山形の帰り,日程が続くので,そのまま植生学会に参加.今年は東京農工大学です.久しぶり.で,午後から会議なんですが,午前中,久々に神代植物公園によ りました.

 神代植物公園の案内図.真ん中に描いてあるのがメインパートなんですが,今回の注目点は,図,左上の水生植物園.勉強する気で来ました.

 園内はこんな感じ.谷戸(谷津)地形の湿地の中に,木道が敷いてあります.また,湿地のまわりもぐるっと回れるようになっています.
 訪れたのは,10月11日.もう,東京とはいえ秋ですから,ちょっと寂しい感じですね.
ハンノキ林
 いま,こうしたハンノキ林も少なくなってしまったのではないでしょうか.正面に見える樹林が,こうした湿地を代表する樹木のハンノキ.手前はヨシ(ア シ)です.
 ちなみにヨシとアシは同じ植物.昔はアシと言っていたのが,発音が 「悪し(あし)」につながるということで縁起を担いでヨシ(良し)になったようです.
ハンノキ
 こちらハンノキの葉.見慣れればなんということはないのですが, 「特徴はなんですか?」と聞かれると答えづらい葉です.
 林床のピンクの花はイヌタデだったでしょうか.
ミツガシワ
 お,ミツガシワですね.ちょっと遠くですみません.雨の日というこ ともあって,交換レンズをもっていかず,DA35mmマクロ,というマクロレンズ1本 だけですませたもので.
 ミツガシワは三出複葉ですので,すぐに見分けられます.信州だと志賀高原なんかで出てきますね.
コウホネ
 こちらはコウホネ.独自の葉の形ですね.スイレン科コウホネ属.根 茎が骨のように見えることからこんな名前になったとか.
 スイレンの仲間は,葉が水面に浮いているものが多いと思いますが,これは水面を突き抜けて,空中で葉を展開しますね.
 黄色い花を咲かせます.
アサザ
 ああ,アサザだそうです.遠すぎ.真ん中に立っている札のまわりの 植物です.遠くて見えないんですけど.
 絶滅危惧で,復活運動なんかの取り組みがされています.諏訪湖でもあるらしいんですが,沖野先生に聞くと,やはりボートで湖に出ないと見られないよう で,一度ちゃんと見たいんですが.
 ですが皆さん,アサザだけが大切なのではなくて,アサザが生育できるような環境が大事なんですよ.
シナサワグルミ
 さて,湿地の縁に行きますと,これは植えたのでしょう,シナサワグルミが あります.中国の,と言う意味です.
 羽状複葉と言えば,普通は奇数のものが多いですが,シナサワグルミは偶数.それ と,羽軸に翼があります.羽軸に翼があるというと,ヌルデみたいなイメー ジです.
コウヤワラビ
 湿った,明るい立地に出る,コウヤワラビ.シダです.写真が小さく てすみません.これも羽軸に翼がある,と表現していいですかね.
 私個人は,このコウヤワラビを見ると,ムーミンに出てきたニョロニョロを 思い出します.ニョロニョロの手の部分.あれ,手だよね?
ツリフネソウ
 湿った立地と言えば,ツリフネソウ.ピンクの花を船に見立て,これ が釣られている,と言う風に見立てています.
 棍棒状に見える部分には種子が入っています.これが乾燥すると,板バネみたいな役割をし,少しの振動でパカッ,と分かれ,中のタネがとばされる仕組みで す.自動散布型の種子.
ヤブミョウガ
 ヤブミョウガです.暖温帯でないと見られませんね.ツユクサ科.葉 がミョウガに似ているということでヤブミョウガという名前が付いていますが,ミョウガ はショウガ科で,系統は全然別のもの.
ヤブミョウガ
 こちらは花が終わり,実になっているもの.花茎から輪生状に枝分かれして,銀ダマ鉄砲の弾ぐらいの実をつけます.

 銀ダマ鉄砲,懐かしいな.まだあるのかな.
ヒメジソ
 こちらはヒメジソ.小さな植物なので,葉にピントを合わせると花に ピントが合わず,花にピントを合わせると葉はボケボケで分からなくなってしまいます.
 葉の裏に目立つ油点があり,花の萼には毛があるんですが,それほど長くありません.イヌトウバナは萼から垂直に出る毛がすごく長いですよね.あと,イヌ トウバナは葉が長いです.

