水底火砕岩研究会2000年度静岡集会の報告


日時:2000年11月3日(金曜日),4日(土曜日)
場所:3日富士山本栖湖&精神湖巡検
    清水市三保・東海大学研修館で勉強会&コンパ&宿泊
    4日静岡市大崩海岸巡検

勉強会での講演

三宅康幸(信州大):島根半島水中溶岩ドームの層状構造とその原因
坂本 泉(海洋センター):大崩海岸周辺の火山岩の産状
山本裕朗(東北大):湖底に噴出した玄武岩質安山岩質単成火山(仮題)
寺崎紘一(新潟):角田岬周辺の火山岩類の産状(仮題)
高野聖之(東海大):竜爪層群の火山岩類の産状(仮題)
金 容義(東海大):南部フォッサマグナ地域の地質学的問題点(仮題)
山岸宏光(新潟大):●火山岩の産状の紹介,●2000年有珠山噴火,
          ●新潟地域の水中火山岩に関する若干の検討
ビジネスミーティング 来年の予定について


巡検の報告

11月に行われた水底火砕岩研究会の巡検に参加させていただきました. 巡検初日は静岡大・海野先生のご案内により本栖湖及び精進湖にみられる水中に流れ込んだ溶岩を観察する事ができました.
先日まで貫入岩体の調査をしていた私にとって,溶岩にみられる多様な内部ならびに表面構造は大変刺激的なものでありました(といっても、貫入岩体が刺激に不足するという訳ではありませんが).
露頭は主に湖畔周辺部でした. まず目を引いたのが,溶岩の断面にみられた黒灰色とピンク色よりなる縞模様です. これら縞模様の黒灰色の部分は発泡度が低く,冷却節理も観察されるのに対して,ピンク色の部分は発泡し,よりガラス質であり,これら組織の成因は膨張亀裂開口時に前者は脆性的に,後者は粘性体として破壊されたためと説明されました. また,類似の現象が陸上のハワイの溶岩からも観察されるのですが,岩石組織の違いから両者(陸上と水中)は明確に異なる事も示していただきました. また,場所を移した精進湖では溶岩の断面壁において先の縞模様のほか見事なパイプ状の気孔が観察され,溶岩の動きや、いかにして冷却していったのかを考えさせられました.
最後に林の中にみられる今までとは対照的な陸上でながれたアア溶岩の観察を行いました. 今回の巡検では,溶岩にみられる諸現象をはじめ,水中・陸上での違いを巨視的な野外での産状から微視的な岩石組織の観察からいかにして多くの情報を得ることができるのかなど,多くの事を学ばせて頂きました.
夜に行われた学習会は多くの方々からの話題提供があり,大変有意義なものでした. 特に印象に残っているのは信州大・三宅先生によるハイアロクラスタイトに関連したお話です. 私がこの学習会に興味を持ったのも,水中火山岩の派手な(?)岩相が以前から好きで,とくにハイアロクラスタイトにみられる様々な産状に興味がです. 話題はハイアロクラスタイトの定義に始まり,島根半島・加賀桂島にみられるバンド構造,内部破砕によるハイアロクラスタイトの形成について話されていただきました. バンド構造に関しては,私の調査をしている貫入岩体について通じるところがあり,勉強になりました. それにしても,今回の巡検にもみられたように,火山岩にみられる(火山岩にだけにとどまらず地質学的に現象一般においても)縞縞構造に多くの人が魅せられ,成因の解明に意欲的だと感じました.
最後にこの巡検の案内をされた静岡大・海野進先生,海洋科学技術センター・坂本泉氏,そして巡検にあたりお世話をしていただいた東海大学の有志の皆様方にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます.

(新潟大・自然科学研究科 平原由香)

