通常の化学反応では「質量保存則」が成り立っていると考えて問題ありませんが、核反応などまで考えると、「質量保存則」というのは厳密には成り立ちません。
ウラニウムの核分裂反応では、反応前の質量に比べ、反応後の物質の総質量は軽くなっています。このときの質量の減少分は熱エネルギー(分子の運動エネルギー)として放出されています。
この場合でも、反応前後のエネルギーの総和を比べてみると
(反応前の物質の質量エネルギー) = (反応後の物質の質量エネルギー) + (核分裂反応で生じた熱エネルギー)
という関係が成り立っており、質量保存則は成り立っていないけれど、エネルギー保存則は成り立っていることがわかります。
(質量エネルギーは を用いて計算)
なお、反応に伴う質量の増減(実際に起こるのは減少のみ)が観測されるのは、核分裂反応や核融合反応のように原子核自体が反応に関与する場合に限られています 1)あと、ここでは述べませんが「反物質」が関わる場合ですね。
今、目の前にある「質量を持った物質」が、理由もなくいきなり全部エネルギーに変わってしまうことはありません。なので、質量 m 全部を上の式でエネルギーに変換して考えるのではなく、核反応での質量の「変化分」をエネルギーに変換して考えるとよいでしょう。(問題19-1 エネルギーの差をとるという考え方 参照)
「あれ、原子核の質量は陽子と中性子の数で決まるんじゃないの?」と思った人、いるでしょうか。実は陽子と中性子の数だけでなく、その(原子核の中での)結合の仕方で原子核の質量は変わるのです。
例を示しましょう。酸素の同位体存在比を調べてみると、
核種 | 存在比 / % |
16O | 99.76 |
17O | 0.04 |
18O | 0.20 |
となっています。酸素16 よりも重い同位体しかないわけですが、酸素の原子量は 15.9994 と、16 よりわずかに小さいのです。
ご存知のように原子量は 炭素12 を基準に決められていますから、陽子や中性子の数からすると、酸素の方がいくらか軽くなっています。
言い換えると、炭素原子核よりも酸素原子核の方が安定で、もし炭素 1 mol 分の原子核をいったん陽子と中性子にばらして、それを全部酸素原子にすると、猛烈な量の熱が放出されることになります。
このような原子核の安定性を調べていくと、原子番号 26番の鉄のあたりが一番安定です。よって鉄より原子番号が小さい元素では核融合が、鉄より原子番号が大きい元素では核分裂が、エネルギーを放出します。
まあ、もちろん「いったん陽子と中性子にばらばらにする」のにはとてつもない温度が必要です。恒星(例えば太陽)が発生するエネルギーは恒星内部で起きている核融合反応によって生じています。
また陽子と中性子の数によっては、もともと不安定で、自然に分裂してより安定な元素になる核種もあります(放射性核種)。235U は中性子をぶつけることで分裂し、かつその時に 2~3 個の中性子を放出するので、一定以上の量(臨界量)が集まると、連鎖的に核分裂が生じます。
これを利用したのが原子力発電ですが、化学反応とはまさに「桁違い」のエネルギーを放出するので、反応は制御された状態で行う必要があります。また核分裂の結果、長期間にわたり放射線を出し続ける放射性物質を大量に生成してしまうリスクを忘れるわけにはいきません。
(2010.4, 2011.4加筆)
脚注
↑1 | あと、ここでは述べませんが「反物質」が関わる場合ですね |