どーも.島野です.物質循環学科3年次前期のシステム解析実習は,選択
制になっていて,学生諸君が学びたい教員について中身の濃い実習を行うことになっています.学生諸君もやりたくないことを嫌々やらなくて良いし,教員とし
ても,望んで,やる気のある諸君の相手をできるので,お互いにメリットがあります.この実習での経験を生かして3年後期からの研究室配属先を考えたり,あ
るいは違う分野に行ったときに生かせるバックグラウンドを養ったりすることになります. で,間違って私の実習をとってしまった諸君がいるわけですよ,今年も. 私の実習では,主にふたつの目標があります.ひとつは,森林の毎木調査と,植生調査を通して,現在ある森林が今後どん な風に変化していくかを,自分たちのデータを通して把握する,これを元に論文を作成する(それまでやってきたレポートとは違い,何が目的なのか, 何を明らかにするのか,なぜそれを明らかにすることが必要なのか,それを明らかにするためには何がデータとして必要なのか,自分のデータから,何をどこま で言えるのか,といったことを考えながら,一般的な学術論文のスタイルで論文を書いてもらう)というもの. もう一つは,植物を通して環境を知る,ということです.このために,身近にある植物をどんどん覚えてもらい,それがどんな環境の元でどの 様に生きているのかを知ってもらいます.そうすると,植物の種類から,その土地の出来方や,現在の状態等を知ることが出来るようになり,立地の判断が出来 るようになると思っています.大学を卒業してしまい,道具や機材を使えなくても,こうして身につけた知識や経験は,ずうっと生かし続けられると思うんです ね.そのために,実際の調査ばかりでなく,実習の時間内に,湿原や自然のブナ林,あるいは(日程の関係でこれから行くんですが)針葉樹林の縞枯現象などを みつつ,信州の自然を見て歩くというエクスカーションを行っています. 前置きが長くなりました.話が長いのは悪い癖です.今回は,私の実習をとった学生諸君に,実習のエクスカーションで訪れた八島湿原,これ がどんなものかを学生諸君に発表してもらうことにしました.ただ本を読んで,訪れて,解説を聞いても,「ふーん」ってなもんですが,自分で説明す る,となると結構きちんと勉強しなければなりません.せっかく調べたのですから,ネットにあげて,皆さんに見てもらえるようにしようと言うことです.出来 はどうでしょうか. それでは,はじまりはじまり. 八島湿原に行ってきました! 及ばずながら八島湿原について紹介させていただこうと思います。 |
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ところで湿原ってな〜に? 湿原とは多湿、低温の環境で植物の枯死体の分解が進まず泥炭となり、泥炭層と貧栄養の水で発達した草原のことです。発達段階とごとに低層湿原、中層湿原、 高層湿原に分けられます。似た言葉に「湿地」というものがあります。湿地とは読んで字のごとく湿った土地のことで、浅い湖沼や沼や水田など、もちろん湿原 も含まれます。あれ?じゃあ、何で見分けるの?ってなりますよね。湿原が他の湿地と分けられるキーワードは多湿低温、泥炭、貧栄養の水、この三つです。こ れらによって湿原は形成され、維持されているのです。詳しくは後で述べます。 |
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湿原とは多湿、低温の環境で植物の枯死体の分解が進まず泥炭となり、泥炭層と貧栄養の水で発達した草原の ことです。発達段階とごとに低層湿原、中層湿原、 高層湿原に分けられます。似た言葉に「湿地」というものがあります。湿地とは読んで字のごとく湿った土地のことで、浅い湖沼や沼や水田など、もちろん湿原 も含まれます。あれ?じゃあ、何で見分けるの?ってなりますよね。湿原が他の湿地と分けられるキーワードは多湿低温、泥炭、貧栄養の水、この三つです。こ れらによって湿原は形成され、維持されているのです。詳しくは後で述べます。 | ||||||||||||
湿原の成り立ち 湿原の成り立ちは主に、陸化型、沼沢化型、後背湿地型の三つのパターンに分けられます。 |
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◆では、我々が訪れた八島湿原の成り立ち(陸化型)について詳しく説明します。 | ||||||||||||
(1)霧ヶ峰一体の火山活動が収まったあと溶岩くぼみに水がたまって池ができました。そこに土砂が流入し
周辺部が次第に浅くなり、浮葉植物や挺水植物が水深に応じて生育し始めました。これらの遺体は寒冷地であるため完全に分解されず、土砂と共に堆積しまし
た。 図:武田 |
