現場その1.ここはまだましな方なんだとか.なるほど,レンゲツツジのオレンジのつぼみも確認できますね. |
近寄って確認しましょう.確かにレンゲツツジですね.花が咲くには,季節はまだ少し早いのでしょうか. |
で,現場その2,甘利山山頂方面へ移動.うーむ,なるほど,冬芽が着いておらず,これでは今年は花もちろん,葉をつけることも,枝を伸ばすこともできません. |
むむむ,これは,確かに枯れていますね.当初頭の中で考えていた,仮説1,仮説2は崩れ去りました.となると... |
ややや,何だこれは.ツツジがどうこうではない,一面を覆っているミヤコザサが,真っ茶色ではないか!? |
例えば霧ヶ峰の八島湿原のようなところであれば,この季節,まだ一面真っ茶色というのはあり得ます.というのはそうした湿原では,冬には葉を枯らすスゲのなかまで覆われているからです.しかし,常緑であるササ原となれば話は別です.(ちなみに,木道の奥に見える,四角い緑の土地は,山梨県が,試験的にササを刈って,肥料をやっているところだそうです) |
枯れているササ,近寄ってみましょう.うーむ,確かに.これは普通ではないですね. |
別の部分も見てみましょう.枯れているのは上部のササの葉で,下の方の葉はどうやら枯れていないようです. このミヤコザサというササは,地上の桿の寿命が1-2年と,他のササに比べれば短いのですが,それでもこんな風にはならないのではないでしょうか? |
比較のため,他の部分と比べてみましょう.こちらは,山頂をやや降りた,林内です.普通に元気ですね,ミヤコザサ.ミヤコザサは以前このサイトでも書いたように,冬には葉の縁が茶色く枯れながら縁取られる性質がありますが,先ほど山頂付近で見たような状況にはなりません. |
山頂付近でさらに観察を続けましょう.この写真のレンゲツツジは,下の方は芽が生きており,葉も花のつぼみも付けていますが,上の方は先ほどの写真で示したように,枯れてしまっています. |
林内をもう一度見てみましょう.ササは通常の状態ですし,カラマツなど,他の樹木もこれといった被害は見られませんが... |
レンゲツツジのあるササ草地の方では,寒さに強いはずのカラマツで梢端枯損(枝・梢の先が枯れていること.芽が死んでいることを占めす)が起きています.やはり,孤立木は森林内に比べ,相対的に厳しいように見えます.この高さは雪が被るような位置ではないので,このササ草地自体が厳しい環境なのかもしれません. |
こちらはシラカンバのやはり孤立木ですが,手の届く位置です.雪に埋もれるか,埋もれないかの高さでしょうか.これも健全な冬芽以外に,死んでいたり,枯れて無くなっている冬芽を観察できます. |
もう一つ,傍証として,「山全体が必ずしも急激な乾燥にさらされているわけではない」ことをおさえたいと思います.「乾燥で枯れている」という可能性を排除しようという意図です.いや,乾燥の影響もあるのかもしれませんが.まず,こちらはオオバギボウシ.乾いていては生育は困難でしょう. |
山を少し下ったところですが,スズランもあります.この標高域,1500-2000m位の間は,雲がよくかかり(雲霧帯),必ずしも雨が降らずとも湿った環境であることも多くあります. |
ヤマオダマキでしょう.川沿いの草地などに出ます.花が楽しみですね. |
こちらはマイヅルソウ.少し林内に入ります.亜高山帯要素ですが,これも,この場所が湿った林床であることを示しています. |
この,緑色のもじゃもじゃしたもの,ゴミではありません.こちらはサルオガセという地衣類です(サルオガセにも多くの種類があり,ここでは総称(例えば,サクラ,バラなど)としての「サルオガセ」で,種名ではありません.私には同定できません).このサルオガセ,根っこ(注1)などはありません.空気中から水分を吸収し,藻類と菌類が共生して生きています.この,藻類と菌類の共生が地衣類の特徴であるわけです.これも湿った亜高山帯の針葉樹林でよく見るものです. こうしたことから,山の山頂付近自体はもともとそれほど乾ききってしまうような場所ではなさそうです. (注1:根っこ,とか,葉っぱ,という言い方をして学生時代,植物形態学の先生に怒られましたね.ま,ここでは,気楽な読み物,ということでお許し願いましょう.こういう言葉のリズムが大事なときもあります) |
注2:ここに記した内容はあくまでも私見であり,その内容を保証するものではありません.ご理解とご協力をお願いします.
注3.どうでもよいことですが,「レンゲツツジは温暖化の試練を乗り越えられるか」というタイトルはフィリップ・K・ディックの有名な作品にインスパイアされました.大げさかとも思いましたが,ここではアトラクティブさをとろうと思います.
2004/06/01追記 (重要)
山梨県森林総合研究所の長池博士によれば,2年前(ということは2002年)の秋の時点でレンゲツツジの芽が枯れていたそうです.となると,私が考えていたようなことでは,単純にはなさそうですね.2002年夏からの乾燥か?土壌水分や枝葉の水ポテンシャルをはかる手がありますが,他の場所の,健全なレンゲツツジ群落と比較する必要がありそうですね.というのは,レンゲツツジが分布している(あるいは管理されている)所は開けた草地が一般的で,今回写真で示したような林内と比べても,土壌などが乾いているのは当然で,それよりも「どの程度乾くとダメなのか」が重要になるでしょうから.
いずれにしても,今後を見守りたいと思います.