圧力の単位

pressure

物理量はSI単位を使って表すことが国際的に決められています。よって圧力の単位は Pa (パスカル = N m−2) — 1 m2 あたり 1 N(ニュートン) の力が生じている — です。もちろん、kPa(キロパスカル)や MPa (メガパスカル)のように、接頭語はつけてもかまいません。

しかし、圧力は Pa 以外の古い単位もまだよく使われています。大気圧を Pa 単位で表すと 約 10万 Pa (≈ 100 kPa) とかなり大きくなってしまうせいかもしれません。最近は Pa に統一されてきていますが、単位の換算はできるようにしておかなくてはなりません。以下によく使われている単位について列挙します。

Pa パスカル

(pascal)

圧力の単位は通常 Pa を使います。

1 Pa は 1 m2 あたりに 1 N の力が働いている状態です。

1 Pa = 1 N m−2 = 1 kg m−1 s−2

1 気圧は 101325 Pa です。おおむね 100 kPa (キロパスカル)と覚えておくとよいでしょう。(松本市の大気圧)

気圧を表す場合は、接頭語 h (ヘクト) を用いて表されます(1 atm = 1013.25 hPa)。
これは後述の mbar (ミリバール) との対応のためです。

高圧ボンベ(満タン状態で 約 150 atm) に取り付け、圧力を低くして取り出すレギュレータには MPa(メガパスカル) 単位で数値が振ってあります。この場合、 1 MPa ≈ 10 atm なので、注意してください。

ボンベ用レギュレータ
ボンベ用レギュレータ
窒素ボンベ(高さ約 1 m)
窒素ボンベ(高さ約 1 m)

bar バール

(bar)

1 bar = 105 Pa
1 Pa = 10−5 bar

1 bar はSI単位ではないのですが、ちょうど 100 kPa であり、おおむね 1 気圧(1 atm)なので、最近は atm の代わりによく使われています。

天気予報などでは、かつて(1992年まで) mbar (ミリバール) が気圧の単位として使われていました。
1 mbar は 1 hPa (ヘクトパスカル)と同じです。

IUPAC は 100 kPa (= 1 bar) を「標準圧力」とすることを推奨しています 1)標準圧力 p0 = 100 kPa (= 1 bar) の値は IUPAC が 1982年に推奨(グリーンブック p. 74)。 それ以前は p0 = 101325 Pa (= 1 atm) が使われており、現在でも 1 atm が標準圧力として使われていることがあります。グリーンブックには「p0 の値はそのつど指定しなければならない」とあります。 。

マッカーリ・サイモンでは
1 bar での沸点、融点を標準沸点(standard boiling point)、標準融点(standard melting point)、
1 atm での沸点、融点を通常沸点(normal boiling point)、通常融点(normal melting point)と呼び分けています。ややこしいですね。

atm 標準大気圧

(standard atmosphere)

1 atm = 101325 Pa
1 Pa = 9.86923 × 10−6 atm

ご存知、大気圧を基準とした圧力表示です。ただし、1 atm は標高 0 m での平均圧力で、高度が高くなるほど圧力は低くなります。(松本市の平均大気圧は、約 940 hPa)

大気圧は地球に存在している空気の総量に依存するので、ほぼ 100 kPa に近い値になっているのは偶然です。同じようにたまたま切りの良い数値になっているものには他に重力加速度(9.8 m s−2)があります。これにより、水深 10 m ごとに 圧力(水圧)はおおよそ 1 atm 上昇します。

もし我々が金星人だったなら、大気圧は 9320 kPa (地球の 93.2 倍)、重力加速度は 8.9 m s−2 でした。(どちらもわりと 10 のべき乗に近い ^_^;)

どうせならぴったりだといいのに、と思いますが、次の Torr のように 760 とか半端な数字が入ってくると、ぱっと換算ができないので、やはり 100 kPa に近い(誤差 1.3 % !) 値だったのはラッキーだと思います。

