島野です.ええと,佐渡植物記ですが,何日目までいったんでしたっけね...(ネットで確認)...あ,5日目まで終わりましたね.では6日目です.
 6日目は森林です.ミズナラ林,ブナ林,スギ林と,やっと自分の得意分野に来た感じですが,全然知らない物を新たに発見する方がおもしろかったりして, 複雑です.そうなると今度は仕事が進まないんですよね.
 で,今回の佐渡植物記3では,落葉広葉森林,田んぼの水生植物,常緑樹林その他を見ていきます.Here we go!


 ミズナラ林です.山地帯落葉広葉樹林帯の極相林であるブナ林を伐採すると,一般的 には写真のようなミズナラ林になります
 ここがかつてブナ林だったことは,上記のような理論にあわせて,林床に出てくる植物がブナ林と同じであることなどから把握します.
ミヤマママコナ
 良いですね,ミヤマママコナ.松本近辺でも,ママコナ,ミヤマママ コナの両方を見ることが出来ます.乾いた所に分布しますね.
 ママコナの外見的特徴は,花を包む苞の部分にトゲがあるように見えますが (本当はトゲじゃないんだけど),ミヤマママコナの方はそれがないの で,やさしい印象です.
オオイワカガミ
 オオイワカガミですね.残念ながら花はすでに終わって いました.
 イワカガミの仲間の種類については,木曽駒・高山植物紀行でお知らせしたとおりで す.このオオイワカガミは葉が大きく,多雪地帯に分布することが特徴です.
オオミスミソウ
  オオミスミソウだとおもうんですが.ミスミソウよ り,葉が大きく, 丸っこいんですよね,これ.
 地元,佐渡島ではミスミソウ,オオミスミソウをあわせてユキワリソウ,と読んでいます.しかし,標準和名でユキワリソウと呼んでいる植物は他にあるの で,ちょっと注意が必要です.
 いずれも雪解けの頃になると,雪から顔を出すように花を咲かせるという意味です.春を呼ぶ植物ですね.
アオヤギソウ?
 うーむ,難しいですね.最初エビネ,それも雪国に多いサルメンエビネ(ラン科)かと思ったんですが,それよりはアオヤギソウとか,シュロソウ(いずれのユリ科)の方が近いな,と思い直しました.

 アオヤギソウとシュロソウは花の色の違いを見れば一目瞭然なんです が,横浜国立大学の藤原一繪教授に「シュロソウの茎の根元にはシュロの幹のような毛があって,それが和名の由来なん ですよ」と教えて頂きました(中国のブナ林をご一緒させて頂いたとき).

 で,もとの縮小していないバージョンを拡大してみたんですが,毛はあるんですが,シュロの様かどうかは微妙.どちらか,としておきます.
イチヤクソウ
 イ チヤクソウですね.ベニバナイチヤクソウとかジンヨウイチヤクソウとか色々ありますが,何もつかない「ただの」イチヤクソウのようです.
 ジンヨウイチヤクソウ,マルバイチヤクソウ,コバノイチヤクソウは亜高山帯の針葉 樹林帯に生育します.
 で,山地帯に出るのはイチヤクソウとベニバナイチヤクソウ.ベニバナイチヤクソウ は文字通り赤い花を付けます.
 あと,イチヤクソウは,通常葉の裏が紫色な事を覚えておくと良いで しょう.
チゴユリ
 これはご存じ,チゴユリ茎の先端にだけ花を着けますので,アマドコロやナルコユリの仲間と間違えることはありません.
ミヤマアキノノゲシ
 移動のため,いったん道に出ます.林縁の明るい所で,キク科の植物を発見.ミヤマ アキノノゲシです.
ミヤマアキノノゲシ
 ミヤマアキノノゲシの花はこんな感じ.いや,花は終わっていますが,集合花をいくつもつけて,ゴージャスです.
ミヤマアキノノゲシ
 このミヤマアキノノゲシ,葉に特徴があります.通常のような細い葉柄ではなく広い 翼のような葉柄でで茎を抱くようにつきます.
ミヤマあけ意のノゲシ
 さらに,葉の裏の葉脈にはトゲがあります.
 あと,茎に毛がない点もおさえておきましょう.
ツルシキミ
 再びブナ林へ.
 ツルシキミです.雪の保温作用で,ブナ帯という寒い標高にも分布できます.
マルバマンサク
 こちらはマルバマンサク.これも雪国の日本海要素です.
ミヤマカタバミ
 ミヤマカタバミですね.クローバーのように3枚で1枚の葉ですが,一つ一つの小葉は,ハート型というより,三角形に近いです.
エゾシロネ
 シロネの仲間で,エゾシロネ,といいます.シソ科シロネ属.シソ科で すので茎の断面は四角いです.

 この仲間を整理しましょう.
 まず,シロネ,ヒメシロネは葉が細長い.で,シロネは大きく,ヒメシロネは小さい.
 で,エゾシロネ,コシロネ,ヒメサルダヒコは葉が菱形.今回のはこっちです.
 で,その中で茎全体に細毛があればエゾシロネ,茎の節にだけ毛があるのがヒメサルダヒコ,コシロネ.
 で,ヒメサルダヒコは茎が地面をはって多数分岐,コシロネはその変種で,茎は直立し,分岐しない,と.
 勉強しました.

