先日,2004年6月26,27日の両日,立山で日本生態学会・中部地区会が行われました.初日の発表会とともに,二日目に行われる現地エクスカーションが楽しみで参加してきました.今回は,日頃,身の回りでは見られない植物などを見ていきたいと思います.
 植物名は,現地のリストと図鑑を参考に確認していますが,間違えがありましたらお許し下さい.



信州松本から立山に行くには,大きく分けて二つの方法があります.一つは大町まで出て,トロリーバスでトンネルをくぐるなどして行く方法,もう一つは,安房峠を越えて飛騨にでて,飛騨路を富山方面に北上していく方法です.大町からバスに乗る方法は,結構お金がかかります.これには,タクシーなど代替手段がないため(ここが上高地や,乗鞍との違い),大勢で行っても値段を下げることができません.一方,安房峠・飛騨路経由ですと,例えば自家用車などにたくさん人を乗せれば,一人あたりの交通費は安くなりますね.この方法でも,自家用車で行けるのは立山のふもとまでで,その先はケーブルカーと路線バスを乗り継がなければなりませんが.今回我々が使ったのは,この,安房峠,飛騨路ルートです.
ニホンザル
 で,ケーブルカーから路線バスに乗り継いで,弥陀ヶ原というところを目指します.立山の登山基地として知られているのは室堂ですが,そこまで行かず,その途中に位置します.バスも,天然らしいスギ林を見つつ,また道脇にでるニホンザルなどを眺めながら(タイムラグのあるデジカメに収めるのは大変!),飽きずにいけます.
立山荘
今回泊まったのは,立山荘というところ.公共の宿です.我々が利用した4人部屋は二段ベッドでしたが,悪くありません.中もきれいです.初日の発表会は,この宿の会議室のらしい場所を借りて開かれました.伊藤嘉昭先生の発表を聞けるのも,この中部地区大会の特色といえましょうか.

ベンチで休憩中の戸田教授と弟子の赤松君.
 二日目はエクスカーションです.上の写真は,ある程度歩いたあと,休憩をしているお二人です.はじめから怠そうになさっているわけではありません.それじゃまるで二日酔いですものね.
 赤松君は,前日,発表もこなしました.いろいろな意見や質問が出て,良かったのではないでしょうか.それから,論文のアクセプト,おめでとう!私も頑張ります.
ツマトリソウ
さて,写真はツマトリソウ.実はこれ,エクスカーションの時の写真ではなく,前日の夕方のものです.でも,まあ,植物のリストをつくるのであればはずせないので.ピンぼけですが勘弁して下さい.特徴は捉えていると思います.
シラネアオイ
シラネアオイですが,これは立山荘の庭に植えられたもの.名前は,確か,日光白根山に多いんだか,そこで見つかったんだかだと思いました.私も自然のものを日光白根で見ましたが,シカにずいぶん食べられてしまい,減っているのだとか.それとマニアの盗掘ですね,減ってしまう原因は.自分が好きな植物を,絶滅の道に追いやっているマニアの心理って,どうなっているんでしょうか.
コバイケイソウ
コバイケイソウです.あとに写真があるように,弥陀ヶ原の湿原をまわるコースを歩きました.ですから,湿地に生育するコバイケイソウが出てくるのは,納得ですね.
 バイケイソウとの違いですが,次のような違いがあります.1.花の違い. バイケイソウは一つ一つの花が大きく(直径25mmとか),その分,花序の中の花の数が少ない.また,花被(はなびら,ですね)の外側は緑色です.一方,コバイケイソウは,花が小さく(10mm未満),その分,花序中の花数が多く見える.また,花びらの外側が緑色にならないので,花序全体が白く見える.
 花がない場合は...2. 葉を見ましょう.コバイケイソウの葉は,10-20cm程度の長さで,バイケイソウに比べ小さいためか,茎をくるむように,何というか,お椀型に葉が立っています.一方,バイケイソウの葉は20cm程度,大きいためか,お椀型に茎をくるまず,下にたれている場合が多い.もっとも,春先の葉の小さいときは,難しいかも.どちらも有毒植物で,シカがある程度いる場所でも,食べられずに,残っていることを見ることがあります(これは立山の話ではありませんが).
