福井県三方五湖

 北陸自動車道を敦賀で降り,西方に進むと三方五湖がある。五湖のうち最も大きいのが水月湖(最大水深34m),これに菅湖,三方湖が隣接する。菅湖は水深14mほどで,ほとんど湖盆をもたないまま,水月湖に落ち込んでいる。また三方湖も水深が2m前後でヒシが濃密に繁茂しそのまま水月湖に流れ込んでいる。久々子湖は日本海と直結した浅い海水湖であり,水月湖とは人為的に開削された浦見川を通してつながっている。日向湖(最大水深38m)も日本海と直結した海水湖で,湖内では養殖が盛んにおこなわれている。

 現在のように水月湖に海水が流入するようになったのは江戸時代の1664年。その前々年の1662年に起こった地震で上昇した水月湖の水位を下げるため,浦見川が開削されたことによる。浦見川はその後何回となく浚渫が行われ,また1801年には,日向湖と水月湖の間に嵯峨隧道が掘削された。この隋道は,富栄養化した水月湖の水の流入が栽培漁業に適さないということで現在は閉じたままとなっているそうだが,こうした工事の結果,水月湖には海水が流入し,三方湖を通じて入る淡水との間で大きな密度差が生じることとなった。

 現在水月湖および菅湖の水深9m以深では,溶存酸素がゼロとなって,硫化水素が高濃度に含まれている。浅い三方湖ではそのような成層が見られない。水月湖・菅湖の堆積物では,緑色イオウ細菌(GSB)の有力なBiomarkerであるクロロフィル色素の側鎖ファルネソールが,およそ30 cm付近から浅い部分で検出される。このことは,水月湖が汽水湖となった17世紀半ばから現在の間におよそ30cmの堆積物が形成されたことを示す。


水月湖(奥に久々子湖,左手前に日向湖)



 現在の水月湖の酸化還元境界は,9mほどで,この結果として菅湖(14m),水月湖堆積物の大部分は無酸素環境にある。甑島湖沼群と同じように,緑色イオウ細菌Chlorobiaceaeの生息を示すバイオマーカーは顕著に現れる。興味深いことはその量が堆積物の柱状試料中で著しく変動することで,これは何を意味しているのであろうか?そのひとつのヒントは,2012年の観察で得られた。2012年9月での酸化還元境界は,およそ深さ4mほどまで上昇していることがわかった.このことはGSBの生息範囲がそれだけ拡大したことを意味する。

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