反応に伴うエンタルピー変化 ΔrH は 標準モル生成エンタルピー ΔfH° から算出します 1)添え字 r は reaction, f は formation の略。マッカーリ・サイモン p.833 。
ΔfH° は物質ごとに固有の値で、テーブルで与えられています (マッカーリ・サイモン p.836)。
ΔrH は
ΔrH = {生成物の ΔfH° の和} − {反応物の ΔfH° の和}
で算出します。通常、ΔrH は反応式の係数と同じモル数が反応した時の値として算出します。
例えば
H2(g) + I2(g) → 2 HI(g)
であれば、H2 と I2 がそれぞれ 1 mol 反応し、HI が 2 mol 生成した場合の エンタルピー変化を計算します。
ΔfH° の 右上の ° は、「標準状態」 2)標準状態は、圧力は 1 bar (1 atm が指定されている場合もある)と規定されています。温度は指定はなく、テーブルごとに温度が指定されています。マッカーリ・サイモンでは 25 °C (298.15 K)です。 で、かつ「 1 mol あたりの」値だということを示しています。 よって、モル数をかけつつ合計します。
ΔrH = {生成物の ΔfH° の和} − {反応物の ΔfH° の和}
= {(2 mol) × (HI の ΔfH°)} − {(1 mol) × (H2 の ΔfH°) + (1 mol) × (I2 の ΔfH°)}
下記のテーブルの値を使い
={(2 mol) × (26.5 kJ mol-1)} − {(1 mol) × (0 kJ mol-1) + (1 mol) × (62.4 kJ mol-1)}
ΔrH = −9.4 kJ
となります。(計算終わり)
物質 | 化学式 | / kJ mol−1 |
ヨウ化水素 | HI(g) | 26.5 |
水素 | H2(g) | 0 |
ヨウ素 | I2(g) | 62.4 |
I2(s) | 0 |
定圧条件の時、 エンタルピー変化は熱の出入りと等しい
ΔH = q
という関係があります。エンタルピーは、定圧条件での熱の出入りを計算するために使われます。
この例では、ΔH の符号は負で、反応によって系のエンタルピーは減少しています。
すなわち、熱 q が系から失われ周囲に放出されている、9.4 kJ の発熱反応だということがわかります。
高校で学んだ熱化学方程式と符号がひっくり返っているので注意してください 3)高校の熱化学方程式は、系から「周囲」に放出されるエネルギー(熱)として符号の正負を決めています。一方、エンタルピーは「系」自身のエネルギーの増減で符号の正負を決めています。よって、符号の正負が入れ替わります。 。
モル生成エンタルピー ΔfH° は、25 °C において、元素ごとの最も安定な単体を基準としているので、H2 (g) の値は 0 になっています。ヨウ素は単体ですが、25 °C では固体が安定なので、I2(g)の値は 0 ではありません。
水素や酸素など、基準となる物質は表では省かれている場合が多いので、注意が必要です。
ΔrH の単位は J です。
よく似た話ですが、後で出てくる 反応進行度 ξ を使い、反応が 1 mol 分進行した時の値、として考える 標準反応エンタルピー ΔrH° という量もあります。考え方は上と同じですが、ΔrH° の単位には、反応進行度 ξ の 1 mol あたりという意味で mol-1 が付きます。
ΔrH° = −9.4 kJ mol-1