ノビネチドリ
こちらはノビネチドリ.ランの仲間ですね.長野県でも比較的よく見るポピュラーなものですが,なかなか良いたたずまいです.ピンク色の花に目がいきがちですが,白いものもあり,色だけで見分けるのは危険です.ポイントは葉です.葉の縁が,まるで金鋸(かなのこ,金属を切るためののこぎり)の歯のような細かい鋸歯があり,これが大きな特徴です.写真では縮小しすぎてよく分かりませんが.残念.
 似た種である,テガタチドリは,こうした葉の鋸歯や波うちが無く,スマートな葉で,ハクサンチドリはさらに葉が細いため,葉で区別できますが,他に似た種もあり,詳しくは花弁の下唇にあたる唇弁の形を見たりします.
チングルマ
こちらもおなじみチングルマ.高山植物ですが,草本(そうほん)ではなく,一応木本(もくほん,樹木のこと)です.写真は花の状態ですが,実になった状態もおなじみです.皆さん自分で調べてみて下さい.
 物質循環学科の諸君は,1年生の志賀高原実習のとき,草津白根山の周辺で見ているかもしれません.塚原,村越両先生のコースですね.時期的にも,そのころ,実が見られると思います.私はそっちのコース,実習では行かないので分かりませんが,自分の学生時代,道ばたで見た覚えがあります.
 バラ科ですので,花びらは五枚,また,葉はノイバラなどと同じ,奇数羽状複葉です.
ダケカンバとミヤマハンノキ
湿原の脇には,ダケカンバミヤマハンノキが生育しています.ここは,多分,溶岩台地だと思うのですが,凹凸(おうとつ,と読みます.「でこぼこ」は凸凹と書き,順番が違います)のあまり無い,なだらかな斜面です.で,たまった積雪が斜面下方に移動していくとき,に匍匐圧匍行圧とも)という,斜面方向にかかる力と,沈降圧という垂直方向の力で,地上の植物を潰したりすることになります.その結果,樹木はこのような,斜面下方に幹の曲がった樹型をとることになります.
 力と圧力を混同したような記述ですが,力を単位面積あたりで考えるということで.ここでポイントなのはベクトルの向き,ですね.
 ですから,こうした樹型を見れば,その環境が多雪地であることが容易に推察されます.分かるかね,ワトソン君.
ミヤマヤナギ
こちらも樹木で,ミヤマヤナギ,もしくはミネヤナギと呼んでいるものです.学名と違い,和名はいろいろな呼び方をしても,不正解とか,不適切,といったことはありません.「ミヤマ」は「深山」,「ミネ」は「峰」で,どちらの呼び方も,山奥,山の上にあるヤナギ,という意味です.ちなみに学名は,Salix reinii で,学名の場合,イタリック(斜体)で表記することになっています.
 皆さんはヤナギというと,あの,幽霊とセットになって絵に描かれることが多いシダレヤナギを思い出す人が多いでしょうが,あれは,中国原産で,日本では自生していません.日本に生えている,自然のヤナギで,枝の垂れているものって,無いんです.ですから,すごく特殊なものを,我々はイメージとして持っている,ということになります.日本に入ったのが,奈良時代ということで,歴史はありますが...
 ところが,田舎の中流河川では,ネコヤナギ等のヤナギの仲間などが生えていることを知っている人もいるでしょう.この写真を見ると,花が,そうしたネコヤナギなどと似ている印象がありますよね.その感覚は,あっているんです.
コイワカガミ
 こちらはコイワカガミです.似たものがあるので整理しましょう.まず,写真のコイワカガミは,花が3つ程度つくのが普通です.雪田周辺,岩場,草地など,高山の開けたところに分布.イワカガミは亜高山帯の針葉樹林下に分布し,3-10個と多くの花を付けます.対してイワウチワは,茎の先に花を一つだけ付けます.葉も,先端がややくぼみます.他にもいくつかありますが,とりあえずこの辺をおさえておけば,okではないでしょうか.
イワイチョウ
こちらは,イワイチョウ.花を見るとそっくりなのですが,ミツガシワの仲間です(ミツガシワ科.ただし属は別).ミツガシワは池や沼など,水の中に生えていおり,三小葉(一回三出複葉)をもちますが,イワイチョウは湿地に生え,鋸歯のある丸い葉を付けます(こちらは単葉).丸いといいましたが,やや横に広く,先端がくぼみがちですので,図鑑には腎型(じんけい,または腎臓型・じんぞうけい)と説明されています.
