特別企画

日時 7月20日(土) 14:00~15:00
場所 信州大学 理学部 講義棟1階 第1講義室


「地質探偵ハラヤマとさぐる北アルプス誕生の秘密」

信州大学 名誉・理学部特任教授

原山 智 先生

【講演要旨】 北アルプスは,中ア,南アと異なり活火山が存在します.80万年前から活動を開始した複成火山が現在の乗鞍火山列を形成しています.さらにさかのぼった270-140万年前には乗鞍火山列とは違うカルデラ火山や玄武岩単成火山が活動の主体だったのです.  北アルプスの隆起開始は270万年前に遡り,当時の日本列島の地下30km(地殻下部)にはマントルから上昇した玄武岩マグマが集積していました.集積した玄武岩マグマは周囲の地殻を溶かして珪長質なマグマを生成します.この珪長質マグマは密度が小さく(〜2.3g/cm3),周囲(2.8g/cm3)よりも軽いので広範囲にわたり浮力を与え,地殻を上昇させます.これが隆起の初期段階(270−140万年前)で,北アルプス全域をゆっくりと上昇させて1500m前後の緩やかな山地を形成しました.  マグマの一部は地殻内を上昇し,地表に近い地下3km前後に巨大なマグマ溜りを形成します.これが槍穂高連峰や爺ヶ岳−鹿島槍ヶ岳の巨大なカルデラ火山を形成しました.この大規模な火山活動が終息した140万年前に激しい隆起運動が始まります.当時からプレートの動きが日本列島に東西系の強い圧縮力を与えており,これが巨大カルデラ火山の西縁に東傾斜の逆断層を発生させます.逆断層に沿ってカルデラ火山やその下で固結したマグマ溜り(第四紀花崗岩)が西側にせり上がり(衝上運動),地表部では回転を伴う隆起を生じ,高い山脈を形成しました ( 図1).今から140〜80万年前の出来事です.この時点で3000m級の山脈が完成しており,その後続いた浸食作用や氷河による氷食作用が現在の山岳地形を生み出しました. figure_1.jpg
図1北アルプス北部の隆起プロセスを示す東西断面図

【プロフィール】 1953年長野県岡谷市生まれ,東京教育大学卒業、京都大学大学院理学研究科修了.理学博士. 通産省工業技術院地質調査所を経て1997年に信州大学理学部に赴任.2018年3月退職.現在は名誉教授および理学部特任教授.専門は地質学・岩石学.北アルプスなど山脈の形成過程の解明を目指して、野外調査を2000日以上行ってきた.