木曽のヒノキ林について



UPDATE: 2007年6月13日

木曽のヒノキ林について,メールを頂きました.

わたしの研究室を出た,卒業生の横山雄一君から,以前私が書いた記事「切る?切らない?木曽 の天然ヒノキ林」についてのコメントです.

 彼は,インタープリター(野外で自然観察時に,解説などをする仕事)をしていたりする関係で,こういう事は,詳しいんです.

 で,釈迦に説法かもしれませんが...と丁寧に断りを入れて,次のようなメールをくれました.わたしだけで読むのももったいないので,横山君の了解を得 て,ここに載せておこうと思った次第です.

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 まずご存知かと思いますがヒノキは耐陰性に劣ります。よって木曽ヒノキ林は「原生林」ではありえません。

 現状から申し上げますと、放置されたヒノキ林は林冠が閉鎖しているためヒノキの稚樹が育たず、林床は耐陰性の強いアスナロ(ヒバ)に覆われていま す。この まま手を入れない状態が続けば近い将来、ヒノキ林のほとんどがアスナロ林に遷移していくことは明白であります。

 木曽ヒノキ林は「択伐」によって人工的に維持されてきたものですから確かに「天然林」と呼ぶのは問題があり、「天然生林」と書いているガイドブッ クもあります。ただ「天然生林」という用語は一般の方には理解しにくいので、私が昨年赤沢でガイドした際には「半自然林」と言い換えていました。

 もうひとつ、文化的・歴史的背景にも触れなければなりません。
 この地でヒノキ中心の造林が行われるようになったのは、江戸時代前期に江戸大火などによって材木需要が増えて強度伐採が行われ、その跡地にヒノキが育ち 始めたことが始まりです。以後尾張藩によって地元民の伐採を禁じる留山や停止木・留木といった管理政策が採られるようになり、その厳しさは「檜一本首一 つ、枝一本腕一つ」という言葉が残るほどであります。

 伊勢神宮の式年遷宮をはじめとして、多くの歴史的建造物の造営・修理には良質のヒノキ材が必要とされますが、国内にはすでに良質のヒノキ材を産す るまとまった森林はほとんど残されておらず、木曽ヒノキ林の荒廃は日本の伝統文化の衰退に直結するものです。

こういったところを見ていくと木曽ヒノキ林に対するスタンスとしては「保全」でなければなりませんが、信毎の記事を見ていないのでなんともいえないのです が、やはり保全と保護を混同しているということでしょうか。

 あとこれは今回の記事の論点とずれますが、外材が高騰しているにもかかわらず国産材が売れないのは「乾燥が不完全なまま製材しているため狂いが大きく施 工現場での修正が必要」という商品として失格ともいうべき理由によるものです。遅ればせながら大規模乾燥施設を導入している産地もありますが、今までの国 産材需要から考えると大規模な投資には及び腰になっているのが現状のようです。

参考:中部森林管理局 東濃森林管理署HP
http://www9.ocn.ne.jp/~mori10no/index.html


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横山君,卒業してからもここを覗いてもらって,光栄です.またよろしくお願いします.

(去年のページで,トキソウの所をサギソウと書いていた間違いは自分で見つけました.面目ない)