AG の考え方は系が小さいときはどこまで適用できるのか?

AG の考え方は系が小さいときはどこまで適用できるのか?

微小系の分子科学を扱っている私の研究に直結する話ですね。

熱力学、統計力学には「平衡状態のみを扱っており、そこに至る時間的発展については記述できない」という弱点がありますが、
その他に「系を構成する分子数が十分に多い(アボガドロ数オーダーを想定)」という前提があります。

このような「系を構成する分子数が少ない」ときによく引き合いに出されるのがスターリングの近似

  \ln N! = N \ln N - N   ... (J.7)

です。この関係は N が十分大きいときに成り立ちます。

熱力学の諸関係(特にエントロピー S がらみ)を求める際に、このスターリングの近似を使っている(例: 教科書 p.873)ので、
分子数 N がスターリングの近似が成り立たないような領域では、通常の熱力学の式は成り立たなくなる、というわけです。

教科書の数学章 J にこの近似の説明が出ており、式 (J.7) の右辺と左辺の比較が p. 854 の表 J.1 にでています。
これによると N が 1000 で 誤差は 0.07%、= 100 で 0.9% となり、N が 100 以下では急速に誤差が大きくなっています。
単純には行きませんが、だいたいこのあたりが熱力学式の限界と言えそうで、アボガドロ数のオーダー(1023)と比較すると、かなり N が小さいところまで適用が可能と言えるでしょう。

(2011.12)

参考 相転移の分子熱力学、徂徠道夫著、朝倉書店