 イワイチョウという名の「イチョウ」は銀杏のイチョウのことらしく,葉が似ているところから付けられたとか.ま,似ているかどうかは別として,そんなこと頭に入れておくと,名前も覚えやすいかもしれません.
ベニバナイチゴ
ベニバナイチゴの葉です.三出複葉で縁は重鋸歯ですね.これも一応木本です.中部以北の,日本海側など,雪の多いところに分布が多いようです.
ベニバナイチゴの花
こちらはベニバナイチゴの花.その名の通り,紅色なのですが,何というか,はっとさせられる色ですね.バラ科ですから,花びらは5枚.写真のように,下向きに咲くのが普通のようです.
ノウゴウイチゴ
こちらはノウゴウイチゴ.上のベニバナイチゴは同じバラ科でも,キイチゴ属です.いわゆる木イチゴの実って,いくつかのつぶつぶが集合していて,八百屋に売っているイチゴとは違う印象ですよね.それがキイチゴ属.対して,このノウゴウイチゴは,お店で売っているイチゴと同じ,オランダイチゴ属です.食べる部分が,つぶつぶに分かれません.ちなみに,食用に栽培しているオランダイチゴ,我々が食べているのは,じつは果実ではなくて,花床が膨らんだものです.まわりについている小さなタネ,これが実ですね.ま,おいしく食べられれば,どうでも良いですかね?
 このノウゴウイチゴ,バラ科なんですが,花びらは,5-8枚と,ちょっと多いんです.写真のものも8枚ですね.葉もかわいらしく,一度見たら忘れられません.
ワタスゲ
こちらはワタスゲです.皆さん,ワタスゲっていうと,あの,白いふわふわの,耳かきの後ろの大きい奴みたいなのがついている印象ですよね(話し言葉をタイプすると,なんか,非常にへんですね).これはそうなる前の,花の段階です.あのフワフワは,花が終わり,果穂になったときの状態なんです.で,風に吹かれて遠くまでタネを運ばせる,という,風散布種子です.
餓鬼田
我々が植物観察をしたコースのスナップです.湿原にいくつもの池塘があるのは尾瀬なんかと同じですね.この湿原全体が,「餓鬼田」(がきた)と呼ばれています.なんでそんな名前なのか,とも思いますが,立山は元もと信仰の山なので,ここの弥陀ヶ原とか,餓鬼田とか,仏教用語からきているのかもしれませんね.ま,名前はともかく,宿,バス停からも近く,なかなか良いコースです.時間をかけるなら大回りのコースを,時間がなければ小回りのコースを選べます.
 私たちは,写真を撮ったり図鑑をひきながら歩いたので,短いコースでしたが,結構時間をかけて歩くことになりました.主催者側は,時間通りに歩けなくて,結構気をもんだかもしれません.すみませんでした.
モウセンゴケ
皆さん分かりますか? モウセンゴケという食虫植物です.スプーン状の葉には,多数の赤い腺毛がついて,粘液を出しています.虫がこれに付くと,逃れられず,消化されてしまうという,何というかすごい植物です.胃袋の中身みたいな感じですもんね.
 写真のように,モウセンゴケの葉の先は,丸いのが特徴です.尾瀬などには,この部分が長細い,ナガバノモウセンゴケというのが生育しています.尾瀬の写真を紹介するときに,お見せします.しかし,それは何時になる事やら...
クロウスゴ
こちらはクロウスゴという,ツツジ科スノキ属(Vaccinium)の低木です.ブルーベリーと同じ仲間です.これも似たものがありますので,まとめて整理しておきましょう.
 このクロウスゴは,写真のように,若い枝当年枝,今年伸びた枝のこと)に稜があり,葉は全縁です.たまに小さな鋸歯が一つ二つ,葉の基部の方にあることがありますが.マルバウスゴは,若枝に稜があるものの,葉には鋸歯があります.低い鋸歯ですが,葉の先の方まであります.対してクロマメノキ葉は全縁なのですが,枝に稜がありません.こんな事で見分けられます.
 また,スノキ,ウスノキ,オオバスノキ,そしてアクシバなども,もっと標高の低い山地帯に分布しますが,(アクシバを除き)同じ属でやや似ています.これらはいずれも葉の先が,上記の3種に比べ明らかに長くとがっていることが特徴です.細かい鋸歯があることも,スノキ,ウスノキ,オオバスノキ共通です.これらは枝の毛を見たりするのですが,難しくて...またいずれ.
