信州もすっかり春を迎え,つらい花粉症の季節も終わろうとしています.
 信州松本は適度な大きさの地方都市ゆえ,身近な自然観察で春を知ることが出来ます.遠くに行く必要なんてありません.皆さんも,大学・コンビニ・アパートの三角形から出てみると,植物・動物を通して,いろいろ自然を感じることが出来ます.



何でしょうか?これ
さて,例によって地面に落ちているものを拾ってみます.何でしょうか.木の実らしい茶色いものと,黄緑色の膜状のものが見えます.
ハルニレの実
壊れていない完全なものを見つけます.ハルニレの実ですね.ハルニレの実は翼果で,先ほどの黄緑色の膜は,翼の部分でした.こうした構造を持つことで,風や水に流され,遠くまで種子を散布する仕組みになっているのですね.
ハルニレの木
母樹を見上げると,ハルニレは葉を開く前に花を咲かせ,実を付けることが分かります.写真では写っていませんが,多くのマヒワカワラヒワが餌をついばんでいました.先の,形が壊れて落ちていたハルニレの実は彼らがつついたあとなのでしょう.
 ちなみに場所は「県(あがた)の森公園」で,季節は4月のものです.今ではもう緑の葉をいっぱいにつけています.また,マヒワは冬鳥で現在ではもっと北の地方に帰ってしまっているのではないでしょうか.群(むれ)で活動するようなので,一本のハルニレに多くのマヒワが付いていたのは納得ですね.
ワサビ
皆さん,これ,なんだか分かりますか? 生態遷移論の授業中に写真を見せて聞いてみたのですが,知らないようでした.ちょっと残念.
 これは,ワサビです.安曇野はわさびの産地として有名ですが,きれいな水と,気候風土がワサビの生育,あるいは栽培に合っているということなんですね.ですから,松本市内でもちょっと市街地から出れば,こうした野生のワサビを見ることができます.スーパーマーケットなどでも,花の部分が食用に売っていたりしますが,学生諸君は,ま,見ませんかね.山本先生の実習におじゃまして(何も手伝わなかったので,本当にじゃまですね)見つけました.
ヤブカンゾウ
山本実習おじゃまシリーズで.畑のあぜ道にヤブカンゾウらしき植物が,かじられているのを発見しました.かじられたあと,成長しているので,切断面の高さがそろっていませんが.
 このヤブカンゾウ(実際にはノカンゾウかもしれませんが花がないと分かりません.ここではヤブカンゾウとしておきます),春のうちは山菜として我々も食することが出来ます.で,これを食べた犯人は誰かというと...
シカの糞
ははーん.糞から見るに,シカのようですね.こうした大型動物を直接見るのはなかなか機会がありませんが,糞を覚えていたり,鳴き声を知っていると,そこにどんな動物がいるのかを知ることが出来ます.で,シカの糞とカモシカの糞は似ているのですが,松本から美ヶ原高原や鉢伏山・高ボッチ方面に登っていくとシカが多いことが知られています.そんなことから考えても,これはシカと判断してよいでしょう.シカ・カモシカの専門家であれば,糞だけでばっちり(死語)分かるのかもしれませんが,周辺領域の私のような人間としては謙虚であるべきでしょう.
 我々人間が,どんな植物を食べられるのか,食べられないのか,ということを考えるときに,このような哺乳類の食痕は非常に参考になるわけです.シカが大丈夫なら人間もokだろうと.人間の盲腸は退化してしまっており,また腸内細菌の違いなどでシカのように大量のセルロースを分解することは出来ないでしょうが,少なくとも毒ではないことが分かります.サバイバル・マニアの方は覚えておくと良いですね.
シカの角
さらに,山本先生が林の中からゴソゴソと出て来られたのですが,手にはシカの角(つの)が握られていました.畑のあるようなところに,いるんですね,シカ.で,近くの農家の方に伺うと,やはりシカが出るので,キャベツ畑にシカよけの柵をつけるんだとか.なるほど.
 先ほど見つけた糞,地域にどんな動物がいるかという基礎情報にくわえ,このように角など,確実な情報があると心強いですね.また,農家の方々など,地元の方に話を聞くのも,重要な情報収集です.
