どうも,島野です.3年生の実習が,今年もようやく終わりました.去年も書きましたが,7月って大変なんです.8月になって,テストの採点が終わ ると,自分の仕事の時間ができて,ちょっとホッとします.

本当は千曲川の調査地が大雨で流されてしまったり,10月の植生学会の準備が近づいてきたりといろいろ悩ましいこともあるんですが,とりあえず,一区切 り.

実習で出かけた思い出や植物など,ちょっとまとめておきましょう.


 2006年度のメンバーです.
 去年,2005年は男子学生ばかりだったんですが,今年は女子学生も多くてびっくり.
 写真は,八ヶ岳を背景に入笠山へ上る林道で記念写真.梅雨明け直後の一枚です.空は青く,広かったです.
 写真,向かって右の二人の様子が変ですが,気にしないで下さい.

 私の実習には二つの目標 があって,一つは毎木調査・植生調査によって,植生の成り立ちを知る,植 生と環境の対応を知る,現在の植生がどのように変化していくかを推測する ,というものです.論文形式でレポートを書いてもらって,一通りのことを身につけてもらいます.他の研究分野に進んでも,役に立つはずです.

 もう一つは,信州の多様な植生景観を知って,親しみを持ち,様々な植物を知ってもらう ということです.高山植生,高層湿原,ブナ林,縞枯れ現象など,これほど多様な植生,植物を身近に見られる環境はないですし,日常の実習でこれらにふれら れるのは,日本中でも,私の実習だけでしょう.
 実習中に見られた,様々な植物を,見ていきましょう.

