化学反応の平衡点の ξ の圧力依存性ってどうやって出すの?

平衡点の ξ (反応進行度) の温度依存性はファント・ホッフ式

 \displaystyle \frac{{\rm d}\ln K_P}{{\rm d}T} = \frac{\Delta_{\rm r}H^\circ}{RT^2}  ... (26.29)

から出すみたいですけど、圧力依存性ってどうやって出すんですか。

このあたり 1)KP が求まった後に、平衡点の ξ を求める方法についての話、分析化学の授業の内容と重なると思い、少し飛ばしてしまいました。

圧平衡定数 KP の算出

まず圧平衡定数 KP を算出します。
圧平衡定数 KP は下記のように 反応に伴う標準ギブスエネルギーの変化 ΔrG° から算出することが可能です。

 \displaystyle K_{\scriptscriptstyle P} = \exp\left( -\frac{\Delta_{\rm r}G^\circ}{RT} \right)  ... (26.11)

(26.11)式は、反応の進行に伴って G が最小になる点、すなわち \displaystyle \frac{\partial G}{\partial \xi} = 0 という条件を使って求めました。

反応式

 \nu_{\scriptscriptstyle \rm A}{\rm A} + \nu_{\scriptscriptstyle \rm B}{\rm B} \rightleftarrows \nu_{\scriptscriptstyle \rm Y}{\rm Y} + \nu_{\scriptscriptstyle \rm Z}{\rm Z} 

では、圧平衡定数 KP は各物質の分圧 Pjを使って

 \displaystyle K_{\scriptscriptstyle P} = \frac{{P_{\scriptscriptstyle \rm Y}}^{\nu_{\scriptscriptstyle \rm Y}} {P_{\scriptscriptstyle \rm Z}}^{\nu_{\scriptscriptstyle \rm Z}}}{{P_{\scriptscriptstyle \rm A}}^{\nu_{\scriptscriptstyle \rm A}} {P_{\scriptscriptstyle \rm B}}^{\nu_{\scriptscriptstyle \rm B}}} 

と書かれます。反応式を指定すると、温度が一定の場合は、圧力が変わっても KP は(26.11)式で求められる一定の値となります。平衡点の ξ の圧力依存性については、算出した KP から考えることとなります。

(26.11)式右辺には T が含まれていますし、ΔrG° も温度依存性があるので、KP は温度によって変化します。それを表記したのが ファント・ホッフ式 ( (26.29)式) です。

とりあえず、温度は一定として考えます。

平衡点の ξ の算出

例として、

N2O4(g) ↔ 2NO2(g)

の反応の、平衡点の ξ と、その圧力依存性について考えてみましょう。

298 K における 圧平衡定数 KP は、(26.11)式を使って、KP = 0.148 と求まります。(この値は温度が変わらない限り一定)

初期の物質量を N2O4(g) 1 mol, NO2(g) 0 mol、
全圧は P で一定とします。

反応進行度を ξ とすると、( ξ ; 単位 mol, この条件では 0 mol < ξ < 1 mol)
反応が ξ だけ進行した時のそれぞれの物質量と分圧は

合計 1 mol + ξ   \displaystyle P
物質 物質量 圧力(分圧)
N2O4(g) 1 mol – ξ  \displaystyle \left(\frac{1\,{\rm mol} - \xi}{1\,{\rm mol} + \xi}\right) P
NO2(g) 2ξ  \displaystyle \left(\frac{2\xi}{1\,{\rm mol} + \xi}\right) P

となります。(単位合わせのために式中に mol を入れていますが、気に入らない人は消してしまっても大きな問題はありません)
従って

 \displaystyle K_P = \frac{P_{\rm NO_2}^2}{P_{\rm N_2O_4}} = \frac{\left(\frac{2\xi}{1\,{\rm mol} + \xi} P\right)^2}{\left(\frac{1\,{\rm mol} - \xi}{1\,{\rm mol} + \xi} P\right)} = \left(\frac{4\xi^2}{1\,{\rm mol}^2 - \xi^2}\right)P   ... (1)