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(2)周辺部から湿原植物が侵入し、これらの遺体もさらなる土砂の流入とともにますます水深を浅くしまし
た。その上に生育した湿原植物の遺体も完全に分解されず泥炭となり堆積しました。 図:武田 |
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(3)さらに泥炭が堆積し、水面と泥炭面がほぼ等しくなり低層湿原ができました。 図:武田 |
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(4)その後、ミズゴケ類が増えドーム状に盛り上がり、高層湿原の出来上がりとなります。 図:武田
参考資料:*A
(武田)
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◆湿原は、常に植生の枯死と堆積を繰 り 返してお り、低層から中層、高層湿原、陸地へと変化していきます。 その形状や植生から以下の3種類に分類されます。 | ||||||||||||
低層湿原 一般に湿原という
と、これを指す。有名な釧路湿原などはその80%が低層湿原。表面が平坦で地形面と地下水面とが一致し、湿原の表面まで冠水しているものを言う。そ
の水は地表水と地下水に依存し、比較的富栄養性である。そのため、大型のヨシ、ガマ、及び大型のスゲ群落などの草本が生息する。また地下水で涵養されてい
るため、集水域の開発はその地下水位を変化させ、周囲を開発しただけでも変質や減少、更には消失してしまうことがある。 →周囲より標高が若干低く、周辺から水が流れ込んでくる湿原 (*:B ,C)
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中層湿原 低
層湿原から高層湿原に変化していく際の湿原であり、高層湿原ほど盛り上がっていないため、水が豊富に流れ込む。そのため、栄養がやや豊富で高層湿原よりも
草丈の高い植物(ヌマガヤ等)が生育する。 →低 層湿原から高層湿原に以降するときの湿原 (*:B ,C)
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高
層湿原 分解されず堆積した
泥炭が多量に蓄積されて、周囲よりも高くなったために地下水では涵養されず、雨水のみで維持されている貧栄養な湿原を指す。植生はミズゴケ類が主体。
温暖な地域では、枯れた植生がすぐに分解されてしまうため、高層湿原は発達しない。 氷河期の遺存種など、貴重な動植物が生息する場合が多い。 →周囲より標高が若 干高く、雨水や雪解け水が流れ込む湿原 (*:B ,C)
(深澤) |
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◆ここで、日本の代表的な湿原を紹介します。 |
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・八島湿原 写真:島野
推定年数:8,500〜10,000年前 面積:約45万u(約13万7千坪) 標高:1,630m 年平均気温5.8℃で北海道とほぼ同じ気候。一周は約一時間十五分。長野県のほぼ中央にある。日本で最南端にある南北620m、東西1050mの卵形をし た高層湿原。尾瀬ヶ原についで日本2位の面積を誇る高層湿原。 |
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・ 尾瀬ヶ原 写真:島野
推定年数:一万年前面積:760万u 標高:1400m 福島、新潟、群馬の三県にまたがる東西6km、南北2kmの高層湿原としては本州最大。今を去る1万年前、燧ヶ岳(ひうちがたけ)(尾瀬の北東の噴火)に よって、噴出物が只見川をせきとめてできたのが今の尾瀬ヶ原である。尾瀬ヶ原がせきとめられた当初は、大きな湖であった。そこへ周辺部の山山から土砂が流 入し、浅い沼を形成していった。 |
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・ 釧路湿原 写真:島野
推定年数:3千年前面積:7600万u 標高:3〜10m 現存の日本の湿原としては最大 ヨシスゲの群落の低層湿原が大部分を占める。ラムサール条約に日本ではじめて認められた湿原。 |
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ラ
ムサール条約とは? (*D)
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◆尾
瀬と八島湿原は同