 さて,シカの角は彼らの年齢と相関関係があり,大きな角を持つ個体ほど年齢が経っているといわれています.ただし,枝分かれが2本だから2才,3本だから3才というような,単純なわけには行かないようです.このあと,実習中の学生がもう一本の角を発見しましたが,シカの骨はついぞ見つかりませんでした.しかし,大発見ですね.
アマガエル?
今度はカエルを発見です.何ガエルでしょうか.アマガエルのように見えますが,私は自信がありません.図鑑も手元にないですし.いかがでしょうか,山本先生?
 撮影中,じっとどこかを見据えていました.人間に驚いているのか,それとも哲学者のように何か考えているのか.
 カエルつながりで話をしますが,例えばアマガエルなども体の粘膜に毒があるそうで,さわったあとは手を洗うことなどが勧められています(千石1996「日本動物大百科5 両生類・爬虫類・軟骨魚類」講談社).そのまま目をこすったりすると強い刺激を受けたりするとか.
クサソテツ コゴミ
こちらはクサソテツというシダ植物です.という呼び方よりも,地元・信州の皆さんには「コゴミ」といった方が通用するかもしれませんね.これは既に葉が開いてしまっていますが,葉の先端がやや丸まっているのが分かりますでしょうか?この部分がもっと早い時期,丸まっているうちに食用にされます.私もこの状態でちょっとつまんでみました.味も素っ気もない感じですが,アクが無いというのは山菜にとって非常に大切な要素なのでしょう.おひたしにしたらお酒も進みましょうか.
アケビ
一方こちらはアケビの花ですね.実は見たこと,食べたことがあるでしょうが,この時期の姿も美しいですね.アケビは小葉が5枚の複葉を持ちますが,小葉が3枚で,葉の縁が波打つような形をしているものは別種で,ミツバアケビというものです.これら2種は落葉するものですが,常緑のものはこれまた別種でムベというものです.関東では随分見ましたが,こちらでは見ませんね.標高が高く寒いせいでしょうか.
ミヤマネコノメ
引き続き,小川沿いの湿った環境に出てくるものを見ていきましょう.ミヤマネコノメという,ネコノメソウの仲間です.イワボタンともいいます.ネコノメソウの仲間はいろいろ似たものが沢山あり,同定に少々骨が折れます.葉の付き方が対生か互生か,匍匐茎を出すか,雄しべの数やその長さを知っておく必要があります.これは茎葉は対生する,雄しべは8本,萼片より長い,といったことで同定できました.イワネコノメは雄しべが萼片より短いということです.ですから,このミヤマネコノメは雄しべの先端の茶色い「葯(やく)」の部分が外に出て目立つ印象がありますね.
 私も現地では「ネコノメソウの仲間」ぐらいまでしか分からなかったのですが,いろいろなアングルで花,茎,葉,等の写真をアップで撮っておくので,標本を持ち帰らずに同定できました.野の草花は野にあるのが一番です.
ヤマネコノメ
こちらもネコノメソウの仲間でヤマネコノメです.全体に毛があり,葉は互生,少数の根生葉があり長柄です.アップで花を見ると,何というか,魅入られてしまいますね.ちなみにネコノメソウはこれに似ますが,葉が対生で,毛はありません.
ツルネコノメ
ネコノメソウの仲間,もう一つ行きましょう.植物を数多く覚えていくこつは,似た仲間をまとめて,しかも区別点を明確にしながら覚えていくことです.
 で,これはツルネコノメです.葉は互生ですが,茎が二股分岐のように分かれていく印象があります.ツルではありませんが,ツルのように茎が長く伸びた感じで,ほかのものとの見分けは容易でしょう.ちなみに雄しべは8本で萼片より短いです.
ニリンソウ
さて,ネコノメソウを終えて,こちらはニリンソウです.この仲間にイチリンソウ(一輪草),ニリンソウ(二輪草),サンリンソウ(三輪草)とあり,この名前の由来は花を二輪付けるということですが,実際には写真のように三つ付いていることなどがあり,花の数で決めるのは危険です.
