軽井沢・扇平の湿地植生の重要性


UPDATE: 2007年6月9日

何がどう問題なのか


 以前,軽井沢で,「軽井沢の湿地植生がなぜ重要なのか」という内容で,講演を指せて頂いたことがあります.このときの発表資料が眠ったままですの で,pdfファイルから画面を画像として取り出し,web site で公表しておこうと思います.
 どういう背景があるかというと,軽井沢の扇平というところで別荘地の開発計画が持ち上がり,これで貴重な植物やら自然が無くなってしまうのではないか, と心配する住民グループ(軽井沢サクラソウ会議) の皆さんからお話を頂き,お互い「勉強に」ということで話をさせて頂くことになりました.
 地元の方々の方が,植物でも昆虫でも私なんかよりお詳しいんですが,私も一応,植物生態学者という立場で,私なりに思う所を述べさせて頂きました.
 ただ,対象になっている場所は,民有地であり,その土地をどうするかについて,国立大学の教員がとやかく言う立場にありません.ですから私は,別荘地の 開発に対して,「賛成」とも「反対」とも言いません.それは,地権者の皆さんや,地域住民,そして軽井沢町の行政の皆さんで決めてもらうことです.
 そのための基礎資料,つまり,軽井沢の湿地植生が何故,どのように大切なのかを知って頂くための話題提供をした,ということです.
 活発な議論がなされ,軽井沢の皆さん,それは地域に住む人や,観光や開発で生活している方々ですが,こうした皆さんがハッピーになれることを願っていま す.



「生態系はなぜ大切か」という,非常に大きなタイトルを頂いてしまいました.で,副題として「軽井沢・扇平の湿地植生の重要性.何がどう問題なのか」とつ けさせていただきました.


発表の流れですが,
1. 軽井沢の扇平の成り立ち
2. 希少種が残ればいいのか?希少種の意義は?
3. サクラソウ,ハナヒョウタンボク(絶滅危惧植物)の生育できる
 条件は?
4. 大面積,そしてハビタットがネットワークになるように残すことの
 必要性
としました.



秋の写真ですが,こんな場所です.カラマツが多いのは,立地が湿っていて,他の樹木の生育が困難だからです.


土壌はあまり発達しておらず,すぐ下に軽石層が出てきます.軽石層の上に成り立っている湿地だ,ということです.
 この軽石層は,板鼻黄色軽石層というもので,2万5千年前以降の浅間山の噴火の影響,ということです.
 で,川がせき止められ,湖になり,それが埋まっていって湿原(湿地)になる,という流れです.


 まわりの森林土壌を見てみますと,真っ黒です.これが火山灰起源の「黒ボク土」というもので,これもやはり浅間山の噴火の影響といえます.


 図は,島野(1998)の「何が太平洋型ブナ林におけるブナの更新をさまたげるのか? 植物地理・分類研究,46:1-21. 」からのものです.2万年前の日本列島の状況を示したもので,2万年前,日本は氷河期の最も寒い時期でした.どれくらい寒 かったかというと,いろいろな研究があるのですが,現在より約7度ほど低かったようです.そのため,現在の軽井沢は1000m弱の標高ですが,当時,現在 の標高1600m程度の気候(気温)だったと考えられます.
 ということは,当時の軽井沢はブナなどの冷温帯落葉広葉樹林とシラビソ・オオシラビソなどの亜寒帯常緑針葉樹林の移行域にあったことが想像されます.し かし,実際に当時の地層から出てくる植物を花粉などで調べると,ハイマツや,バラモミ,ミズゴケ,ミツガシワなどが出てくるとのこと. 当時,氷期で大陸 的だった日本は,冬期の降水量も少なく,ブナが優占するには厳しい環境だったことが分かります.
 そのため,本来は温度的に優占するはずのブナが優占できず(ハイマツやバラモミが優占),かつ,湿地だった(ミズゴケやミツガシワが分布)ために,競争 に弱いハナヒョウタンボク,これ,今は絶滅危惧種ですが,優占してこれたのではないでしょうか.
 軽井沢に分布するハナヒョウタンボクは,こうした軽井沢の地史的な自然の変遷を物 語る生き証人といえるかもしれません.


