フィールドで見つけた植物

                      農学部 森林環境共生学コース 田島 尚

フィールドを歩いて興味を持った植物について調べてみました。植物の上にはその植物を利用するたくさんの昆虫も見られるので、いくつかの写真はその昆虫た ちも写してコメントを述べてみました。植物と昆虫には非常に密接な関係があり、植物は特定の植物に依存する昆虫の分布の指標となり得ますし、逆に昆虫から 周囲の植生を推測することも可能です。





アケビ(アケビ科アケビ属)
漢字で木通または通草と書きます。葉は互生、掌状複葉、前縁で楕円形をしています。茎は蔓で他の物に巻き付き、古くなると木質化します。花は4~5月に咲 き、雌雄異花。果実は10㎝前後まで成長し、9~10月に熟して淡紫色に色づきます。この果実が多様な鳥類や哺乳類に食べられて種子散布に寄与します。
写真の幼虫はアケビコノハという蛾の1種で、アケビやアオツヅラフジを食害します。(松本市にて撮影)
クヌギ(ブナ科コナラ属)
落葉高木で、漢字では椚、橡、櫟、などと表記します。語源は国木(くにき)、食之木(くのき)と言われています。樹高は15~20mになり、樹皮は暗い灰 褐色、厚いコルク状で縦に割れ目ができるのが特徴です。葉の特徴は互生、単葉、鋸歯で秋に紅葉します。花は雌雄別の風媒花で4~5月頃に咲きます。実はい わゆるドングリで、直径は約2㎝で球形をしています。シロスジカミキリやボクトウガの幼虫が幹を傷つけることで樹液がでて多様な昆虫が集まります。里山で 古くから幹は幹薪炭材として、葉は腐葉土としたり、多くのことに利用されてきました。
写真のチョウはウラナミアカシジミの雌で、クヌギやコナラを食草とします。撮影日にこのクヌギに産卵していました。かつて普通種だったこのチョウも里山の 雑木林の荒廃で姿を消し、長野県では準絶滅危惧種(NT)。全国的に本種をレッドリストとして抽出している都道府県 も多いです。(松本市にて撮影。)
クサフジ(マメ科ソラマメ属)
多年草。和名は葉と花がフジに似ていることに由来しています。山地の草原の日当たりの良い場所に生え、茎の長さは80~150㎝に及ぶといわれています。 葉は対生、羽状複葉で18~24個の小葉と巻きひげからなります。花期は5~7月で淡紫色から青紫色の蝶型花が総状花序で咲きます。近縁種にヒロバクサフ ジとオオバクサフジがありますが、小葉の形や葉脈で区別できます。
写真の昆虫は昼行性の蛾のベニモンマダラ(本土亜種)で、クサフジを食草とする典型的な里山の草原に生息する種です。派手な模様は警告色で、有毒です。本 種も里山の草原の荒廃とともに徐々に数を減ら し、環境省、長野県ともに準絶滅危惧種に指定されています。(松本市にて撮影。)
ナツヅタ(ブドウ科ツタ属)
いわゆる普通のツタです。ツタという名称は何かものを「つた」って伸びることに由来します。葉は落葉性で、掌状に浅く裂けるか、複葉となります。近縁種に フユヅタがありますが、こちらは常緑です。花は6~7月に咲き、実は10月ごろに黒紫色に熟します。また、まきひげの先端が吸盤になっていて基盤に付着し ます。繁殖力が強いため、壁面緑化などにも利用されます。花言葉は永遠の愛だそうです。
写真の昆虫はルリイロスカシクロバという蛾の一種の幼虫で、ツタを食害します。南方系の種で、実は長野県で確認されたのは割と最近です。(松本市にて撮 影。)
オニグルミ(クルミ科クルミ属)
落葉高木です。主に山間の川沿いに見られ、葉は奇数羽状複葉です。種子は食用ともされ、リスやネズミなどの野生動物の重要な食糧ともなっています。花は 5~6月に咲き、風媒花で雌雄同株です。殻が非常に硬く、破片が鋭利である点が東洋ゴム工場に評価されてスタットレスタイヤの素材に用いられるようになっ たそうです。
写真の昆虫はオニグルミノキモンカミキリです。オニグルミやサワグルミをホストとするカミキリムシで、黄色いボディが目立ちますが、オニグルミの葉の裏で は意外と目立ちません。
(松本市にて撮影。)
コマツナギ(マメ科コマツナギ属)
和名は「駒つなぎ」で、茎が丈夫で馬(駒)をつなぎとめることができたことから名づけられました。日当たりの良い原野や道端に生える低木です。葉は互生で 奇数羽状複葉です。紅紫色の小さな花が咲きます。開花後に円柱状の豆果を生じ、3~8個の種子を含みます。
写真の蝶はミヤマシジミで、コマツナギを食草としています。環境省では絶滅危惧ⅠB類、長野県では絶滅危惧Ⅱ類に指定されている全国的に減少が著しい種で す。山地や河原に見られます。(安曇野市にて撮影。)