じ高層湿原で、釧路は低層湿原です。何のちがいがあるのでしょうか? それは、できた時代によるものが大きいです。高層湿原の尾瀬ヶ原と八島湿原は推定として、一万年前にできたが、低層湿原である釧路湿原は三千年前と比較的 新しい。この年代の差が何を意味しているのでしょうか?それを考えるには、一万年前と三千年前の地球の環境が大きく関係しています。 一万年前の地球は氷河期が終わり暖かくなり始めていました。そのため、雨が多くなっていたのです。この雨が、山の大きな窪地などにたまり、湿原の元となっ たのです。これが、今の尾瀬ヶ原や八島湿原の始まりとなっているのです。一方、三千年前になると暖かかった地球は、少しずつ寒くなり始めました。そうする と、極地などでは氷河が拡大しはじめ、海水面が少しずつ低くなっていきました。そうすると、今まで海の中にあった陸地が顔を出し始めたのです。もちろん、 この新たにできた陸地は多く水分を含んでいるために、湿地の元となるのです。これが、釧路湿原の始まりです。そのため、釧路湿原は標高が3〜10mと標高 の低い位置にあるのです。これが、日本の代表的な湿原(尾瀬ヶ原、釧路湿原、八島湿原)のできかたです。 (田村)
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◆次に、湿原で見られる特徴的な地形を紹介します。 |
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ドーム 高層湿原は遠めに見るとその中心部がまわりより盛り上がっています。これは高層湿原の特徴的な地形で、ドーム(ドーム 状)と呼ばれます。高層湿原の中央部は 水や栄養の流入・供給も少ない為、比較的貧栄養で乾燥した場所となります。このような 場所では微生物による分解が非常に遅く、分解されない有機物が泥炭として蓄積していきます。 このようにして湿原の中央部が膨らんでいき、ドームになっていくのです。 写真:清水 はっきりとはしませんが、水面より湿原(池の奥側)の方が高くなってい
るのが分かりま
す。これがドームです。
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ブルテ&シュレンケ ドームといっても、綺麗な弧を描いているわけではありません。その表面は凸凹しています。この凸凹はそれぞれ、凸部をブル テ、凹部をシュレンケと呼びま す。ともにドイツ語で、英語ではそれぞれハモック、ホローといいます。湿原中央部では、細かく見ると栄養や水分の供給に差があり、ミズゴケの成長速 度が異なるために凹凸ができます。ブルテがある程度成長すると頂部にはほとんど水分の供給がなくなり、やがて崩壊します。湿原は、ブルテとシュレンケを繰 り返してドームを作っていくのです。この移行をホロー・ハモック・サイクルといいます。(*1) |
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浮島 読んで字のごとく、湿原の池塘に浮いている島です。その成因は2つあります。 @池塘の水温が上昇するにつれて発生したガスが下から堆積物を持ち上げ、1週間も経つとこの層が底からはがれて水面に浮かび上がる。この上に植物が生えて 数年の間に島ができる。 A泥炭層が火山灰層によって上下に区切られているとき、池塘の縁では火山灰層により下の泥炭がえぐられて、上の泥炭層が突き出している形になる。この部分 が何らかの原因で切断され、浮島ができる。 (*2)
写真:清水 池塘の中にいくつかの浮島があります。 (佐野)
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低層湿原と高層湿原の植生の違い 低層湿原は高層湿原に比べて栄養塩類の循環が良好。この おかげで、富栄養で生育する植物も大きくなります。ヨシ、大型のスゲ類、ハンノキなどの植生が発達します。(*C) 高層湿原は栄養塩が少ないため、貧栄養の条件下でのみ生 育が可能な植物からなる植生が発達します。ヒメシャクナゲ、ツルコケモモ、ワタスゲ、モウセンゴケ、ミズゴケ類などの北半球のツンドラ地域に生活の本拠を もつ植物が生育し、群落をつくっています。(*E) 私たちは高層湿原である「八島湿原」に行きました。そこで見た植物を紹介したいと思います。ちなみに、「八島湿原」にはツルコケモモが咲いていたらしいの ですが、見つけられませんでした・・・。ぜひ探してみてください。 |
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泥炭について 湿原の特徴に泥炭というものがあります。泥炭とは一言で言うと植物の 遺体などの有機物が、寒さのために微生物に完全に分解されずに、不完全な状態で止まっているものが炭化してできたものです。その為、泥炭は土のようで土で はありません。分解が不完全なので、泥炭層を掘り起こすと、植物の組織が肉眼で確認できる黒い土の様なもです。イメージでいうと、最近流行の洗顔用の黒色 の泥炭石鹸のような色をしています。湿原の泥炭層は水をたっぷり吸って、ふわふわのスポンジのようになっています。 では泥炭にはどのような特徴があるのでしょうか。簡単に以下の表にまとめてみました。 |