巡検の2日目にあたる11月4日は快晴かつ温暖と,まさに巡検日和であった. 早い時間に宿を出発し,坂本さん,金先生の案内のもと,静岡市と焼津市にまたがる大崩海岸へ向かった. この海岸はピローラバが観察できることで有名で,その他にもハイアロクラスタイト,フィーダーダイクなどの産状が観察できる. ここでは,ピローラバ,ハイアロクラスタイトのそもそもの定義について,そのモデルとなる産状があったため,それら現物を目にしながら解説をお聴きした.
今日では,ピローラバ,ハイアロクラスタイトはそれぞれを個別のものとして議論されることが多くなっている. 特にハイアロクラスタイトは水冷破砕の代表として扱われていて,そのものの大きさまで考慮されることは少ない. しかし,この2つは密接に関連しており,そもそもは,ピローラバの縁に見られる破砕部分をハイアロクラスタイトと呼んだ. よって,ここで観察されたハイアロクラスタイトは数mm程度の小さなものであった. 現在の定義から考えると,意外な大きさで,その小ささに驚いた.
巡検は,帰りの電車の都合などもあり,午後早々に解散となった.
私は今回この巡検に参加したことで,同じ分野に興味を持つ,同年代からベテラン研究者まで,多くの方々と出会い,親睦を深めることができた. 参加者の中には,このような機会がなければお話することもできなかった方もおり,最初は緊張したが,いざお話をすると気さくな方ばかりだった. 新たに学んだことも多く,特に枕状溶岩,ハイアロクラスタイトに関しては,細部までお話を聴くことができ,感激した. 非常に恵まれた機会だったと思う.
個人的な余談だが,最後の最後にズボンの裾を木の枝にひっかけ破ってしまう,というアクシデントで巡検は幕を閉じた.

(日本大・総合基礎科学研究科・笠松 舞)


講演要旨

山岸宏光(新潟大) 1) CD-ROM「火山岩の産状」について

本研究会は1991年にスタートしているから,今回で10回目を数えます. その5回目の富士川での研究会(茨城大学 天野一男さんらの案内)が行われた際,いままでの討論の成果を何かにまとめたらどうかという話がでて,その翌年の日本地質学会での夜間小集会での議論で,地質調査所の鹿野さんから提案があり,水底だけでなく陸上の火山岩も含めてCD-ROMで写真集をだそうということになりました. 本としても出版すること,英文もつけることも検討されましたが,費用,価格,時間などの問題もあって,結局,このような形となりました. 今後は,簡単な出版物,英文版なども検討することになるでしょう.
以下に主な内容を載せましたが,静止画写真のほかに噴火などの動画も掲載してあります.価格は1,260円(消費税込み)です. 内容がふんだんの割に価格が安すぎるきらい?がありますが,火山地質や「産状学」が軽視されるわが国では画期的な出版物と言えます. 最後に,代表編集員の一人として,写真を提供していただいたこの会の会員の方々をはじめ,地質調査所の方々のご協力に感謝の意を表するとともに,火山と火山岩に興味のある学生諸氏をはじめ,研究者・技術者の皆さんにぜひ見て(読んで?)いただきたいと思います. また,ミスも多々あると思いますので,気がつきましたら地質調査所 鹿野和彦(kazu@gsj.go.jp)まで.

