分子ファイルを作成する

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分子の座標ファイルを作成する

エディタを使って座標ファイルを作る

VESTA が表示する分子の構造(原子の位置)は、座標ファイルの中に書かれています。
先ほど使った、エタノール分子の座標ファイル ethanol.xyz の中(実体)を見てみましょう。

実体を見るためには [エディタ] と呼ばれるソフトウェアを使います。
この授業では [メモ帳] (NotePad)を使います 1)[メモ帳] は Windows 標準添付のソフトウェアです。 (Macの人は脚注参照→ 2)Mac OS Xの場合、標準で搭載されている[テキストエディタ]が使えます。起動時は[リッチテキスト]モードになっているので、[テキストエディット]-[環境設定…]-[フォーマット]で [標準テキスト]モードに切り替えてください。拡張子(ファイル名の最後の部分)は強制的に .txt となってしまうので、ファイルをセーブした後、ファイル名末尾を .xyz に直してください。 )。

[メモ帳] は [スタートメニュー]-[Windowsアクセサリ]-[メモ帳] あたりにあると思います。(場所が違う可能性あり)

  1. 画面左下の[スタートボタン]を押し、[Windows アクセサリ] の中の[メモ帳]をクリック
    メモ帳

ダウンロードした ethanol.xyz を、起動した [メモ帳] に Drag & Drop、または [ファイル]-[開く] で 開いてください。

NotePadでethanol.xyzを開いたところ
[メモ帳] で ethanol.xyzを開いたところ
ethanol.xyz は “XMol XYZ” 形式に従って書かれています。
(ファイルの拡張子は .xyz )

“XMol XYZ” 形式は分子の情報を以下のように書くように定められています。

  • 1 行目 原子の個数を書く
  • 2 行目 分子の名称を書く(日本語禁止)
  • 3 行目以降
    1 行が 1 つの原子の情報を表している。それぞれの行には各原子の
    元素記号 x 座標 y 座標 z 座標
    を書く。座標は Å (オングストローム) 単位  3)1 Å = 10-10 m 。 元素記号と各座標の間はスペースで区切る。
    (スペースの数は何個でも良い。ただし、全角スペースは使わないこと。タブ(Tab) も区切りに使えるが、タブの場合は 2 個以上連続して並べてはいけない。)

つまり、原子の座標を調べ、上のようなフォーマットで 拡張子を .xyz としたファイルを作れば、どのような分子でも図に描くことができます。

問題 4 (メタン)

下記の座標を利用してメタン分子の座標ファイルを作成し、それを使ってメタンの分子模型を図示せよ。またVESTAを用いてメタン分子のH-C-H結合角を求めよ。

メタン分子の原子座標
[メモ帳] で、[ファイル]-[新規] を選んで新しいファイルを開き、”XMol XYZ” 形式に従って上記の座標を入力します。以下の点に注意してください。

  • ファイルの中では全角文字は使わない。
  • 1行目は原子数を入力
  • 2行目は分子名(methane または CH4) を入力
  • 3行目以降は、元素名、xyz座標をスペースで区切り入力

座標データが入力できたら、ファイルの種類を [すべてのファイル] に変更して、methane.xyz という名前でセーブしてください。4)NotePad++ の場合、ファイルの種類は[Normal text file (*.txt)] のままでよいようです。
save1
(ファイルの種類を [テキストファイル] のままでセーブすると、ファイル名が methane.xyz.txt となってしまうようです。その場合、できたファイルの名前を変更して最後の .txt を消してください。)

うまく入力できていれば、作ったファイル(methane.xyz) を VESTA で開くとメタンの分子模型が表示されるはずです。

1カ所でも間違いがあると、VESTAで開いたときに、VESTAがエラーを出して強制終了してしまうことがあります。その場合はよくファイルの内容を見直してください。

間違いの例

  • 1行目の原子数が違っていた
  • 2行目が抜けていた
  • 数値の小数点がカンマになっていた
  • 区切りのスペースが抜けていた
  • スペースや数字に全角文字を使っていた
  • 1つの数値に小数点を2回使っていた
  • 小数点をつけるのを忘れて、ものすごく遠いところに原子を描いていた など

エクセルを使って座標を計算する

次に、水分子とベンゼン分子を描いてみましょう。ただし、原子の位置は自分で計算してもらいます。
次の問題 5 を行ってください。

問題 5 (水、ベンゼン)