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年
中冷涼湿潤 → 微生物活動の抑制 → 泥炭形成 ← 微生物活動の抑制
↓ ↑ (湿
原による遷移の抑制) 腐食酸形成 → 殺菌作用 |
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泥炭とは湿原特有のものですが、気候が年中冷涼湿潤であれば微生物の活動が抑えられま
す。有機物の分解の際に酸素が消費される為、この嫌気的条件下で腐植酸が形成されます。この腐植酸は茶褐色の透明物質なのですが、これによりpHが4〜5
になります。この酸が殺菌作用を持ち、それによって微生物の活動が抑制され泥炭の形成が促進される、という自ら遷移を抑制する働きがあります。 この泥炭はどのくらいの速度で形成されるか、簡単に以下のような式で表すことができます。 泥炭の堆積速度 = 植物などの有機物の堆積速度 − 微生物の分解速度 参考資料:*F,G
(村上)
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湿原の遷移につ
いて 湿原はやがては泥炭の堆積とともに乾燥化し、森林へと遷移します。湖沼→湿原→森林という遷移を湿性遷移といいます。 日本の湿原では人工的に乾燥化がなければ、湿原は自らの環境形成能力により発達して面積を広げていくとい う考えもあります。 湿原が乾燥化し始めるとまず、比較的水に強く、湿潤なところでも生育できる種や湿ったところが生態的最適 域となる種が湿原に侵入してきます。(ズミ、マユ ミ、ヤナギ、ハンノキ、アカマツ、シラカバなど)八島湿原ではズミ、マユミ、アカマツを見ることができました。 さらに乾燥化してくると極相林となりうる種(主に陰樹)が侵入してきて、極相林をつくります。 八島湿原では標高や気候、周りの植生などからシラビソ、オオシラビソの極相林へと遷移すると考えられま す。 釧路湿原ではミズナラ、尾瀬ではシラビソ、オオシラビソまたはブナの極相林へと遷移すると考えれます。 湿原は上記のような遷移をしますが、寒さや腐植酸などの維持機構 により、遷移のスピードが遅いです。 参考資料:*J
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参照文献 : *1『湿原 〜成長する大地〜』辻井 達一 (著),中央公論社 ; ISBN: 4121008391 ; (1987/05) : *2『尾瀬の湿原をさぐる -そのおいたちと植物』 堀正一 築地書館 : *3『山に咲く花―写真検索 山渓ハンディ図鑑』畔上 能力 (編集), 永田 芳男, 西田 尚道, 菱山 忠三郎(著), 山と渓谷社 ; ISBN: 4635070026 ; (1996/08) :*4『野に咲く花 山渓ハンディ図鑑』平野 隆久, 菱山 忠三郎, 畔上 能力, 西田 尚道(著),山と渓谷社 ; ISBN: 4635070018 ; (1989/08) 参考URL : *A http://www.oze-info.com/^guide-eye/situgen.html 「湿原の成り立ちを尾瀬で観察しよう」 : *B http://kushiro.env.gr.jp/saisei1/modules/xfsection/article.php?articleid=18 : *C http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%BF%E5%8E%9F : *D http://homepage1.nifity.com/rcj/japanese/jouyakutoha.htm : *E http://education.kameyahotel.jp/ : *F http://www.asahi-net.or.jp/~sv2e-knn/sub50.htm : *G http://www.convention.co.jp/ip/hira/referenc2.html : *H http://qga02666.web.infoseek.co.jp/oze_44.html : *I http://www.asahi-net.or.jp/~US4T-KMC/03oze82 : *J http://had0.big.ous.ac.jp/^hada/moor/ecology/ecogy.htm 『湿原とはどんなものか』 (編集:佐野)
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