20-18 相転移とΔS

解答

沸点における物質の気化は可逆過程なので、式(20.3)

  \displaystyle \Delta S = \frac{q_{\rm rev}}{T}   ... (20.3)

をそのまま使うことができます。

単位付きで代入すると

  \displaystyle \Delta_{\rm vap} S = \frac{(40.65\rm\ kJ\ mol^{-1})(2 \rm\ mol)}{373.15 \rm\ K} \\  \\  \Delta_{\rm vap} S = 217.9 {\rm\ J\ K^{-1}}  

ΔvapS の符号は正なので、液体→気体の変化はエントロピーが増大しており、これは気体の方が液体よりも乱雑さが大きいことを示しています。

標準データでやってみる

以下余談ですが、教科書の巻末などにある熱力学的データの表には、液体、気体の水のデータが下記のように記載されています。
(ムーア 基礎物理化学(上)より)

物質 \Delta_{\rm f} H^\circ

/ kJ mol−1

S^\circ

/ J K−1 mol−1

\Delta_{\rm f} G^\circ

/ kJ mol−1

C_P^\circ

/ J K−1 mol−1

種々の物質の標準状態(298.15 K)での熱力学的データ
H2O(l) −285.84 69.44 −237.04 75.3
H2O(g) −241.83 188.72 −228.59 33.6

この表の値を用いると、298.15 K における水の気化(液体→気体)の相転移に伴うΔH、ΔS を求めることができます。

ΔH = ΔfH(g) − ΔfH(l) = (−241.83) − (−285.84) kJ mol−1 = 44.01 kJ mol−1
(符号が正なので、吸熱)

ΔS = S(g) − S(l) = (188.72) − (69.44) J K−1 mol−1 = 119.28 J K−1 mol−1
(符号が正なので、エントロピー増大)

さて、この ΔH の値から、ΔS = q / T の式によりエントロピー変化を算出してみると、

  \displaystyle \Delta S = \frac{44.01\rm\ kJ\ mol^{-1}}{298.15 \rm\ K} \\  \\  \Delta S = 147.61 {\rm\ J\ K^{-1}\ mol^{-1}}  

となり、上のΔS (=119.28 J K−1 mol−1) と一致しません。
これはどういうことでしょうか。

式(20.3) の q には rev という添え字がついています。これは「可逆過程での熱」を意味しています。テーブルの値は 25 °C での数値であり、この温度での水の気化は可逆過程ではないのです。

上の 2 値の食い違いは次のように理解できます。

100 kPa(標準状態)、25 °C における 1 mol の水の気化では
水のエントロピー変化 ΔS (水) = 119.28 J K−1
周囲のエントロピー変化* ΔS (周囲) = −147.61 J K−1
よって全体のエントロピー変化は ΔS (全体) = (119.28)+(−147.61) = −28.33 J K−1

エントロピーは減少しているので、逆方向の変化(気体→液体)が自発的に生じる。

*周囲のエントロピー変化について

周囲のエントロピー変化は熱の出入りから計算します。周囲から系(水)へ 44.01 kJ の熱が流れるので、周囲のエントロピー変化は (−44.01 kJ) / (298.15 K) = −147.61 J K−1 (減少)となります。

テーブルに書かれている S から求めた ΔS は「系のエントロピー変化」、
テーブルに書かれている ΔH から ΔH/T として求めた ΔS は「周囲のエントロピー変化」、
と考えるとわかりやすいかもしれませんね。(可逆過程(沸点)なら、両者は一致。)