みな様,ご無沙汰しております.島野です.すっっっっっっごく,忙しかったんです.いや「でも,毎日飲んでたんだろ?」と言われると反論できないんです が,7月の頭から10月の頭まで,空いている日がなかったんです.
 で,いろんな学会から査読の依頼とかをひき受けて,かつ締切りを過ごしたりして怒られながら,当研究室の卒業生の論文,これを投稿中で戻ってきたりして いるんですが,これの直しを8月締切りで,先方の事務局に2度も延長をお願いしながら私が直してやっと送り返したような状況.卒業生は,もう,そんな論文 の直しなんか出来ませんからね,私の仕事です.で,人の事ばっかりやって,自分のことは全くできません.それでも,お役目があるということは,自分が 社会に求められていて,自分の存在意義があるということなんでしょうか.ありがたい事です.
 そんな中,春に南信州に南信州植物調査会(飯田市美術博物館の蛭間博士が主催)で出かけたことがありました.その時であった植物等の記事 を残しておこうと思います.


集合は飯田市美術博物館に朝の8時とか.そんなの松本から出て間に合うわけないよね.で,前日,蛭間くん の家に泊まらしてもらって集合.

飯田・下伊那周辺の熱心な皆さんと共に,山を超え,川をわたり,今回の現場へ.

南信はですね,関東で言うところの「太平洋型ブナ林」に植物の種組成が似ています.そのため,奥多摩や丹沢を学生時代に見てきた私 としては,懐かしい組成というか,植物たちに出会うことができます.

