どうも,島野です.今は五月のさわやかな季節なんですが,去年,2006年の11月に,飯田市美術博物館の蛭間 啓 博士に,信 州・長野県飯田地方のハナノキ自生地をご案内頂きました.私だけ,というのもなんなので,私の研究室の学生諸君を連れて,いろいろ見て回ろう,と いう感じです.
 ハナノキは絶滅危惧種なんですが,その原因として,生育立地である湿原(湿地)が開発によってどんどん減ってきていることがあげられます.植物の絶滅に は,大きく二つのパターンがあって,一つは,マニアによる盗掘,もう一つは,本来の生育に適した立地自体が開発によって無くなってきていると言うことです ね.場所は違いますが,軽井沢のサクラソウなんかは(同じような立地に分布する植物を含めて),この両方の危機にさらされているといえます.
 で,ハナノキの自生地を見る,ということは,貴重な湿地,そしてそこに生育する湿地の植物たちを見る,ということになります.



では,スタート.


 まずは,みんなで自己紹介から.写真左手が蛭間博士.私の所の学生諸君も,少々緊張気味.
アベマキ
 ハナノキの自生地なんですが,この,南信地域には,アベマキが生育 します.葉っぱを見ると,クリやクヌギにそっくりです.長野中部や,関東には分布しま せんが,この,南信,愛知以西に広く分布します.
アベマキ
 で,どうやって見分けるかと言うことですが,一つは葉の裏をめくります.真っ白でびっくり.この葉の裏の真っ白さはアベマキだけ.
アベマキ
 そして幹肌.ものすごいコルク質です.クヌギもコルク質の樹皮を持ちますが,こんなには厚くありません.
ハナノキ
 さて,ハナノキ.もう紅葉の時期でちょっと残念ですが,落葉のため に,葉を近くで診ることができます.
「カラコギカエデにそっくり」
 と思ったあなた,鋭いですね.似ています.
 というか,激似!
ハナノキ
 ところが,葉の裏を返せば,バッチリ.ハナノキの葉の裏は,このように白くなるん ですね.
ハナノキ
 別の場所で撮った写真ですが,全体像はこんな感じです.ここは,二つ山という所の神社にあるハナノキ.青い空に真っ赤な紅葉が映えます.
ミヤマシラスゲ
 左の神社はともかく,ハナノキは,湿地に生育します.なのでスゲも出てき ます.いや,苦手なんですが,蛭間博士に寄れば,ミヤマシラスゲなん だとか.
 枯れてしまっていますが,一応,花穂の写真を載せておきましょうか.
ミヤマシラスゲ
 株はこんな感じ.
ミヤマシラスゲ
 葉は,M字型に折れ曲がるタイプですね.V字型のものもあるので,ここは,一つ,特徴といえましょう.
 もう一つの特徴は,葉の裏が白いこと.これが名前の由来でしょう.
カザグルマ
 カザグルマも,きっときれいな花を咲かせていたのでしょう.もう, 完全にタネです.写真のような綿毛で風散布,もしくは水に浮いて,水散布で遠くまで行 きます.
ヘビノボラズ
 こちらも湿原の植物で,長野県ではレッドデータです.ヘビノボラズ, という植物.
ヘビノボラズ
 どの辺がヘビノボラズなのかというと,このトゲ.このトゲのため に,ヘビも登れないよ,という意味なんでしょう.
ヘビノボラズ
 さがすと実生が見つかります.実生があれば,一応更新できる(子供 ができて,世代交代が進む)ということで,ちょっと安心.
イソノキ
 こちらも湿原に生育するイソノキ.人生で2回目に見ました.
イソノキ
 ウメモドキも,比較的見ることが少ない種かもしれませんね.以前も 湿原で見ました.
アギスミレ
 さてスミレです.湿った所でハート型の小さなスミレといえば,ツボスミレで すが,葉っぱの形が,やや違うかな...
アギスミレ
 はい,これはツボスミレの変種でアギスミレというんだそうです.ツボスミレはハート型の葉ですが,こっちは,ブーメラン型,といったらいいですかね.
フモトミズナラ
 さて,ハナノキの湿地を離れて,斜面林を案内してくれる蛭間博士.
「ミズナラでしょ?」
「いやあ,違うんですよ,実は!」
フモトミズナラを説明する蛭間 啓 博士
「これが,日本のモンゴリナラ,って言われている
フモトミズナラなんです」と蛭間博士
「あ,これが.ほーお」と私
フモトミズナラ
 こちらは,ドングリ(堅果)をつつむ殻斗(かくと)という部分です が,フモトミズナラの殻斗はミズナラに比べてイボイボの出っ張りが強いらしいです.
フモトミズナラの堅果と殻斗
 で,堅果(けんか,ドングリ)と殻斗の写真.
フモトミズナラ
 どう見てもミズナラに近いんですが,最近の分類の研究で,このフモトミズナラはコ ナラの変種になっているとか.DNAか何かを見た結果らしいですが,日 本ハムのヒルマン監督風に言うと

