式(20.9) によると、系のエントロピーは体積とともに増加する。ということは、系の体積は自発的にどんどん大きくなってしまうということか?

式(20.9) によると、系のエントロピーは体積とともに増加する。ということは、系の体積は自発的にどんどん大きくなってしまうということか?

  \displaystyle \Delta S = n R \ln \frac{V_2}{V_1}   ... (20.9, 10)

いいえ、そういうわけではありません。
たしかに系のエントロピーは体積とともに増加しますが、周囲のエントロピー変化についても考慮する必要があります。

初期状態として 圧力 2 bar, 体積 0.5 dm3, 温度 300 K の理想気体を考えます。(状態方程式より、 n = 0.0401 mol)
体積変化に伴うエントロピー変化を 式(20.9)を使って計算し図示すると

SV1
体積に伴う系のエントロピー変化(等温過程)

となり、V とともに S が増加しているのがわかります。(初期状態との差なので、初期状態は ΔS = 0)

次に周囲のエントロピー変化について計算してみましょう。
周囲のエントロピー変化は、

  \displaystyle \Delta S_{\rm surr} = -\frac{q}{T}   ...(1)

から計算されますが、q は実際に出入りする熱なので、周囲の圧力 Pex によって変わります(参照)。

今、Pex は 1 bar で一定であるとしましょう。PV 図を示すと

系と周囲の圧力
系と周囲の圧力

系の圧力 P (青) は状態方程式に従い変化しますが、周囲の圧力 Pex (赤) はこの場合一定です。

系のエントロピー変化 は可逆過程を仮定して計算するので、 Pex に影響されません。(いつも青線を使って計算)

一方、周囲のエントロピー変化は 赤線の方を使い計算します。
まず赤線での w を計算

  \displaystyle w = -\int P_{\rm ex}\, {\rm d}V = -P_{\rm ex}(V_2-V_1)   ...(2)

等温過程なので q = −w

  \displaystyle q = P_{\rm ex}(V_2-V_1)   ...(3)

式(1) に代入すると

  \displaystyle \Delta S_{\rm surr} = -\frac{P_{\rm ex}(V_2-V_1)}{T}   ...(4)

図示すると

となり、こちらは系の膨張に伴って直線的に減少していることがわかります。

系のエントロピー変化 Δと 周囲のエントロピー変化 ΔSsurr の和を
ΔStotal (緑)として図示すると

体積膨張に伴うエントロピー変化
体積膨張に伴うエントロピー変化

となります。拡大すると

体積膨張に伴うエントロピー変化(拡大)
体積膨張に伴うエントロピー変化(拡大)

と、体積 1 dm3 でエントロピーが最大となっていることがわかります。

従ってこの場合、体積 0.5 dm3 の初期状態から
エントロピー増大則に従い、体積 1 dm3  —
すなわち、系の圧力と周囲の圧力が等しくなる—
まで膨張し、そこで膨張は止まることがわかります。