ヒメイチゲ
こちらはヒメイチゲです.キンポウゲ科で,アズマイチゲやキクイチゲ,さらにイチリンソウ,ニリンソウ,サンリンソウなどと同じイチリンソウ属,Anemoneです.アネモネって聞いたことありますよね.この仲間です.花屋で外国の花を売るとき,特に和名がないので,学名の属名をそのまま使ったりすることがよくありますね.ハイドランジャ−,なんていうのも,アジサイ属の学名です.
 仲間の他種がもっと低い森林に生育するのに対し,このヒメイチゲは,亜高山や高山にでることが分布の上での大きな特徴です.
 春に咲く花ですが,こうした標高の高いところですから,この季節でも,まだ花が咲いているのでしょう.
オオシラビソ
さて,オオシラビソです.本州の多雪地域を代表する亜高山帯の針葉樹です.オオシラビソとシラビソの見分け方ですが,こちらは,まず,オーソドックスな見分け方を.枝を上から見たとき,葉がじゃまで,枝を直接見ることが困難ですね.これがオオシラビソ,という見分け方です.よく知られた方法です.
オオシラビソ裏面
ま,そうなんですが,八ヶ岳なんか,両方混じっていて,中には微妙なものもあるんです.枝が見えるといえば見える,見えないといえば見えない.
 そこで私は,枝の毛に着目します.写真のようにオオシラビソの枝は,茶色い毛が,マット状に,カーペットをひいたように,ムラ無くびっしり生えています.シラビソは確かに毛は生えているのですが,これよりもはるかに薄く,まばらです.この方が確実だと私は確信しています.ここ,立山は多雪地帯ですので,ほとんどオオシラビソのはずです.シラビソとの比較は,また今度.おーい,いったいいつだー
イワナシ
イワナシ,です.ツツジ科の低木.松本の周辺などでも見られます.明るい,乾いたところに生育,という印象を持っていますが...ここでは,ササの桿が見えますから,少なくとも,湿地ではないですね.ササは入っていけませんから.で,ササもまばらということですから,まあ,これまでの見方が通用していると言っていいでしょうかね.
キジムシロ
キジムシロです.バラ科,花びら5枚,奇数羽状複葉.葉が,放射状に広がる様から,鳥のキジが座る筵(むしろ)に例えられたという風にいわれています.奇数羽状複葉の葉ですが,小葉は3-9枚ということで,3枚の場合は三出複葉に見えますね.三出複葉だけの葉をつけるミツバツチグリと勘違いしないように,注意しないといけませんね.似てますから.
ヒトツバヨモギ
ヒトツバヨモギ.我々が平地で見る,あるいは草餅に使うヨモギの葉は,もっと細かく切れ込んでいますよね.この「ヒトツバ」という意味は,そうした切れ込みが無く,葉がまとまって一枚に見える,ということからのネーミングでしょう.地味な植物かもしれませんが,平地ではちょっと見られません.
アカモノ
アカモノ,というツツジ科の常緑低木です.雪に守られて,冬の間,葉が凍らないようになっているのでしょう.仲間にシラタマノキがあります.シラタマノキは文字通り,白い果実を付け,サロメチールの匂いがしますが,対してアカモノは赤い実を付けます.これが名前の由来です.
 ところで,最近はサロメチール,あまり使いませんよね.私も学生時代,「サロメチールってどんな匂いなんだろう」とおもい,薬局で購入しました.筋肉痛の時に塗ったりするクリームです.私は頭痛の時,こめかみに塗ったりもします.サロメチールというのは確か商品名で(でも,図鑑にも書いてあったりします),主成分は,サリチル酸メチル,だと思いました.今,手元にないもので...
コミヤマカタバミ
コミヤマカタバミです.まず,皆さん,カタバミって分かりますかね.よく家の裏とか,家とブロック塀の間とかなんかに生えている植物ですが...葉は,写真で見るような形で,クローバーかな,と思いながら,全然花も違うし,というやつです.葉は赤紫色っぽくて...思い当たりますか?そう,それがカタバミです.
 で,平地に生育する,カタバミに対し,標高の高いところに生えるカタバミの仲間が,ミヤマカタバミやコミヤマカタバミ,です.「ミヤマ」は「深山」のことなので,「コミヤマ」は「小宮山」でなく,「小深山」という意味ですね.
