物理量の表現と四則演算

物理量の表し方

物理量 Q の値は、その単位 [ Q ] とその単位で得られる数値 { Q } の積で表される。

 Q = \mathrm{\{}\ Q\ \mathrm{\}} [\ Q\ ]  ... (1)

例えばナトリウムの固有線の波長 λ は次のように書かれる。

 \lambda = 5.896 \times 10^{-7}~\mathrm{m}  ... (2)
物理量を表す記号(λ, T など)はイタリック(斜体)で、単位(nm、K など)はローマン(通常の書体)で書くことになっています。また、数値と単位の間は半角スペースを入れ ます。接頭語(n(ナノ)など) と単位(m(メートル)など) はスペースを入れずに連続して書きます。

10 の n 乗の部分は接頭語と置換えてもよい。

 \lambda = 5.896 \times 10^{-7}~\mathrm{m} = 589.6 \times 10 ^{-2} \times 10^{-7}~\mathrm{m} = 589.6 \times 10^{-9}~\mathrm{m}\\ \\ = 589.6~\mathrm{nm} 

同じく、接頭語はそのまま対応する 10n と置換えてよい。

 \lambda = 589.6~\mathrm{nm} = 589.6 \times (10^{-9}~\mathrm{m}) = 589.6 \times 10^{-9}~\mathrm{m} = 5.896 \times 10^{-7}~\mathrm{m} \nonumber 

ただし、単位自体が 2 乗や 3 乗の次元を持つ場合は、指数法則に従って計算することに注意。

 1~\mathrm{nm}^2 = 1~\mathrm{(nm)^2} = 1 \times (10^{-9}~\mathrm{m})^2 = 1 \times 10^{-18}~\mathrm{m}^2 

四則演算の方法(1)

式(1) のように物理量は数値と単位の積で表されることに注意して、方程式に代入するときに数値とともに単位を代入し、数値は数値、単位は単位でそれぞれ計算する。

[例題] 300 K、0.1000 bar (バール) において、密度が 0.1771 g dm−3 となる気体がある。この気体の分子質量 M を求めよ。

[解答] まず、理想気体の状態方程式 PV = nRT を用いて、M を求めるための方程式を立てる。

 \displaystyle PV = nRT = \frac{m}{M}RT \\ \\ M = \frac{m}{V} \frac{RT}{P} = \rho \frac{RT}{P} 

ここで、各物理量に数値と単位の積をそれぞれ代入する。気体定数 R は、教科書の表紙裏にあるものから適切な単位を持つものを選ぼう。

 \displaystyle M = \rho \frac{RT}{P} \\ \\ M = (0.1771~\mathrm{g~dm^{-3}}) \frac{(0.083145~\mathrm{dm^{3}~bar~K^{-1}~mol^{-1}})(300~\mathrm{K})}{(0.1000~\mathrm{bar})} \label{eq7} 

数値は数値、単位は単位で計算する。

 \displaystyle M = \frac{0.1771 \times 0.083145 \times 300}{0.1000} \times \frac{\mathrm{g}~\mathrm{dm^{-3}}~\mathrm{dm^{3}}~\mathrm{bar}~\mathrm{K^{-1}}~\mathrm{mol^{-1}}~\mathrm{K}}{\mathrm{bar}}\\ \\ M = 44.17~\mathrm{g~mol^{-1}} 

この方法により、物理量が単位つきで得られる。

単位換算

物理量の単位が合っておらず、換算しなくてはならない場合は次のようにする。
前の例題で、圧力 76 Torr (トル)と、単位が Torr で与えられていた場合を考えよう。

まず、数式中の 圧力 P のところに、76 Torr を単位付きで代入する。

 \displaystyle M = (0.1771~\mathrm{g~dm^{-3}}) \frac{(0.083145~\mathrm{dm^{3}~bar~K^{-1}~mol^{-1}})(300~\mathrm{K})}{(76~\mathrm{Torr})}  ... (3)

この問題の場合、Torr を bar に換算する必要がある。Torr と bar には次の関係がある。

 1~\mathrm{Torr} = 133.322 \times 10^{-5}~\mathrm{bar}  ... (4)

式(3) において、Torr を代数記号(xy と同じ)と見なし、式(4) を代入する。

 \displaystyle M = (0.1771~\mathrm{g~dm^{-3}}) \frac{(0.083145~\mathrm{dm^{3}~bar~K^{-1}~mol^{-1}})(300~\mathrm{K})}{76(133.322 \times 10^{-5}~\mathrm{bar})} 

