標準生成エンタルピーと蒸発エンタルピーの関係について

標準モル生成エンタルピーΔfH° の表(教科書 p.836)には、25 °C で存在しうる複数の相の値が書いてあります。

例えば水については

物質 化学式 ΔfH° / kJ mol−1
H2O(g) −241.8
H2O(l) −285.8

両者の差 44.0 kJ mol−1 は、液体から気体への相転移時のエンタルピー変化、すなわちモル蒸発エンタルピーΔvapH°に相当しています。

H2O(l) → H2O(g)

(符号に注意。上式において 新しい方から古い方を引く。(−241.8)−(−285.8) = 44.0)

ΔvapH° = ΔfH°(H2O, g) − ΔfH°(H2O, l) = 44.0 kJ mol−1

液体のほうがより結合が強いために低い ΔfH° を持ち、結合を切って気体にするためには 1 mol あたり 44.0 kJ のエネルギー(熱)を与えてやらなくてはならない、と理解すればよいです。

ただし、これは 25 °C での蒸発に対応する値なので、少し注意が必要です。
1 気圧での水の相転移は 100°C で生じ、この時の ΔvapH° は 25 °C での値とは異なります。 1)水の 25 °C での蒸発は、全圧が 1 気圧という条件で、水の分圧(水蒸気圧)が 飽和蒸気圧以下の場合に限り可能。

100 °C での蒸発エンタルピーを求めるためには、25 °C → 100°C のエンタルピー変化 ΔH を、定圧熱容量 CP を使って気体、液体それぞれで求めてやります。

 \displaystyle \Delta H = \int_{\rm 25\,^\circ C}^{\rm 100\,^\circ C} C_P\,{\rm d}T 

CP は気体と液体で異なり(液体のほうが大きい)、100 °C での蒸発は 25 °C に比べ、少し小さいエネルギーで済みます。(25 °C で水を蒸発させるには、100 °C のときより大きなエネルギーが必要、といった方がよいかも)

以下に数値の関係を示します。

25 °C  25 °C  100 °C
H2(g, 25 °C) + (1/2)O2(g, 25 °C)
\Delta_{\rm f}H^\circ(\rm H_2O, g) = −241.8 kJ mol−1
H2O(g, 25 °C)  →
\displaystyle \int_{\rm 25\,^\circ C}^{\rm 100\,^\circ C} C_P(\rm H_2O, g)\,{\rm d}T = 2.5 kJ mol−1
 H2O(g, 100 °C)

\Delta_{\rm vap} H^\circ (\rm 25\,^\circ C) = 44.0 kJ mol−1
 ↑
\Delta_{\rm vap} H^\circ (\rm 100\,^\circ C) = 40.7 kJ mol−1

\Delta_{\rm f}H^\circ(\rm H_2O, l) = −285.8 kJ mol−1
H2O(l, 25 °C)   →
\displaystyle \int_{\rm 25\,^\circ C}^{\rm 100\,^\circ C} C_P(\rm H_2O, l)\,{\rm d}T =  5.8 kJ mol−1
H2O(l, 100 °C)

脚注

1 水の 25 °C での蒸発は、全圧が 1 気圧という条件で、水の分圧(水蒸気圧)が 飽和蒸気圧以下の場合に限り可能。