 違いを見ましょう.カタバミは平地に生育,葉は赤紫色(特に日が当たるところでは)になることが多く,花は黄色.ミヤマカタバミは山地に生育,花は白く,ハート型に見える葉が,とがって見えます.極端にいうとやじり型,の様な.一方コミヤマカタバミは,亜高山帯以上(関東・中部地方では,標高1500m以上の常緑針葉樹林帯)に生育します.花はほとんど白ですが,ミヤマカタバミに比べ葉が小さく,とがりません.ここ,弥陀ヶ原の標高,葉の形,どれをとっても,間違いない,ですね.
ミヤマニガイチゴ
ミヤマニガイチゴです.先ほどまでのイチゴ,ベニバナイチゴやノウゴウイチゴは三出複葉でしたが,こちらは単葉,すなわち,一枚で一枚の葉です.なんか変な言い方ですね.というより,三出複葉の方が「葉らしい部分が3枚セットで,そろって一枚の葉」ということですね.単葉ですが,大きく3つに切れ込んでいるのが写真でも分かりますね.どちらかというと,モミジイチゴのような感じの葉です.白い花が上向きに咲いていますね.
立山のカルデラ
立山は火山で,ここはカルデラだということです.カルデラというと,真ん中がくぼんでいて,周りが土手状の山に囲まれている,というイメージですが,ここでは,その一片が侵食されて,カルデラの中心から川が流れています.
 現在も侵食が激しいようで,砂防工事が延々とされています.大げさにいうと,立山が無くなるまで土砂が供給され続けるんでしょうから,気の遠くなるような話ですね.ま,山の斜面って,ある程度の角度まで緩やかになると安定するらしいですから,それまで...いや,それも気が遠くなります.樹木はせいぜい数百年,数千年ですが,地球にはとてもかないませんね.
ミヤマキンポウゲ
ミヤマキンポウゲです.いやー,こんなに写真出すんじゃなかったな,と思い始めています.書ききれないですよ,本と.論文書きの気晴らしにやっているんですが,重すぎかも.
 なぜ大変かという理由の一つに,一般的なものの説明なしに,山の上の特殊なものの説明をするからなんです.さっきのカタバミもそうですが,既にカタバミが周知の上で,「いや,ミヤマカタバミは,カタバミと違って...」とやれるんですが,カタバミがないところから,ミヤマカタバミの説明をしなければならないわけですよ.結構たいへん.
 で,ミヤマキンポウゲ,です.我々普通に見るキンポウゲは,平地,里山のものです.もう少しいえば,花弁が5枚ある,通常のものはウマノアシガタと呼ばれ,八重咲きのものが特にキンポウゲと呼ばれています.いずれも鳥足状の葉を持っていまして,中国では,元もと「鳥の足形」というような書き方をされたいた葉です.で,この書き方があまりに達筆だったのか,当時の日本人が「馬の足形」と読んでしまったということです.マンガのようですね.
 さて,ウマノアシガタ,ミヤマキンポウゲ,花弁は5枚でどちらも似ていますが,ウマノアシガタは平地,里山など低標高に生育茎に生えている毛が外に向かって生えます開出,といいます).いっぽう,ミヤマキンポウゲは,亜高山,高山に生え茎の毛が伏せている,寝ているという違いがあります.
ヤハズハンノキ
ショウジョウバカマ
ショウジョウバカマです.写真ではあまり写っていませんが,根生葉を数多く出します.(この写真では,周りのスゲの葉のが目立ちますね.失敗)で,花以外にちょっとかわった繁殖をします.根生葉の先端が地面につくと,そこから根が出て新しい株が定着します.栄養繁殖ですね.皆さんも出会った時に確認してみて下さい.もっと標高の低いブナ帯でも見ることができます.
ナナカマド
ナナカマドだと思います.というのは,実はこの仲間には,タカネナナカマドなどもあって,私も現地ではきちんと確認しなかったので,この写真が「確実にナナカマドだ」とは断言できないのですが...ま,その仲間には間違いありません.全体で移動するエクスカーションでは,なかなか時間が自由になりません.皆さんはきちんと確認して下さい.
 ナナカマドの材は大変燃えにくいといわれていて,「七回かまどにくべても燃えない」といったことから,この名前が付いたそうです.秋には,ヤマウルシなどともに,山を最初に赤く彩る,紅葉が見事です.
