逆カルノー サイクル (ヒートポンプ)での効率 η の使い方がよくわからないよ

逆カルノーサイクル(ヒートポンプ)での効率 η の使い方がよくわからない

結論から言うと、逆カルノーサイクル(ヒートポンプ)では、普通のカルノーサイクルで出てくる 効率 η はそのままは使えませんよ、という話になるのですが、順を追って説明しましょう。

カルノーサイクル

通常のカルノーサイクルは、下記の図で表されるように、高温源から低温源へと移動する熱の一部を仕事として取り出す、という話でした。

火力発電所などのように、熱エネルギーを仕事(発電所の場合、電気エネルギー)に変換する、という過程がこれに相当します。

20-6

熱機関の効率 η

上図(図はマッカーリ・サイモン物理化学より)のカルノーサイクルにおける 効率 η は高温源から取り出した熱 qh と 仕事 w の比として定義されます。

  \displaystyle \eta = \frac{|w|}{q_{\rm h}}  

(wq の符号は熱機関に対してとる。上図だと w は負の値となるので、絶対値にしてある。)

エネルギー保存則 (|qh|= |qc|+ |w|) と
エントロピー増大則 ( (|qh|/ Th ) ≤ (|qc| / T) ) から、
熱機関の最大効率 η

  \displaystyle \eta = \frac{T_{\rm h}-T_{\rm c}}{T_{\rm h}}   ... (20.34)

と、温度によって決まることが導かれます。(教科書20.7参照)
これは、「熱を仕事に変換するのには制限があります。どんな熱機関でも(20.34)式の比以下でしか変換できません。」ということを意味しています。
η は熱機関の動作する温度(Tと Tc)だけで決まり、 0 ~ 1 の値になります。

たとえば、800 °C と室温 (25 °C) で動作する熱機関の効率 η は

  \displaystyle \eta = \frac{(800+273)\rm\ K\, - \,(25+273)\rm\ K}{(800+273)\rm\ K} = 0.72  

となり、これがこの温度で熱を仕事に変換するときの理論上の最大効率となります。
(絶対温度を使うことに注意)
残りの 28% は、熱として低温源に捨てることになります。

ここで |qh|、|qc|、|w| の比は

  \displaystyle |q_{\rm h}| : |q_{\rm c}| : |w| = T_{\rm h} : T_{\rm c} : (T_{\rm h}-T_{\rm c})   ... (1)

になっています。

逆カルノーサイクル

さて、カルノーサイクルは逆向きに動作させることで、低温源から高温源へと熱を移動させる ヒートポンプ のモデルとして使うこともできます。(逆カルノーサイクル)

熱が温度の低い方から高い方へ移動することは通常ありえません。外から仕事を加えることで、これを可能にするわけです。
クーラーや冷蔵庫などは、この原理で動いています。(クーラー(エアコン)の動作原理)

20-6-2
逆カルノーサイクル

ここでは、qw の符号が全部ひっくり返ります。
さきほどは 熱機関から仕事を取り出していましたが、今度は熱を移動させるために外から熱機関に仕事を加えています。

しかしながら、qw の大きさの比 ( (1)式 ) は先ほどと同じです。

ヒートポンプとして qw の大きさを求める実例について考えてみましょう。
効率の定義が違うので、η についてはいったん忘れてください。

Q1
室外が270 K 、室内が 300 K のとき、室外から 100 J の熱を吸収し、室内に放出するために必要な仕事を求めよ。
(冬季のエアコンによる暖房に相当)

(1)式の比を使います。

  \displaystyle w = q_{\rm c} \cdot \frac{w}{q_{\rm c}} = q_{\rm c} \cdot \frac{T_{\rm h}-T_{\rm c}}{T_{\rm c}}\\  \\  = (100 \rm\ J)\cdot \frac{30 \rm\ K}{270\rm\ K} = 11.1 \rm\ J  

わずか 11.1 J の仕事で、室外から 100 J の熱を奪い、結果的に室内に 111.1 J の熱が放出されていることに注目してください。
室外の熱を「移動」させているので、このようなことが可能になっています。

エアコンや、家庭用の給湯器 エコキュート などは上記のヒートポンプとして動作しています。
エコキュートのうたい文句として「大気の熱を使ってお湯を沸かす」とありますが、その意味が理解できたでしょうか。(ここで計算しているのは理論上の最大効率なので、実際にはもう少しエネルギーを要する)

冷凍機の性能係数 c

他の教科書(アトキンス物理化学など)では、wqc の比は 冷凍機の性能係数 c と定義されています。
(マッカーリサイモンでは出てこない)

  \displaystyle c = \frac{q_{\rm c}}{w} = \frac{T_{\rm c}}{T_{\rm h}-T_{\rm c}}   ...(2)

c は 加えた仕事によって どのくらい低温源から熱を奪えるか、という値(比)になっています。
η と異なり、この「効率」は 1 を超えます。(c = 0 ~ ∞)

