えー,香川シリーズの最後は,ブナ林です.香川県でブナ,といってもあまりイメージがないと思いますが,やはり少ないんですね.で,日本を代表 する冷温 帯落葉広葉樹のブナですが,香川県ではレッド・データ・プランツに数え上げられています.

今日は,そうした貴重な香川のブナ林を,小林先生の案内で見ていきたいと思います.では.


 というわけで,今回は香川県のブナ林を見るために大滝山という所を案内して頂きました.ここは大滝大川県立自然公園に指定されています.
 香川の山の中腹はほとんど伐採・植林されてしまっており,山地の尾根部に帯状に分布が残るだけ,という現状のようです.
ブナ
 ブナですね.

 こんな幹肌.太平洋型ブナ林の特徴は,ブナだけが優占するのではなく,様々な樹種 が共優占することにあります.そのため,多様性という観点で見ると,大 変高いんですね.
ブナの堅果
 太平洋型ブナ林のブナは雪が少なくて,タネが動物(ネズミなど)に見つかり,食べ られやすかったりして,多雪な日本海側に比べると繁殖が困難だったりし ます.が,ここではタネが見られて,ホッとしました.

 実は,こうしたテーマは私の専門で,詳しくはShimano (2006), Shimano (2002), 島野(1998)なんかを見て下さい.ちゃんと研究してるんですよ.
アラカシ
 ここのもう一つの特徴は,標高が1000m弱と低めなため,常緑広葉樹も分布していることでしょう.
 関東・中部地方だと,常緑広葉樹林とブナ林などの落葉広葉樹林の境界は700-800m程です.こちらは関東より暖かく,境界域がもう少し高いのでしょ う.
 アラカシが出ています.ブナとアラカシの組み合わせは初めて見まし た.

シロダモ
 こちらはシロダモ.常緑広葉樹の亜高木といえばこれです.ブナ林の 亜高木層がシロダモとは...
モミ
 針葉樹もいくつか出ていますので見ておきましょう.こちらはモミで す.葉の先端が2つに割れているのが見えますか?これが特徴です.
 モミウラジロモミを比べると,モミは標高の低い方,ウラジロモミは標高の高い方に出ます.
 見分けのポイントは枝の模様.モミはうっすら毛が生えているだけですが,ウラジロモミの枝の表面はブロック状に切れ込みが入っています.
カヤ
 こちらはカヤ(カヤノキ).枝が緑色で,葉の先端が別れず,鋭く 尖っていますね.
 この写真の状態の部分を手で握ろうとすると,非常にいたいです.これがカヤ.

ちなみに,茅葺(かやぶ)き屋根,の「かや」は,このカヤではなくススキのことで す.
イヌガヤ
 一方,こちらはイヌガヤ.葉が幅広く,先端が尖っていないわけでは ありませんが,鋭くなく,握っても痛くありません.
カヤとイヌガヤ
 隣り合って生育していたので,並んで写真をとっておきましょう.小林先生に押さえておいてもらいました(^^;
カヤ 水ストレス
 カヤですが,小林先生曰く,こうして(緑のはずの)枝が茶色く変色しているのは, 水ストレスがあったためとか.
 いや,勉強になります.
ミヤマシキミ
 こちらはミヤマシキミ.日本海側はツルシキミですが,こちらはミヤマシキミです.ツルシキミはミヤマシキミの変 種,ということになっているはずです.
 太平洋型ブナ林としては,筑波山のブナ林もアカガシが混じったり,ミヤマシキミが出現したりしました.
アカガシ
 これがアカガシです.山地常緑樹林帯の極相構成種の一つです.長い 葉柄が特徴ですが...

 ブナと一緒に出るのは,何というか感慨深いです.
(後ろの大木がブナ,手前の葉がアカガシ)
ヤドリギsp
 ヤドリギの仲間を拾ってしまいました.良くおちてますよね,これ. 正確な種は分かりません.

イヌツゲ
 イヌツゲです.公園とかで良く植わっていますが,これは野生です. すごいですね.
グミsp
 いやー,グミの仲間ですが,これも分かりません.
 とほほ.
アセビ
 太平洋型ブナ林の尾根沿いといえば,このアセビです.ツツジ科で有 毒ですが,食べる人はいないでしょう.馬が食べると酒に酔ったようになるということ で,漢字では「馬酔木」と書きます.よく,スナックとかバーの名前とかになっていますね(^^;
ミヤマシキミ群落
ミヤマシキミの大群落です.ブナ林の林床は,通常,ササになってしまうことが多いので,こうしたブナ林は貴重ですね.
ブナ若木
 ササがないためか,ブナの若木sapling)もちらほら見かけます.ここは,尾根上の立地のため,日当たり も良いのかもしれません.
 去年付けた葉が,枯れながらもまだ残っています.
ヒイラギ
 ヒイラギです.野生です.未熟な私は,野生のヒイラギを見るのは, 初めてです.
 ヒイラギは,若木のうちは葉の鋸歯が,写真のように非常に大きいのですが,老木に なると鋸歯が無くなり,丸くなるといいます.
 見習いたいものですね.
コマユミ
 こちらはコマユミ.枝にコルク質の翼があるものをニシキギといっ て,良く庭木として植えられますが,これはその変種で翼のないもの.

