植物生態学ゼ ミ

農学部森林科学科
山下晃司

 私は登山サークルに入っているため、今回は7月17日〜18日に登った甲斐駒ケ岳、仙丈ケ岳で 撮ってきた高山植物を調べてみた。
 ちなみに甲斐駒ケ岳は南アルプスの赤石山脈北端に位置する標高2,967メートルの山で、険しい岩場が多い。半ば独立峰のようになっており、日本百名 山、日本百景の1つでもある。
 仙丈ケ岳も赤石山脈北端に位置する標高3,033メートルの山で、北東に標高2,855メートルの小仙丈ケ岳、南西に標高2,975メートルの大仙丈ケ 岳を抱える。大仙丈ケ岳南部には塩見岳に続く仙塩尾根が連なり、その間にカールが3つもある。高山植物が豊富に生息しているため、「南アルプスの女王」と も言われる。こちらも日本百名山の1つである。
ハクサンシャクナゲ(ツツジ科)
 四国石鎚山、本州中部地方以北、北海道などの亜高山帯に分布し、ハイマツの生える低木林内でも見かける 常緑低木。長さ10センチほどの長楕円形の葉が集まり、7〜8月にその先に12〜15個のピンクがかった花を咲かせまる。葉は革質で、基部は円形またはや や心臓形。葉裏は平滑。似た種に、背が低くクリーム色の 花を咲かせるキバナシャクナゲや、葉裏に褐色の毛が生え、白い花を咲かせるシロバナシャクナゲがある。
甲斐駒ケ岳の仙水峠手前あたりで撮影

ハクサンイ チゲ(キンポウゲ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布。多年草で、茎葉は4枚が輪生し、裂片が尖る。葉柄はなく、。 6〜8月頃に茎の先に白い花を1〜5個咲かせる。似た種にチングルマがあり、こちらは花が1個しかつかない。また、花が終わると花柱が羽毛状に伸びる ことでも区別できる。ちなみにチングルマはバラ科である。
甲斐駒ケ岳の山頂付近で撮影

コイワカガミ(イワウメ科)
 本州、北海道に分布。湿ったところやハイマツ林の林縁などに生える多年草。花は下向きにつき、花冠の 先が5裂したうえ、さらに先がふさ状に裂けているのが特徴。似た種にイワカガミやオオイワカガミ、ヒメイワカガミがあり、イワカガミは山地から亜高山帯の 主に針葉樹林中に岩場に生え、大型で葉の鋸歯の数が多い。オオイワカガミは名前の通り葉が10センチほどにもなる。日本海側のブナ林に生える。ヒメイワカ ガミは葉の形が角ばり、亀の甲羅のような形になることもあることで区別できる。
甲斐駒ケ岳の頂上で撮影

ミヤマキンバイ(バラ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布する。茎が太く、高さは約10センチほどで、斜めに伸びることが多い。 葉は3出複葉。7〜8月に5枚の花弁を持つ黄色い花を咲かせる。高山では普通種。湿ったところを好むが、乾燥に強く、尾根筋や崩壊地にも生える。名前の由 来は梅の花に似ていて、光沢のある濃い黄色から「金梅」となった。似た種にウラジロキンバイがあるが、葉の裏には白い毛が密生しているため白く見えること から区別できる。
甲斐駒ケ岳のどこかで撮影

イ ワウメ(イワウメ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布する常緑のわい性小低木。。葉は革質で、へら形の葉が密生して岩場など でマット状の株を形成する。夏に花茎を出し、上向きに梅に似た鐘型の花を咲かせる。本種が形成するマットにはミネズオウ、イワヒゲなどの植物が入り込み群 落を作ることが多い。
甲斐駒ケ岳頂上で撮影

ギンリョウソウ (イチヤクソウ科)
 多年生の腐生植物で、葉緑素がないことで有名。全体が純白色であり、たまに桃色を帯びることもある。茎 の高さは5〜20センチで太く、多数の鱗片葉が上向きにつく。4〜7月に白い花が1個下向きに咲く。丘陵帯から亜高山帯の腐食土の多い林床に生え、実際原 生林のようなところに生えていた。別名をユウレイタケといい、暗いところに真っ白な花を垂れるように咲かせていることから幽霊を連想させるためつけられ た。
仙丈ケ岳の登山口付近で撮影

