前回の続きで,佐渡島の植生レポートです.いや,植生と言うより,フロラですが.
今日はどんな所へ連れて行かれてしまうのでしょうか,私.


 さて,三日目です.山の上に牧草地があるので行ってみましょう.草原です.
クルマバナ
 いきなりですが,ゴージャスなシソ科を発見.なんだこれ,と思って,地元佐渡の図鑑をめくる と,クルマバナの写真の印象が似ていたので,クルマバナかと思っていたんですが,違います.ニガクサですね,これ.日当たりが良いので葉が厚く,テカっています.
 最近,ニガクサの花を初めて見て,で佐渡のこの写真もニガクサかと思い直しました.
2010年8月19日追記.
オオチドメ,ヤマチドメ
チドメグサの仲間ですが,リストではヤマチドメと言うことになってい ます.なるほど.ヤマチドメというのはオオチドメの別名ですね.和名 ですからどちらが正 しい名前,ということはありません.
オオチドメ,ヤマチドメ
 チドメグサとどこが違うのかというと,まずは葉です.左の写真のように切れ込みが浅く,モコモコとした印象.花は葉より高い所に立ってつきます.写真で はもう実になってしまっていますが.

カワラナデシコ
カワラナデシコですね.信州の高原ではエゾカワラナデシコが見られますが,どこが違うのでしょう?

カワラナデシコ
 答えは萼(がく)の数の違い.エゾカワラナデシコは,萼が2対で計4枚ですが,こちらのカワラナデシコは萼が2対だけでなく(中には2対のものもあり注 意)3対計6枚,4対計8枚あります.
 ちょっとマニアックですが.
オトギリソウ
 おなじみ,オトギリソウ.うーん,海岸と違って,植物,どんどん分 かっちゃうぞ,という感じ.


 牛がのんびりしています.この後,登山道がこの牛の群れの真ん中を通っていて,おっかなびっくり,牛の群れを巻いていきました.
アザミ
 サドアザミ,というのがあるそうです.比較的最近分類されたとか. 以前はナンブアザミにされていたそうですが,変種のサドアザミ,ということに.  東大植物教室の山崎敬先生が新たに分類されたとのこと.
 さて,これですが,図鑑を見るとサドアザミもナンブアザミも,花を包む総苞片が外側にめくれ,突き出すようにでています.という事で,これはサドアザミではなさそう.残念.総苞片がぴったりくっついていて花が独立して付くのでノアザミでしょうか.ノハラアザミは2,3個かたまって花がつきます.
アザミ
 葉の写真も撮っておきましょう.うーん,しかしアザミはみんなこんな葉っぱですよね.なんとも.

いずれにせよ,触るときは気をつけて下さい.
ミヤマコゴメグサ
 ゴマノハグサ科.ミヤマコゴメグサとのこと.コゴメグサは何種類か あって,コゴメグサの仲間だというのは分かるんですが,そこから先はちょっとマニア向 けでしょうかね.
ミヤマコゴメグサ
 花のアップ.
 どうやら日本海側の多雪地に分布するようです.

マルバキンレイカ
 マルバキンレイカ.オミナエシ科です.同じオミナエシ科のハクサンオミナエシに似ていますね.ハクサンオミナエシの別名はコキンレイカ
マルバキンレイカ
 で,これがどうマルバなのかというと,この葉.ハクサンオミナエシ(コキンレイカ)は葉が3裂していますが,これは三裂せず重鋸歯ではあるものの丸い形 をしています.

 天気よすぎ.
ホツツジ
 低木としてはホツツジが出現.ホツツジは赤沢休養林でも見ました ね.
ヤブタバコ
 ヤブタバコですね.はじめ,まだ見ぬシュウブンソウかと胸をふくらましたのですが...
ヤブタバコ
シュウブンソウとは花が違います.
 大変失礼しました.
クサボタン
 こちらはクサボタン.薄紫色の花が可憐です.ツルで対生,三出複 葉,鋸歯.
クルマユリ
 クルマユリです.どのへんが車かというと葉の付き方.下の方で葉が 車輪のスポーク(自転車の車輪の針金の部分)のように生えていますね.花も見事です.
 クルマユリは林内で見られ,草原には生えません.

そんな感じで三日目は修了.この日も色々見ました.
第4日目.海岸沿いをまわります.
カワミドリ
 まずはこちら,カワミドリ.以前,なぜか勘違いして「イヌコウジュ」と書いてあったんですが,全然違います.で,カワミドリですが,シソ科で,遠くから見るとヤマハッ カにちょっと似ていますが,葉柄と葉身の境がはっきりしている点が違います.それと, 大きく枝分かれしますね.
 ちなみにイヌコウジュはヒメジソと似ているやつです.
ヤマハッカ
 葉の拡大です.葉柄と葉身の境がはっきりしていますね.ヤマハッカは葉柄に翼があ り,葉身の葉が葉柄に流れるようにつきます.

