(防災科学技術研究所)の発案で開始した吉田氏との共同研究.目視観察調査だけでなく,海底断層から放出される放射能の測定,湧出するガスや地下水の採取により断層の活動度を調べた.高水圧に耐える測定器や採取器などの設計から開始した.擾乱の少ない海底は,この種の測定には適していることがわかったが,搭乗機会が限られていることがネックであった.

(10) 信州大学へ(1992)

信州大学理学部地質学科で新しい講座が生まれ,スタッフの公募があった.郷里の信州で仕事をしたいという以前からの希望もあり,これに応募したところ,採用と決まった.

(11) 松代群発地震と地下水・ガスの関係(1992〜現在)

松代群発地震(1965-67)は,深部から地下水が上昇して岩盤を弱くし地震を発生させたとされている.その地下水の起源は何であろうか,この地震発生機構は他の地震にも応用可能であろうか,などを解明したいと考え,現在もなお松代で湧出している地下水・ガスを分析,研究している.その結果,起源については,松代地域の中心にある皆神山(噴火活動は約35万年前)のマグマが固化したとき,地下深部に放出されたマグマ水がそれではないかとするモデルを,地下水分析結果から吉田則夫氏らと提案した.

(12) バイカル湖の仕事(1980末-現在)

シベリアのバイカル湖は非常に古い湖なので,その湖底には周辺の環境変化を反映した永年の堆積物が蓄積している.湖底にボーリングして試料を採取し環境変動を研究しようというのがバイカル湖ボーリング国際共同研究であった.私は,ボーリング孔を検層する分野を担当した.検層結果を分析し,試料採取に失敗しても検層データがあれば,生物の盛衰の時間変動は推定できる可能性があるという結果を得た.
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現在の仕事と研究履歴

 (A) 現在の仕事
 
(B) 略歴
 (C) 研究履歴
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