代表編集委員:鹿野和彦・山岸宏光・宇井忠英・小野晃司
大目次
貫入岩(Intrusive rocks)
岩脈(Dike)
火山岩頚(Volcanic neck)
シル(Sill)
ラコリス(Laccolith)
岩枝(Apophyse)
ペペライト(Peperite)
溶岩(Lava)
表面構造(Surface structure)
スパイラクル(Spiracle)
溶岩ローブ (Lava lobe)
板状溶岩(Sheet lava)またはシートフロー(Sheetflow)
塊状溶岩(Massive lava)または塊状部(Massive part)
拡大割れ目(Spreading crack)
開裂折り目構造(Crease structure) 
縞状構造(Banded structure)
シュリーレン(Schlieren)
産状(Occurrence)
カーボナタイト(Carbonatite)
溶岩湖または溶岩池(Lava lake or pond)
溶岩尖塔(Lava pinnacle)
複合溶岩(Composite lava)
陸上溶岩(Subaerial lava)
入水溶岩(Lava entering shallow water)
水底溶岩(Subaqueous lava)
ハイアロクラスタイト(Hyaloclastite)
火山砕屑堆積物(Volcaniclastic deposits)
火山砕屑粒子(Volcaniclasts)
偽礫(Rip-up clasts)
装甲泥塊(Armored mudball)
炭化木(Carbonized wood)
木片(Wood chip)
衝突構造(Impact structure)
擦痕(Scratch)
収縮割れ目(Contraction crack)
表面酸化(Reddish top)
風化生成物(Weathering products)
堆積構造(Sedimentary structure)
溶結構造(Welding structure)
圧密変形構造(Compaction structure)
生物擾乱構造(Bioturbation structure)
堆積物の表面形態(Surfacemorphology)
記載岩石名(Petrographic rock name)
顕微鏡組織(Microscopic texture)産状(Occurrence)
陸上火山砕屑堆積物(Subaerial volcaniclastic deposits)  
入水火山砕屑堆積物(Volcaniclastic deposits entering shallow water)  
水底火山砕屑堆積物(Subaqueous volcaniclastic deposits)
火山砕屑物起源の堆積物(Epiclastic deposits)
礫岩(Conglomerate)
砂岩(Sandstone)
泥岩(Mudrocks or argillaceous rocks)
タービダイト(Turbidite)
火道(Conduit or vent)
火道壁(Conduit wall)
火道充填堆積物(Conduit- or vent-fill)
火山地形とその断面(Landforms and internal features of volcanoes)
火山性地溝(Volcanic rift)
カルデラ(Caldera)
成層火山(Stratovolcano)
溶岩ドーム(Lava dome)
マール(Maar)
火砕丘(Pyroclastic cone)
火口(Crater)
火砕流台地(Pyroclastic flow plateau)
火山麓扇状地(Volcano fan)
噴火(Eruption)
マグマ噴火(Magmatic eruptions)
マグマ水蒸気爆発(Phreatomagmatic explosion)
水蒸気爆発(Phreatic explosions)
水底噴火(Subaqueous eruption)
中心噴火(Central eruption)
側噴火または割れ目噴火(Flank eruption or fissure eruption)
噴煙または灰噴火(Ash plume)
噴気またはガス噴出(Fume or gas emission)
火山雷などの発光現象(Electric lightning)
噴火がもたらす様々な現象(Eruption-related phenomena)
溶岩流(Lava flow)
火砕降下(Pyroclastic fall)
火砕流(Pyroclastic flow)
火砕サージ(Pyroclastic surge)
岩屑なだれ(Debris avalanche)
火山泥流またはラハール(Volcanic mudflow or lahar)
その他の現象(Other phenomena)
堆積物重力流(Sediment gravity flow)
急冷(Quenching)または水冷(Water-chilling or quenching )
破砕(Brecciation)
遅延発泡(Delayed vesiculation)
高温酸化(High-temperature oxidation)
熱浸食(Thermal erosion)
パラゴナイト化(Palagonitization)
泥火山及び間欠泉(Mud volcano and geyser)
火山災害(Volcanic hazards)
溶岩流(Lava flow)
火砕流及び火砕サージ(Pyroclastic flow and pyroclastic surge)
火砕降下(Pyroclastic fall)
岩屑なだれ(Debris avalanche)
ラハールまたは火山泥流(Lahar or volcanic mudflow)
地殻変動(Crustal movement)
動作環境
OS:日本語対応のWindows 95/98,Windows NT または Macintosh OS 8 以上推奨
CPU:Pentium 133 MHz 以上,または Power Macintosh 90 MHz 以上推奨
RAM メモリ:32 MB 以上推奨
モニタ:14 インチ以上,32,000 色以上推奨
CD ドライブ:4 倍速以上推奨. ただし,DVD ドライブの場合は読みとりが遅い場合があります.
ソフトウエア:Netscape Communicator,Microsoft Internet Explorer などのWebブラウザ,QuickTime v.3 以上


2 最近の水底火砕岩に関する出版物の紹介
この分野の研究は日本では細々と続いているが,カナダなど古い時代(先カンブリア紀など)の火山活動の研究の成果がPreCambrian Research 誌の特集号(2000年6月)として出版された. すでに故人のE.Dimrothの弟子のW.Mueller 氏が中心になってまとめたもので,その内容は以下のとおりです. 目次のみ掲載します.


Precambrian Research  Special volume 101(2000)
Processes in physical volcanology  and volcaniclastic sedimentation:modern and ancient