ブナ林

授業で私がブナ林の話をするんですが,多くの学生諸君は,実際にブナ林 なんて見たことがありません.というわけで,北信へ日本海型ブナ林を見に行きます.
 やはり,話を聞くのと(写真を見ても),実物を見るのは大違いでしょう.美しいですね
ツクバネソウ
 こちらはツクバネソウ ですね.葉は四輪生します.今は花が見えますが,これが実になったとき,はねつきの羽根(実が黒いオモリの部分に見える)に似るということで名前が付いて います.
エゾユズリハ
 こちらはエゾユズリハ .黄緑の新しい葉が展葉しています.去年でた葉は濃い緑色.
 ブナ林の関東・中部周辺での垂直分布は700-1500m前後で,常緑広葉樹には,特に冬,寒すぎる気候です.しかし,日本海型のブナ林は雪が林床を 覆ってくれるため,その保温作用によって,常緑低木が分布できます.
 これが太平洋型ブナ林との違いで,大きな特徴です.
ギンリョウソウ
 ギンリョウソウ ですね.葉緑素を持っていないため,光合成できません.で,どうするかというと,他のもの寄生して,養分をもらいます.腐生植物というくくりになっている はずです.
オオバミゾホオズキ
 オオバミゾホオズキ ですね.普通のミゾホオズキより,名前の通り大きいんですが,葉に脈が多いこと,鋸歯が多く,大きく目立つことなどが外見上の特徴です.
 分布は,普通のミゾホオズキが山地や丘陵帯に出るのに対し,こちらは亜高山帯以上の湿った所です.なので,ちょっと高い山に行かないと見られません.
オオレイジンソウ
 オオレイジンソウ です.大きく見るとトリカブト の仲間です.伊達政宗の母親が息子,政宗を暗殺しようとして使った毒を持つのがトリカブトですね(歴史上の詳しいことは知りませんが,昔NHKでやった独 眼流政宗ではトリカブト毒,ということになっていた).
 で,トリカブトの仲間でレイジンソウ という植物があります.レイジンソウはは花が薄紫なんですが,これは黄色.全体のサイズ,葉のサイズもかなり大きいです.
ヒメアオキ
 ヒメアオキ ですね.これもエゾユズリハ同様,雪のカバーによって低温(凍結)から守られている常緑広葉低木です.実が付いていますね.
ミタケスゲ
 こちらはブナ林に隣接する湿原にて見かけた,ミタケスゲ .スゲの仲間は難しいんですが,これは分かりそう.
トキソウ
 うわ,サギソウ トキソウですね.ランの仲間で すが,見事です.
 2007年6月12日訂正
 頭の中ではトキソウと分かっていたのですが,1年近く「サギ ソウ」と間違ったままでした.
 お恥ずかしい限りです.
美ヶ原
 さて,北信(ほくしん)のブナ林を離れ,美ヶ原 にやってきました.美ヶ原は,なんと松本市内なんですよ.ま,市町村合併で,今や上高地も松本ですから,市内だからといって,すごく近いというわけではあ りません.
 しかし,車で小1時間も走れば,草原にたどり着けます.
 小高い丘に登って戯れる学生諸君.まぶしいです.
ヤナギラン
 信州では,ヤナギラン は結構普通に見られます.千葉大や横浜国大にいた頃だったら大騒ぎしたのに.
ハクサンフウロ
 こちらはハクサンフウロ .美ヶ原もそうですが,霧ヶ峰の八島湿原周辺で多く見られます.
 こんな所ばっかり見ていると,学生諸君も,「ハクサンフウロ は知っているけど,ゲンノショウコ は見たことがない」といった,一般の人とは逆転現象が起こってしまうかもしれません.
 うーむ,それはそれで,すごいですね.
ウスユキソウ
 ウスユキソウ です.キク科.エーデルワイス って聞いたことありますかね?あれの仲間がこれです.
 すごく派手な植物というわけではないのですが,岩場の草原では欠かせないメンバーですね.
シャジクソウ
 こちらはシャジクソウ .マメ科です.赤紫の花が,緑に映えます.
イワシャジン
 イワシャジン だと思いました.キキョウ科です.
コウリンカ
 こちらはコウリンカ .キク科です.草原内において,このコウリンカのオレンジ色がかった黄色は非常に目立ちます.なので,ちょっと遠くからもすぐ分かります.
 私 :「あ,あそこの奥の,コウリンカだね」
 学生:「えーっ,
     あんな遠くなのに分かるんですか?」
 私 :「うん?ま,私はプロだからね」
                      なんてね.
ノガリヤス
 ノガリヤス か,ヒメノガリヤス なんですが...
 イネ科はちょっと嫌ですよね.ですが,岩場で斜めに茎を伸ばし,葉の裏面がひっくり返って上を向いているのは,ノガリヤスかヒメノガリヤスのはず...
ノガリヤス
 で,拡大すると小花から芒(のぎ)が長く出ているのが分かります.ということで,ノガリヤス .これに似たヒメノガリヤスは,こうした芒が出ません.
 写真は,すごく拡大しているわけではありませんが,こうした芒が写るように,暗い背景を選んで撮影しています.
エゾカワラナデシコ
 エゾカワラナデシコ ですね.カワラナデシコは,文字どおり河原に出るはずですが,こっちの「エゾ」は,寒い所というか,標高の高い所ですね.
 どちらも岩場に出るということでは似ているといえるんでしょうかね.
ハクサンオミナエシ
 写真がよくなくて,分かりませんね.ハクサンオミナエシ です.オミナエシに比べるとかなり小さく,全体の高さは30-50cmほど,で,対生する葉がカエデのように5裂していますので,容易に見分けられます.
 この写真は,花も葉も同時に入れようとして,どっちもよく分からなくなってしまった,ダメ写真です.
クガイソウ
 クガイソウ ですね.信州大に赴任するまでは,なかなか見ない植物だったんですが,こちらに来ると,それなりにポピュラーなものです.
キバナノヤマオダマキ
 キバナノヤマオダマキ です.ヤマオダマキは紫色でなんですが,こちらは薄い黄色.
 こういうのが,鉢植えでなく,自然に咲いていることが美しいんだと思うんですが,盗掘マニアは持って帰ってしまうんですね.困ったものです.

 丘を越えて...

 松本平,そして遙か北アルプスを望みます.
ナンバンハコベ
 松本市内からそう離れずに,ナンバンハコベ なんかも見られます.私もはじめはなんだか分からずに,図鑑を端からめくっていって知った植物なんですが...すごいな,信州.

ニッコウキスゲ
 ニッコウキスゲ もご覧に入れておきましょう.美ヶ原の方では見られませんが,霧ヶ峰の方ではよく見ます.車山(くるまやま)直下の大群落は有名ですね.
 ちなみに,霧ヶ峰の車山は百名山だとか.車を駐めて,ちょろっと登れてしまう丘ですが.ここも,気象用の観測レーダーがどんと構えていて,興ざめです が,これがなければ景色は抜群ですね.