以降の方法は前項と同じである。
この例では bar に換算したが、通常はSI単位に揃える。

物理量のもうひとつの表し方

式(2) において両辺を単位で割り、

 \lambda\ /\ \mathrm{m} = 5.896 \times 10^{-7} 

または

 \lambda\ /\ \mathrm{nm} = 589.6 

のように表記する方法がある。
この場合、右辺は(無次元の)単なる数値となる。
この表記法は表に値を列挙する場合(下表参照)などに便利である。

元素名 λ / nm
表の例: 種々の元素の固有線の波長
Na 589.6
Cd 643.8
Hg 579.0
割り算を意味する / (スラッシュ) は、1 つの計算単位では 1 回しか使わないことになっています。
これは a / b / c と書くと (a / b) / c なのか a / (b / c) なのかわからなくなってしまうためです。

a / b c と書いてある場合、 (a / b) × ca / (b × c) と 2 通りに読めますが、「スラッシュは 1 回しか使わない」というルールがあるので、 a / (b × c) を意味することになります。(スラッシュはその左側全体を分子に、右側全体を分母にとる。)

よって、上の表の見出しに密度を書く場合には、 ρ / g / cm3 とは書かずに、 ρ / g  cm−3 と書きます。

(グリーンブック p.7 参照
http://www.nmij.jp/public/repo……df#page=27 )

四則演算の方法(2)

物理量を含む方程式を書く際に、前項のように各物理量を単位で割った形で書く方法がある。

 \displaystyle (M~/~\mathrm{g~mol^{-1}}) = (\rho~/~\mathrm{g~dm^{-3}}) \frac{(R~/~\mathrm{dm^{3}~bar~K^{-1}~mol^{-1}})(T~/~\mathrm{K})}{(P~/~\mathrm{bar})} 

この場合、(ρ / g dm−3) = 0.1771、(T / K) = 300 などというように考えて、右辺に無次元の数値を代入していく。

 \displaystyle (M~/~\mathrm{g~mol^{-1}}) = (0.1771) \frac{(0.083145)(300)}{(0.100)} = 44.17 

数値を計算すれば(M / g mol−1) として無次元の数値 (44.17) が求まる。
この方が簡単だが、方程式を立てた時点で、左辺、右辺の単位が一致していることを確かめておく必要がある。

方法(1)、(2) のどちらの方法にも対応できるように、慣れておいてください。

以上は「 IUPAC 物理化学で用いられる量・単位・記号」 (グリーンブック) から抜粋したものです。

例) bar L の換算

例として、圧力 × 体積 の単位が、 bar (バール) と L (リットル) で与えられているときを考えよう。

圧力 2 bar の定圧条件で、系の体積を 4 L 減少させる圧縮過程で
系になされる仕事 w を求めよ

圧力 2 bar の等圧条件で、系の体積を 4 L 減少させる圧縮過程で系になされる仕事 w

 w = -P \Delta V 

となる。P と ΔV に数値を単位付きで代入して

 w = -(2 \rm\ bar)(-4 \rm\ L)  ... (5)

(体積が「減少」するので、ΔV はマイナスとなる)

1 bar と 1 L をそれぞれSI単位系に換算する。
1 L は 一辺が 0.1 m の立方体の体積で、1 dm3 に等しい。

1 L = 1 dm3 = 1 (dm)3 = 1 (10−1 m)3 = 10-3 m3

 \rm 1~bar = 10^5~Pa\\ \\ \rm 1~L = 10^{-3}~m^3 

これを(5)式に代入

 w = -(2 \cdot \rm 10^5~Pa)(-4 \cdot \rm10^{-3}~m^3) 

Pa (パスカル) を m を含む形に書き直して

 \rm 1~Pa = N~m^{-2}\\ 

(1 Pa は圧力の単位で、1 m2 あたり 1 N の力が働いている)

 w = -(2 \cdot \rm 10^5~N~m^{-2})(-4 \cdot \rm10^{-3}~m^3) 

数値は数値、単位は単位で計算

 w = 8 \cdot 10^2\rm~N~m 

N m はエネルギーの次元を持ち、 J (ジュール)と置き換えることができる。

N (ニュートン, 力の単位) と J (ジュール, エネルギーの単位) は
頻出なので、基本単位との関係は覚えておくとよい。

 \rm 1~N = kg~m~s^{-2}\\ \\ \rm 1~J = N~m = kg~m^2~s^{-2} 

(1 N は力の単位で、1 kg の物体に 1 m s−2 (1 メートル毎秒毎秒) の加速度を与える)
(1 J はエネルギーの単位で、 ある物体に1 N の力が働いている場の中で、それを 1 m 移動させるのに必要なエネルギー)

というわけで、求める答えは

 w = 800~\rm J 

となる。

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