Content
1)Processes in physical volcanology and volcaniclastic sedimentation:modern and ancient
W. Mueller, E.H. Chown and P.C. Thurston , . . . . . . . . .81
2)Subaqueous eruption-fed density currents and their deposits
J,D,L. White . . . . . . . , . . . . . . . . . . . . . . . 87
3)Sedimentation in a subaqueous arc/back-arc setting: the Bobby Cove Formation, Snooks Arms Group, Newfoundland
P.A. Cousineau and J.H. Bedard . . . . . . , . . . . . . . . . 111
4)Epiclastic volcanic debrites-evidence of flow transformations between avalanche and debris flow processes, Middle Ordovician.Baie Verte Peninsula, Newfoundland, Canada
L.G. Kessler and J.H. B6dard . . . . .135
5)Shallow-water, eruption-fed, mafic pyroclastic deposits along a Paleoproterozoic coastline: Kanger-luluk volcano-sedimentary sequence,southeast
Greenland W.U. Mueller, A.A. Garde and H. Stendal . . . . . 163
6)Subaerial volcanism in the Palaeoproterozoic Hekpoort Formation (Transvaal Supergroup), Kaap-vaal craton
J.D. Oberholzer and P.G. Eriksson . . . . . . . . . . 193
7)Subaqueous, Paleoproterozoic, metarhyolite dome-flow-cone complex,Flin Flon greenstone belt, Manitoba, Canada
L.D. Ayres and A.S. Peloquin. . . . . . . . . . . . . 211
8) Recognizing distinct portions of seamounts using volcanic facies analysis: examples from the Archean Slave Province, NWT, Canada
P.L.Corcoran..... 237
9)The relation between iron-formation and low temperature hydrothermal alteration in an Archean volcanic environment
E.H. Chown, E. N'dah and W.U. Mueller. . . . . . . . . 263
10)Evolution of a submerged composite arc volcano: volcanology and geochemistry of the Norm6tal volcanic complex, Abitibi greenstone belt, Ouebec, Canada B. Lafrance,
W.U. Mueller, R. Daigneauit and N. Dupras. . . . . . . , . . . . . . . . . 277
11)An Archean quartz arenite-andesite association in the eastern Baltic Shield, Russia: implications for assemblage types and shield history
P.C,Thurston and V.N. Kozhevnikov . . . . . . . . . . . . . . . . 313
12)High temperature ash flow-wet sediment interaction in the Makwassie Formation Ventersdor Supergroup. South Africa
P W.A. van der Westhuizen and H. de Bruiyn . . . . . . . . . . . . . .341


三宅康幸(信州大学理学部地質)

島根半島中新世デイサイト溶岩ドームの内部構造と侵入的ハイアロクラスティック破砕

Internal texture and invasive hyaloclastic fragmentation of Miocene dacite dome, in Shimane Peninsula.

Yasuyuki Miyake (Shinshu Univ., Geology)


水中にできた溶岩には,しばしば顕著な縞状構造が形成される. 島根半島,桂島に露出する中新世デイサイト溶岩には,顕著な縞状構造ができている. その例について記載し,その成因を考察する.
さらに同岩体の周縁部は水冷破砕を被ってハイアロクラスタイトを作っている. ハイアロクラスタイトは,高温岩体と水との相互作用による破砕作用で生じた火山砕屑物であるが,多少移動したものや,小規模な水蒸気爆発により生じたものも含む. ハイアロクラスタイトの形成には,岩体の最外殻が水と接する付近で破砕が進行し,内部のマグマに押されるなどして剥がされてできる場合(水冷自破砕)と,水が岩体内部に侵入して岩体内部から破砕が起こる場合とがある. ここでは,後者のことを侵入的ハイアロクラスタイトと呼び,その例について議論する.
島根半島,加賀桂島には,中新統に属するデイサイト-流紋岩質水中溶岩が分布する. それは,主として南側の塊状溶岩と,北側の凝灰角礫岩部とからなっている. 後者が前者の外側に位置している.塊状溶岩は,顕著な縞状構造をもち,突出したProminent帯(P帯)と,差別的に浸食されて窪んだRecessive帯(R帯)が数十センチから数メートルの幅で繰り返している. その構造が岩体内部のドーム構造を示唆しているように見える. R帯は,比較的苦鉄質(SiO2:58-67%)で,かんらん石斑晶をもち,石基はガラス成分に富む. 一方,P帯はより珪長質(SiO2:68-74%)で,かんらん石斑晶は少ないor無く,石基はより結晶質であり,シリカ脈に富む. R帯の化学組成は系統的にマグマ分化した結果を示しているとみられるが,P帯は隣接するR帯の組成との共通性をもちつつ,P帯相互では組成の系統性を示さない. 従って,R帯の固結に付随してP帯が形成されたと考えられる. 水中での急速な冷却条件が,断続的に注入されたマグマの帯構造をつくっていると予測される.
一方,岩体外部の凝灰角礫岩の厚さは数十メートルと見積もられる. このような大量の火山砕屑物は,溶岩中への水の侵入によって内部からの破砕により形成されたと考えられる. 塊状溶岩には柱状節理が発達しており,概ねそれにそって水が侵入し,ハイアロクラスタイトが脈状に形成されているのが観察される. さらに,凝灰角礫岩部の内部に,塊状溶岩の内部構造(柱状節理の間隔の異なる,一見層状の構造)を残した部分が破砕を免れて残存している産状なども見られる.


