Optical Physics Laboratory, Department of Physics, Faculty of Science
 
 
1. テラヘルツ波ってなに?

  テラヘルツ波とは電磁波のひとつです。周波数が10の12乗ヘルツなのでテラヘルツ波と呼ばれています(そのまますぎる!)。この周波数領域は,学問分野や産業分野でいうと,電波領域と光学領域のちょうど狭間の領域になっていまして,そのため様々な理由で研究・開発が最近まで立ち遅れてきた領域です。なぜなら,電波領域から見ると「周波数が高すぎ」,光学領域から見ると「波長が長すぎ」だからです。

しかし,近年のレーザー技術の急速な発展により,テラヘルツ波の発生や検出技術が格段に進歩し,研究・開発が活発に行われるようになりました。これまで未踏領域であった分,知られていない物理があるのではないかと大いに期待されます。

2. テラヘルツ波で何ができるの?

テラヘルツ波の大きな特徴として,可視光などとは異なる透過特性が挙げられます。例えば,紙や白いプラスチックなどは可視光はほとんど透過しませんが,テラヘルツ波は通ります。つまり,透視ができるということです。これは実際に,封筒の内容物を透視することによってチェックする機器へと応用されました。

また,他の電磁波領域とは異なる光学特性を利用することにより,薬物検査技術や医用検査技術,粉体中の異物検出技術,はては文化財の非破壊検査技術への応用が実際に展開されつつあります。

3. いまの研究課題は?

テラヘルツ波の世界的な研究課題として,大きくわけて3種類あると考えています。

1つ目は,上で述べたように,テラヘルツ波によって実現できる応用技術へ展開することです。最近では,国内・海外問わず,多くの企業がテラヘルツ技術開発に乗り出していて,産業界への展開が推し進められているところです。

2つ目は,強い光源の開発および,分光装置の開発です。これまで開発されてきたテラヘルツ波光源をより強くする,また分光装置の計測速度をより速くする,またはより精度良くする,またはより安くする,などの開発課題があります。

3つ目は,テラヘルツ波の装置で使える,光学部品・光学デバイスを開発することです。テラヘルツ領域では,これまで用いられてきた多くの光学材料における吸収が大きいので,全く新たに光学素子を開発していく必要があります。現在でも,さまざまな研究が世界中で進められていますが,光物性研究室ではそのアプローチとして,”メタマテリアル”を用いてテラヘルツの光学素子を開発していこうとしています。

 
4. テラヘルツ波で描く未来は?

テラヘルツ波を用いた装置によって,将来どれだけすごいことができるのか,正直なところまだわかりません。しかし,他の周波数領域とは異なる特性・特徴を活かすことによって,これまで見えなかった”モノ”を見えるようになってきています。また現在,多くの企業でテラヘルツ装置や関連製品が市販されていますが,これは数年前までは想像していなかったことです。

上述したテラヘルツ応用以外にも,高速無線通信,製造現場装置,セキュリティ応用,医用機器応用などの分野でテラヘルツ技術が試されていることを考えると,将来無くてなならない技術のひとつになるものと期待しています。

 
 
 
 
1. メタマテリアルってなに?

メタマテリアルのメタとは,「越えた」,「高次の」,「抽象的な」などの意味があります。 メタマテリアルは,文字通りメタな物質の意味で,高次の視点から設計されることにより,通常の物質を越える性質を持ったスーパーな人工物を指します。

え? これだけでははっきりしないって??

そうなんです。漠然とメタマテリアルと言った場合は,研究者でもその定義が分かれます。 だからこそ,現在も想像力を働かせることで,新たなメタマテリアルが生み出され続けています。 この多義性こそ,この分野の原動力です。あなたの考えたメタマテリアルがこれからのメタマテリアルの代名詞となる日も来るかもしれません。

 
2. メタマテリアルで何ができるの?

メタマテリアルの中でも,特に電磁波に対して不思議な応答を示すものは電磁メタマテリアルと呼ばれます。電磁メタマテリアルの研究の大きな目標は,時間・空間にわたって電磁波を意のままにコントロールすることです。

実際,電磁メタマテリアルの概念を使うことで,今までの光学では考えられなかったような,電磁波の伝搬を実現することが可能になりつつあります。 たとえば,屈折率が負の媒質や,ハリーポッターにでてくるような透明マントなどを作り出せることが実証されてきています。

また,電磁メタマテリアル概念によって生み出されたスーパーレンズやハイパーレンズを用いると,ガラス製のレンズなどでは原理的に実現できないとされてきた分解能(小さなものを見分ける能力)の限界が突破できることが示されています。 さらに,超薄型にもかかわらず,電磁波の伝搬を大きく変えることができるようなデバイスも提案されており,物理学の観点のみならず,今後の新たな光学技術として,応用上も大きな注目が集っています。

 
3. 具体的にはどんなもの?

通常の物質が原子からなるように,電磁メタマテリアルは『メタ原子』と呼ばれる金属構造を複合して構成されます。こうしたメタ原子の中で,特に有名なものとしては,スプリットリング共振器(分割リング共振器)があります。 このスプリットリング共振器は,電場にも磁場にも強く応答します。スプリットリング共振器の形や大きさを上手く設計してやることで,電場に対して分極が起きる度合いを表す誘電率や,磁場に対する磁気モーメントのできる大きさを表す透磁率の両方をチューニングすることができます。

こうしたスプリットリング共振器を並べてメタマテリアルを構成することで,様々な特異な電磁応答を実現することができます。 ここで,大事な事として,メタ原子が動作する周波数はメタ原子の大きさに応じて変化します。 このため,使用する電磁波の周波数に合わせて,メタ原子の大きさは設計されます。

 
4. メタマテリアルで描く未来は?

将来的にメタマテリアルは応用と基礎学問の2つにおいて,重要な役割を果たしていくものと考えられています。

応用面に関して。。。
テラヘルツ領域では通常の光学部品が動作しなくなるため,新たなテラヘルツ制御デバイスの登場が必要とされています。 こうしたテラヘルツ制御デバイスとして,メタマテリアルは大きな役割を担っていくことが期待されます。 具体的には,テラヘルツ波の進路を偏光に応じて制御したり,思いのままにテラヘルツ波を掴まえたり離したりできるようになると考えられます。

基礎学問に関して。。。
こうしたメタマテリアルにおける究極的な電磁波伝搬の手法を考えることで,電磁理論の新たな物理的側面が炙り出されることも期待されます。実際,我々自身もメタマテリアル研究によって電磁気学的なモノの見方が日々変えられています。

 
 
 
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