昔愛した女性たちに会うことは,もう,ないですけどね(笑).
ミツバウツギ
 まずは,これ,ミツバウツギ.うん,太平洋側には出ますね.渓谷沿 いの山道などを歩くと出会うものです.対生,三出複葉,細かい鋸歯.ウツギに似た白い 花を咲かせます.
エドヒガン
 こちらはエドヒガンザクラ.サクラです.我々が見るエドヒガンの 99%は公園や庭だどに植えられたものですが,この辺には自生のエドヒガンがあり ます.他のサクラに比べると,側脈が多く,葉の裏に茶色い毛があるのが特徴と言えましょうか.オモテ面は色が濃く,やや光沢がありますね.
フタリシズカ
 おなじみ,フタリシズカ.ヒトリシズカの葉が四輪生のように見える のに対し,こちらは明らかに対生の葉が二組四枚だとわかります.
タチガシワ
 おっ,これは珍しいですね.タチガシワという草本です.
タチガシワ
 タチガシワ,花はこんな感じ.5数性ですが,合弁です.枯れかかっているわけではなく,こんな褐色の色が本来の色のようです.
タチガシワ
 葉は対生です.ガガイモ科でカモメヅル属.
コバノイラクサ
 ええと,こちらはコバノイラクサですね.対生,単葉,鋸歯.もちろ んイラクサ科です.イラクサの仲間は,種によって刺を持っているので注意.刺さると後 々痛いで す.これは単なる物理的な痛さだけではないからです.以前はギ酸という化学物質を持っているため,とされていましたが最近はヒスタミンであるという説が有 力のようです.ですから,これの棘が刺さった場合(すっごく細くて抜こ うとしても難しい),石鹸で手を洗うというのは,気休めでなく,意味があることです.
クルマバソウ
 アカネ科のクルマバソウです.これは,茎に毛(刺)がないのが特徴 です.クルマムグラも似ていますね.同様に茎に毛がありません.オククルマムグラは茎 に下向きの毛があり,これで区別できますが.
 で,クルマバソウとクルマムグラの違いですが,色々調べても現場での決定的な区別は難しいです.輪生する葉の枚数は絶対的ではないし,茎の断面が四角形 なのも同じだし,標本にして乾いたら黒くなるとか現場ではわからないし,花がついていない時期は花で見分けられないし.
 そういうわけで,区別するのはやはり葉の形でしょうか.写真のように葉の付け根側 が広く,先に行くほど細くとがるのがクルマバソウ全体に長楕円形 で,葉の先の方も丸く広いんだけれど,先っぽだけ短くとがるのがクルマムグラ
 それとクルマムグラは葉の縁にトゲ状の毛があってこれが肉眼でわかるぐらい目立つ. クルマバソウもルーペで見ればあるんですが,これが目立ちません.
タニタデ
 アカバナ科のタニタデです.タデ科ではなくアカバナ科というところ がポイント.葉は対生です.対生,単葉,鋸歯.鋸歯の数は側脈数に比例して5から6個 といったところでしょうか.必ずしも谷に出るものではないですが,尾根や乾燥したところでは出ませんね.
ホソバテンナンショウ
 ホソバテンナンショウです.サトイモ科.このお写真を見て葉が細い と感じるかどうかはあなた次第です.私は感じません.で,どこが細いかというと,筒 状 の仏炎苞の中の軸.これが細いですね,他のマムシグサなんかと比べて.それと...
ホソバテンナンショウ
 はい,それと,筒状の仏炎苞の出口付近ですが,先っぽがそれなりに尖るのはともかく,縁の部分が耳たぶ状に膨らみますね.この二つが特徴だそうです.
ヒトツバテンナンショウ
 こちらは似ていますが,同じ仲間のヒトツバテンナンショウ.写真で は葉っぱのようなものが5-6枚写っていますが,これらは小葉でこれらが全部集まって 一枚の葉.で,これがひとつということでヒトツバテンナンショウ.テンナンショウというのはこの仲間の総称,と思ってもらってok.
ヒトツバテンナンショウ
 特徴はなにかというと,今,筒状の仏炎苞の先っぽをめくって持ち上げてしまっていますが,中の軸の先っぽが90度折れ曲がってこちら側を向いています. これがヒトツバテンナンショウ.葉が一枚で.
 似た種に日本海側に出るヒロハテンナンショウというのがあります.ヒトツバテンナンショウとは別種ですが.
 どう違うかというと,このヒトツバテンナンショウは花(仏炎苞の部 分)が葉の位置より上になっていますね.ヒロハテンナンショウは花茎 が短く花が 葉の高さよりも低いのが特徴.
 花がなかったらどうやって見分けるのかというと,どうするんでしょうかね(笑).教えてください.
ウラジロウツギ
 これはですね,私にとっての新種です.ウラジロウツギ.はじめはヒ メウツギだと思ってみていました.ただのウツギに比べ葉柄が長く(ただのウツギはほと んど葉柄がない),この点はヒメウツギの特徴なんですが...
ウラジロウツギ
 葉の裏をめくると,真っ白.こんなウツギがあること,知りませんでした.my新種です.
ヤマハタザオ
 お,ヤマハタザオですね.アブラナ科で花びらは4枚です.平地のハ タザオは花が黄色いですね.これは山地に生育して花は白いです.それと...
ヤマハタザオ
 葉が茎を抱くようにつきます.この特徴はハタザオ,ヤマハタザオ共通の特徴です.ミヤマハタザオの葉は茎を抱かないですけどね.
ヒメレンゲ
 ヒメレンゲですね.花に近い,上の方の葉は線状に細長 く(先の方が太い),根元の方にある葉はスプーン型.へっこまないけど.湿った岩場,崖地に生育するようです.
 下の方のスプーン形の葉だけ見ているとマルバマンネングサも似ていますね.長細い葉は出さないようですが.
ミヤマハハソ
 こちらは小さいですが木本です.ミヤマハハソ.ハハソとはコナラの 古名.ですが,コナラはブナ科,ミヤマハハソはアワブキ科で,他人の空似(そらに)と いうことになります.太平型ブナ林や二次林でよく見ますね.
バッコヤナギ
 葉の大きなヤナギです.バッコヤナギ.典型的な陽樹.川沿いなどで 川の洪水で撹乱を受けたあとの裸地で真っ先に定着・成長をする種です.
バッコヤナギ
 外見上の特徴は,葉の裏に密生する白い毛.オオバヤナギも裏面は白いですが,オオバヤナギは葉の裏面が白いものの,毛が白いわけではありません.バッコ ヤナギは葉の裏の毛が白いんです.
 脈も葉の裏側に浮き出て見えるぶん,オモテ面はへこんで見えますね.
サワルリソウ
 サワルリソウです.ムラサキ科.ワスレナグサなどと同じ科です.こ うして見るとオニルリソウと似ていますが,オニルリソウは葉などの毛がもっと顕著 で, 茎の毛も長く外向きに飛び出ます. こちらは,茎など,毛が無いわけではありませんが,オニルリソウに比べるとあまり毛がない印象ですね.