トノサマバッタ?産卵中
  さて,道ばたにバッタがいて,近寄ってもじっとしているんですよ.
 で,写真を撮ろうとしてよく見ると,尾を土の中に入れて,産卵中なんですね,これ.
 昆虫素人の私の目には,トノサマバッタに見えますが...
エチゴトラノオ
 で,エチゴトラ ノオです.
エチゴトラノオは違いました.エチゴトラノオについては,佐渡植物記4をご覧下さい.
 これはシラゲエチゴトラノオのようです.ゴマノハグサ科.
 トラノオ,というと信州ではオカトラノオが思い浮かびますが,オカトラノオは サクラソウ科です.「トラノオ」という名前は,花が「虎の尾」の様に穂に なって着いているという意味で,特定の系統のことではありません.
 花一つ一つのアップを見ると,なるほどゴマノハグサ科です.
 
エチゴトラノオ
  全体的な印象としては,かなり「毛深い」事が挙げられます.白い毛がビッ チリ,ビロード状に生えています.
 この,シラゲエチゴトラノオは毛が目立ちますが,エチゴトラノオ(佐渡植物記4)はほとん ど毛がありません.
ホタルサイコ
ホタルサイコ


 なんと,ホタルサイコが海沿いに出現します.草原性の植物ですが, 日当たりなどの環境が許せば,海でも山でもokということでしょうか.
 これ,セリ科です.セリ科の葉は普通,細かく切れ込んでいますが,これば写真のように大きな葉がのっぺりと着いていて,茎を抱きます.これが特徴.
 花を見れば,この打ち上げ花火のような形,確かにセリ科ですね.
セイタカトウヒレン
 写真じゃちょっと見にくいですが,セイタカトウヒレンです.こちら の写真では全体の姿と葉のイメージを.
セイタカトウヒレン
 特徴は,この茎のヒレ.葉柄に翼があって,それが茎にまで流れています.
 左の写真では花のつぼみがあるんですが,花はまだ.アザミのような花を付けます.
ハマエノコロ
さて,同じ海沿いでも,今度は海岸です.砂浜でなく,礫の海岸にやってきました.
 まずはハマエノコロ猫じゃらしとして知られるエノコログサの,海 沿いに出てくる仲間(種)です.普通のエノコログサよりも穂が短く太いので,丸っこく見えます.
ナンバンハコベ
 それから,海岸のものというわけではありませんが,ナンバンハコベが 出てきました.
 普通のハコベと同じ,ナデシコ科.ナンバン,とは「南蛮渡来の」と いう意味で,花が日本在来のハコベと大きく異なる印象を持つ所から来たのでしょう.大 きく派手です.
 ですが,これ,外来種ではなく,在来種です.
ハマボッス
 前回もハマボッスはでましたが,花は枯れていましたね.こちらは一 つだけですが花がまだ着いています.
 ボッス,とは仏教で使う道具の「払子,ほっす」のことのようで,ネットで払子を検索すると,白い毛の着いた,筆を大きくしたような物にヒットします.
 どこが似ているのか,うーん,よく分かりません.
メノマンネングサ
 これ,コゴメマンネングサのつもりで写真を撮ったのですが, 調べてみるとコゴメマンネングサはもっと西日本に分布する種のようで,写真の物は,メノマンネングサになると言うことです. 外見上の特徴は,コゴメマンネングサよりも葉が長く1cm程度になることです.コゴメマンネング サは,もっと葉が短く,コロッとした葉を付けますね,確かに.
クサスギカズラ
 クサスギカズラです.私もこのとき初 めて見ました.
 遠くから見ると,ちょっとアスパラガスに似ていますが,そのとおり,アスパラガス属(Asparagas)です.日本語ではクサスギカズラ属ですが.
クサスギカズラ
 よるとこんな感じ.太平洋側だと静岡以西らしいです,分布.
カワラマツバ
 遠目に見るとちょっとだけ似ていますので注意が必要ですが,カワラマツバ, です.これは信州でも見ますね.信州では,文字通り,乾いた河原などに出てきます.
トビシマカンゾウ
 さて,この地域,トビシマカンゾウという,ニッコウキスゲに似た植 物が有名です.見たところ花は全て終わっていたのですが,どうもそれらしい物を1個体だけ見つけました.
 ニッコウキスゲとどう違うのかというと,一個体(茎一本)から咲く花の数が多いと言うことのようです.この個体も,ニッコウキスゲに比べれば花が多いよ うに見えますが,さて,どうでしょうね.
サジガンクビソウ
 さて,今日はこの辺で,という感じで宿に向いますが,真野御陵,と いう,順徳天皇の火葬場によりました.順徳天皇は,後鳥羽上皇とともに承久の乱(承 久 の変)をおこし,弱体化しつつある鎌倉幕府を倒し,朝廷による政治を復活させようとしたのですが,やぶれ,ここ,佐渡の地に流されたということです.
 しかしその後は佐渡の女性とともに暮らし,子供(姫)を残したそうです.歴史ですね.人生ですね.
サジガンクビソウ
 で,その真野御陵,中には入れません.宮内庁の管理です.そのまわりにサジガンク ビソウを見つけました.