 さて,ナナカマドを基本とすると,タカネナナカマドは羽状複葉の中軸や小葉の裏の脈上に白い毛が多いのが特徴です.一方ウラジロナナカマドは小葉の鋸歯が,上半分しかありません(ナナカマド,タカネナナカマドは上から下まで鋸歯がある).山地帯に生育するナンキンナナカマドは,ここには分布しないと思いますが,イチゴの小葉のような托葉が2枚つきます.
 写真のものは.写真から察するに,ナナカマドか,タカネナナカマドでしょう.ナナカマドかな?うーん.
ミツバオウレン
ミツバオウレンだと思います.「だとおもう」というのは,ミツババイカオウレンという近似種があって,それかもしれないからです.写真をあとから見て「失敗した」と思うのは,花柄がまったく写っていないことです.ミツバオウレンとミツババイカオウレンはその花柄の太さで見分けることが出来るからです.ミツバオウレンは,相対的に細い花柄,ミツババイカオウレンは花のサイズに不釣り合いに大きな花柄を持ちます.専門家が見れば,見分けられるのかもしれませんが,私は森林樹木屋さんなので...写真は異なる角度で複数とっておくべきだという教訓を,改めて実感します.
ミヤマハタザオ
ミヤマハタザオです.キャベツなどと同じアブラナ科です.アブラナ科は,以前「十字花科」とよばれていたことがあるようで,しかし,これは,花の形を良く表しています.この科のものは,花びらが4枚あるので,花を真上から見ると「十字」に見えるという寸法です.なるほど〜.

ミヤマハタザオの葉
ミヤマハタザオの葉です.似た種類を整理しましょうか.花の色(黄色/白),茎の葉がやじり型で茎を抱くかどうか,鋸歯はどうか,といったことで区別できます.
 ハタザオは葉の基部が茎をまき,葉に鋸歯はなく(全縁),黄色い花を付けます.ヤマハタザオは,同じく葉の基部は茎をまくものの,鋸歯があり,白い花を付けます.以上2種は,50-80cmと比較的背が高くなりますが,ミヤマハタザオ,フジハタザオ(イワハタザオ)はせいぜい30cm程度.フジハタザオは基部が茎をまき,白い花を付ける点でヤマハタザオと似ていますが,花の直径が1cm近くあり,ヤマハタザオの4mm程度と比べると,倍近い大きさです.また,フジハタザオは植物自体の背が低いので,より花が目立ちます.さて,ミヤマハタザオですが,まず,葉が茎をまかないのが一つの特徴,そして,完全に全縁ではないのですが,鋸歯はまばらでほとんどないという外観です.ハクサンハタザオはフジハタザオに似ていますが,茎葉はフジハタザオとは異なり,茎を抱かず,また,根生葉がナズナのように切れ込みます.一方エゾハタザオは,茎葉が他のハタザオの仲間(Arabis 属)とは異なり,何というか...皆さん図鑑で見て下さい.全然違いますから.
ヤマガラシ 花
こちらはヤマガラシ.同じくアブラナ科です.やはり花びらは4枚ですね.水辺や湿った岩場に生育することが知られています.
ヤマガラシ 上の方の葉
ヤマガラシの葉を見てみましょう.茎の上の方にある葉は鋸歯(または,歯牙)があり,基部が耳たぶ状に茎を抱きます.この辺は先のハタザオの仲間と似た印象です(写真のミヤマハタザオは抱きませんが).で,ヤマガラシの葉は,こんな形なんだなー,と思っていると...
ヤマガラシ 下の方の葉
みてください.ヤマガラシの,茎の下の方についている葉は,こんな形です.茎を耳たぶ状に巻いているのは同じですが,鋸歯の切れ込みが深くなりすぎて,いわゆる「切れ込みを持つ葉」「羽状複葉の葉」の様になっています.こうした葉を「羽状深裂」等と図鑑は解説しています.色々見ることが大事だということですね.人間も,ある一面だけでは分からないよ,と.勉強になりますね.