 という感じで水生植物園を離れ,深大寺の境内をまわりながら神代植物公園本園にむかいましょう.
深大寺周辺
 深大寺周辺.深大寺蕎麦が有名.あたりにはたくさんのそば屋さんや 土産物屋があって,昼近くになると大変にぎやかです.人のいない,朝早くの方がしっと りとした雰囲気を楽しむことができます.
 蕎麦,おいしかったですよ(写真のお店ではなかったんですが).
モッコク
 庭木のモッコク.常緑樹です.葉柄が赤くなるのが特徴.
ムクロジ
 さて,植わっているムクロジを発見.久々に見ます.
ムクロジ
 これがムクロジの葉と実.葉は偶数羽状複葉なんですが,普通羽状複葉というと小葉が綺麗に対生になっていることが多い.これは小葉がしばしば互生しま す.こんなのって,珍しいんですよ.
 で,実なんですが,いま写真で見えている部分は果皮.これは水で溶くと泡が出るので,昔は洗濯に使われたとか.その中には黒く堅い果実があり,これは羽 子つきの玉の部分に使われているものです.
ヒトツバタゴ
 ヒトツバタゴなんですが,関東ではナンジャモンジャと言われてきま した.関東には分布が無くこっちの人は「この木はいったい,何じゃ」「なんてもん じゃ」と言うことで,ナンジャモンジャ
ヒトツバタゴ
 で,こちらが葉.落葉樹で全縁です.モクセイ科なので対生ですね.
キンモクセイ
 さて,こちらにも立派な木が.なんか黄色い花がちらちら見えるんですが...
キンモクセイ
 キンモクセイでした.でかい!辺り一面に香りを放っていました.
 ちなみにこのキンモクセイ,オレンジ色の花を金色に見立ててキンモクセイ,白い花のものを銀色に見立ててギンモクセイ.何ともゴージャスな名前です.
雑木林
 さて,深大寺の境内をあとにして深大寺側の入口から神代植物公園に入ります.
 武蔵野の雑木林がそこには残されています.
アズマネザサ
 左みたいな雑木林は,林床がきちんと管理されている状態です.何もしないと,これ,ア ズマネザサが繁茂して一面をおおってしまいます.西日本のネザサに 対して,関東のものが東ネザサ,でアズマネザサ.
ネグンドカエデ
 植物園なので,いろいろな木が植わっています.これはネグンドカエデ. アメリカ原産.三出複葉なのが写真で確認できます.
トサシモツケ
 トサシモツケ.どう見分けるのか,私も知りません.札にそう書いて ありました(^^;
 アイズシモツケに似てますね.(そりゃ,そーか)
センダン
 センダンです.二回羽状複葉で写真の真ん中上側が葉の付け根.で, そこから先が一枚の葉.と言うことで大きな葉をつけます.
アメリカデイゴ
 アメリカデイゴ.デイゴの花が...と言う歌がありますが,その仲 間.文字通りアメリカ...出はなく,南米,南アメリカ原産.アルゼンチンの国の花だ そうです.マメ科.
 ちなみに日本のデイゴは沖縄県の花ですが,インド原産.さらに,アメリカデイゴは鹿児島県の木に指定されているそうです.外国産の木を県の代表にしてし まうのって,どうなんでしょうか.
ベニバナボロギク
 植栽されている庭園樹木とかにはあまり興味がありません.造園屋さんには興味深いかもしれませんが.
 でベニバナボロギク.アフリカ原産の帰化植物.
ベニバナボロギク
 何も植物園に来て,外来雑草を見なくても良いと思うかもしれませんが,こういうのが大事なんですよ.
 文字通り,べに(紅),というかオレンジ色の花をつけます.葉はこんな感じ.
イヌショウマ
 全体からみれば狭い範囲ですが,野草園があります.こちらに期待.で,手始めは....
 イヌショウマですね.キンポウゲ科の山草.二回三出複葉です.オオ バショウマも似ていますが,オオバショウマは一回だけの三出複葉です.
モミジガサ
 あ?これ,タイミンガサ...?と思ったんです.大きいし.ただ,ネットで調べると,どうやらヤブレガサとのこと.しかし,大きいですね.タイミンガサ かと思ってしまいました.
ハグロソウ
 こちらはハグロソウ.あんまり見ませんよね.花に特徴があるので, もっとよって撮れば良かった.茎の断面が四角で,葉は対生で全縁.
 キツネノマゴ科です.
セキヤノアキチョウジ
 いいですね,セキヤノアキチョウジ.シソ科.花茎の根元側にある大 きな葉は違います.
 ちょうど花の見頃で,紫色の綺麗な色が楽しめました.
アズマヤマアザミ
 お,すごいぞ.最初トネアザミ,で看板が出てるのに,タイアザミに修正してあって,その修正も消してアズマヤマアザミ,となっています.
 タイアザミって,トネアザミの別名で同じ種のこと(Cirsium nipponicum var. incomptum) なので修正する必要がないと思うんですが...いずれにしてもナンブアザミ(Cirsium nipponicum)の変種ですね.で,それではなくアズマヤマアザミだと.
 私もアズマヤマアザミ,見たことがありません.
アズマヤマアザミ
 全体の雰囲気はこんな感じ.
アズマヤマアザミ
 なるほど,ナンブアザミ(タイアザミ,トネアザミ)系統とは花が違いますね.ナン ブアザミの系統は,前回,蔵王でも見ましたが総苞片が外側,あるいは 下 側にめくれてしまいますが,これは上向きにくっついてい ます.
 図鑑によると,総苞に白いクモ毛があるということで,この写真は ちょっと暗いんですが,確かに,確認できます.
 ホソエノアザミと言う種が,このアズマヤマアザミに似ていますが,ホソエノアザミも総苞片が反り返ります.
アズマヤマアザミ
 葉は,トゲが鋭いですね.この辺は,ホソエノアザミとよく似ています.
 ナンブアザミとはあまり葉は似ていませんが,変種のタイアザミ(トネアザミ)はナ ンブアザミよりトゲが鋭いので,確かに葉は似ているかもしれません.