もう一度整理しますと,最終氷期の2万年前は,現在より寒く,乾燥した気候で,ブナなどの極相構成種の分布が制限されていました.そのため,中国東北部や 朝鮮半島など,大陸的気候下(冬期降水量の少ない)に生育するハナヒョウタンボクなど,競争に弱いものが生育してこれた,という考えです.
 さて,現在から1万年くらい前になりますと,氷河期が終わり,暖かくなってきます.後氷期というそうですが,このころになると,氷期には海水準が下がっ たため,氷期には流れ込みにくかった対馬暖流が,再び日本海に流れるようになり,日本列島は湿潤化してきたと考えることができます.これは湿地に適した条 件で,サク ラソウなど,水辺の撹乱が重要な植物には有利な環境といえます.
 こうしたことから,扇平の湿地植生は,氷河時代の遺産と,その後の温暖化・高降水 量化の影響,さらに浅間山の噴火という多面的な自然環境を反映しているものだといえます.




 さて,ハナヒョウタンボクの群落は,現在,長野県の天然記念物として保護されています.保護の現状を見ていきましょう.ここは,軽井沢の長倉という所の 保護地です.
 看板と解説が立って,大事にされていますが...


あたりは公園のように整備されています.右に見えるのはテニスコート.大事にされているのは分かりますが,これでは自然な再生(更新)は困難でしょう.次 世代を担う後継樹は全く見あたりません



こちらは星野リゾートの敷地内に保存されているハナヒョウタンボク.許可を得てご案内頂きました.
 こちらも大切にされていますが,右の写真で分かるように,かなり老齢化が進んでいるように見えます.



そういう状況ですので,天然記念物のハナヒョウタンボクですが,現状では,本来の自然環境から切り離された形で守られています.
 これは「カゴの中の鳥」と一緒です.
 ハナヒョウタンボクは,何故,価値があるのでしょうか?それは,先に述べたように,ハナヒョウタンボクが,日本の,軽井沢の2万年前からの環境とその変 化の象徴だからです.ただ単に少ないから,とか,珍しいから,ではありません.普遍的に言うならば,「そこに存在する動植物が,その場の現在の環境,そし て,これまでの環境の変遷を表しているから」といえます.
 ですから,そこでしか見られない植物や動物は大切で,こうした動植物が自らの力で 自然に生きている(更新,世代交代をしている)野外の自然環境は,まさに野外博物館なんです.
 建物を造って,中に死んだ動物の剥製(はくせい)や植物の標本,レプリカが飾ってあるようなハコモノ博物館とは比べものにならない価値があります.


もう少し,別の例で考えてみます.例えばトキ(朱鷺).これは,Nipponia nippon という学名で,名前からして,日本を代表する鳥だとされています.
 いま,佐渡で盛んに繁殖をさせて増やしていますが,野外で生活できる場が再生されなければ,いつまで経っても,文字通り「カゴの中の鳥」です.
 野生のトキがいるとはどういう事を意味するんでしょうか?トキがそ の地域に生息すると言うことは,通年を通して,ドジョウ,サワガニ,カエル,タニシ,他の昆虫類などが生息する環境が,広く存在すると言うことです.そう した小動物が生きられる環境があるということももちろんです.つまり,トキがいると いう事は,その地域で健全な生態系が維持されていると言うことです.
 新潟大学の佐渡演習林にいる本間准教授は,かつてブナの研究をしていて知り合いなんですが,彼はいまトキを野性に返すプロジェクトを進めていて,以下の ような考えを明らかにしています.私も酒の席で聞いた話なので,不正確だったら申し訳ないんですが,

・農業用水水路のコンクリート三面張りをやめる
 →コンクリートだと泥が流れてしまい,タニシなどが住みづらい.
・農薬を使わず,魚がいられる小川をつくる
 →トキの餌がいられる,健全な川.
・冬も田んぼに水を張ったままにする
 →湛水田(たんすいでん)をつくることで,一年中トキが餌を探せる環境にする

 こうした取り組みで,本来あるべき「健全な生態系」の再生を行おうとしています.