KP = 0.148, P = 1 (bar) を入れて解けば 平衡点での ξ が求まります。 2)圧平衡定数の P は、正しくは P/P0 なので、P0 (= 1 bar)で割った値、すなわち無次元の 1 を入れることとなります。

ここでは数値的な方法(ニュートン-ラフソン法など)で解いてみます。結果、

ξ = −0.189 mol, 0.189 mol

となり、条件から

ξ = 0.189 mol

が平衡点となります。

平衡点の温度、圧力依存性

(1)式の中には 全圧 P が入っているので、この反応では平衡点の ξ に圧力依存性があります。
P が大きいほど、ξ は小さな値になります。

温度(→)、圧力(↓)を変化させたときの G vs ξ の図を下記に示します。

この反応は ΔrH° = 58.0 kJ mol−1 なので、吸熱反応です。

298K 1bar
298K 1bar
348K 1bar
348K 1bar
298K 2bar
298K 2bar
348K 2bar
348K 2bar

N2O4(g) ↔ 2NO2(g)反応における
系のギブスエネルギー G の 温度→、圧力↓ 変化

高校化学で習うル・シャトリエの原理 —温度変化や圧力変化、物質の追加などは、その変化をやわらげる方向に平衡が移動する—に従って平衡点が移動していることがわかります。ル・シャトリエの原理は方向だけを表す定性的なものでしたが、上記の関係式を使えば、定量的に平衡移動を記述することができます。

圧力依存性がない反応

なお、反応によって物質量が変わらない(反応物と生成物の物質量が同じ)場合、例えば

H2(g) + I2(g) ↔ 2HI(g)

では、(1)式に相当する式で P は約分によって消えます。
すなわち、平衡点の ξ に圧力依存性はなくなります。

(1)式は解ける(平衡点の圧力依存性)

反応式によって変わってしまうので、一般性のない話になってしまいますが、
N2O4(g) ↔ 2NO2(g)
の場合、(1)式

 \displaystyle K_P = \left(\frac{4\xi^2}{1\,{\rm mol}^2 - \xi^2}\right)P   ... (1)

は ξ について解くことができます。ちょっと面倒なので単位の mol は抜かせてもらって 3)きちんと単位をつけて計算していくと、(2)式は  \xi = \sqrt{\frac{K_P}{4P+K_P}}\,\rm mol となり、 ξ に単位(mol) がつきます。

 \displaystyle K_P = \left(\frac{4\xi^2}{1 - \xi^2}\right)P 

以降、変形していくと

 \displaystyle (1 - \xi^2)K_P = 4\xi^2 P\\ \\ 4P\xi^2+K_P\xi^2 = K_P\\ \\ (4P+K_P)\xi^2 = K_P\\ \\ \xi^2 = \frac{K_P}{4P+K_P}\\ \\ \xi = \pm \sqrt{\frac{K_P}{4P+K_P}}   

ξ の定義範囲から

 \displaystyle \xi = \sqrt{\frac{K_P}{4P+K_P}}  ... (2)

と、ξ PKP の関数として書き表すことができます。

298 K での KP = 0.148, 348 Kでの KP = 4.283 を代入して図示すると

N2O4分解反応の平衡点のP依存性
N2O4分解反応の平衡点のP依存性

となります。圧力が高くなるほど、平衡は左に傾きます。

圧力 0 bar のときは温度によらず ξ = 1 mol、すなわち 全て NO2 になっているのは興味深いところです。

脚注

1 KP が求まった後に、平衡点の ξ を求める方法についての話
2 圧平衡定数の P は、正しくは P/P0 なので、P0 (= 1 bar)で割った値、すなわち無次元の 1 を入れることとなります。
3 きちんと単位をつけて計算していくと、(2)式は  \xi = \sqrt{\frac{K_P}{4P+K_P}}\,\rm mol となり、 ξ に単位(mol) がつきます。