バイカウツギ
 こちらはバイカウツギ .花がウメの花(梅花,バイカ)に似ているということで付いた名です.

 大学から,車で1時間半ほどの霧ヶ峰・八島湿原.この日はその名の通り,霧の中の見学となりました.
 学生の皆さんには,私の受け持つ授業「生態遷移論」の中で,霧ヶ峰や,湿原についての話をしてもらいました.
コオニユリ
また場所は変わって,入笠山です.コオニユリ ですよね?花はもう少しですか.
サワギキョウ
 サワギキョウ ですね.こちらも,花の見頃はもう少し後のようです.

 皆さんご存じのように,大雨で信州の各地の道路が寸断,調査地に入れない事態が生じました.どうしようか迷ったんですが,国営アルプス あづみの公園 を見学をしました.

 園内のモグラ塚の解説に驚く学生諸君.
 この公園,入場料は400円かかりますが,園内を広く一周すると,アルプスで見られる高山植物園があったり,グリーン・アドベンチャーのようなクイズの 施設があったり,また,建物内では,ヤマメやイワナのいる池の断面がガラス張りになっていて,なかなか楽しめる施設です.

 さて,エクスカーションばかりでなく,調査風景もご案内しましょう.
 身近な植物,300種くらいは覚えたかな?

 皆さん,まずは自分で植物を同定できるようになる所から初めて,毎 木調査の計測 ,そして植物社会学的植生調査の被度・群度 まで出せるようになってもらいます.
 私個人は植物社会学的なデータで論文を書くことはありませんが,皆さんが役 所や環境コンサル会社などに勤めれば,アセスメントなどで目にする可能性がある ので,必要だと思っています.
ヤマボウシ
 キャンパス内に植わっているのはハナミズキ (アメリカヤマボウシ)なんですが,山には野生のヤマボウシ があります.花びらのように見えるのは萼ですね.
ユウスゲ
 ユウスゲ なんかも出てきちゃいます.
 調査枠外ですが,あらゆるものを記録し,覚えていこうとする学生諸君の態度は,非常に頼もしいものでした.
 そうした態度で臨んでいけば,皆さん,どんな分野でも必ず芽が出ると思います.どうせ手間をかけてやるなら,たとえ自分が望んだものでないとしても, きっちり,情熱を持って望みたいですね.

 なんか変なポーズに見えますが,目測で樹高を計測 しています.2mの指標を頼りに,その倍が4m,さらに倍で8m,といった具合です.

 幹の太さは,胸高直径 と呼ばれ,地上1.3mの高さで測ります.これは,幹の下の方が根張りの影響などで太くなっているのでこれを避けることと,測りやすい高さであるといった 事などが根拠になっているのでしょう(かつて,日本では地上1.2mの高さで測っていましたが,最近は欧米と同じ基準を用いて1.3とすることが多くなり ました.体格の差ですかね).  斜面地では,写真のように,斜面の上の位置で1.3mの高さを決めます.
 直接直径を読める巻き尺(直径巻き尺)などもありますが,普通のメジャー(コンベックス)で周囲長をはかり,π(約3.14)で割れば直径です.

 記録係は,安定し所に腰掛けて,体を計測者の方に向け,種名や値が聞き取 りやすい様にします.
 記録者は,計測者がコールしたら「ハイ」と返事をして,きちんと記録できたことをアピールします.

 帽子をかぶること,そしてタオルを持つことをお願いしています.長袖長ズ ボンは基本.靴下も最近はやりのくるぶしが出るものでなく,くるぶしの上まで来る,昔ながらのものが安全.
 それと,水は持ち歩いて下さい.

 個人的な記録は,野帳にしてもらいますが,植生調査票などは決まった フォーマットのものに書いてもらうことになります.なので,画板は必携.

 分からないことは何でもお先輩が教えてくれます.
いや,教えてくれるようになるようになってくれる事を願っています.
 よろしく >先輩.

 授業では,山の森林がその根系の杭の働き(垂直根),ネットの働き(水平根)で,山崩れを防止する役割があることなどを話しますが,雨で崩れた所は,や はり森林が発達していない所でした.