これを生態ピラミッド,もしくは食物網(food web)で見てみましょう.二次消費者であるトキがいるということ は,それを支える一次消費者のドジョウ,サワガニ,タニシ,カエルな どがいることを意味しており,こうした小動物がい るという事は,それを支える生産者である水中・陸上の植物,植生環境 がしっかりしているということです.
 ついでながら,サワガニなんかがいれば,これはきれいな水質を表す指標生物で居てくれたらうれしいですし,ユスリカの幼虫なんかも,水の汚れの原因であ る有機物を食べてくれたりするありがたい生物なんです.
 こうした食物網の複雑なネットワークが,特定の種の極端な増加を防ぎ,安定した生 態系を維持し,これが農業に役立つなど,人間環境にもプラスになっていくと考えることができます


まとめますと,「生態系は自律系」だといえます.トキがいられない環境というのは,人間がコントロールしようとして,それをコントロールできていない環境 であることを示唆しているといえましょう.
 そして,何より,自律している自然生態系に価値があるということでその象徴が「トキの存在」といえます.
 ですから,「カゴの中の鳥」ではダメなんです.DNAだけ保存しておけばいい,というような考えは,そうした生物の形質(形や特性,生態)を 生み出した環境を無視してしまっています.生物それぞれに特徴的な姿 形や生き方(生態)があり,これは,その生物が生きてきた,進化してきた環境と一セットなのです.切り離しては意味がありません.
 トキの場合,実際には田んぼでドジョウなどを食べるときに水田に植えられた稲穂を荒らしてしまう事があり,農家の方々は困ったそうです.かつて.これ は,トキがダイサギなど他の同じようなものを餌とする鳥類と比べ,足が短いために起こる現象だそうです.害獣,だったわけです,トキは.邪魔者.
 で,農家の方々は苦労もされるのですが,佐渡を,新潟を,日本を代表するトキのためですから,地域のボランティアの方々がそうして荒らされた田んぼに手 を入れたりして,トキの再生を支えていこうとしているそうです.また,トキをはぐくんだ水田,無農薬だったりすると良いのですが,こうした水田で,コスト がかかってしまったお米も,「トキ米」とすることで消費者にアピールし,理解を得て,買ってほしい,ということのようです.
 迷惑を受ける住民(農民)や,それを支える地域の人々,そして消費者までがこうし たことを理解しないと,なかなか支え切れません.佐渡のトキの例は,(コウノトリもそうですが)日本が,経済活動を発展させながらも,自然,生態系と共存 していけるかどうかを言う意味で,試金石になる例だと思います.


さて,話をトキから軽井沢に戻しましょう.軽井沢で絶滅危惧種のハナヒョウタンボクが自然に生育していくということは,何を意味しているか,ということを 考 えていきたいと思います.
 一言で言えば,豊かで特殊な自然,ということができると思います.
それは,以下のようなものです.
1. 湿地特有の植生と光環境
2. 様々な種子散布鳥類の存在とそれを支える植生
3. 訪花昆虫の存在



ハナヒョウタンボクがどうやって生育してきたか,ハナヒョウタンボクが生育してきた環境をどうとらえるか,ですが,一つめは光条件.
・湿地であるために,地下茎繁殖をするササなどの生育が困難だった.そのため,ハナヒョウタンボクの実生(芽生え)に充分な光が当たった,と考えられる.
・湿地であるために,生育できる高木性樹種が,カラマツなどに限られた.これによって,林床が明るく,特に春先の光環境に恵まれたことが考えられる.
・さらに,里山としての手入れが,こうした豊かな光環境を維持してきたことも考えられる.


扇平の湿地は,カラマツやサクラ(落葉期なので種までは不明)などの明るい疎林でした.



工事が進んでいて,宅地開発のための水抜きが行われていました.地下水位は地表面から30cmほどと,かなり浅い状態です.
人が住む環境としては,もっと水を抜かなければなりませんし,植物の環境としては,環境が乾燥化していくことが考えられます.

むずかしいですね.



カラマツの根のはり方を見ると,垂直根は見あたらず,水平根が横に広く広がっていました.根は呼吸をするため,水の中まで根を伸ばすことは苦手とされてい ます.そのため,根のはり方を見るに,上の写真の地下水位が,一時的なものでなく,恒常的であることが推察されます.
 こうした湿った環境によって,コナラ,ミズナラなどが入らなければ,その分は明るい環境といえましょうか.


周辺の乾燥していると思われる立地では,ミズナラやコナラの実生が侵入,定着していることが分かります.
 ミズナラやコナラが悪者と言うことではありません.湿地の植物ではない,ということです.



周辺の環境を見てみましょう.自然状態で乾燥化が進むとササの侵入が進むことが考えられます.
 サクラソウなども見られなくなるでしょう.


