第87回 物質循環談話会
貝形虫(微小甲殻類)を用いた古環境復元

石田 桂 先生
(信州大学理学部地質科学科)

日時:2005年6月21日(火)16:00〜
場所:13番教室(理学部C棟1F)

 貝形虫は石灰質の2枚の殻を持つ体長約1mmの微小甲殻類である.その出現はカンブリア紀にさかのぼり,現在まで生き続けている.生息場所はあらゆる水域で,深海底や水たまりにも生息していることが報告されている.石灰質の殻は化石として様々な地層から多産するため,古環境解析に非常に有効である.今回は,まず貝形虫の説明を簡単に行った後,貝形虫を使った異なる手法による古環境解析研究の2例(生物学的および化学的)を紹介する.  化石群集解析:日本海側に分布する鮮新統鍬江層,藪田層,笹岡層を対象に,特に北半球における氷床拡大期にあたる約280-250万年前に着目して,貝形虫化石群集の変化を高時間分解能で検討した.化石群集を構成する種の現在の分布・生息場所を用いて,過去の堆積環境および日本海の環境変遷を考察する.
 殻の化学分析:島根県と鳥取県にまたがる中海は汽水湖であり,過去に人為的活動によって湖の環境が大きく変えられてきた場所である.なかでも1981年に行われた干拓事業は湖内の水循環を変化させ,湖の水質のみならず生物群集に大きな影響を与えたことが報告されている.そこで,過去の水温や塩分,重金属元素量を定量的に復元できる可能性が指摘されている貝形虫殻中の酸素同位体比および化学組成を用いて,人為的活動が中海に与えた影響を定量的に復元することを目的とし研究を行っている.手始めとして,現在の水域における水質データと貝形虫殻中の酸素同位体比および化学組成の関係を検討する必要がある.今回は,毎月中海の3定点で採取した水質データと底質堆積物から得られた貝形虫殻および底層水中の酸素同位体比,化学組成について紹介する.