今年もシステム実習の時期がやってきて,そして終わりました.例年は毎木調査をして,樹高や幹周りを測 り,個体群動態の解析なんかをしていたんですが,なんというか,気分的にあまり乗らなかったので(笑),お出かけ実習にして,いろんなところで,いろんな 植物に出会おう,ということにしました.

 実習参加者が,私の研究室に所属希望ということだと,データ解析とかも学んでもらわないといけないんですが,メンバー3人の顔ぶれを見ると,ま,私の研 究室じゃないだろーな,と思った次第です.予想は的中(笑).

 卒業すれば仕事で信州を離れるでしょう.大人になってから信州に立ち寄ったときに,今この時に出会った,知った植物,動物たちにまたあって愛着をもってくれたら嬉し いです.
ミヤマカラマツ
 北信某所.
 ミヤマカラマツですね.カラマツソウの中でも標高の高いところに生育するものです.繊細な花と葉が魅力ですね.
ショウキラン
 ショウキランです.野生のランはなかなか出会うことがありません.一度見たら忘れられない花です.良いものを見せていただきました.
コケイラン
こちらもランで,コケイランといいます.ショウキランに比べると花はもっと小さく,色も落ち着いています.良くぞ出会えました.ありがとうございます.
ノダイオウ
 エゾノギシギシ...と思いきや,絶滅危惧種のノダイオウ.
ノダイオウ
 どこが違うかというと,エゾノギシギシは葉の裏の主脈上に小さな突起があって,ざらつきますが,こちらはありません.あと,葉の色は明るくて,黄緑っぽ いです.
ケナツノタムラソウ ミヤマタムラソウ
 ナツノタムラソウですが,ケナツノタムラソウ,別名ミヤマタムラソウと同定するのがよさそう.アキノタムラソウも似ていますが,アキノタムラソウは,花 からおしべが出ることはありません.で,ナツノタムラソウだと.さらに毛深い線毛あり,ということでミヤマナツノタムラソウ..狭義のナツノタムラソウは太平洋型の分布のようなので,その意味でも,ここ,北信のものはミヤマナツノタムラソウで良さそうです.
ヤマサギゴケ
 こちらやヤマサギゴケ.ムラサキサギゴケの深山版ですね.茎が立って,線毛があります.分類上はムラサキサギゴケの変種です.確か.
ミヤマヨメナ
 お,キク科.しかも見たことない.で,図鑑とにらめっこすると,ミヤマヨメナらしい.
ミヤマヨメナ
 ミヤマヨメナのアップ.
 葉が常緑のように...と言ったら大げさですが,厚く,緑色が濃いです.触ると,葉の質も固め.一度覚えたら忘れないでしょう.
サイハイラン
 サイハイランは,花の真っ盛りを少しだけ逃してしまいました.まあ,また出会うことでしょう.私が長生きしないと(笑).
キバナノヤマオダマキ
 おなじみキバナノヤマオダマキ.山も,もう夏なんだな,と思わせる花です.



大学の近所でもいろいろ植物は見られます.遠くへ行ったほうが気分はいいけど.
ヤブヘビイチゴ
 ヤブヘビイチゴです.ヘビイチゴとどう違うかというとヘビイチゴのタネ(写真のつぶつぶの部分)にはシワがありますが,こちら,ヤブヘビイチゴにはな い.それからこちらのヤブヘビイチゴは,果床の表面に光沢があります.ヘビイチゴは光沢がありません.
ウシノケグサ
 ウシノケグサ.ぼけててすみません.

 ウシノケグサは,葉耳の部分が半月形に丸くなります.これもウシノケグサでいいと思います.オオウシノケグサかと思って写真とってみたんですが.
クモキリソウ
 クモキリソウ.ジガバチソウと似ていますが,花を構成する部品をそれぞれ見ると,こちらのクモキリソウの方が大きいですね.ジガバチソウは,なので花が 繊細です.
ミコシガヤ
 ミコシガヤ,でいいでしょうか.ミノボロスゲに似ますがミノボロスゲと違い苞がものすごく長いですね.


 湿原にもでかけました.梅雨の時期なので,高標高の湿原は,雲の中,霧ですね.