ヤマハハコ
こちらは,比較的よく見かけるのではないでしょうか.ヤマハハコです.ハハコグサの山版,といったネーミングでしょう.葉の表面は鮮やかな緑色で3本の平行脈が目立ちますが,裏面は毛がびっしりと生えていて真っ白に見えます.亜高山帯以上の開けた明るいところで見ることができますので,高い山へ行く時の道脇や夏のスキー場などでも見ることができますね.長野県では,この写真のものよりも葉の細いものを見かけることが出来,ホソバノヤマハハコとよばれていますが,種は一緒で,変種のレベルで分けられています.ま,あんまり分けるときりがないので,ヤマハハコでいいと思いますが.
ミヤマアカバナ
ミヤマアカバナです.岩礫地などに生育します.この仲間も,みんな結構似ていますよね.アカバナ,イワアカバナ,ホソバアカバナ,ケゴンアカバナ等々.詳しい区別点などはまた今度.時間のあるときに更新したいと思います.ただ,この仲間は,「お,アカバナの仲間だ」ということは,結構簡単に分かるので,あとはじっくり図鑑をひくことが可能だと思います.それと驚くのは,あの,ヤナギラン,も同じアカバナ科アカバナ属(Epilobium)なんですね.いやはや.
ミネカエデ
ミネカエデです.亜高山帯に分布するカエデの一つです.山地帯(ブナ帯)にはこれに似たコミネカエデという種が分布します.別種です.コミネカエデは葉が3裂して見えますが(細かく見れば5裂しているものの),ミネカエデは,明らかに5裂しているように見えます.一番下の裂片が大きいんですね.
 そのほかに,亜高山帯に分布するカエデとしては,オガラバナなどがあり,山を歩いている時こうした種が出てくると,「おっ,亜高山帯要素が出てきたな」という感じで,常緑針葉樹を見ないでも植生帯の入れ替わりが近い標高であると分かります.
マルチング
先の,ミネカエデの下にも写っていたのですが,これ,なんだか分かりますか?ワラのムシロでつくった,マルチングです.室堂をはじめ,高山植生が広がるところでは,人間によるオーバー・ユースが問題になっていて,その一つが土壌の浸食が進む現象です.岩場は別ですが,せっかく土壌が発達したところで植被やリターが剥がされる剥がされると,それらに守られていた土壌が雨や雪解け水の地表流水などで削られてしまいます.
 こうした土壌浸食を防ぐため,ワラでつくったムシロをかぶせ,雨が直接当たるのを防いだり,土が流れることを防いだりしているのです.適度に隙間が空きますから,そうしたところに植物が新たに生育し,根を張ってくれればマルチングの役目も終わり,何よりワラで出来ていますから,生分解性(!)で,地球にも優しい(?)というわけです.尾瀬の至仏山なんかでも,この,ワラムシロ・マルチングを見ました.  ちなみに,マルチングのマルチは,mulchで,名詞で使うときは「根覆い」といった訳でつかわれます.ムシロ以外では,マツなどの樹皮を砕いたようなバーク・マルチング(bark mulching)などもありますね.よく見るのは,畑で,畝の上を黒くて長いビニールシートで覆ったりしていますね.あれもマルチングです.土壌の温度を上げたり,砂埃が舞わないようにする役目などもあります.
ケーブルカー
と,色々見ながら,帰路につきます.バスに揺られ,ケーブルカーに乗ります.美女平から立山駅までは,10分もかからないでしょうか.途中,柱状節理なんかを見ながら揺られていきます(お,柱状節理,って,一発で変換されましたね.すごいや,ATOK17).
 帰りはまた飛騨路を通って,安房峠を越えます(実際はトンネル).日本生態学会は大きな組織で,本大会の懇親会なんかに出ても,本当に身動きできません.大きすぎ,という感じです.が,中部地区会など,地区会レベルでは,半日の学会発表に,エクスカーションといった形態での大会が開かれています.いいですね!日常を離れ,いろいろなものを見たり,新しい発見をしたりして,次の仕事につなげて行ければ一番良いです.そこがなかなか難しいのですが...

 ここへ行ったのが6月,それを紹介するページが完成したのが11月ですから,ずいぶん時間が経ってしまいました.月1回の更新を目指しているのですが,なかなか大変です.今年(2004年)の夏は,ドイツのバイロイト大学からお客様がみえ,静岡大学の角張先生主催で尾瀬や乗鞍などをめぐるエクスカーションのお手伝いをしました.そんなものも紹介したいのですが,なかなか.研究も進めつつ,ぼちぼちやっていきたいと思います.
 と,今回はこんなところで.

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