 イチリンソウやサンリンソウは葉に柄があり,2-3回羽状複葉していますがニリンソウは葉柄が無く葉が深列である点が違ことなり,区別が出来ます.イチリンソウとサンリンソウは花の数が違うこともあり,迷わないと思いますが,葉を見るとイチリンソウの羽状複葉はサンリンソウのそれよりも,細かく,深く切れ込んでいます.
スミレ
さて,川沿いの環境を離れて,田圃の畦(あぜ,です.カエルではありませんよ)など,より身近な環境を見てみましょう.
 2004年6月18日追記
 昨日,本屋で「信州のスミレ」(今井・伊藤著,ほおずき書籍,長野市)という本を手にしました.で,試しに(総称ではなく種としての)スミレをひいたところ,「有毛のものが多いが毛の状態には変異があり,毛のないものもある」という表現が出ていました.「あれ,スミレとノジスミレって,毛で見分けられるのでは?」と思っていた私は,ほかの図鑑もひっくり返し(比喩的表現.本当にはひっくり返しはしませんが),前回の記述が間違っていることに気付きました.失礼しました.お詫びして訂正します.
スミレ
本当は側弁が有毛かどうかなどを調べなければならないのですが,花は終わっていますし,一応現場まで記憶を頼りに探しに行ったのですが,影も形もありません.花が無くても,根の色などが違うらしいので,調べようと思ったのですが.
 で,写真からいろいろ考えると種としてのスミレのようです.まず葉ですが,ここでは毛の状態を見ません.葉身(葉の中で,もっとも葉らしい,葉の本体)から葉柄にかけてヘラ状に翼(よく)を持っています.ノジスミレではこの翼が小さいということです.それと,ノジスミレは葉が開いて展開するのに対し,スミレの葉は直立するように展葉するということです.ここではスミレ(?)(スミレ,カッコ,はてな,と読む)としておき,2005年の春,リベンジできっちり調べたいと思います.研究論文や報告書ではないとはいえ,学生の頃の曖昧な知識のまま,調べもせずにアップしたことを反省します.
スギナ ツクシ
これはご存じですね?ツクシですが,植物名としてはスギナが標準和名です.写真右手に緑の針金状の茎葉が見えますが,そちらが本体でツクシは胞子をつけ,散布するための器官です.すぐ後ろにあるのはたぶんハルジオンで,スギナ,ツクシとは関係ないです.
ナワシロイチゴ
2004年6月18日訂正
 訂正です.前回,ナワシロイチゴだと思っているものに「(線画のみの)図鑑に出ているクロイチゴに似ている」という話がでて,なるほど,葉も大きいし,先も尖っているし,ということで,こっちの大きいのがクロイチゴ,先が丸まって小さいのがナワシロイチゴ,とした経緯を書きました.
 が,今日別件で同じ場所に行き,何となく例のイチゴを見たのですが,やはりナワシロイチゴでした.まだ完全に葉が開いておらず,通常見ている状態とは異なったとはいえ,大変恥ずかしい限りです.お詫びして訂正します.慢心は敵です.気をつけたいと思います.前回の写真左手の小さいものも,右手の大きいものもナワシロイチゴでした.ナワシロイチゴは三出複葉で,葉の先があまり尖らず,また裏面が白い綿毛で覆われています.そして,線形の托葉を持ちます.ナワシロイチゴだとよく分かるものに写真も差し替えました.
 小さな三出複葉,と述べましたが,どちらも,木性のツル植物で,そうした,茶色く木化したツルの部分を見ておけば,ヘビイチゴの仲間やミツバツチグリなど(いずれも草本で,株の中心から緑色の茎を伸ばします)と間違えることもなく,草本と木本を区別できるはずです.
エゾタンポポ
こちらはタンポポの仲間です.今日本に生えているタンポポはセイヨウタンポポと,それが日本在来のタンポポと交雑した雑種が多く分布しているようです.セイヨウタンポポの特徴は,副萼片(花びらを包んでいる部分が萼片ですが,タンポポはいくつもの花が合わさった集合花で,それを取り囲む緑色の部分が萼片,それが二重になっていて,ここでいう副萼片はその外側の,短い方の萼片.総苞(そうほう)の内片(正萼片),外片(副萼片)とすることもあります)が反り返るものです.