 こうした植物が出現する立地は,主に土壌が薄く礫が露出するところです.ササが優占しない,シカが苦手な急斜面ということで多様な植物が出現します.
アイズシモツケ
 アイズシモツケですね.シモツケの葉がもっとシャープで細長いのに 比べると,アイズシモツケの葉は葉身の基部を中心に丸く膨らんでいます.
アカイタヤ
 イタヤカエデですが,どうも専門家の皆さんはこれを変種レベルで細 かく分けたがります.で,このイタヤカエデですが,細かく変種レベルに分けるとアカ イ タヤ(カエデ).どこがどうかというと,葉柄が赤いのが特徴と言っていいでしょう.
ユクノキ
 マメ科のユクノキです.他のマメ科の樹木と同様,羽状複葉なんです が,普通のマメ科の樹木は奇数羽状複葉が一般的で頂小葉を除いては,あとの側小葉は対 生するのが一般的なのに対し,これは側小葉が互生というか,ずれて小葉がつきます.これが特徴.私は以前秩父で見た以来です.
イヌブナ
 イヌブナです.ブナは太平洋側でも日本海側でも生育しますが,イヌ ブナは雪の少ない太平洋側だけです.葉の外見上は,ブナに比べ側脈数が多く,葉の裏に 長い毛があることがブナとの違いですね.見慣れれば見間違えません.萌芽も激しいし.

 で,そうしたイヌブナですが,一度定着すると萌芽を出しながら一カ所に居座るので斜面が崩れようとするのを抑える役割があります.
バラモミ
 バラモミですね.マツ科トウヒ属でバラモミ節.茎の部分を見てくだ さい.見づらいけど.茎の表面がつるつるでなく,ブロック状にわかれていますね.で,さらに葉の 部分はペッシャンコでなくて立体的に膨らんでいますね. こんなところがバラモミの外見上の特徴でしょうか.雪の少ない地域の,土壌の浅い,もしくはないと ころですね.
イワオモダカ
 うーむ,シダです.イワオモダカ.葉は鉾型で三つにわかれています ね.写真のように岩場に生育するもののようです.
イワオモダカ
 ま,シダですので,葉の裏の胞子の着き方は記録しておかなければなりません.こんな感じです.
ギンレイカ
 ギンレイカといって,サクラソウ科オカトラノオ属です.サクラソウ と いうと合弁のピンク色の花を思い浮かべますが,オカトラノオ属ですので,これはそうではありません.花が終わっ たあとの実が球 形でこれが花より印象が強いかもしれません.

