解答
まず、m2 = 1 kg として、重力ポテンシャル V
を図示してみよう。m1 は地球の質量である。
上の青線が V である。図では示せていないが、r → ∞ のとき V → 0 であり、そこから地球の重力によって、地球に近づくにつれて V は小さくなる(安定になる)。
赤で示した横軸 r = 6.36 × 106 m の位置が地球表面であり、 V(Rearth) は −6.27 ×107 J (ただし、この値は質量 m2 に比例して変化する)。ここから宇宙に脱出するのは、青い線に沿ってポテンシャルの坂を上り、 V = 0 の高さまで行くことに相当する。
r の代わりに、地球を原点において x, y 座標を使って書くとこんな感じなのだがイメージできるだろうか。
上図の縦軸(z 軸)はポテンシャルエネルギーである。宇宙のポテンシャルエネルギーは平坦だが、そこに地球を「置く」と、あたかもやわらかいゴムの板に重りを置いたがごとくポテンシャルエネルギーが低くなる。我々はこの「重力井戸」の底におり、ここから坂を上って宇宙まで行くことになる。
ロケットなり分子なりを、垂直に打ち上げ、地球を脱出させるには、ポテンシャルエネルギーに等しいだけの運動エネルギー Ek があればよい。
V に最初の式を代入し(m1 = Mearth, r = Rearth)、u について解くと
が導かれる。なお、脱出させる物体の質量 m2 は導出の過程で消え、上式には残っていない。つまり、脱出速度は質量によらない(ロケットでも分子でも脱出速度は同じ)ことがわかる。
数値を代入すると
(J = kg m2 s−2)
というわけで、脱出速度は水素分子、窒素分子とも 11200 m/s (秒速 11.2 km = 時速 40320 km)。
分子の平均の速さ は 式(27.42)
... (27.42)
で与えられる。
同じ温度だと、分子種が違っても分子の平均の(並進)運動エネルギーが等しい。よって質量が異なると、分子の速さは異なる。(上式には M が入ってくる)
T について解いて
数値を代入する。(分子量 M(H2) = 2.02 ×10−3 kg mol−1 に注意)
水素分子: 1.20 × 103 K
窒素分子: 1.66 × 105 K
脱出速度を得るための温度は相当に高いが、分子はマクスウェル-ボルツマン分布(教科書 図27.2)で表される速度の分布を持っているので、室温でもごく一部の分子は脱出速度に相当する運動エネルギーを持っており、気体分子は次第に(ゆっくりとだが)宇宙に拡散してゆく。
大気から分子が失われていく割合は分子量が小さいものほど大きい。