「シンジラレナーイ」


フモトミズナラ
 葉の外見上の特徴は,ミズナラと比べ鋸歯の先がまるいこと,そして側脈数が少ないとのことです.
コナラ
 が,これがコナラです.松本市内,浅間温泉の裏山のもの.雨で葉が 濡れていますが,こんな葉の形です.
ミズナラ
 同じ地点で撮影した,これがミズナラ.先ほどのフモトミズナラ,ど う見てもこっちに近く見えるんですが.


コナラの堅果と殻斗
 それから,これがコナラの堅果と殻斗.どちらもさっきのフモトミズナラと堅果と殻斗に似てもにつきません.

さっきのフモトミズナラの堅果と殻斗はそのまま出されたら「ミズナラでしょ,これ」と答えてしまうものです.



ま,DNAのどんな部分を見たかで,どちら(コナラとミズナラ)にどれだけ近いか,ということは変わってしまうのではないかと,素人ながら思ったりしま す.遺伝子(DNAの中 の,意味のある情報を含んでいる部分)を必ずしも見ているわけではないと思いますので,形とは関係ない所を見ていることになるんですよね?

しかし,原著を読んでいない以上,何とも.
(え,読めば,って?まあ,そうなんですが,そっちの方面は,なにぶん素人なもので)

 さて,場所を変えて,もう少し案内してもらいます.
ツクバネ
 雑木林で見つけました.ツクバネです.羽子板でする羽根突きの羽根にそっくりですね,実の部分.
 分布は,暖温帯の山地ですから,今までブナ林を見てきた私にはあまり縁がありませんでした.
 筑波山で見たかな.
コウヨウザン
 こちらは,コウヨウザンというスギ科の針葉樹.日本にはもともと無 くて,台湾とかにはあるはずです.写真の個体は,庭木として植えられたもの.

 備中原,というハナノキ自生地に来ました.人の持ち物なので,蛭間博士が所有者の方に声をかけて,見学させて頂きました.
 なんというか,普通の裏山です.こうした所が自然の立地であったとしたら,さんざん開発されてきたのもうなずけます.ここは,良く残してくれた,という べきでしょうか.

 落ち葉の季節ですが,こうした写真もフロラ
(植物相)
を押さえる上では重要.
ハナタデ
 さて,タデ科の植物を見つけました.イヌタデなんかに比べると花がまばらで少ないですね.
ハナタデ
 花はこんな感じ.えっ,もっと寄って写真とれ,って?
 言う方は簡単ですけどね.
ハナタデ
 どれどれ,地べたはいつくばって,写真撮りますよ,はい.
 まばらな花,そして,茎の葉の付け根を被う葉鞘(ようしょう)から,葉鞘と同じくらいの長い毛が生えています.
 こうした特徴からハナタデであるといえます.
 花が咲いてたらきれいだったんでしょうけど.
テイカカズラ
 このあと,天竜峡方面とかいろいろご案内頂きましたが,途中でテイカカズラを見ました.
 テイカカズラは葉の形がいろいろになってツルマサキと似ていたりしますが,蛭間君が見分け方を教えてくれました.
テイカカズラ
 葉をこうしてちぎると,テイカカズラは写真のように,糸くずのような繊維が見えるとのこと.一方ツルマサキは,こうはならないとか.
 むやみに葉をちぎることは避けたいですが,知識としては知っておくと役立つでしょう.
アカシデ
 アカシデです.イヌシデと同じ属で似ていますが,イヌシデは葉の表面,側脈と側脈に挟まれた部分に毛がありますが,アカシデはありません
オオモミジ
 オオモミジです.ヤマモミジが日本海側に分布の中心があるのに対し,オオモミジは太平洋側.
 信州は南北に長いので,北に行けばヤマモミジ,南に行けばオオモミジ,と両方見られます.
オオモミジ
 図鑑風のアップ写真.脈腋(みゃくえき,脈と脈が分かれる部分)に は,毛が見あたりません.


と,まあ,こんな感じの一日でした.11月も中頃,ということで昼間,日が差しているうちは暖かかったのですが,日がかげると寒くなります.

しかし,天候に恵まれたため,日頃なかなか見られない植物,植生を見ることができました.

改めて蛭間博士にお礼申し上げます.
と,今回はこんなところで.



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