反応エンタルピーの単位って mol−1 を付けるの? 付けないの?

反応エンタルピー ΔrH の単位って mol−1 を付けるの? 付けないの?

ごっちゃになりやすいところですが、「付けません」。

反応エンタルピー ΔrH について

化学反応のエンタルピー変化、反応エンタルピー ΔrH  は反応物のモル数に依存する量(教科書p.832)、
すなわち「示量性」の量です。反応する物質の量が倍になれば、反応エンタルピー変化も倍になります。

多くの場合、反応式の係数に対応したモル量が反応した時のエンタルピー変化を Δrとして扱います。
例えば

  \rm 2H_2(g) + O_2(g) \to 2H_2O   ...(1)

の反応の場合、「反応式に対応する反応エンタルピー」(H2 2 mol と O2 1 mol が反応して H2O が 2 mol できる)は

  \Delta_{\rm r} H = -571.6 \rm\ kJ  

となります。 mol−1 は付けません。

実際に計算する場合は、テーブルにある標準生成エンタルピー Δf の値を使います。

ΔrH = (生成物のΔfH° の和) − (反応物のΔfH° の和)
= {(2 mol)(−285.8 kJ mol−1)} − {(2 mol)(0 kJ mol−1) + (1 mol)(0 kJ mol−1)}
= -571.6 kJ

上記のように、重みとして付ける「反応式中の係数」の単位はここでは mol,
ΔfH° の単位は kJ mol−1 なので、答えの単位は kJ となります。
詳しくは下の説明を参照してください。

「反応式に対応する反応エンタルピー」は反応式の書き方に依存します。
上記の反応を

  \rm H_2(g) + \frac{1}{2}O_2(g) \to H_2O   ...(2)

と書くと、反応式に対応する反応エンタルピーは半分

  \Delta_{\rm r} H = -285.8 \rm\ kJ  

となります。

標準反応 エンタルピー ΔrH° について

反応式において、特定の物質に注目することもできます。
「水」に注目すると、「H2O が 1 mol 生成するときの反応エンタルピー」は反応式(1)でも(2)でも同じ値となります。

反応式中の物質を指定し、指定した物質が 1 mol 関与した時の化学反応のエンタルピー変化を「標準反応エンタルピー」として、の右肩に ° をつけて示します。
(1)式、あるいは(2)式において、「水」を指定した場合の標準反応エンタルピーは

  \Delta_{\rm r} H^\circ = -285.8 \rm\ kJ\ mol^{-1}  

となります。水 1 mol あたりの量なので、 mol−1 がつきます。

ΔrH° は反応ごとに、また指定する物質によって変わる量となります。

また、ΔrH° を反応進行度 ξ  1 mol あたり、とする定義の方法もあります。これを使うと、ΔrH° は反応式ごとに固有の値になります。

標準生成 エンタルピー ΔfH° について

標準圧力で化合物の構成元素の単体から、化合物が生成するときの標準反応エンタルピーを
標準生成エンタルピーΔfH°  といいます。

例えば 水 H2O であれば、構成元素は 水素 H と 酸素 O なので、それぞれの単体 H2(気体, 1 mol) と O2(気体, 0.5 mol) 1)反応物は標準状態で最も安定な単体、と定義されている。 から 水が 1 mol できる時の値です。

この場合も水 1 mol あたりのエンタルピーなので、 mol−1 を付けます。

  \Delta_{\rm f} H^\circ(\rm H_2O, l) = -285.8 \rm\ kJ\ mol^{-1}  

ΔfH° は物質ごとに固有の値であり、テーブルとして与えられています。(教科書 p.836)
この値を使えば、標準状態におけるあらゆる反応の反応熱を知ることができます。(計算例)

まとめ

マッカーリサイモンでは、記号に ° (まる)を付けた場合は、「標準圧力 2)標準圧力は国際的には 1 bar (105 Pa)。国内では 1 atm (1.013 × 105 Pa) が標準圧力と指定されている場合があります。 における」という意味とともに、「1 mol あたりの」という意味を持ちます。( バーが付いたのと同じ)
よって、° (まる)つきの量の単位には mol−1 がつき、示強性の変数になります 3)26章で出てくる \Delta_{\rm r}G^\circ も、反応進行度 ξ の 1 mol あたり、という意味で mol−1 が付きます。 (「反応定数の式の次元が合わない」のページ参照)   4)P° (教科書 (22.62)式で登場) を除く。 P° は 単に 1 bar です。

ややこしいですが、実際の計算では何 mol 分の値なのかを注意し、値が倍になったり半分になったりしないよう注意する必要があります。

脚注

1 反応物は標準状態で最も安定な単体、と定義されている。
2 標準圧力は国際的には 1 bar (105 Pa)。国内では 1 atm (1.013 × 105 Pa) が標準圧力と指定されている場合があります。
3 26章で出てくる \Delta_{\rm r}G^\circ も、反応進行度 ξ の 1 mol あたり、という意味で mol−1 が付きます。 (「反応定数の式の次元が合わない」のページ参照)
4 P° (教科書 (22.62)式で登場) を除く。 P° は 単に 1 bar です。