いやー,ホームページの更新って,なかなか大変ですよね.お見せしたいものはいくらもあるんですが,なかなか時間がとれません.今回は,春に秩父 の中津川渓谷に行ったので,そこでの植物を紹介します.もちろん植物を見に行ったわけではなく,渓畔林の樹木生態を調べるべく調査に行ったのですが,つら い調査の中(といっても手伝いなんですが),カメラのファインダー越しに見つめる花たちだけが心を慰めてくれます.



 
 春先の渓畔林の写真です.下に生える低木はもう葉を展開しているのに,上の木はまだ展葉していませんね.
 これは,下に生えているカエデ科の樹木が,少しでも多く光を浴びるために時期的に早く葉を開く結果です(擬人的表現です.より正確に言うと,下に生える カエデ科の樹木が時期的に早く展葉した結果,彼らはこの場所で生育し続けることが可能になっている,ということですかね).
 葉を展開していない上層の樹木は,シオジやサワグルミで,下層の展葉したカエデ科は,チドリノキ,イタヤカエデ,アサノハ,オオイタヤメイゲツカエデ等 などです.
アサノハカエデ
 これはアサノハカエデ.イタヤカエデなどの,表面のツルンとしたものに比べると,ラフな感じのする葉です.この葉の質感を「麻の葉」と表現したことが, このアサノハカエデの名の由来です.
 若葉は良いですね.夏に見ると,虫食いになったりして,写真にはあまり良くないのですが.
シロバナエンレイソウ
 林床に咲くシロバナエンレイソウ.上層の樹木が葉を開ききらないうちに葉を広げ,花を咲かせ,繁殖してしまいます.夏になってからは光競争が 厳しいと言うことでしょうか.夏になっても葉は残り,光合成を続けているようですが(この点が春だけで姿を消してしまうカタクリなどの純粋な春植物との違 いです).
 別名ミヤマエンレイソウ. 花弁は6枚,白い内花被が3枚,緑色の外花被が3枚です.ただのエンレイソウは紫色の,3枚の花弁を持ちます.
サンリンソウ
 こちらはサンリンソウです.名前の由来は,1個所から花が3つ咲くことから来ていますが,この写真では,1つだけですね.
 似た仲間のイチリンソウやニリンソウよりも,葉はアズマイチゲにそっくり.しかし,花弁は5枚(アズマイチゲはもっと多い)で,茎に毛が多いのが,この サンリンソウの特徴です.
 なかなか可憐じゃないですか.白い花を引き立てるために,バックの黒い部分に花を持ってきました.
ハシリドコロ
 こちらはハシリドコロ.何かの花に似ていませんか?そうです,ナスの花に似ていますね.それもそのはず,このハシリドコロはナス科の植物です.
 しかし,注意.こちらはアルカロイドの一種を含む有毒植物です.名前の由来は,食べてしまうと苦しいからか,幻覚を見るために「所かまわず,走り回る」 ということのようです.決して試そうとは思わないで下さい.
レンプクソウ
 こちらはレンプクソウ.松本周辺でも見ますが,よく見ないと見落としてしまいそうなたたずまいですね.ハシリドコロ同様,湿った場所に出ます.

ヤマエンゴサク
 ヤマエンゴサクでしょう.似た仲間にエゾエンゴサクやジロボウエンゴサクがあります.ジロボウエンゴサクは平地に分布し,花が紫色です.エゾエンゴサク はこれと似ていますが,文字通り北海道(エゾ)や本州北部の日本海側に分布します.
 外見では,ヤマエンゴサクの花の苞は歯牙か欠刻があるのに対し, エゾエンゴサクは苞が全縁か三裂ということになっています.そこまではこの写真では分かりませんが,分布などを勘案して,ヤマエンゴサクだと思います.
ミヤマハコベ
 ミヤマハコベです.ハコベの仲間は花弁(花びら)が5枚ですが,それぞれが切れ込んでいるため,10枚に見えるものがあります.このミヤマハコベがそう ですね.花びらは5枚ですが,切れ込んでいるため10枚に見えます.茎は直立せず,地をはいながら上部が斜めに立ち上がります.茎には毛が2列になっ て生えています.花柄は有毛.
 これにやや似たサワハコベは,花弁が奥まで深裂せず,「切れ込みのある花びらが5枚ある」ように見えますので,見分けられます.
ツルネコノメ
 ツルネコノメ.これは以前にも紹介しました.葉は互生しますが,茎が二股に分かれるように分枝して,外見はツルのように見えなくもありません.山地の川 沿い,湿ったところに分布します.