 カニコウモリです.キク科.普通はブナ帯の上部やさらに上の針葉樹 林帯に分布します.

 コウモリソウ,という葉の形がコウモリの羽を広げた状態に似た植物があります.で,これはコウモリソウの仲間なんだけど,葉が大きくふくらんでカニの甲 羅のように見える,というのがその名の由来.

名前の由来を知っていると,覚えやすいでしょ?
エゾユズリハ
 エゾユズリハです.これも先ほどのツルシキミと同様,雪の保温作用 に守られて,寒いブナ林にまで分布可能になっている種です.
ケナツノタムラソウ ミヤマタムラソウ
 再びシソ科.アキノタムラソウかと思っていたんですが,誤同定.ミヤマタムラソウ(ケナツノタムラソウ)ですね,アキノタムラソウは花から雄しべが出ませんが,これは出ます.
 さらに花弁,萼にものすごい腺毛があります.
ケナツノタムラソウ ミヤマタムラソウ
 ミヤマタムラソウ,葉はこんな感じ.茎の上部の葉は単葉ですが,下部の葉は三出複葉になっていました.
ケナツノタムラソウ ミヤマタムラソウ
 三出複葉のアップ.もっと下の葉は,羽状複葉です.

タムラソウ,と名前が付くのは,「タムラソウ」「ハルノタムラソウ」「ナツノタムラソウ」「アキノタムラソウ」とあります.難しいです.勉強中.違いはまた今度.
サルトリイバラ
 移動のため道路に出た時に見た林縁植物.
 こちらはサルトリイバラ.ツル植物です.茎にトゲがあって,「猿が 捕まえられる」という意味でしょう.
 こちらの地方では,柏餅をくるむ葉として使うようです.柏餅は,カシワの葉で包ん であるので柏餅ですから,そうなるとサルトリイバラ餅,ということになりましょうか.
オウレン キクバオウレン
 スギ林の林床にやってきました.オウレンです.別名,キクバオウレン.キクの葉のように切れ込んだ葉をしている,という意味でしょ う.日本海側に分布します.キンポウゲ科のオウ レン属です.キンポウゲ科って,難しいですよね.
 このオウレンにはいくつか変種があります.まず基本は一回三出複葉のキクバオウレ ン(いわゆるオウレン),二回三出複葉のセリバオウレン(香 川のブナ林で見ましたね),三回三出複葉のコセリバオウレンです.こ の部分は,清水さんが調べてくれました.写真の個体は,二回三出のようにも見えますが,ま,キクバオウレンで良いのではないかと思います.

という感じでこの日は終了です.ミズナラ林,ブナ林,スギ林と森林をまわりました.


...で,7日目は平地の常緑広葉樹林(照葉樹林)このままだと本当に佐渡の植物を制覇してしまうかも(笑).
タブノキ
 常緑広葉樹林といえば「シイ,タブ,カシ」です.で,これはタブノキ. シイ,タブ,カシの3種類の中では最も海岸沿いに分布する種です.
タブノキ
 常緑広葉樹はどれもよく似ていますが,タブノキの特徴は,枝の先端に一つだけ冬芽(休 眠芽)をつけます.これが特徴.
アカガシ
 一方こちらはアカガシ.葉っぱはタブと似て全縁ですが,枝の先に複数の冬芽をつけますね?これが特徴です.
シロダモ
 こちらはシロダモクスノキ科ですので三行脈を持ち,さらに裏が白い.バッチリでしょ?

 この後も常緑広葉樹林を調査するんですが,まわりが田んぼなので,つい田んぼの植物にも目がいってしまいます.私もよくやりますね,本当.
ホタルイ
 まずはホタルイ「イ」と名前が付いていますが,イグサ科ではなく,カヤツリグサ科です.ま, 真っ直ぐ細長い植物を,昔の人は「イ」と呼んだのでしょう.サンカクイやカンガレイもカヤツリグサ科です.

 で,サンカクイやカンガレイは茎の断面が三角形なのでカヤツリグサ科という感じは分かるんですが,このホタルイ,なんと茎の断面が丸く,他のカヤツリグ サ科の連中から見れば「裏切り者」という感じでしょうか.ええ,茎の断面が丸いのが 特徴です.

 似たのにイヌホタルイというのがあります.小穂がもっと尖って雌しべの柱頭が2本に分かれます.ホタルイは基本3本.
ホタルイ
 別の角度から.一本の茎の途中に花がついているように見えますが,実は花の部分ま でが茎,花から先は苞なんですね.写真もよく見ると,区切れ目が分かるでしょう.左の写真ではその部分で折れ曲がっています.
 ちなみに「ホタルイ」という名前は,「ホタルがでるような水辺に生育するイグサ」という意味.イグサ科ではないけれど.
コアゼガヤツリ
 さて,私にとっても新種です.コアゼガヤツリという,その名の通り カヤツリグサ科の草本.