 勉強になりました.
テンニンソウ
 テンニンソウです.関東山地には結構あります.
 富士山周辺には,この品種であるフジテンニンソウというのがあって,葉の裏の中脈上に開出毛(外へ向かって生える毛)があります.テンニンソウはここが 無毛.
 といった感じで野草園は終了.もう少しあるといいのに.
ハイノキ
 常緑樹も見ておきましょうか.ハイノキです.九州で見たきり.信州 在住ではなかなか見る機会がありません.
 何の仲間かって?ハイノキ科ハイノキ属なので,ハイノキの仲間としか...
イスノキ
 こちらはイスノキ.静岡以西の自然分布ですので,関東でも見ませ ん.
ヤマトアオダモ
 ヤマトアオダモ.アオダモとどう違うかというと,小葉に注目.普通 のアオダモ,マルバアオダモなどは小葉に葉柄が無く,葉身がそのまま羽 軸につながりますが,これは明らかに小葉に葉柄(小葉柄)がありますね.これがポイント.
 (知った風に書いていますが,実は私も今回図鑑を引いて,初めて知った)
マルハチノキ
 植物園なので温室もあります.温室の植物は外国のものが多く,日本の植物 を知りたい私にはあまり興味がありません.
 が,これは小笠原などに分布します,マルハチノキ.木,と言う名前 ですが,シダ植物です.木生シダ.
マルハチノキ
 何がマルハチかというと左の写真に写っている大きな葉,これが落ちたあとの葉痕がですね,漢字の「八(はち)」を逆さにしたような印を見せるんですね.
 葉痕の部分は丸いので,逆さながら,マルハチとなるわけです.
ナキリスゲ
 最後はスゲで締めましょう.植生学会で千葉中央博の大野先生にお会いしたので,調べる前に聞いてしまいました.
 「この季節にまだ花を咲かせたり実をつけたりしているのは,ナキリスゲだ よ」
 「ハッ,そうっすか.ありがとうございます」
ナキリスゲ
 ナキリスゲ,株立ちして,高さは50cmほど.結構大きい.葉は細 く長い.葉の断面はM字.名前の由来は葉の縁がざらつき,菜っ葉(ほうれん草とか,白菜とか,小松 菜とかをまとめて菜っ葉,と呼ぶ)を切れるほどであると.そこで「菜切りスゲ」と名付けられたそうな.
 花は写真のように,小さく枝分かれするものが多いようですね.

 と言うことで,それなりに楽しみました.植物園には,様々な品種を集めたバラ園とか温室に集められた様々なサボテンとかあるんですが,私はあんまりそう いう園芸植物には興味がないんですよ.野菜とかの方がまだ興味がわくかな.

 帰りは再び深大寺方面にでて,蕎麦を頂きました.うまかったです.
 そんなことで農工大に向かうのでした.


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