最近は atm の代わりに前述の bar を使うことが多くなりました。しかし、

1 atm ≈ 1013 hPa

というのは化学科学生としては覚えておくべき数値だと思います。

Torr トル

1 Torr = 133.322 Pa
1 Pa = 7.5006 × 10−3 Torr
1 atm = 760 Torr

かつて圧力を測定するのに用いられていた水銀マノメータ 2)今は有害性のため水銀を使った圧力計はほとんど使われていません。が、割と最近まで安価な測定装置として活躍していました。私の大学の同期 F 君は、大学院生当時、ガラスの真空セルにつながった水銀マノメータを使って、ものすごく細かく圧力を変えながら吸着等温線をとっていました。ガラスの容器に活性炭を入れて石英バネにつるし、窒素ガスをちょこっといれてはバネの伸びと圧力を記録するのです。ガラス容器につながった水銀柱の裏に長さ 1 m の定規が貼ってあり、それで水銀の液面を読みます。原理上は目盛(1 mm)の 1/10、つまり0.1 Torr まで測れるはずですなのですが、水銀柱というのはガスを入れたか抜いたかによって液面が上に凸になったり下に凸になったりするので(ずっと真空にしておくと揮発す るし)、ふつうそんなに細かく読めません。彼は心眼を発揮して 0.1 Torr 単位の実験をしていました。しかしあるとき「飯山ばかり高い装置を使っていてずるい。俺は補修用のガラス管くらいしか買ったことがない」とか言いだ し、それが教授の耳に入って 圧電素子のゆがみによって圧力を計測する、高精度圧力センサーを買ってもらったのでした(今でも30万円くらいする)。買ってもらった圧力センサーの精度は 0.001 Torr くらいです。非常に細かく取れるので、凝り性の彼の実験時間はその後ますます長くなってしまうのですが。 (水銀柱; ガラス管の中に水銀を入れたもの)に由来する圧力単位で、大気圧と高さ 76 cm の水銀柱がつりあうので、1 atm = 760 mmHg になっています。1 mmHg = 1 Torr、すなわち水銀柱 1 mm 分の圧力が 1 Torr です。Torr は水銀柱などを用いて真空について研究した 17 世紀の科学者、トリチェリに由来しています。

そのような経緯で、真空関係の分野では Torr は根強く使われています。ロータリーポンプの到達真空度は 10−3 Torr、ディフュージョンポンプなら 10−6 Torr といった具合です。Pa に換算するには、おおまかには 2 桁あげてやればいいですね (それぞれ 10−1 Pa, 10−4 Pa)。

mmHg 慣用ミリメートル水銀柱

(conventional millimetre of mercury)

1 mmHg = 133.322 Pa
1 Pa = 7.5006 × 10−3 mmHg
1 atm = 760 mmHg

ミリメートルエイチジー と読まれることが多いようです。Hg は水銀のことです。

前項、Torrと同じです。(厳密には少し違うようですが)

kgf/cm2 工学気圧

(technical atomosphere)

1 kgf / cm2 =  98066.5 Pa
1 kgf / cm2 = 0.96784 atm

1 kgf / cm2 は、1 cm2 の面積あたりに 1 kg重 (9.8 N)の力が働いている状態です 3)kg は質量の単位、kgf (または kg重) は力の単位です。。 1 kgf / cm2 はおおむね 1 気圧 (0.96784 atm) になっています。

古いレギュレータなどはこの単位で記述されています。

psi 重量ポンド毎平方インチ

pound-force per square inch, lbf / in2

1 psi = 6.8948 × 103 Pa
1 atm = 14.696 psi

欧米圏(アメリカだけ?)ではいまだに ポンド(lb) や インチ (in)が使われています。困ったものです。

1 ポンドは 約 450 g、 1 インチは 2.54 cm です。1 平方インチあたり 1 ポンド重 といわれても困りますが、スポーツ自転車のチューブなどはアメリカなどの市場で扱われる関係で、耐圧が psi で書かれていることがあります。1 atm がおおむね 15 psi ですね。

ゲージ圧について

圧力単位の末尾に G がついている場合があります。(PaG など)
これは大気圧との差だということを示しています。
(絶対圧 3 気圧のとき、ゲージ圧は +2 気圧。)

脚注

1 標準圧力 p0 = 100 kPa (= 1 bar) の値は IUPAC が 1982年に推奨(グリーンブック p. 74)。 それ以前は p0 = 101325 Pa (= 1 atm) が使われており、現在でも 1 atm が標準圧力として使われていることがあります。グリーンブックには「p0 の値はそのつど指定しなければならない」とあります。
2 今は有害性のため水銀を使った圧力計はほとんど使われていません。が、割と最近まで安価な測定装置として活躍していました。私の大学の同期 F 君は、大学院生当時、ガラスの真空セルにつながった水銀マノメータを使って、ものすごく細かく圧力を変えながら吸着等温線をとっていました。ガラスの容器に活性炭を入れて石英バネにつるし、窒素ガスをちょこっといれてはバネの伸びと圧力を記録するのです。ガラス容器につながった水銀柱の裏に長さ 1 m の定規が貼ってあり、それで水銀の液面を読みます。原理上は目盛(1 mm)の 1/10、つまり0.1 Torr まで測れるはずですなのですが、水銀柱というのはガスを入れたか抜いたかによって液面が上に凸になったり下に凸になったりするので(ずっと真空にしておくと揮発す るし)、ふつうそんなに細かく読めません。彼は心眼を発揮して 0.1 Torr 単位の実験をしていました。しかしあるとき「飯山ばかり高い装置を使っていてずるい。俺は補修用のガラス管くらいしか買ったことがない」とか言いだ し、それが教授の耳に入って 圧電素子のゆがみによって圧力を計測する、高精度圧力センサーを買ってもらったのでした(今でも30万円くらいする)。買ってもらった圧力センサーの精度は 0.001 Torr くらいです。非常に細かく取れるので、凝り性の彼の実験時間はその後ますます長くなってしまうのですが。
3 kg は質量の単位、kgf (または kg重) は力の単位です。