 ナデシコ科のセンジュガンピとかその辺の仲間だと思います.葉が対 生で.それ以上は,ちょっと.
エナシヒゴクサ
 エナシヒゴクサでいいと思います.スゲの仲間.雌小穂の実が外側にツンツ ンと付き出して目立っていますね.
ミヤマタニワタシ
 ミヤマタニワタシ.マメ科で小葉二枚で一セット,一枚の葉です.マ メ科は羽状複葉が多いですが,それが縮まって二枚だけになったような印象ですね.フタ バハギ(ナンテンハギ)も小葉が二枚ですが,小葉はこんなにとんがりません.このとんがり具合がミヤマタニワタシの特徴です.
キランソウ
 キランソウが生育していました.畑のあぜ道とかで見る印象ですが, 山の中の崖地です.ま,こういうのもありなんでしょう.青紫色のシソ科特有の花をつけ ます.花茎は短いためか花はそんなに目立ちませんね.
ジャニンジン
 ジャニンジンですね.アブラナ科.葉は奇数羽状複葉で,荒い鋸歯と いうか歯牙があります.この写真ではそうした部分があまり写っていませんが.左下の写 真がそんな感じでしょうか.林床というよりは,林縁の明るいところにでる植物ですね.
イワデンダ
 シダです.イワデンダ.名前のとおり,こんな崖地,岩のところから 長細い葉を垂らします.
イワデンダ
 イワデンダの先の部分はこんな感じです.
マルバウツギ
 こちらはおなじみ,マルバウツギ.対生,単葉,鋸歯.葉柄がほとん ど無く,葉は下膨れで広く,触るとざらつきます.
フジアザミ
 花はありませんがフジアザミですね.大きく,切れ込みのある,そし て照かりのある葉です.生育地はこうした,土の無い礫地です.確か多年草ですので,今 年は花をつけず,二三年後に花をつけるのかもしれません.
ヤマユリ
 ユリの茎葉が垂れていますが,ヤマユリだそうです.私は雪の少ない 地域で南信(比較的西日本要素が出現する)なのでササユリではないかと思ったのです が...
 蛭間博士によるとこのヤマユリの方は,立たずに崖から垂れて生育した場合,葉が平面的につくのに対し,ササユリの方は葉が平面的でなく,立体的に付くと いうことです.また今度,花のある時期に観察してみましょう.
ヒナウチワカエデ
 ヒナウチワカエデですね.ヤマモミジは5から7裂なのに対しこちら は9から11裂.かといってハウチワカエデやオオイタヤメイゲツ(カエデ)に比べると 長さで半分以下,面積で四分の一以下の大きさ(小ささ)です.
 切れ込みの具合がやや独特で,魅力的です.よく,「小股の切れ上がった」という表現がありますが,そんな感じ(笑).
ヤマシャクヤク
 ヤマシャクヤクですね.花があると綺麗で立派なんですが.「立てば シャクヤク,座ればボタン,歩く姿はユリの花」なんて言いますが.
オオウラジロノキ
 おっ,なんだこの主幹から短枝がいっぱい出てるの...って,オオウラジロノキ, というバラ科の樹木があります.
オオウラジロノキ
 葉はこんな感じ.質はウラジロノキに似ていないこともなく,ウラジロノキの重鋸歯を単鋸歯にした感じと言えなくもない.
オオウラジロノキ
 ウラジロノキに比べると側脈数は全然少ないですけどね.こんな感じです.
キッコウハグマ
 キク科の草本.キッコウハグマ.葉身の形が亀甲(キッコウ),つま り,亀の甲羅みたい,ということで名付けられています.雪の少ないところの分布ですよ ね.
ザリコミ
 ザリコミだと思います.バラ科の木本.互生,単葉,切れ込み,鋸 歯.スグリの仲間と近いやつ.
ギンラン
 花が付いています.ギンラン.花が黄色い種があって,そっちはキン ラン,白いこっちはギンラン.で,似た種にササバギンランというのがあって,そちら葉 が長細く,写真で言う,花の部分より上に葉が伸びます.この写真の個体はそんなことありませんね.でギンラン.
ササバギンラン
 はい,こちらの個体.花はないんですが,先程の説明で言うところのササバギンランの はずです.
ウスギヨウラク
 ツツジ科ですが,ウスギヨウラクですね.花は終わった後ですが.
ウスギヨウラク
 葉の表面はこんな感じ.
ウスギヨウラク
 ウスギヨウラク,裏面です.ウラジロヨウラクはもっと葉の裏が真っ白,コヨウラクは葉がもっと小さい,といったことで区別がつくと思います.葉裏の主脈 上に大きく白い毛があるのは,ウラジロヨウラク,コヨウラク,ウスギヨウラク共通の特徴ですね.
ヤシャビシャク
 ヤシャビシャク,という樹木です.私も初めて知りました.my新種 です.他の樹木に着生していました.ユキノシタ科でスグリ属.その意味ではザリコミと 一緒です.
ベニドウダン
 こちらはベニドウダン.ドウダンツツジの仲間ですが...
ベニドウダン
 枝が赤いですね.いや,普通のドウダンツツジも赤いですが,ドウダンツツジは葉の 先の方が広い菱形で,全体にスマートな印象ですね.こちらのベニドウダ ンの方が葉のサイズも小さく,形も可愛らしい感じです.
ホソエカエデ
 ウリハダカエデに似ていますが,ホソエカエデです.どう違うかとい うと,まずは,歯の全体の形を見ると三裂の形がシャープですね.それと...
ホソエカエデ
 それと,主脈と側脈の分岐する部分なんですが,カエルの足の水かきのように膜が張 ります.この写真だとちょっと見にくいかもしれませんが.
 こんなところがホソエカエデの特徴です.
ハニヤミツバ
 これ,ハニヤミツバというやつだと思います.いわゆるミツバと種は 一緒なんですが,その品種.木曽とか南信の方でミツバの小葉の切れ込む種が知られてい て,これが多分それ.図鑑によると三つある小葉がそれぞれ3全裂するとされています.似た仲間にウシミツバというのがあり,こちらは小葉に欠刻があるも の,だそうです.品種なので,主としてはミツバでokです.
ヤマキケマン
 キケマンの仲間を発見.キケマンじゃないし,ミヤマキケマンでもない.なぜって,つるっぽい.で,ヤマキケマン
 ツルキケマンというのもあるん ですが,図鑑によるとツルキケマンは茎に稜があるとのこと.こちらはない.で,ヤマキケマンに落ち着きます.
 私も初めて見ました.
というわけで,日帰り(厳密には前泊)ですが,一日で色々見ました.こういうのは出会いですね.

それと,知っている人と歩くというのも大事.知らない植物って,目に入っていても,認識できないんです.で,教えてもらうと,お,新種だ,ということもし ばしば.

というわけで,色々出かけたいんですが,仕事が色々詰まっていて(締め切りが過ぎていたりして)なかなか出かけられません.その分,一回一回の出会いを大 切にしたいと思う次第です.

そんなことで,また.

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