忙中閑あり.午前の授業が終わり,小テストの採点を終えました.また明日の授業の準備をしたり,たまっている論文を読んだりしなければならないのです が,ちょっと気分転換に,新しい記事を更新しようと思います.
 先日,生物科学科の佐藤先生と一緒に,教育学部付属志賀自然教育研究施設の井田先生の所に研究打ち合わせで伺いました.下見(?)もかねて,井田先生のご自宅に伺い,周りの植物を見たりする機会もありましたので,そんな内容をアップしたいと思います.




 井田先生は,飯山にお住まいで,古い農家をリフォームしていわゆる「田舎暮らし」をされています.外見は田舎の農家そのままですが,中は綺麗になっていて,トイレも水洗です.
 佐藤先生がこの辺のシダを研究対象にされていること,実習先などとして興味があるため,志賀の施設ではなく,こちらにおじゃましました.

 研究の打ち合わせをする二人.向かって左手が佐藤先生,右側が井田先生です.
 奥にはペレットストーブに火が入っていて,なかなか良い感じですね.空気の乾き具合などは,灯油のストーブより良いとか.

 佐藤教授

 井田助教授.照れています.

 ね,良いでしょう,こういう感じ.まさに男のロマンですが,きちんと理解のある奥様あってこその男のロマン追求です.しかし,また,理解のある奥様をめとることが,男の甲斐性なのでありましょう.さすが井田先生,私はかないません.

 保育園行っている娘さんが描いた絵が貼ってあります.なかなか良いですね.しかし,内容は,高度に抽象化されており,絵心のない私にはよく分からんとで す....

 家の周りを見せて頂くことになりました. 
 緑いっぱいです.

 ハコベが咲いているなんて,ほんの序の口.ありすぎて,摘んで食べる気にもならないそうです(ハコベは春の七草に入っており,「はこべ ら」と呼ばれてい る ものです).

 ツクシがでています.スギナは分かりますよね?右上のハコベの写真の中で,ハコベのまわりにちょこっと写っている,線状のシダ植物です.あれの胞子をとばす器官です.
 これも山菜として食べることができますが,やはりありすぎて食べる気にならないそうです.


 こちらはスイバの花序(花が集まっている部分).
 撮影の際,レンズの絞りをf5.6程度にし,背景のボケ具合を確認して撮りました(何の話か分からない人は,それでokです).

 庭に池があります.すばらしい.フキタネツケバナが生育しています.水辺に生える,きちんとした日本産のタネツケバナ で,松本キャンパスにはびこるミチタネツケバナ帰化種)とは違います.


 で,その池なんですが,カワニナがいます!細いタニシのような巻き貝がそうです.ということは...
 そうです,これを餌にするホタルがでるんだそうです.すごい,すごすぎる!

 これまたやられました.庭にカタクリが咲いています.どうころんでも太刀打ちできません.
 片栗粉,ってありますよね?中華料理などで,とろみをつけたりするやつです(「水溶き片栗粉」って,料理番組で聞くでしょ?).片栗粉は,元々はこのカ タクリの根から作っていたものです.もちろん昔の話で,今は別の方法で作られています.
 佐藤先生に「カタクリで歓んでいるようでは,島野君も,まだまだだねェ」と笑われてしまいました(^^;

 こちらはエンレイソウ.ブナ林の林床などで見る草本ですが,井田亭の庭で見ることができます.参りました.
 花びらが紫なのがただの「エンレイソウ」,これが白いものが「シロバナエンレイソウ」もしくは「ミヤマエンレイソウ」で,これらは別種になっています. そういうわけで,花の時期を逃すと,見分けるのが面倒な植物です.
 ただ,葉が3枚大きく輪生しているので,細かいことはともかく,(花が無くとも)エンレイソウの仲間だ,ということはすぐに分かります.

 井田先生の解説に感心する佐藤先生.家の壁が木であることが,オニヤンマギンヤンマだったかな?)の繁殖に必要だという ことで,これをトタン板などでおおってしまうと,トンボはそこに留まれないとのこと.なるほどねー.家の壁一つが生物多様性に影響を与えるんですね.
 そういえば,別の時に「いや,さー,家の(木の)壁を,キツツキがたたいてさあ」という話をされていました.キツツキのドラミングです ね.自然の林の中では枯れ木にくちばしをつついて穴を開け(これがドラミングになります),中にいる虫をとって食べる(雛に届ける)作業をするのですが,さすがに自分の家でこれをされては困ります.自然を守るのも大変です.
 ちなみに,「キツツキ」とは,アカゲラアオゲラコゲラなど,キツツキの仲間の総称です.

 ショウジョウバカマですね.ちょうど花の見頃です.このショウジョウバカマは少々面白い性質を持っていて,長い葉の先(写真では,葉の根もとの方は緑色ですが,先の方は赤茶色になっていますね)に,ムカゴという玉のような器官を付くって,それが地面にふれると,そのムカゴから根が生え,芽が出て,という感じで栄養繁殖(結果として無性繁殖)します.ですから,花で作られる種以外の方法で繁殖できるということです.