(1) 水蒸気の赤外、ラマンスペクトルの研究によると、
水分子の O-H 結合距離は 0.9575 Å、H-O-H 結合角は 104.31° である。
水分子の構造モデルを図示せよ。

(2) 同じく、ベンゼン分子 (C6H6) の C-C 結合距離は 1.397 Å、C-H 結合距離は 1.076 Å である。ベンゼン分子の構造モデルを図示せよ。
(どこを原点(x = 0, y = 0, z = 0)にすれば計算が楽か、よく考えてください。必ずしも原点に原子がある必要はありません。)

座標計算は、エクセルを使って行います。
次の方法で、エクセルを使って xyz ファイルに入力するデータを作成することができます。

エクセルで座標を並べたところ (例はメタン分子。数値は正しい値ではありません)
  1. 上図のように、xyz 形式に合うように原子数や元素名、座標をエクセルのセルに並べる (座標は三角関数を使って計算する)
  2. 上図のように、xyz 形式の部分を選択して [コピー] する
  3. [メモ帳] を立ち上げ新しいファイルを開く
    (すでにファイルが開かれているときは、[ファイル]-[新規作成] で新しいファイルを作成する)
  4. [メモ帳] に [ペースト] する
    ([メモ帳]にペーストすると、数式ではなく答えの「数値」が貼り付けられます)
  5. .xyz をつけたファイル名でセーブする
エディタにペーストしたところ

これでエクセルから[メモ帳]にデータを移動し、.xyz ファイルを作る方法が分かりました。

各原子の座標はエクセル上で三角関数を使って計算します。
エクセルから[メモ帳]にペーストする際には、数式ではなく答えの数値が貼り付けられますので、エクセル上では例えば

=10∗sin(radians(30))

というように、直接数式を入力してかまいません。

エクセルでの三角関数の使い方を下に書いておきます。角度として ラジアン を使うことに注意してください。
水とベンゼン分子のモデルを順に作成してください。

分子模型を製作後、計算が合っているかどうか VESTA 上で原子間距離や角度を確かめてみること!

エクセルによる三角関数の計算

sin30° → = sin(30*3.14/180)
または → = sin(30*pi()/180)
または → = sin(radians(30))
(いずれも 30° をラジアンに変換してから sin に入れている)

※ pi() は円周率を返す関数。(かっこの中には何も入れない)
radians() は度をラジアンに変換する関数。
ラジアン→度の変換は degrees() で行える。
他、覚えておいて欲しい関数は
^ (ハット) 累乗 (2の3乗 → =2^3),
log() 常用対数,
ln() 自然対数,
exp() 指数関数 (eの3乗 → =exp(3) )
sqrt() ルート(ルート2→ = sqrt(2) 、=2^(1/2)でも同じ)
など。参照→エクセルの関数 (エクセルのメニュー中の[数式]-[関数の挿入]で一覧が出てきます。)

問題 5-2 (炭化水素類; 余剰問題)

(余裕のある人は挑戦してください。)

次の分子を図示せよ。

  1. エタン(C2H6) (ねじれ型配座が最安定)
    C-C-H 結合角 109.6°、C-C 結合距離 154 pm、C-H 結合距離 110 pm
  2. エチレン(C2H4)
    C-C-H 結合角 121.7°、C-C 結合距離 133 pm、C-H 結合距離 108 pm
  3. アセチレン(C2H2)
    C-C-H 結合角 180°、C-C 結合距離 120 pm、C-H 結合距離 106 pm

1 pm (ピコメートル) = 0.01 Å
参照→接頭語


脚注

1 [メモ帳] は Windows 標準添付のソフトウェアです。
2 Mac OS Xの場合、標準で搭載されている[テキストエディタ]が使えます。起動時は[リッチテキスト]モードになっているので、[テキストエディット]-[環境設定…]-[フォーマット]で [標準テキスト]モードに切り替えてください。拡張子(ファイル名の最後の部分)は強制的に .txt となってしまうので、ファイルをセーブした後、ファイル名末尾を .xyz に直してください。
3 1 Å = 10-10 m
4 NotePad++ の場合、ファイルの種類は[Normal text file (*.txt)] のままでよいようです。