 この日は諏訪地方某所へでかけました.
チダケサシ
 チダケサシ.7月上旬で標高が高いと花はまだです.で,葉っぱだけ.あとでハナチダケサシの写真が出ますが,こちら,チダケサシは小葉の先がとがりませ ん.ハナチダケサシはとがります.
イワノガリヤス
 背の高いイネ科,イワノガリヤス.小穂は小花一つからなる点は他のノガリヤスの仲間と一緒.葉が裏返って生える特徴も一緒です.一番目に付く特徴は,小 花の部分が赤紫色になることのようですね.葉舌も赤紫色で長いです.上高地でも見ました.
ヒメシダ
 シダはヒメシダ.小羽片が全縁というか,鋸歯が丸くて目立たないというか.生物の佐藤先生によれば,色がコバルトグリーンで,葉の裏にワックスのかかっ たような外観が特徴とか.
 よく見ますよね,これ.
ノハナショウブ
 ノハナショウブ.花弁の下唇に当たるところの中心が黄色いですね.それと線形の葉の中心に明瞭な脈が一本通っています.
 カキツバタはこれの黄色の部分が白くて,葉に明瞭な脈が見られません.
 アヤメは下唇の中心が綾模様になっています.
 アヤメは立地もちょっと違って乾いた草地.ノハナショウブ,カキツバタは湿ったところです.









諏訪地方の湿原を見たので,翌日は県北部の湿原へ.

 伝統的な家屋が残されているところを見に行ったりして...
ビックリグミ ダイオウグミ
 大きな野生のグミの木があるぞ...と思ったんですが,どうも実がでかい.どうも園芸種のビックリグミ(ダイオウグミ)らしい.ナツグミの変種.食用に植栽されたものなのでしょう.

 車でちょっと移動して,道の駅でソフトクリームなんぞを食べつつ,湿原へ移動.クサレダマが咲いているのを発見.
 これ,和名は「腐れ玉」という意味ではなく「草レダマ」という意味です.お間違えなく.
クサレダマ
ホソバノヨツバムグラ
 ホソバノヨツバムグラですね.ちょうど花の時期に出会えました.葉は見かけ上4枚輪生ですが,この写真じゃわかりませんね.見かけ上,としたのは,アカ ネ科のアカネの場合,やはり見かけ上4枚輪生ですが,そのうち2枚は本葉,他の2枚はそれぞれの本葉の托葉が合着したものとされているからです.
サワギキョウ
 サワギキョウは花はもう少し先,という状態でした.葉には細かい鋸歯があります.
サワヒヨドリ
 サワヒヨドリ.今まさに咲こうとしているんですが,寸止め,といった感じ.
コバギボウシ
コバギボウシは,蕾のものが多かったんですが...
コバギボウシ
 咲いているものも見つけました.湿原で咲いていると,葉まで同時に撮影するのは,ちょっと難しいですね.
ミツガシワ
 見づらいですが,ミツガシワ.
サギスゲ
 その奥の白い綿毛は,ワタスゲではなく,サギスゲ.
カラコギカエデ
 あとは湿地のカエデといえば,まずはカラコギカエデ.ハナノキではありません.
コタニワタリ
 湿原からちょっと離れた岩場,シダ植物のコタニワタリが生育.左下は自動散布種子のツリフネソウ.夏にピンク...というか赤紫色の花をつけます.

 日にちは変わって,ブナ林へ.北信です.山を越えると新潟県.
ギンリョウソウ
 ギンリョウソウの花が終わって,果実が成熟しつつあります.花の時は下向きですが,果実は上向き.

「こっち見んな!」って感じですね.
ノギラン
 ノギランも見ました.花が咲けば,ノギランとネバリノギランの違いはわかりますが,ロゼットだけの時は,どうやって見分けるんでしょうかね.厳しいのか な.
オオシラビソ 傘型樹形
 翌日は八ヶ岳の麓.傘型樹形のオオシラビソ.傘型樹形の説明は,1年生の時,実習で話をしたんですが,ま,憶えてないかな(笑).
ウスユキソウ
 こちらは植栽です.ウスユキソウ.日本におけるエーデルワイスの仲間です.
コマクサ
同じく植栽.コマクサ.やはり,野生で見るほうが感動は大きいですね.
ハクサンシャクナゲ
 ハクサンシャクナゲなんですが...
ハクサンシャクナゲ
 葉を見て,どうやってアズマシャクナゲと見分けるかと悩みますね.写真を見てください.ハクサンシャクナゲなんですが,葉の基部が切型.アズマシャクナ ゲはくさび形ですので,典型的なもの同士であれば,見分けられます.
 実際には微妙なものも多いので,一個体だけでなく,何個体も見て確信を得ましょう.
ヤチカワズスゲ
 おまけはヤチカワズスゲ.ミタケスゲを小さくした感じです.写真だと遠近感がわからないので,ミタケスゲのようにも見えますが.







