雑感

UPDATE: 2006年3月30日

新潟で行われた生態学会に.で美術館とかも.

 例によって,原稿の締め切りが来つつあるんですが,筆が進まない....とか言うと格好良さそうに聞こえるんですが,なかなか大変なんですよ.4月になっちゃうと授業も始まっちゃうし,原稿書いたり,自分の研究を進める時間,またなかなかとれなくなっちゃうんですね.
 と,分かっていても,現実逃避をかねて(頭の中をリフレッシュ),雑文を書いたりするわけです.
 3月は,学生の研究の手伝いで,佐渡島へ行きました.その内容を書こうかとも思ったんですが,それは,学生当人(清水さん)がやってくれると決意表明してくれたので,譲ります.
 その後は,新潟の朱鷺メッセで行われた日本生態学会と東アジア生態学連合(?)の合同会議に手伝いで行きましたが,この朱鷺メッセの中に「万代島美術館」というのがあって,時間の空きを見つけて,よってみました.

 「7人の新潟の洋画家たち展」というのがやっていて,入館料は300円!すばらしい!しかも,土日は中学生以下無料!すばらしい,すばらしすぎる!!(いや,実際には,中学生カップルがうるさかったりしたんですが,2回目は平日に時間を作りました)  

 7人というのは,安宅乕雄,小野末,佐藤哲三,竹谷富士雄,田中道久,三芳悌吉,富岡惣一郎の各氏です.無学・無教養が信条(?)の私は,当然,誰も知らないで入りました.

 残念なことに,今回の展覧会用の図録が作られていないということで,私の頭の中からもそれぞれの絵の印象が,一日一日と弱まっていきます(飲む→寝る→飲む→寝る,のサイクルの中).そこで,自分の印象を文章で残しておこうかな,という感じなんですよ,今回は.

 まず,全体としては,これだけ作風の違う人たちのものを,まとめて,ドンと見られるのって,すごいなと.

 安宅乕雄氏は,なんというか,線の太い人物画が印象的ですね.印象に残ったのは,「踊子」「赤いコート」「晩夏」なんか.背景の色とか構図はシンプルで,それだけによけい人物に目がいきます.安宅氏本人が,後に本に書いたか,インタビューに答えたか,といったコメントが壁に貼ってあって,一字一句メモしたわけではないのですが,以下のようなことを述べています.曰く;ひとの絵を見て残念に思うことがある,それは,服の中に人体が入っていないように見える,これでは人物画でなく着物画である,と.
 なるほど,そういわれて,改めて人物画を見ると,服の下の,人体の存在感が,ぐっと詰まっているように感じられます.うーむ,すごい.

 小野末氏は時代によって作風がいろいろのようです.「白壁の家(東大工学部実験室)」「岩山(スペイン)」なんかは,壁のザラリとした質感や岩肌のゴツゴツとした手触りが,絵の具を厚く塗ることで表現されています.「岩山(スペイン)」なんかは,絵と言うより,彫刻,オブジェのような存在感です.一方で「乾いた湖」「影」なんかはとても人が住めないような荒涼とした風景が描かれていて,「影」では,そこに作者と思われる人物の影が映っていて,自分がそこにいるような気になります.学芸員のつけたと思われる解説文がやはり壁にかけてあって,いわく,厳しい環境にあって逆にそこに生きる,生きようとする生命への欲求が込められている,とか.うーむ,そうかあ.あ,いや,詳しい内容は覚えていないんですけど.メモしたわけでもないので.

 竹谷富士雄氏も具象的なものから,抽象的なものまで.やはり,本人のコメントがつけられていて,フランス留学時代のシャルル・ブランの影響がある,と.人物デッサンのことなんですが,それまで頭からデッサンしたり,足からかいていたりしたんだが,シャルル・ブランは違うと.どう違うかというと,対象の人物が,立っていても,座っていても,腰の位置が画面の上下の中央に来る,で,腰を塊として描き,その上に中心を貫くように胴をのせ,そして頭をのせる,ということなんだそうです.こうして描かれたのが,「舞台裏の饗宴」「廃墟のヴィナス」などで,なるほど「舞台裏の饗宴」で主人公のように描かれている女性は,不安定なポーズなのに,安定感というか,見ていて安心感があって,人体としてのリアリティをすごく感じます.うーむ,すごい.図録があったらなあ.