 こちらはアズマイチゲ.可憐ですね.こんな簡単に見てしまっていいんでしょうか.私は千葉生まれ東京育ち,いずれも住宅地に住んでいましたので,こんな環境は信じられません.
 信州の人で植物に熱心な人が多かったり,(地域限定の)植物図鑑がいろいろ売られたりしていることには,生活の身近にいろいろな植物にふれられる環 境であるというバックグラウンドがあるからなのでしょうか.

 こちらはスゲの仲間です.私が何だろうと思っていると,佐藤先生が,「うーん,ショウジョウスゲじゃないかな」とさらり.佐藤先生は,シダが御専門とはいえ,スゲでも樹木でも何でも来い!さすが,恐れ入りました.


 スゲの仲間は,花の時期にきちんと分類しておかないと,葉だけではなかなか困難です.一応,花序の部分だけ持って帰って調べると,ショ ウジョウスゲヒメカンスゲが怪しそう.ヒメカンスゲは常緑と言うことですが,それ以外にも匍匐枝を出すか出さないかの違いがあるということですが,持ち帰った花序だけでは何とも. やはり全体標本を持ち帰るべきか.ちなみにショウジョウスゲは匍匐枝なし,ヒメカンスゲは短い匍匐枝があるとのこと.
 花の特徴は,いずれにしても,(1)花序の先端に雄小穂を一つ持ち,棍棒状にふくれ,(2)脇に数個の雌小穂を 持ち,(3)高さは10-20cm程度と小柄,といったところでしょうか.
 
 花での違いを探してみましょうか.写真は雄小穂の鱗片の拡大図です(花の構造を知らない人から見たら,何の写真家分かりませんよね.うーん).
 鱗片の形がヒメカンスゲは凹頭ながら先が尖る,ショウジョウスゲは円頭で先が尖る,ということなので詳しく観察したのですが,うーん,微妙,という感じです.どうでしょうか.
 ただ,日頃からよく見ている人の言うことが正しいことが多いので,佐藤先生がおっしゃるようにショウジョウスゲでしょうかね.ヒメカンスゲは常緑ですし.葉も,もっとちゃんと見ておけば良かった.

 井田亭裏の放棄水田です.里山万歳,って感じですね.


  最近になって,里山が注目されている理由は幾つかあります.雑木林,小川,水田などがセットになっており,様々な生物種にとって異なる 生育・生息環境(ハビタットといいます)が入り組んでいるため,「里山」という景観単位で見たときに,種の多様性が高くなるのはその理由の 一つです.

  雑木林は,かつて,燃料である薪炭を得たり,農作物の肥料である落ち葉などを集めるために,無くてはならないものでした.ですから,雑木 林は里山での農業形態の重要な構成要素の一つです.  

 雑木林は,自然林と違い,定期的に人手が入り,下草を刈ったり,柴(しば.柴刈りの柴.低木状の雑木など)をとったりしたために,自然林に比べ明るい光 環境が維持されてきたため,カタクリなどの春植物が生育できるのです.自然林のように林床がササであれば,こうした植物は分布できません.

 このように,人為,ある意味では自然破壊ですが,これが特定の生物種の優占を妨げ,多様な環境(半自然環境と言っていいでしょう)を維持するシステムが できていたのです.

 しかし,昭和30年代の燃料革命で薪炭林としての雑木林は必要なくなり,また,化学肥料の普及で,落ち葉を集める必要もなくなりました.すなわち,雑木 林は農村から「いらない存在」になってしまったのです.

 かつて当たり前に存在した,里山の林,水辺,農地というセットが無くなると,これによって恩恵を受けてきた動植物たちがその生活の場を失うということが 起こってきました.

 こうしたことから,「いや,かつての農村生態系って,重要だったんじゃん」という話になり,「里山」が見直されるようになったわけです.ちなみに,「里 山」という言葉は昔からあった言葉ではなく,最近になって作られた言葉です.提唱者は京都大学の田畑先生です.それまで,「山里」という言葉はありまし た.これは山にある里,山の麓の里,ということで里が中心です.それに対し,「里山」は,里にある山(ここでいう山は,林,という意味です),里と共にあ る山,という概念と言っていいでしょう.

 私のようなよそ者がたまに訪れて,「いやー,すばらしい」というのは簡単ですが,誰かが手を入れて管理しなければならないんですね.生活の中でこれをし ていくのは,結構大変なはずです.最近はやりの,子供のための農村体験とか,グリーン・ツーリズムなんかでも,この辺までつっこんで理解してもらって,そ れに応じた体験をしていってほしいですね.

ということで,教育は大切なんですよ.ハイ(研究をさぼる言い訳にしてはいけませんが).

と,今回はこんなところで.


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