18-20 CV の温度依存性

解答

まず

  \bar{C}_V (T) / R \\= 2.192 + (9.240 \times 10^{-4} {\rm\ K^{-1}}) T - (1.41 \times 10^{-7} {\rm\ K^{-2}}) T^2   ...(1)

についてプロットしてみよう。これは実験値(実測値)に相当する。このように実験値を少ないパラメータで表すには、問題となる変数 (この場合 T) のべき乗の式 a + bT + cT2 + … で表すのが常套(じょうとう)手段である。(ビリアル展開、という)

式中 K−1 や K−2 は 温度 T の単位がケルビンであることを示しており、右辺の T に温度を単位(K)つきで代入すると無次元になる。左辺についてみると、 モル熱容量(\bar{C}_V)の単位が J K−1 mol−1気体定数 R の単位も同じく J K−1 mol−1 であるから、左辺も無次元になっている。

さて、式(1)をプロットすると

となる。熱容量は「その物質を 1 K 温めるのに必要なエネルギー」であるから、気体の CO 1 mol について、300 K 付近では 1 K 温めるのに 約 2.5 R ( = 20.8 J) のエネルギーが必要であることがわかる。 熱容量は温度の上昇とともに大きくなり、 1500 K 付近では 約 3.3 R ( = 27.4 J) のエネルギーが必要になる。

さて一方、式(18.41) は、統計熱力学から理論的に求められた熱容量を表している。

  \displaystyle \frac{\bar{C}_V}{R} = \frac{5}{2} + \left( \frac{\Theta_{\rm vib}}{T} \right)^2 \frac{e^{-\Theta_{\rm vib}/T}}{(1-e^{-\Theta_{\rm vib}/T})^2} ... (18.41)
\Theta_{\rm vib} = 3103 \rm\ K

を代入し、プロットする。

青が経験式(式(1))、赤が理論式 (式(18.41)) である。両者は非常によく一致している。

理論式の中身

さて、理論式の中身についてもう少し詳しく見てみよう。

分子の運動エネルギーは、「並進」「回転」「振動」の 3 つに分離することができ、それぞれの理論式を導くことができる。

並進運動エネルギー

例を挙げると、並進運動エネルギー Etrans は 絶対温度に比例し、

  \langle E_{\rm trans} \rangle = \displaystyle \frac{3}{2} R T   ... (18.7)

となる。単原子分子ならこれでおしまいだが、二原子(以上)分子の場合、これに回転運動エネルギー Erot と振動運動エネルギー Evib を加えなくてはならない。

回転運動エネルギー

回転運動エネルギー Erot は次の式で表される。これも絶対温度に比例する 1)3原子以上の場合で、水のような非直線型分子の場合、Erot = (3/2) R になる。自由度のページを参照。

  \langle E_{\rm rot} \rangle = \displaystyle R T   ... 教科書 p.787 1 行目

振動運動エネルギー

振動運動エネルギー Evib は次の式のようになる。

  \langle E_{\rm vib} \rangle = \displaystyle R \left(\frac{\Theta_{\rm vib}}{2} + \frac{\Theta_{\rm vib}}{e^{\Theta_{\rm vib}/T}-1}\right)   ...(18.25)

Evib は 温度に単純に比例するわけではなく、ややこしい。これは振動エネルギーが量子化されているためである。(並進や回転も量子化されているのだが、振動はエネルギーのとびとびの幅が大きく、量子化の影響が大きい。)

ここまでの 3 つのエネルギーをプロットしてみよう。(COの場合)
この時の縦軸は内部エネルギー\bar{U}(を R で割ったもの)に相当している。

緑が並進、オレンジが回転、紫が振動である。

もう少し広い温度範囲についてプロットすると、こうなっている。

紫(振動エネルギー)をみると、低温では温度に対し一定の値となっている。
これは 零点振動エネルギー ( = 量子効果のために 0 K においても分子は振動エネルギーを持っている) である。温度が 600 K を超えるあたりから少しずつ振動エネルギーは大きくなる。
これは 振動エネルギーが、基底状態から 2 つ目、3 つ目の振動エネルギーへと次第に移っていく寄与による。

熱容量は「その物質を 1 K 温めるのに必要なエネルギー」であるから、上のグラフの微分になる。

それぞれの式を T で微分すると

  \displaystyle \bar{C}_{V, \rm trans} = \frac{3}{2} R
  \displaystyle \bar{C}_{V, \rm rot} = R
  \displaystyle \bar{C}_{V, \rm vib} = R \left( \frac{\Theta_{\rm vib}}{T} \right)^2 \frac{e^{-\Theta_{\rm vib}/T}}{(1-e^{-\Theta_{\rm vib}/T})^2}

となる 2)振動のエネルギー(18.25)式の第1項 = 零点エネルギーの項は微分すると消える。すなわち、零点エネルギーは熱容量には影響しない。。プロットしてみよう。

緑(並進)とオレンジ(回転)の寄与は一定値となり、紫(振動)は最初は0、その後温度の上昇とともに次第に大きくなる。零点振動エネルギーは温度で変化しないので、熱容量には影響しない。この 3 本を合計したものが、式(18.41) = 2 つめのグラフの赤線 である。

紫は、温度が十分高くなると R (上のグラフの縦軸 1)に近づく。

CO の場合は、上でみたように 1000 K 付近を中心に振動の寄与が大きくなっていくが、この温度は物質によって異なる。量子化の効果が大きい H2 ではもっと高い温度にならないと振動の寄与はでてこない。I2 ではもっと低温で出てくる。

大まかに言って、室温で気体であるような小さな分子の場合、振動エネルギーは室温(約 300 K)付近では熱容量に寄与しないといっていいだろう。

逆に固体の場合は量子化の効果が小さく、振動エネルギーは連続値に近い状態となり、室温でほぼ一定値 (3R) となっている。これはデュロン-プティの法則と呼ばれる。
室温が、上のグラフの紫の線の右側のほう・・・上がりきって一定値になっている領域に相当しているわけである。(教科書 p.742 図17.4 参照)

脚注

1 3原子以上の場合で、水のような非直線型分子の場合、Erot = (3/2) R になる。自由度のページを参照。
2 振動のエネルギー(18.25)式の第1項 = 零点エネルギーの項は微分すると消える。すなわち、零点エネルギーは熱容量には影響しない。