 田中道久氏の中では,「メクネスの城塞(モロッコ)」というのが,目にとまりました.絵のサイズが大きいのもあるんですが(私には,キャンバスが何号とか,そんなことは分からないんです),存在感のある城壁を目の前にして,作者の,圧倒されたであろう気持ちを,絵を目の前に我々も感じることができます.四角いキャンバスに,四角い城壁が,ドーンと,来ます.で,城塞の存在感が圧倒的なので,しばらく後になってから気づくんですが,現地の女性らしい布をかぶった人物がこちら(作者,鑑賞者)を見ています.我々日本人がイメージする異邦人,のイメージですが,彼女にとって,我々が異邦人なんですよね.

 佐藤哲三氏は,重厚で存在感のある人物画を描きます.新潟の風物,これは例えば「農婦」だったり「農村託児所」の子供たちだったりするんですが,今回の作家の中では,一番,地元に根ざした画家なんじゃないかと感じました.ちらりと土門拳リアリズム写真が頭をよぎりました.

 三芳悌吉氏の作品で目にとまるのは,アクリルによる,精密な描写の「仕事場の隅」「廃船の中で」.もちろん油絵もあるんですが,アクリル画に目がいってしまいます.なんというか,写真のように細かく描かれているんですが,そこは絵ですから,写真なんかより(なんか,って言ったら写真に失礼ですね.土門先生すみません)ずっと存在感があるんです.しばらく見入ってしまいますね.

 最後は富岡惣一郎氏です.この人は,南魚沼に自分の美術館があるんですね(六日町だそうです.塩沢とか,石打とか,あっちの方).
 最初,なんじゃこりゃ,と思いました.ええ,いい意味で.雪景色や黒い森を描いているんですが,思わず近寄って,どうやって描いたのかって,見ちゃいましたよ.例えば「北アルプス信濃川源流」って絵なんですが,どうやら,キャンパスに黒い絵の具を一面に塗る,でその上から白い絵の具を一面に塗る,そして,彫刻刀だか,ナイフだか,こてだか分かりませんが,表面を削って,下地の黒を出しているんです.で,この黒が一面白い雪景色の中の木々や川を描いているんですね.いや,描いているんではないんでしょうが,遠目に見ると描かれているんですよ.「原生林」という作品は,北海道がモデルだったんだっけな,一面の針葉樹林を空から俯瞰(ふかん)している構図で,色は黒で樹木の樹冠がぼんやりと描かれているんですが,これも表面が,樹型をあらわすように削られ,浅い凹凸があるんです.うーん,という感じですね.
 この人のは,画集が売っていて,絵はがきなんかも売っているんですが,いや,私も一応買い求めたんですが,これ,本物を見ないと,全然分かりませんよ.うーむ.
 もう一つ気づいたのは,この人の構図はみんな,なんというか,写真で言うところの「望遠レンズでのぞいた世界」なんですね.遠近感がすごく圧縮されていて,しかも手前からおくまでクリアに描かれている.写真であれば,手前から奥まで望遠レンズでピントが合うことってないですから,こういう表現でできないんだと思うんですよね.いやあ,すごいなあ.

 ...といった感じで,300円で,非常に楽しんでしまいました.これにアメリカ現代絵画の愉しみ,って言うのが併設されていて,一緒に見られるんですが,私にはぴんと来ません.はいはい,はあ,そうですか,といった感じです.

 今回の新潟行きですが,手伝い仕事は無難にこなしたし,うまい魚は食べられたし,持って行ったノートパソコンでそこそこ仕事も進みましたし,ホテルの駐車場で車はぶつけられてしまいましたが(泣),ま,良かったんじゃないでしょうか.これで出張代がでれば最高なんですが,そんな予算はありません(またも泣).あ,でも,静岡大の増沢先生のところの大学院生の冨田さんという女性が,私と同じペンタックスの一眼レフ(彼女のはDL,私のはDSとちょっと違いますが)を使っていたのは,ちょっとうれしかったかな.「ペンタックスのマクロレンズ,すごく良く写るよ」って伝えておきました.高山植物のアップ,是非とってください.

近くまで行かれたら,覗いてみたらいかがでしょうか.
新潟県立自然科学館も,550円の入館料にしては頑張っていると思いました.子供向けの展示ばかりでなく,私が見ても楽しめる,大人向けの内容もありましたし,ナチュラル・ヒストリー的な展示もあります.山梨県立科学館は,完全に子供向けでゲンナリでしたが,新潟県立自然科学館は,お勧めしていいでしょう.

ま,今回はこんなところで.