ツメレンゲ(ベンケイソウ科イワレンゲ属)
多年生の多肉植物です。和名はロゼットの様子が仏像の台座(蓮華座)に似ており、ロゼッタを構成する尖った多肉質の葉が猛獣の爪に似ることから名づけられ ました。葉は常緑性、多肉質で被針形をしており、先端は針状になります。根は根出葉が密集してロゼット状にまとまります。10~11月に花穂を塔状に立 て、多数の花を円錐状に群生させます。生育地は局所的で、露岩地や崩落地、河原で見られます。野生種は緑色ですが、園芸品種は斑入りや白っぽくなったり、 紅色を帯びるものがあります。クロツバメシジミ(環境省準絶滅危惧種)の食草です。ツメレンゲの撮影地で過去にクロツバメシジミの生息が確認されています が、発生期でなかったため見られませんでした。(松本市にて撮影。)

カタクリ(ユリ科カタクリ属)
多年草です。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていました。早春に薄紫から桃色の花をつけ、スプリングエフェメラル(春の妖精)とも呼ばれます。花 は両性花、自家不和合性の虫媒花です。花茎の下には通常二枚の葉があります。葉の模様には変異があり、模様があるものもないものもあります。種子にはアリ が好むエライオソームという物質が付いており、アリに運ばれることで生息地を拡げているそうです。かつては鱗茎から抽出されたデンプンが片栗粉として用い られていましたが、精製量がわずかなため、近年の片栗粉はジャガイモやサツマイモから抽出したデンプンとなっている。ギフチョウやヒメギフチョウが好む花 として知られるが、両種の食草があり、かつ両種の好む日当たりの良い開けた林床空間が保たれていないと両種は見られない。(松本市で撮影。)

キブシ(キブシ科キブシ属)
雌雄異株の落葉低木です。花は3~5月に葉が伸びる前に淡黄色の総状花序につけます。春の花のあまりないときに右の写真のようによく目立ちます。葉は互 生、単葉、鋸歯です。和名は果実を染料の原料である五倍子(ふし)の代用として使ったことによります。日本固有種で、山地の明るい場所に生育します。おそ らく虫媒花で、花の咲く頃の昼にはコツバメや越冬したタテハチョウ科の蝶類、イカリモンガなどが見られ、夜にはキリガなどの蛾の仲間が数多く飛来している のを見ることができます。(松本市にて撮影。)
オニシモツケ(バラ科シモツケソウ属)
この植物は最初は何かわかりませんでしたが、写真のコヒョウモンの幼虫(オニシモツケを食草とする。)がいたことで同定できました。葉は互生、奇数羽状複 葉で切れ込みがあります。花期は6~8月で、花は白色かときに淡赤紫色の小さな5弁化を散房状につけ、花序に短毛が密生するのが特徴です。山地から深山の 沢沿いや、やや湿った場所に生育します。(長野市にて撮影。)

以上で僕の植物の紹介は終わります。植物は葉や幹、花などの外見的特徴 から同定するのが一番ですが、周囲 にいる特定の植物に依存する生物(今回は昆虫)からも同定できる場合があります。植物の観察をするときは周囲の小昆虫に目を向けながら観察してみるのもお もしろいと思いますよ。




































































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