19-19 定圧過程の w, q

解答

熱容量 C は、単原子理想気体の場合

 \displaystyle\bar{C}_V = \frac{3}{2}R 

と表されるように、温度が変わっても一定(式の中に T が含まれていない)、と近似することが多いが、この問題では実際の系に合わせ温度に対して変化するものとして扱っている 1)理想気体であっても、振動エネルギーまで考えると、熱容量は温度依存性を持つ。

与えられた熱容量 CP をグラフ化すると、下記のようになる。

(補足1)
エタン(C2H6)は 8 原子分子であり、運動の自由度の合計は 8 × 3 = 24。うち並進の自由度は 3、回転 3。残りが振動の自由度となり、振動の自由度は 18。
エネルギー等分配則から、並進運動による熱容量(Ctrans) = (3/2) R、回転運動による熱容量 (Crot) = (3/2) R
ここまでの寄与を考えると CP = CV + R = Ctrans + Crot + R = 4R となるはず。
上のグラフ(CPR で割ってある)は 0 °C ですでに 4 を越えているので、分子内の振動のエネルギーが無視できないことがわかる。十分温度が高くなれば、振動運動による熱容量は(Cvib) = 18 R となり、合計の熱容量は
CP = 22 R となるはずだが、1200 °C でもそれには達していない。
(補足2)
このように「温度によって変化する量」を表すときは、
k0 + k1 T + k2 T 2 + k3 T 3 + k4 T 4 + ···
と温度のべき乗(温度 T の多項式)で表すのが常套(じょうとう)手段。(このような多項式で表記する方法はビリアル展開と呼ばれる。)
T の次数の高い項を加えれば加えるほど(より広い温度範囲で)正確になっていく。

定圧過程の場合

まず ΔH については上記グラフの 25 °C から 1200 °C までの面積を求めればよい。

ΔH は、定圧過程で吸収される熱 q に等しい。

\displaystyle \Delta H = q = \int_{T_1}^{T_2} C_P \, {\rm d}T =\int \Bigl\{ 0.06436 + (2.137 \times 10^{-2})T + (-8.263 \times 10^{-6})T^2 + (1.024 \times 10^{-9})T^3 \Bigr\} R \, {\rm d}T 

\displaystyle = R \Bigl[ 0.06436 T + \frac{1}{2}(2.137 \times 10^{-2})T^2 + \frac{1}{3}(-8.263 \times 10^{-6})T^3 + \frac{1}{4}(1.024 \times 10^{-9})T^4 \}  \Bigr]_{25 + 273.15}^{1200 + 273.15} 

= 14785 R = 122.9 {\rm ~kJ~mol^{-1}}

上の積分で 

\displaystyle \left[bT^2\right]_{T_1}^{T_2} = b(T_2^2-T_1^2)

とすべきところを

\displaystyle b(T_2-T_1)^2

としてしまいがちなので注意。
( (T_2-T_1)^2 \ne T_2^2-T_1^2)

グラフから見てわかるように、この問題(エタンの高温状態)では
熱容量が温度によってかなり大きく変わるので、
298 K、あるいは 1473 Kの熱容量を出して

\displaystyle \Delta H = C_P({\rm 298 K}) \Delta T \\ \\ \Delta H = C_P({\rm 1473 K}) \Delta T

だと正しい値からかなり大きくずれてしまう。

内部エネルギーの増加 ΔU は定容熱容量と温度から求められる。

 \displaystyle \Delta U = \int_{T_1}^{T_2} C_V \, {\rm d}T = \int_{T_1}^{T_2} (C_P - R) \, {\rm d}T 

\displaystyle = \int_{T_1}^{T_2} C_P \, {\rm d}T - \int_{T_1}^{T_2} R \, {\rm d}T = 122.9 {\rm\ kJ\ mol^{-1}} - \Bigl[ RT \Bigr]_{25 + 273.15}^{1200 + 273.15}

\displaystyle = 122.9 {\rm\ kJ\ mol^{-1}} - 9.770 {\rm ~kJ~mol^{-1}} = 113.1 {\rm ~kJ~mol^{-1}}

熱力学第一法則より

\displaystyle w = \Delta U -q = - 9.770 {\rm ~kJ~mol^{-1}}

以上より、加えられた熱 q (122.9 kJ)の一部が系が膨張する際の仕事 w (9.8 kJ)に使われ(系がエネルギーを失っているので符号はマイナス)、残りが内部エネルギーの増加 ΔU (113.1 kJ)に使われたことがわかる。

w = −9.770 kJ mol−1
q
= 122.9 kJ mol−1
ΔU = 113.1 kJ mol−1
ΔH = 122.9 kJ mol−1

定容過程の場合

体積が変わらないので w = 0
U や H は状態関数なので、ΔU, ΔH は過程によらず最初の状態と最後の状態だけで決まる。ここでは最後の状態の P, V は異なるが、温度 T は等しい。「理想気体」の場合、温度が等しければ(1200°C)、  U は同じ値になる。また理想気体であれば PV = 一定 であるため、温度が等しければ H も同じ値になる。よって ΔU, ΔH は定圧過程と同じ値になる。定容過程では q は Δに等しい。

w = 0 kJ mol−1
q
= 113.1 kJ mol−1
ΔU = 113.1 kJ mol−1
ΔH = 122.9 kJ mol−1

脚注

1 理想気体であっても、振動エネルギーまで考えると、熱容量は温度依存性を持つ。