27-41 星間分子の密度

解答

平均自由行程 l は分子が衝突してから次に衝突するまでに進む距離のことである。

l は分子の平均速さ \langle u \rangle に比例し、衝突頻度 z_{\rm A}  に反比例する。

  l = \displaystyle \frac{\langle u \rangle}{z_{\rm A}}  

宇宙空間では、分子の数密度が非常に低く、衝突はめったに起こらないと考えられるので、
l は大気圧(1 bar, 25 °C)での窒素の 65 nm に比べてかなり長いことが予想される。

衝突頻度 z_{\rm A}  は

  z_{\rm A} = \sqrt{2} \rho \sigma \langle u \rangle   ... (27.50)

で表される。

衝突断面積 σ は粒子の直径を d として 1)分子の断面積は 半径2 × π = (1/4) π d2 ですが、衝突する相手である他の水素分子も直径を持っているので、衝突断面積には 1/4 はつきません。

  \sigma = \pi d^2  

ρ は数密度である。式(27.50) に代入すると

  z_{\rm A} = \sqrt{2} \, \rho \pi d^2 \langle u \rangle  

  z_{\rm A} = \sqrt{2} (1 {\rm\ m^{-3}}) (3.14) (100 {\rm\ pm})^2 \langle u \rangle  

  z_{\rm A} = (4.44 \times 10^{-20} {\rm\ m^{-1}}) \langle u \rangle  

最初の式に代入すると \langle u \rangle は約分されて消える。

  l = \displaystyle \frac{\langle u \rangle}{(4.44 \times 10^{-20} {\rm\ m^{-1}}) \langle u \rangle}  

  l = 2.25 \times 10^{19} \rm\ m  

2 × 1019 m は 約 2300 光年。 2)中原 勝著/集合体の熱力学・統計熱力学によると「星間物質の密度は 102~103 dm−3」とあります。仮に 103 dm−3 とすると、平均自由行程は 6 桁ほど小さくなります。

10 K における水素原子の \langle u \rangle を計算し(460 m s−1)、1 / z_{\rm A} を求める 3)z_{\rm A} が衝突頻度 = 1 秒あたりの衝突回数(s−1)なので、その逆数 1 / z_{\rm A}  が衝突の時間間隔(s)になります。 と、分子 1 個の衝突間隔は 約 15 億年となる。

この頻度ではほとんど化学反応が起こることはなさそうだが、実際には、星の重力などで密度が高くなったり、氷の粒の表面に原子が付着し反応するなどして、宇宙空間にも複雑な分子が存在していることが知られている。
(野辺山の電波天文台で関連する展示を見ることができます。)

野辺山電波天文台の天井にぶら下がっていた星間分子模型

脚注

1 分子の断面積は 半径2 × π = (1/4) π d2 ですが、衝突する相手である他の水素分子も直径を持っているので、衝突断面積には 1/4 はつきません。
2 中原 勝著/集合体の熱力学・統計熱力学によると「星間物質の密度は 102~103 dm−3」とあります。仮に 103 dm−3 とすると、平均自由行程は 6 桁ほど小さくなります。
3 z_{\rm A} が衝突頻度 = 1 秒あたりの衝突回数(s−1)なので、その逆数 1 / z_{\rm A}  が衝突の時間間隔(s)になります。