 立派なものです.ブナ.ですが,ヤドリギが付いていて,これに栄養をとられすぎないかと心配です.
林冠ギャップ
 幹折れギャップです.台風か何かで,大木の幹が折れ,光が林床に当 たるようになると,林床で待機していた実生や幼木が成長をしていく,というのがギャッ プ・ダイナミクスgap dynamics理論の説明です.
 が,実際には,ササが強力に繁茂してしまいます.で,樹木の更新は難しかったりするんですね.

 大滝山の山頂自体は,こんな感じ.植林で展望もありません.
スズタケ
 ササも見ておきましょう.スズタケですね.茎の先端から2枚の葉を付けることが特徴です.
セリバオウレン
 おっ,新種です(自分にとって).キンポウゲ科のようですね.
 で,いろいろ調べると,形やら,分布などから,
セリバオウレンのようです.
セリバオウレン
 こちらはセリバオウレンの葉.写真でわかりやすいように,手を入れてみましたが,皆さん,取ったりしてはいけません.
アブラチャン
 アブラチャンが咲きかけていました.

 すぐそばに西照神社,という神社があります.その階段を下りていくと,お寺が.ま,こういう環境だから自然が残された,ということができるかもしれませ ん.

 小林先生が,「もうちょっと先まで」といって下さるので,お言葉に甘えて,落合峠,という所まで来ました.私は疲れていたので,車の中でウトウトしてし まい,申し訳なかったです.
 かつては一面の茅場(ここでいうカヤ,とは,先ほどの樹木ではなく,ススキのことです)だったそうですが,今は一面のササ.
イブキザサ
 どれどれ,ササを拝見.同定しましょう.

イブキザサ
 まず,節がふくれていますね.こうした特徴は,ミヤコザサに見られ るものですが...
イブキザサ
 うーむ,茎が枝分かれしていますね.ミヤコザサは基本的に枝分かれしませんの で,違いそうですね.
イブキザサ
 さらに,ミヤコザサは葉の裏に毛が密生しますが,これはありません
 で,こうした条件で見ていくと,イブキザサ,ということになりま す.いや,これも西日本に分布の中心があるので,初めて見た「新種」です.
 九州や四国のブナ林を調査したときに,見ていたのかもしれませんが,そのときは,種まできちんと同定しなかった,というのもあるかもしれませんが.
ヒメシャラ
 落合峠の北側は,ブナの自然林ですが,やはり林床はイブキザサ.で,写真は,ヒメ シャラパッチ(patch)です.ヒメシャラは,こ うやって同じくらいのサイズの個体がかたまって生育しているのをよく見ますね.コ ホート(cohort)です(ベーシックマスター生態学48ページ). 関東では伊豆なんかで見られます.
...といった感じで,香川のブナ林を拝見しました.

 研究を進めるため,合宿,の様な形でお世話になりましたが,贔屓(ひいき)のうどん屋さんを始め,いろいろな所をご案内頂きました.お世話になりまし た.

左の写真は,小林研究室で作業中の私.ホテルの帰ってからも作業したので,一日,11時間ぐらいパソコンに向かっていました.いやあ,こんなに集中したの は久しぶり.

時間に応じて研究も進むと良いんですが...
という感じで,一週間近くお世話になった香川大農学部をあとにします.

4月になって,授業,実習,ゼミなどが始まってしまい,また,集中して時間をとれなくなってしまいました.ええ,ぼつぼつすすめます.

それと,小林研究室の学生諸君が生理生態の,かなり難しめの教科書を原書(英語)で読むという輪読会をやっていて,そのレベルの高さにショックを受けまし た.
 そんな刺激を受けたものですから,私のゼミでも,積極的に英語の論文を読んでもらうように,半分義務化してみました.だまっていると,日本語の論文ばっ かりになってしまうので.もちろん日本語の論文がダメだとか,レベルが低いということではないですが,やはり,大学生時代が集中して,時間をかけて英語の 勉強をする,貴重な機会ではないかと思うんです.社会に出てから,語学を勉強しようとするのはなかなか大変.英語ぐらいは,そこそこ,身につけておいてほ しいと改めて思いました.

 せっかくブナ林の記事を読んでいたのに,なんだか説教クサイ話になってすみません.貴重な大学生生活,勉強も遊びも,そして飲みもしっかりやって下さ い.

ではでは.

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