寺崎紘一  (新潟江南高校)

水冷スパッターの産状


新潟の角田岬には安山岩質水中火山岩類が産出している. 今までにも多くの学会や学習会,大学の授業などでの巡検も数多く行われ,多くの地質屋から親しまれている場所である. ところが,ここに産する水中火山岩に対する認識はあまり普及してはおらず,未だに角礫岩を見ると,全てハイアロクラスタイトで済ませている. まして,ここに国内ではあまり報告されたことのないない水冷スパッターが多量に存在し,水中スパッターコーンがあるなど,ほとんど知られてこなかった.
そこで,水冷スパッターがどのような見え方を示すか,また,水中スパッターコーンとはどのようなものかをスライドで紹介する.

1.スパッター
写真(1)
以前,この学習会の巡検か地質学会での巡検のどちらかで水冷火山弾として紹介したものである. いくつかの資料にも写真付きで紹介したことがあるので,ごらんになった方もいるかと思う.
大きさは長さ約25cm,最大幅約3cmと細長く,弓なりに曲がっている. 外縁はおよそ5mmほどの幅で黒色の急冷ガラスに縁取られ,内部は角礫状に破砕され,ハイアロクラスタイト状になっている. 外縁の急冷ガラスに気が付かなければ周囲の角礫岩のマトリックスと区別が付かない.
写真(2)〜(6)
いくつかのスパッターを紹介する. いずれも共通することは外縁を取り巻く急冷ガラスと内部のハイアロクラスタイト状岩片である. 外縁の急冷ガラスも常に黒色とは限らず,茶色だったり褐色だったりする. しかも,急冷割れ目が入っているので,こちらもハイアロクラスタイト状に壊れていることが多い. このようなものは周囲のマトリックスと区別するのが難しいが,スパッター内部とは若干色が異なったり,割れ方が細かかったりするので,同質の部分を追っていくと輪郭が見えてくる. これらのスパッターはほぼ同じ場所に分布する玄武岩質のものである.
写真(7)
約50mほど離れた場所にある100cm×50cmほどの小岩体で,急冷周縁層は無く,流離構造状の割れ目とそれに直交する割れ目ががたくさん入っており,小岩片状に割れている. 全ての岩片がin situで,割れた後に動いた形跡は無い. この小岩体がスパッターか貫入岩体かの判断は出来ていない. どちらの可能性も捨てきれないでいる.
写真(8)〜(9)
安山岩質玄武岩のスパッター. ハンマーの下の色の薄い部分がスパッターで,こちらはチルドマージンを伴わない. 全体に石質であるが,冷却割れ目は発達しており,岩片状にひび割れている. このようなスパッターが多数平行に並んで角礫岩の中に見られる. 角礫岩は本質,類質,異質(?)の角礫からなり,スパッターに取り込まれたように見える岩片もある. 全体の分布をみると,マウンド状に盛り上がった形をしており,スパッターコーンと考えられる. しかし,これらのスパッター状の岩片は同じくらいの大きさのものがほぼ水平に配列しており,スパッターを含む角礫岩と周囲のエピクラスタイトとの境界は垂直に近いことから,マグマの貫入で形成された,との考えを示す人もいる.
写真(10)
写真(1)〜(6)の場所の遠景で,酸化した赤い礫の多い部分に接してスパッターの濃集部(写真3)がある.
写真(11)
写真(10)の真上を見上げると,ハイアロクラスタイト状の岩体がロート状に上に向かって伸びているのが見える. これはおそらく火道であり,ハイアロクラスタイト状の岩体は火道を埋めた岩脈である. 母岩は異質礫や類質礫の巨礫を含む不淘汰礫岩で,この礫岩は分布から見るとおそらく円筒状に開いた火口を埋めた堆積物であろう.
2.スラリー
写真(12)〜(15)
火道を埋めた礫岩. マトリックスはハイアロクラスタイトに似ているが,異質岩塊や酸化されたスコリア,二次堆積の凝灰岩の礫(同時礫:写真(15))などを含み,明らかに礫岩である. 礫の中には亜円礫程度に円磨されたものも含まれている. マトリックスには細粒部が塊状に分布している.
写真(16)〜(18)
マトリックスの細粒部. ラミナに似た線状構造が見える. これは堆積時の構造とは考えにくい. つまり,円筒形の水中火口に上から砕屑物が崩れ落ちて堆積した土石流状の礫岩であるため,流水の作用で後から礫の隙間に細粒砕屑物が運び込まれたとは考えられない. 従って,これらの葉理状構造は礫岩が堆積した後,マグマの活動によって下から乱流状のガスや熱水が上昇してきたときに,一種の液状化がおきて形成された構造と考えられる. つまり,この礫岩が堆積した場所は噴火口で,マグマの活動が繰り返し起きたことが写真(11)からもわかる.
このような火口を埋めた礫岩をスラリーとよぶ. ちなみに,火道角礫岩(vent breccia)という用語があるが,これは「火道を埋めた火砕岩」とされており,この場合には当てはまらない.