 一方,日本のタンポポはこれが写真のように,めくれずにくっついています.で,何になるかということですが,エゾタンポポではないでしょうか.カントウタンポポは長野県には分布しないらしく,カンサイタンポポは木曽地域には分布しているようです.エゾタンポポは副萼片(総苞の外片)が正萼片(総苞の内片)の半分以下ということになっています.分布と形態でここはエゾタンポポと考えたいと思います.
セイヨウタンポポ
セイヨウタンポポも並べておくとわかりやすいですね.こちらがセイヨウタンポポです.副萼片(総苞の外片)が外に向かって反り返っている(むけている)のが分かりますね.
 皆さんも身の回りのタンポポ,比べてみてください.私がざっと見たところ,市街地でみるタンポポのほとんどがセイヨウタンポポでしたが,洞のビオトープで日本のタンポポが見られたのはさすがだと思いました.なるほど,里山ですね.
ヤマツツジ
さて,雑木林に移動しましょう.まずはヤマツツジです.この朱色の花を付けるツツジを野山で見つければヤマツツジと思って良いでしょう.松本の雑木林には非常に多いですね.葉は茶色く長い毛をつけているので,葉だけでも容易に見分けられます.
コバノガマズミ
こちらはコバノガマズミですね.葉も花も美しいです.これもよく見ますね.その一方でガマズミやミヤマガマズミなど,ガマズミ属のほかの仲間はほとんど見ません.
ヤマエンゴサク
さ,林床です.雑木林の斜面を,比較的湿った下の方からあがっていきましょう.これはヤマエンゴサクです.スミレのように筒状になった花が特徴ですが,葉も二回三出複葉のように,しかし丸く,独特の形で切れ込みます.
イカリソウ
こちらはイカリソウ.夏以降,葉をよく見ましたが,この季節であれば,きちんと花を見ることもできます.これまた独特の形の花なので,見たら忘れないでしょう.図鑑などだけでなく,自分で探して,自分で見ることが大事です.
ヒトリシズカ
こちらはヒトリシズカ.ヒトリシズカとフタリシズカは花序が一本か二本かで分けられますが,花がないと困りますね.ヒトリシズカは葉がほとんど4輪生のようにして付きますが,フタリシズカは,一見4輪生のように見えますが,近づいてみると,対生の2枚,対生の2枚が十字に付いていることが分かります.

レンプクソウの花
こちらはレンプクソウ.実は,長野に来るまで見たことはありませんでした.図鑑では見ていましたから,「あ,これってレンプクソウじゃん?」と思って見つけたときはうれしかったですね.花は先端に5個付きますが,四方と上方に向けて付くので,同じ向きの花はないです.
レンプクソウ
こちらは同じくレンプクソウの葉です.花が無くても,この状態で分かるようになると良いですね.
フデリンドウ
さて,雑木林の斜面をあがっていくと立地もやや乾いてきて,林床に光が当たるようになってきました.こちらはフデリンドウですね.リンドウより背が低く,5-10cmで,葉には厚みがあり裏は赤紫色になることがおおいということです.
 雑木林は,以前にも書いたように,もともと人の管理によって成立してきた林ですから,人が管理をやめると,雑木林特有の植物は消えてしまいます.管理というのは,具体的には林床の刈り払いなどですね.管理をやめ,ササなどが入ってくるとこうした林床植物は見られなくなります.
ホタルカズラ
こちらはホタルカズラです.ワスレナグサやキュウリグサなどと同じムラサキ科の植物です.これも,恥ずかしながら,わたくし,こちらではじめてみた植物です.尾根に近い,日当たりのよいところに生育していました.
リンゴの花
畑も春が来たことを伝えてくれます.こちらはリンゴの花.品種などは素人の私には分かりません.リンゴはサクラなどと同じバラ科ですから,花びらが5枚であることが特徴です.野生の植物では,ズミが一番似ているでしょうか.
ブドウ
こちらはブドウ.青空に映えますね.時間をかけて成長し,おいしいワインになってください.


という感じで,ちょっと足を伸ばすだけで,いろいろと新たな発見があります.こうしたことは,また,夏になれば別の発見が皆さんを待っているはずです.彼らはそこにいます.見つけるのは皆さんです.

と,今回はこんな感じで.

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