熱機関の効率を導出するとき、エントロピー増加を 0 とするのはなぜか(p.881)

熱機関の効率を導出するとき、エントロピー増加を 0 とするのはなぜか

  \displaystyle \Delta S_{\rm engine} = \frac{\delta q_{\rm rev,h}}{T_{\rm h}}+\frac{\delta q_{\rm rev,c}}{T_{\rm c}} = 0   ... (20.33)
以下、いろいろ書いていますが・・・
「熱機関を自発的に動かすためにはエントロピーの総和を増加させなくてはならない。(Δ≥ 0)
ここでは極限としての最大効率を求めるため、ΔS = 0 について計算を行っている」
という説明ではどうでしょうか。

 

私が授業でした話と、教科書の解説のやりかたが違っているので、混乱を招いたかもしれません。

上式が 0 になるのは、系(熱機関)が「循環的」だからです。授業で示したカルノーサイクルならば、4 つの過程のあと系は元の状態に戻ります。したがって、状態関数である系のエントロピーの値も元の値に戻ります。

(教科書にはあらわに書かれていない)周囲のエントロピーについて考えましょう。

高温熱源は熱機関に熱を渡すので、エントロピーが減少します。

  \displaystyle \Delta S_{\rm h} = -\frac{\delta q_{\rm rev,h}}{T_{\rm h}}

低温熱源は熱機関から熱を受け取るので、エントロピーが増加します。

  \displaystyle \Delta S_{\rm c} = -\frac{\delta q_{\rm rev,c}}{T_{\rm c}}

(\delta q_{\rm rev,c}は負)

全体のエントロピー変化 ΔStot (= ΔSengine + ΔSh + ΔS)は
(熱機関のエントロピー変化 ΔSengine  が 0 なので)

  \displaystyle \Delta S_{\rm tot} = -\left( \frac{\delta q_{\rm rev,h}}{T_{\rm h}}+\frac{\delta q_{\rm rev,c}}{T_{\rm c}} \right)  

となります。式(20.33)と符号が逆ですね。

熱機関がが自発的に動くためには全体のエントロピーが増加する必要があります。

  \displaystyle \Delta S_{\rm tot} = -\left( \frac{\delta q_{\rm rev,h}}{T_{\rm h}}+\frac{\delta q_{\rm rev,c}}{T_{\rm c}} \right) \ge 0   ... (1)

熱機関が受け取る熱 \delta q_{\rm rev,h} を、できるだけ多く、 放出する熱 \delta q_{\rm rev,c} に振り分ければエントロピーの増加分 ΔSc を増やせるので、式(1)の不等式で有利になります。

しかし、できるだけ多くの仕事 w を取り出したい… と考えると、式(1)が成り立つ範囲で、できるだけ \delta q_{\rm rev,c} への振り分けを減らすことになります。
というわけで、最大効率は式(1) で 等号を取った時に得られます。

ちなみに マッカーリサイモンでは 記号 δ (デルタの小文字)は、経路関数の微小量を表すときに使われています。(教科書 p.815)
私は授業の中では、経路関数については  δ を使わず、単に q とか w と書いていました。