北海道川上郡弟子屈町屈斜路湖 

 屈斜路湖は,1980年代の半ばから急速にpHが上昇して,それまで酸性湖といわれた状況が一変しました。この理由はよくわかっていません。屈斜路湖の特徴として,この湖には,強酸性の川湯温泉の温泉排水と,重炭酸に富む多くの湖岸温泉水が流れ込んでいることがあります。重炭酸泉として陸上部分で湧出しているのは,北から仁伏,砂湯,池ノ湯,コタン,南に回って和琴半島周辺に分布する温泉群です。砂湯やコタン,和琴などは湖のすぐ脇から湧き出していますので,おそらく湖底から湖内に直接流入しているものもあると推定されます。ですから,この酸性泉と重炭酸泉の流れ込む相対的な割合が変わって,中和反応が十分に進み,pHを押し上げてきたものと,私たちは考えています。
 このpHの変化は,私たちが田沢湖や猪苗代湖で見出した,酸性湖固有の有機化合物にも明らかに反映していて,1995年以降に採取した堆積物の表層部では,3-methylalkanesの量は大きく減少していることが見て取れます。2003年に得た試料ではこの傾向はさらに強くなることがわかっています。さて今年採取された全長およそ40cmの堆積物ではどのような変動が見られるでしょうか。予想としては,まだ屈斜路湖のpHは中性のままですから,表層で減少していることは確かなのですが,問題はより深いところでの変化です。
 これまで22cm長の試料では,3-methylalkanesは,深さ数センチで極大を示し,それ以深では急速に減少して,20 cm前後で再び上昇に転じるということがわかっています。これをそのままpHの変化と見ると,少なくとも過去に2サイクル,酸性ー中性ー酸性ー中性行き来したことが推定されます。この繰り返しがもう1サイクル見られるだろうか,そしてその規則性はどのようなものか,大変興味があります。このpH変動をもたらしている原因のひとつにこの地域の活発な地殻活動(北アメリカプレート下への太平洋プレートの沈み込みで,北海道東方沖は巨大地震が頻発している),またもうひとつに屈斜路周辺の火山活動があげられると思います。
 最近はpHの上昇でマスの遡上が非常に増えたといわれる屈斜路湖。非常に魅力的な湖です。

2009年10月 (南部湖盆の水深40m付近で約40cmの堆積物を3本採ることができました)pHは依然として中性でした。


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釧路湿原では,エゾシカにも出会いました


珍しく摩周湖も晴れていました。


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