 ま,しかし,なんといっても,
 愉しまないと損ですから.

学びながら,知的に楽しみましょう.
ママコナ
 アカマツ林の調査地で出てきたものを少し.ママコナ です.乾いた立地に出ますので,尾根沿いのアカマツ林にこそふさわしいですね.
 学生の皆さんはなかなか名前が覚えられません
「マナカナ?」
「それは双子の芸能人」
「ナマコナ?」
「わざと間違えてるでしょ?」
ハナイカダ
 ハナイカダ も見ておきましょうか.この植物,不思議なことに葉っぱの真ん中に花が咲きます.花は春ですのでもう終わっていますが,実がなっています.
 花も実もないと見分けづらいかもしれませんが,芒状にとがる鋸歯がポイントでしょうかね.
縞枯れ
 都合10回にわたる実習の最終日は,北八ヶ岳に縞枯れ 現象を見に行きました.それと岩場の高山植物.
 写真は雨池山に見られる縞枯れ.定常的に風が写真右側から吹き,親木が枯れあがり白い幹はだが見えます.しかし,その下では非常に高密度の稚樹が風から 守られ,そして日の光を浴び,世代交代をすべく成長していきます.これが縞状に見えるのが縞枯れの正体ですね.
グンバイヅル
 植物も見ていきましょう.グンバイヅル .林内では見られません.ゴマノハグサ科で,花はオオイヌノフグリに似ていますね.
ハリブキ
 ハリブキ .堅い葉の針葉樹林内において,柔らかい広葉は食べられやすいんでしょう,針を持って防御しています.
イブキジャコウソウ
 イブキジャコウソウ .シソ科.
 「どう?臭いする?」
 「あっ,するする.
 でも麝香(じゃこう)ってどんなにおい?」
キンロバイ
 キンロバイ .バラ科.こんなに簡単に見られていいんでしょうか.
イワオトギリ
 イワオトギリ です.平地では見ませんね.このオトギリソウの仲間は,葉を透かしてみると,黒い点が見えたり透明な点が見えたりする(油点 )のが見分けのポイントですが,詳しいことはまた今度.
イワギキョウ
 イワギキョウ .高山の岩場のものです.これに似たチシマギキョウは花弁に毛がありますが,これは花弁に毛がないので,すっきりして見えますね.
カニコウモリ
 カニコウモリですね.亜高山性常緑針葉樹林で見るものですね.キク科です.

 自動車とピラタスロープウェイで,2200mまであがってしまいました.北横岳が2400ちょっとですので,グループを二つに分けて,登山組を作りまし た.

 北横岳2480mの頂上.登りはじめて1時間ちょっとぐらいでしょうかね.楽々登山です.晴れて何より.後ろは蓼科山.

 別に特別な意図はないんですが,二人で並んでいる所をとらせてもらいました.端(はた)から見ると「友達以上,恋人未満」的な絵ですが,全然関係ありま せん.手前の学生は笑って吹き出しそうなのをこらえてくれています.

 帰りのロープウエイですが,写真の二人は,後ろの人も景色を見られるように,しゃがんでくれました.
 いい絵ですね.

 帰りはヴィーナスラインを松本方面へドライブ.
 八ヶ岳をバックに写真を撮ったりして...
最後は打ち上げを行うことができました.

皆さんありがとうございます.

 皆さんのおかげで,私も30代最後の夏を楽しく過ごすことができましたよ.ええ.

しかし,飲み会も途中で寝てしまった私は,やはりもう若くないのかなと,ちょっと落ち込みましたが.

あ,レポートはしっかり,よろしく.

 私の実習に参加してくれた皆さんも,この3年生の夏から,それぞれの研究室に分属になって卒業研究に着手します.どんな分野にいっても,楽しく学ぶこと を忘れないでほしいと思います.皆さんがこれからする仕事,楽しくできるのは皆さんしかいませんからね.
 それから,私の実習で身につけた,植物を見分ける方法や,植生から環境を判断する方法は,一生ものの技です.大人になってしまってからも使えるように, ちょくちょく花や樹木に親しんでもらえたらうれしいです.

それでは!

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