さて,ハナヒョウタンボクが生育するための条件,生育してきたことの意味,としては,二つ目に,様々な種子散布鳥類が存在していて,そしてそれら鳥類の 生息を支える植生が周囲にあったということをあげることができます.
・ハナヒョウタンボクは,いわゆる鳥散布植物なので,柔らかい果肉(多分,植物学的には中果皮になるはず)のなかに,種子を持ち,果肉ごとタネを食べても らい,鳥が移動した先で,フンの中から種子が散布され,遠くに移動するという生態を持っている.
・果肉がとれることで種子の発芽が良くなることが予想される.



 もちろん,鳥たちはハナヒョウタンボクだけを食べるわけにも生きませんから,季節を通して,様々な実が供給されることが大事です.ですから,こうした樹 木がいられるという事は,周囲に,ハナヒョウタンボクだけでなく,様々な樹木が分布していることが大事です.
 上の表は鷲谷・大串(1993)の「動物と植物の利用しあう関係」,平凡社刊の212ページの図を参照して作成した表です.


 さて,ハナヒョウタンボク独自の問題点もあります.
 実は,近縁種,外見も似ているヒョウタンボクの果肉には毒がありま す.ですから,ハナヒョウタンボクの果肉そのものには毒が無くても,鳥たちには警戒 さ れ,食べてもらえていない可能性があります.
 ハナヒョウタンボクはスイカズラ化の樹木ですが,果肉がとれないと種子の発芽率が低いというような話もあります.これは,鳥散布種子一般で言われている ことのようですので,興味のある方は調べてみて下さい.
 それと,ハナヒョウタンボクは晩秋に実を付けますが,これを食べてくれる鳥類にどのようなものがいるのか,きちんと食べてくれているのかをチェックしな いといけません.


さて,次にサクラソウを考えてみましょうか.
 サクラソウに関しては,次の三つを必要な自然条件としてあげたいと思います.
1. 撹乱と日光
2. 水分
3. 訪花昆虫


サクラソウは,河原で,河川の氾濫で撹乱を受けた,新しい,明るい立地に生育します.この撹乱によって,ライバルがいない,明るい所に生育できるわけで す.
 ですから,水抜きなどで乾燥化が進めば,撹乱も起こらないでしょうし,その他の樹木,そしてササなども侵入し,サクラソウの生育には不適な環境となりま しょう.
 ただし,軽井沢地域では,柴刈り,すなわち雑木林の管理の一貫として,低木を苅ったりした作業で,サクラソウなどの生育できる明るい立地が維持されてき たという背景もありましょう.
 これは,結果として,地域の人たちがサクラソウの生育できる立地を守ってきたことになります.


次は水分.水びだしである必要はないでしょうが,適度な水分は必要でしょう.他樹種の排除や撹乱のためにも.



そこで,扇平の湿地に水を供給している,裏山の状況を見てみましょう.



扇平を囲む山の斜面です.道が切り土されて作られています.上から地表近くを流れてきた水は,ここで,道をつたう地表面水となることが考えられます.


 そうして一度地表面に出た水は,道脇の溝から川に流れて,湿地には水がいかない状態になっています.
 今すぐどうこう,ということではないかもしれませんが,状況としては押さえておいた方が良いかもしれません.


さて,サクラソウ特有の事柄として,訪花昆虫があげられます.
 どんな植物でも,なるべく自分のおしべの花粉は,自分の雌しべで受け取らないようにしています.発達する時期をずらすなどして.これは近交弱生を避ける ためです.サクラソウは,これを避けるために,図のような二つの花のタイプを発達させてきました.これも,自分の花粉を受粉しないようにしている工夫だと 考えられています.
 他の花の花粉を受けるためには,昆虫の助けが必要です.具体的にはマルハナバチなどです.
 上の図は,鷲谷・矢原(1996)の「保全生態学入門」文一総合出版を参照し作成しました.(マウスでよく描けたものだと自分でも感心してしまいます)

で,こうしたマルハナバチを支えるためには,サクラソウ以外の様々な植物が必要ですし,巣になる古いネズミ穴が必要,ということで,やはりネットワークと しての生態系が維持されていることが重要です.
 サクラソウが大事なのも,ただ花がきれいだとか,珍しいから,ということではな く,サクラソウがあることが,豊かな生態系が維持されている証だから,といえます.