マルバネコノメ
 ネコノメ・シリーズ.マルバネコノメですね.葉は対生ですが,葉のとがったイワボタンなんかと違い,丸い(もしくはうちわ型の)葉をつけます.茎は地をはい,途中から根を出します.
コガネネコノメ
 こちらはコガネネコノメ.黄色い花びらのように見えるのは花弁ではなく萼片とのこと.まともかく,この黄色い色が黄金色(こがねいろ)という所から付い た名前でしょう.花が咲いていれば間違えないですね.葉は対生し,写真では見えづらいかもしれませんが,茎に白く長いまばらな毛が生えていて,結構目立ち ます.葉の形は,ボコボコとした鋸歯があるうちわ型.
ヨゴレネコノメ
 ネコノメソウ・シリーズの最後はこれ,ヨゴレネコノメ.イワボタン(ミヤマネコノメソウ)の変種になっています.どちらも葉は対生で,同じように先が 尖っています.どこが違うのかというと,ヨゴレネコノメはこの写真で分かるように,葯が黒いので見分けられます.イワボタンとともに,緑の葉が汚れている ように見えますが,これは汚れているのではなく,もともとこうした白い模様がつきます(ヨゴレネコノメ,イワボタンとも).
クロイチゴ
  クロイチゴ.こちらは変わって,木本です.三出複葉で今見えている3枚の小葉で1枚の葉です.
 小葉の先は鋭く尖(とが)り,葉の裏は毛で真っ白です.ただしウラジロイチゴの様な赤茶色の腺毛はないので,間違えないと思います.
 むしろこれが展葉したての頃,ナワシロイチゴと間違えてしまう方が怖いですね(間違えないか?).
クロイチゴの葉の裏
葉の裏は,ご覧のように真っ白.すごすぎ.
カンスゲ
 カンスゲです.常緑のスゲで,冬,寒い時期にも葉をつけていると言うことで「寒菅(かんすげ)」という名前なのでしょう.常緑らしく葉はテカテカ.

カンスゲ
 スゲの仲間は葉の断面がM字型なものが多いのですが,これは,V字型.大きな特徴の一つでしょう.
カンスゲ
 カンスゲの花です.先端のフサフサしたように見える部分が雄小穂で,これが一つつきます.
 その下には雌小穂が3つ程度つきます.この地域はシカの食害がひどく,こうした,花を付けた個体は岩の上など,わずかにしか見られません.
カンスゲ
 ちょっと見にくいですかね.葉の根ものとの方は赤褐色なのも特徴の一つです.

 今回の調査は,現在,山梨県森林総合研究所に所属する久保満佐子博士のお手伝いです.成果は私も連名にさせてもらっていて,役割としては現地調査の手伝い(むしろ足手まとい?)と研究の方向性のアドバイス(ちょっぴり),論文の仕上げ(どれだけ役に立っているやら)などで協力させてもらっています.
 海外の雑誌にも論文を積極的に掲載するなど,非常にアグレッシブです.私も見習わないと.トホホ.

 もう一人,強力な助っ人が,埼玉県林業試験場の崎尾 均博士です.長年渓畔林でシオジやサワグルミの更新動態などを研究されてきた方です.山と渓谷社から図鑑を出したり(樹に咲く花―離弁花〈1,2〉,合弁花・単子葉・裸子植物編),本を編集・執筆されたりして(水辺林の生態学,東京大学出版会)大活躍です.私も崎尾さんから試料を預かっているので,この冬 はそれもしないといけませんね.
 人の調査って,体力は大変でも,気分は楽なんですよ.でも最近は「うーん,俺も頑張らんとなあ」という感じで,自分の気を引き締めるきっかけになりま す.ただし,夜,飲んじゃうと抜けていきがちなんですが...
 成果は一朝一夕には出ません.地道に頑張りましょう(>自分).

と,今回はこんなところで.



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