翌週は,草原シリーズ.

 丘を越えて空に近づきます.

 諏訪湖一望.
ハナチダケサシ
 で,ハナチダケサシ.葉っぱを見ると...
ハナチダケサシ
 こちらがハナチダケサシの葉.先がとがってますね.先に紹介したチダケサシの葉と比べてください.
 これだけ典型的だと分かりやすいんですが,実際には微妙なものも...チダケサシとハナチダケサシをずっと見ていると自信がなくなってきます.アカショ ウマとトリアシショウマの微妙なのをずっと見ていくのと同じように...

翌日も草原シリーズ.
エチゴキジムシロ?イワキンバイ?
 エチゴキジムシロ...かと思ったんですが,イワキンバイでしょうか.どちらにしてもキジムシロ属ですので,花はキジムシロのように,萼片と副萼片の違いがなく,どちらも三角形(ヘビイチゴの仲間は萼片と副萼片の形が異なります ね).
 で,大きな葉は5小葉からなる奇数羽状複葉ですが,小さな葉は三出複葉.葉の表面には長い毛が生えています.
 イワキンバイは花托に白い長毛があるそうです.写真を拡大したんですが,判読できません.また機会があれば確認したいと思います.



 トンボが学生の指に止まっちゃったりします.多分この学生の心の美しさを見ぬいたトンボが,安心して舞い降りたのでしょう.私にはとまってくれませんが (笑).

梅雨が開け,夏本番.学生諸君はテスト週間でもありますが(笑).ま,でかけましょう.
キオン
 キオン.バックが暗いところの個体を見つけて,露出補正をしながら植物が浮き上がるように撮影しました.
ゴウソ
 カヤツリグサ科はゴウソです.似た仲間もいますが,写真のように鱗片のノギが長く(写真で,ツン,と飛び出ているのがそう),鱗片(果実をカバーしてい るところ)が茶色いのが特徴です.
ニッコウシダ
よく見るけど,今まで不明だったシダ.佐藤先生に聞いちゃいます.ニッコウシダ,とのこと.写真では分かりづらいですが,軸の基部が赤いのが特徴とか.こ れに似たメニッコウシダは軸の基部が赤くなく,太いらしいです.



 最終回,10回目は梅雨明けながら雨がちな日でしたので,軽井沢にある「軽井沢町植物園」へ.カサをさしながら園内をめぐり,写真でもとろうかと.
 


エダナナフシ
 アサマフウロの写真と撮っていたら,なんか葉っぱが変です.で,よく見るとナナフシが止まっているじゃありませんか.
エダナナフシ
 これ,詳しく言うとエダナナフシ.触覚を見てください.前足より長く伸びていますよね?これに似たナナフシモドキは触角が明らかに短いです.
ナナフシ
 N君の手のひらに乗せてあげます.
「うわぁ,すげぇ!」
エダシャク
 擬態昆虫シリーズ.エダシャクでしょうか.これも実物を見るのは初めて.対生の樹木についているので,違和感があって発見.
カセンソウ
 カセンソウはあまり見ないかもしれませんね.キク科.茎は細いんですが,固め.で,葉に葉柄がなく葉の基部は茎を抱きます.
 植栽ですが,私も久々に見ました.
ニガクサ
 あとはですね,ニガクサなんですが,これの花が咲いていました.ニガクサ自体は林床でたまに見ますが,花が咲いているのはここで初めて見ました.綺麗な花です ね.










という感じで,計10回のお出かけ実習を完了.実際には,湿原や草原で植物社会学的植生調査を行なっています.アウフナーメ,ね.そのほうが,じっくり見 ることになるので.



三人の受講生はそれぞれ別々の研究室に行くことになりましたが,野山を歩く楽しみを改めて知ってもらえたなら,私にとってこんなうれしいことはありませ ん.
 また飲んだり,カラオケに行ったりしましょう(笑).



こうして,夏の始まりが終わりました.


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