さて,絶滅危惧種,希少種であるサクラソウやハナヒョウタンボクですが,「移植をすれば良いんじゃない?」という考えもありますね.これはどうなんでしょ うか.
 狭い地域のみに生育地が限られてしまうと,その立地(ハビタット,habitat)のサクラソウの遺伝的形質がみんな似かよってきてしまうことが心配さ れ ます.その立地の環境に適したものだけが残るなどして,です.しかし,そうしたとき,環境の変化が起こると,もともとあった多様な形質があれば,生き残れ たかもしれないものが,全部共倒れになるようなことも心配されます.


ですから,サクラソウの生育地(上の図では,生息地,と書いてあって,これは動物に使う用語です.一般論として取り上げました)に分布する個体群(サクラソウの複数の個体からなるグループ)同士が,ハチの行き来できる範囲にあって,ネット ワークが保たれていることが大切だといえましょう.こうした,複数の個体群を包括す る大きな個体群をメタ個体群といいます.


こうしたネットワークが無くなると,小さな個体群は消えてしまいやすくなることが心配されます.


もう一つ,別の例を出します.エッジ効果(edge effect)で す.様々な分野で様々なエッジ効果,という用語がありますが,今回は保全生態学などで使われる用語のことです.
 草原でも森林でも良いんですが,その端に道路などがあると,森林の道路に面した部分は,どうしても森林内部と異なる環境になります.例えば風が強い,乾 燥しやすい,といったことです.あるいは排気ガスにさらされる,ということもありましょう.このように,ある一定面積の森林,草地,湿原などがあっても, その周辺,エッジの部分は動植物の生育,生息に不適な環境となります.


さて,大きな生息地(動物),生育地(植物),カタカナで言えばどちらもハビタット,と一言なので便利なんですが,これが道路なので分断されると,エッジ 効果のため,道路で失われた部分だけではなく,それ以上に動植物に不適な環境を作ってしまいます.
 こうしたことまで考えないといけないので,単純に残す面積はこれこれ,道にする面積はこれこれ,という計算では,動植物のハビタットに思わぬ悪影響を与 えることが心配されます.


さて,今回の話はこのあたりまでとして,簡単にまとめましょう.
1. 軽井沢・扇平の湿地植生は,これは扇平だけではありませんが,氷河期以降の軽井沢の歴史,風土を物語っているといえる.
2. 現在のハナヒョウタンボクの天然記念物は「カゴの中の鳥」であり,本来の意味を失っている.
3. ハナヒョウタンボクやサクラソウに代表される,本来の生態系にこそ意味がある.
4. 両種にとって湿地の環境は重要で,水抜きなどの作業は望ましくない(生態学的に見て.もちろん宅地開発には必要)
5. 植物だけでなく,その生存を支える昆虫や鳥などの存在が重要.
6. そのためにも,ある程度大きな面積で保全されること,生育地ごとのネットワークが維持されることが重要.

と,以上のようになりましょうか.


もし,学術的な調査をするのであれば,
1. 近隣の,他の生育地の分布や,そこでの生育状況を知る.
2. 対象となる植物が更新(世代交代)しているかどうかを把握する.
3. どんな鳥がいて,どんなタネを食べているのか,散布しているのか,どの程度の面積を行動範囲としているのか,をしる.
4. どんな昆虫がいて,花粉を媒介しているかをしらべる.
5. 個別の植物のリストを作るだけでなく,一緒に出現する種の組み合わせを知る.これによって立地の特徴を植物から知る.

といったことになりましょうか.しかし,対象が私有地ですので,なかなか難しい,というのが現状でしょう.

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 地域の価値を見いだし,それを高められるのも,毀損(きそん)させるのも,開発や観光で生計を立てている方々を含め,地域の住民次第なのでしょ う.中立な立場の一 研究者としては何もすべき事はありませんが(署名も立場上お断りさせて頂きました),軽井沢の湿地の学術的な価値については,以上に述べたようなことにな ると思います.どうなるかは分かりません が,見守っていきたいと思います.何より,最初に述べたように,皆さんが納得する形で町が発展していき,みんなが幸せになる,町に住むことに誇りを感じら れる,そんな風になって頂いたら良いな,と思う次第です.


長々,お読み頂きありがとうございます.
発表資料をpdfでこちらにはり付けておきますのでご利用下 さい.


追伸.
 鳥に関することでは,郡 麻里 博士にお話を伺い,又資料のご紹介を頂きました.お礼申し上げます.