Q1 の温度だと、 c = 9 となります。 これは 270 K と 300 K の場合、1 J の仕事によって、低温源から最大で 9 J の熱を奪えることを意味します。 1)温度差が小さくなるほど c は大きくなり、Th = Tc に達すると c は ∞(無限大) になります。これは 熱を流す上流側の方がほんのちょっとでも温度が高ければ、仕事なんか加えなくても自然に熱が流れていくことに対応しています。 

Q1 はあらかじめ c を温度差から計算しておいて

 \displaystyle w = q_{\rm c} \cdot \frac{1}{c} = (100 \rm\ J)\cdot \frac{1}{9} = 11.1 \rm\ J 

というように求めてもよいですね。

実際のエアコンの例

効率が 1 を超えるなんて、そんなバカな ! と思う人もいるかもしれませんが、
例えば 三菱エアコン霧ヶ峰 の 仕様のページを見てみると

能力(kW) 消費電力(W)
三菱エアコンFZシリーズ(14畳, MSZ-FZ4017S)スペック
暖房 5.0 960
冷房 4.0 940

とあり、940 W の消費電力で 4 kW (4000 W)の冷房能力を発揮していることがわかります。(冷却器としての)効率は 4.3 となります。エアコンは、熱を発生させているのではなく、「移動」しています。質の高いエネルギーである電気エネルギーを使用しているとはいえ、(当然理論値の c よりは低い値になりますが)、消費電力の 4 倍強の 熱を運んでいるわけで、省エネルギーの観点からは非常に優秀です。

エアコン関係では、この効率のことを COP (Coefficient of Performance)として示していたようですが、効率は室内外の温度差によって大きく変わります。そのため現在は 東京付近の年間の温度変化を使って、1 年間通しての効率を「通年エネルギー消費効率」APF (Annual Performance Factor)として示しているようです。 2)参照 http://kaden.watch.impress.co……./2417.html ちなみに上記のエアコンの APF は

通年エネルギー消費効率 7.6

となっています。

c も η も、動作温度だけで決まる、というところが重要ですが、定義が異なるので注意してください。

暖房機の性能係数 ch

Q2
室外が270 K 、室内が 300 K のとき、室外から熱を吸収し、室内に100 J の熱を放出するために必要な仕事を求めよ。

エアコンはガスの流れを逆にすることで、冬は暖房機(寒い室外から暖かい室内へと熱を移動する)として使うことができます。

Q1 とほとんど同じですが、この問題の場合(高温源に放出する熱が100 J)、w が熱 qh に加わるので、仕事はQ1 よりすこし少なくてすみます。(qh, qc, wc は Q1 と同じ)

  \displaystyle w = |q_{\rm h}| \cdot \frac{w}{|q_{\rm h}|} = |q_{\rm h}| \cdot \frac{T_{\rm h}-T_{\rm c}}{T_{\rm h}}\\  \\  = (100 \rm\ J)\cdot \frac{30 \rm\ K}{300\rm\ K} = 10.0 \rm\ J  

また、暖房機の性能係数 ch を (2)式と同じように定義すると、次のようになるでしょう。 3)絶対値記号がついたりつかなかったりしていますが、基本的には 値が負になるもの = 熱機関から「出ていく」エネルギー を絶対値化しています。

  \displaystyle c_{\rm h} = \frac{|q_{\rm h}|}{w} = \frac{T_{\rm h}}{T_{\rm h}-T_{\rm c}}   ...(3)

Q2 の条件では ch = 10 となります。
cは 熱機関の効率 η の逆数になっています。((20.34)式参照)
よって、ch は 1 ~ ∞ の値をとります。

まとめ

定義 温度との関係 とりうる範囲
熱機関の効率 η \displaystyle \eta = \frac{|w|}{q_{\rm h}} \displaystyle \eta = \frac{T_{\rm h}-T_{\rm c}}{T_{\rm h}} η = 0 ~ 1
冷凍機の性能係数 c \displaystyle c = \frac{q_{\rm c}}{w} \displaystyle c = \frac{T_{\rm c}}{T_{\rm h}-T_{\rm c}} c = 0 ~ ∞
暖房機の性能係数 ch \displaystyle c_{\rm h} = \frac{|q_{\rm h}|}{w} \displaystyle c_{\rm h} = \frac{T_{\rm h}}{T_{\rm h}-T_{\rm c}} ch = 1 ~ ∞

少しくどい話になってしまいましたが、熱機関やヒートポンプは、生活と密接に関連する発電所や冷房の動作原理(とその限界)を考える際に必須の知識となります。
エネルギーの変換や使用時の高効率化は現代社会が直面する大きな問題ですので、よく理解してほしいと思います。

脚注

1 温度差が小さくなるほど c は大きくなり、Th = Tc に達すると c は ∞(無限大) になります。これは 熱を流す上流側の方がほんのちょっとでも温度が高ければ、仕事なんか加えなくても自然に熱が流れていくことに対応しています。 
2 参照 http://kaden.watch.impress.co……./2417.html
3 絶対値記号がついたりつかなかったりしていますが、基本的には 値が負になるもの = 熱機関から「出ていく」エネルギー を絶対値化しています。

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