宮内庁管理の史跡まで行って,何も雑草を見なくても良いんじゃないかというかもしれませんが,仕方ありません,職業上の業(ごう)かもしれませんね.

 サジガンクビソウですが,ガンクビソウに比べ,葉が匙(さじ,しゃ じ,スプーンのこと)のようだ,ということで付けられた和名です.

それから左の写真のように,花の時期にもロゼット用が残っていて,これもガンクビソ ウとの違いです.
サジガンクビソウ
 サジガンクビソウのもう一つの特徴は,花,集合花が「くびれない」と いう所.右下はガンクビソウです.きゅっとつぼまっていますね.で,こちら(上)の サジガンクビソウの集合花はくびれていません.これがポイント.
ガンクビソウ
  ガンクビソウはこんな感じ.同じく真野御陵にて.  これを見ると,先に上がったシュウブンソウ,特異な形だということが改めて分かりますね.
ガンクビソウ
 手前のシソ科ではなく,奥の赤っぽい茎をしたのがガンクビソウ.花の時期にはロ ゼットがないよ,というのを示しています.
ガンクビソウ
 こちらがガンクビソウの花.集合花ですが,くびれていますね.左上 のサジガンクビソウ(くびれていない)と比べて下さい.


第4日目はこれで終了.お疲れ様でした.

 第5日目です.
 雨が降ったら休息日,というのが暗黙の約束なんですが,大学院生の清水さんは休ま せてくれません.
 雨の午前中は博物館,資料館,午後は雨がやんでしまい,田圃の調査です(泣)
キクモ
 で,こちらはキクモという水生植物.






キクモ
 拡大するとこんな感じ.ちょっと写真が暗くてすみません.画像処理で明るくすることも出来るんですが,インタクト,ということで.
 車輪状に葉が輪生しますね.で,葉をよく見るとキクの葉のように切れ込んでい ます.これがキクモという名の由来でしょう.
アゼナ
 おっ,アゼナですね.タケトアゼナアメリカアゼナなどの外来種が多くなってきている昨今ですが,これは在来の日本 のアゼナですね.
コナギ
 こちらなコナギ.水田雑草としておなじみですが,青紫の,なかなか きれいな花を咲かせます.今回は花がないですが.
オモダカ
 もう少し山間部の田圃に移動です.
 水田といえば,オモダカをはずすことは出来ません.このオモダカに似ている,アギナシという植物があるんですが...
オモダカ
 オモダカはごらんのようにやじり型の葉を付けます.アギナシは三角形の先端の方が長いんですが,オモダカは葉が二股になっている方が長いんです.
オモダカ
 オモダカの花と二股の葉の先端.
オモダカ
 もう一つのオモダカ特徴は,葉の先が尖ります.アギナシは,ぽこっ とふくらみがありますので,それがポイントでしょうね.

 オモダカはありふれていますが,アギナシは,環境省で準絶滅危惧種になっているようです.
ヒデリコ
 ヒデリコです.カヤツリグサ科のテンツキ属.田圃の畦でよく見ると されていて,夏の太陽の日照りにも負けない子,ということで「ヒデリコ」という和名になったようです.

もう,まわりも暗いのでストロボ炊いちゃいました.仕事しすぎ.
ヒメムカシヨモギとオオアレチノギク
 おまけ.似た雑草に種の見分け方.ヒメムカシヨモギと,オオアレチノギク

向かって左:ヒメムカシヨモギ葉の縁に長毛があります.

向かって右:オオアレチノギク.毛はありますが,ヒメムカシヨモギのようには長くありませんね.

という感じで,5日目を終了.まだまだ続きます. つづきはこちら! 佐渡植物記3


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