3.岩脈の種類と産状
給源岩脈については,山岸(1994)で3種類に分類されている(図−1). つまり,massive type,apophysis-like type,clastic type である. この分類は貫入した母岩の性質を推定する上で重要である.
写真(19)
massive typeの給源岩脈. 岩脈の中に貫入した二重岩脈である. 境界はシャープで,柱状節理が良く発達している. これは,周囲の岩体が既に固結しており,十分に冷却していたことを示している.
写真(20)〜(22)
apophysis-like typeの給源岩脈. いずれも岩脈の縁が母岩の中に飛び出しており,直線状の境界を示さない. これは母岩が十分に固結しておらず,柔らかいところにマグマが入り込んだことを意味している. 岩脈の周縁がハイアロクラスタイト状に破砕されていることは,母岩がある程度水で満たされていたことを示している. 筆者は花崗岩の中に貫入したapopysis-like type の玄武岩岩脈を見たことがある. これは,玄武岩のマグマが貫入した時,花崗岩がまだ固結していなかったことを意味している. この玄武岩岩脈にはチルドマージンが観察できず,冷却節理の発達も悪かったように記憶している.
写真(23)
clastic typeの給源岩脈.岩脈は完全に角礫化し,ハイアロクラスタイト状になっている. 岩脈の輪郭を捉えることは難しい. こうなるとチルドマージンや柱状節理は見られない.
写真(24)〜(25)
(23)と同じようなclastic typeの岩脈. 母岩は軽石凝灰岩で,軽石は繊維状に伸びている. ここに貫入した玄武岩マグマは完全に水冷破砕され,角礫状になっている. 玄武岩の小さい岩片はスコリア状になって軽石と完全に混合しており,いわゆる「ペペライト」になっている. 大きな岩片についても,母岩との混合の程度によってはペペライトと言っても良いかもしれない. 貫入時に軽石凝灰岩は水で満たされており,玄武岩マグマは完全に水冷破砕されたものと考えられる. この岩脈は軽石凝灰岩とほぼ同じ比重を持っていたため,この凝灰岩層を貫くことはできなかった.
写真(26)
フィンガーストラクチャーを示す給源岩脈. ハイアロクラスタイト状に破砕された岩脈の大きな角礫を追っていくと,指状構造を示していることがわかる. マグマの流動方向を示すものと考えられる.
写真(27)〜(28)
ハイアロクラスタイトと区別の難しいclastic typeの岩脈. ここの露頭では母岩が礫岩で,岩脈の境界が明瞭なため岩脈であることがはっきりしている. しかし,露頭が悪くて境界が見えない場合,これを岩脈と判断できるであろうか. おそらく,ハイアロクラスタイトとされるであろう.

いずれの岩脈でも境界部が大切であることはお解りいただけたと思う. また,岩脈の分類の仕方もいろいろあると思うが,上にあげた3つの分類は,特に母岩の状態を推定する上で重要である.

この文章には写真がついているのですが,送っていただいた最新versionのPhotoshopファイルを開くことができずアップロードが遅れています.
すみません. もうしばらくお待ち下さい.

他の講演も投稿され次第掲載(何年後でも受け付けますから送って下さい!!!!!)


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