ウラジロナナカマド?(バラ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布。亜高山帯から高山帯の沢沿いや尾根 筋の湿った凹地に多い。葉の裏が白っぽく遠くからでも識別できるほどだが、写真からはそうは見えない。葉は奇数羽状複葉で小葉の上半分だけ鋸歯があり、、 秋に紅葉し真っ赤な果実をつける。果実は楕円形で先が凹む。花は白色のものを枝先に散房状につける。似た種にタカネナナカマドがあり、本種は葉の全体が鋸 歯で光沢がある。ちなみに背景にうっすら写っている三角形の山は富士山である。(←どうでもいい)
小仙丈ケ岳付近で撮影

ヨツバシオガマ(ゴマノハグサ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布。変わった形の花を咲かせるためにか なり目立つ。特に真上から見ると面白い。よく似た種にミヤマシオガマ、タカネシオガマがある。ヨツバシオガマは葉が4枚輪生し、花冠の上唇がくちばし状に 長く湾曲するのが特徴。変異が多く赤石山系では花筒が白くくちばしが長いクチバシシオガマがあり、北海道や東北地方北部では全体に大きく花を10段以上も つけるハッコウダシオガマがある。ミヤマシオガマは紅色の花を茎頂に密につけ、葉がニンジンのように羽状に裂ける。タカネシオガマは葉が4枚輪生(たまに 3〜6枚輪生)し、茎頂に3〜4個の花を数段輪生する。花の上唇がくちばし状にならず、途中で切れることで区別できる。
小仙丈ケ岳山頂付近で撮影

タカネツメクサ(ナデシコ科)
 本州中部地方以北、飯豊山に分布する多年草。崩壊地や岩陰、風衝草原 に群落し マット状に生える。花弁は先端が円形になり、先端が尖るホソバツメクサや、切れ込みがあるイワツメクサ、ミヤマミミナグサなどと区別できる。かなり似た種 でミヤマツメクサがあり、タカネツメクサは葉の脈が1つなのに対し、ミヤマツメクサは脈が3つあることで区別できる。また、花弁に透明な条が目立つのも特 徴である。北海道には別変種のエゾタカネツメクサがある。
仙丈ケ岳のどこかで撮影(写真はもらいもの)

ハイマツ(マツ科)
         
 マツ科の常緑低木で、本州中部以北、北海道に分布。幹から枝が密生し 四方に広がるそうに育つが、風当たりの少ない場所では斜め上に伸び、直立することもある。普通は名前の通り地を這うように枝を伸ばし、枝先が地面につくと そこから根を出し、さらに伸び続ける。葉は針形で短枝上に5枚束生し、多少湾曲する。雌雄同株で、6〜7月頃開花する。雄花は暗い紫紅色で新枝の下部や中 部に密生し、包鱗に2個の約を持ち、黄色い花粉を出す。実際に触れると花粉が大量に飛んだ。雌花は新枝の上部に2,3個付き、卵状楕円形で淡い紫紅色。ち なみに木材や薪炭材としても使われる。
仙丈ケ岳山頂付近で撮影

オヤマノエンドウ(マメ科)
 本州中部地方の高山に分布する多年草。全体に白い毛が生える。茎はよ く分岐して地面を這うように伸びる。葉は7〜15枚の小葉からなる奇数羽状複葉で狭卵形。開花期が他のものより早く、6月中旬から咲き始め、花茎の先に紫 の花を1〜2個ずつつける。マメ科であるため3〜4センチほどのサヤエンドウのような果実(豆果)をつける。北海道の中央高地には、全体に白く長い毛が生 えているエゾオヤマノエンドウがある。
小仙丈ケ岳山頂付近で撮影

イワベンケイ(ベンケイソウ科)
 本州中部地方以北、北海道に分布する多年草。地中に1〜2センチのゴ ボウのような根茎があり、鱗片葉に覆われた先端のみが地表に出ている。毎年その先端から高さ10〜30センチくらいになる花茎を出す。葉は互生し、やや肉 質で、倒卵形あるいは楕円系で、縁に不規則な鋸歯がいくつか見られる。花は7〜8月に先端に密集して咲き、線香花火のように見える。雌雄異株である。似た 種にホソバイワベンケイがあり、こちらは葉先に1〜4対の目立つ鋸歯があるので区別できる。また、名前の通り葉が細い。名前の由来は岩場に逞しく生きる姿 が弁慶を連想させたからという。
仙丈ケ岳頂上で撮影


        
 ちなみに上の写真は、左が甲斐駒ケ岳、右が小仙丈カール。参考まで に。







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