コアゼガヤツリ
 線香花火の火花が散るような形ですね,花.
コアゼガヤツリ
 もう少しアップで.こんな感じ.
コアゼガヤツリ
 もっとアップにするとこんな感じ.すごいね,マクロレンズ.ちなみに私はペンタックスの50mmマクロを使っています.
コモチコウガイゼキショウ
 似てそうで別な種,前回までコウガイゼキショウと紹介していたんですが,違うことが判明.コモチコウガイゼキショウでした.
コモチコウガイゼキショウ
 コモチゼキショウ,平凡社の図鑑だとハリコウガイゼキショウの一生態型となっています.茎は円筒形なんですが,やや潰れた楕円の円筒です.葉耳が目立ちます.
 
コモチコウガイゼキショウ
 アップの写真をもう一枚.これ,花の部分から再び茎が伸びていますね.そうなんです,コモチコウガイゼキショウは,頭花に無性芽ができるのが特徴とか.すごいな,これ.
クログワイ
  さて,アヤシイ植物を発見.何か茎の先にブラシみたいのが付いてるんですけど.
クログワイ
 アップで見るとこんな感じ.クログワイといいます. これもカヤツリグサ科.ハリイ属ですが.
 小穂(花の集まった物)の太さと茎の太さが同じなのですごく奇妙に見えますね.
 こっちは花が咲いている途中.右の写真は咲き終わった物.
クログワイ
 で,クログワイの名前の由来ですが,地下の球茎が料理で使うクワイに似ているので,そう名付けられたとか.
 ちなみにクワイはオモダカ科.紛らわしいですね.
クログワイ
 茎の断面.山渓の図鑑,「野に咲く花」によれば,茎は中空なんだけど横断膜がある,ということ.これがそうですね.
 普通は生えているそのままで写真を撮るんですが,ま,雑草ということで1本抜かせて頂きました.

 さて,再び常緑広葉樹林へ.常緑広葉樹林といっても,大規模な林があるわけではなく,やはり神社の境内や屋敷林,斜面の残存林なんかになってしまう訳で すが.
ツルグミ
 ツルグミです.スダジイ林の林床,斜面です.グミの仲間も難しいん ですが,これは文字通りツル状になるので分かります.
ツルグミ
 グミの仲間の特徴である裏の白さと輝き,茶色い斑点もそのまま.ま さにグミですね.
フヨウ
 暗くじめじめした常緑広葉樹林を脱すると,道脇にフヨウ(芙蓉)の花が咲いています.園芸種ですから,詳しくは分かりませんが,見るとホッとしますね.
ドクウツギ
 さて,同日,アカマツ林調査をする場所探し,ということで林道をあちこち移動します.
 で,見つけましたドクウツギ.その名の通り毒(コリアミルチン)が あるので注意.

 故・前川文夫先生が古赤道分布の説明に使った種としても有名.世界中に分布があるが,とびとびに分布し,空白地帯が大きい.で,この原因は,「かつて赤 道に分布していた植物が,その後の大陸移動で,てんでバラバラの地域に分布するようになった」といったような話です.
 いや,私の説明はすごくおおざっぱですので,皆さん自分で調べてみて下さい.ネット検索でも概要が分かります.
トチバニンジン
 ト チバニンジンです.スギ林の林床で見つけました.スギ林の林床は暗いんですが,暗い所には暗い所なりの植物がいろいろいます.
 ウコギ科の草本で,葉がトチノキの葉のように五出複葉(掌状複葉)な所から名前が付いています.
 ちなみに,薬草として有名な朝鮮人参ってありますね?あれもこの仲 間で和名はオタネニンジン,外見は似ています.ま,日本には野生して いないので間違えることはありませんが.
オオウバユリ
 林縁には,オオウバユリが咲いていました.うーん,ゴージャス.オオウバユリは雪の多い地方特有の物で,雪の少ない地域にはウバユリが分布します.
 どう見分けるかって?ウバユリの花は通常3-5個オオウバユリは10個以上つけます.で,雪に関して微妙な地域も,花の数を数え ればok.
 
 7日目はここまで.
さて,いよいよ8日目.もちろん疲れてますよ.
清水さんは元気ですが.
この日はヒノキアスナロ林をさがしに.ヒノキアスナロは佐渡ではアテビと呼ばれていて,比較的よく植林されています.
アキノノゲシ
 キク科の高茎草本を発見.





アキノノゲシ
 アキノノゲシでした.雑草とはいいますが,どうして,なかなか美し い花じゃないですか.
ミズタマソウ
 純粋なアテビ林はないんですが,スギと二段林になっている場所で調査をすることに.
 で,途中でミズタマソウに出会います.派手な花ではないですが,しっとり.
ヌスビトハギ
 こちらはヌスビトハギ.マメ科で三出複葉です.サングラスみたいな実をつけます.
 どんな形かって?ネット検索してみて下さい.
ニガクサ
 やや,ニガクサだと思うんですが,どうでしょうか.
ニガクサ
 葉はこんな感じ.シソ科です.
ヒメヨツバムグラ
 こちらは一方,ヒメヨツバムグラ.




というわけで,この日は終了.
最後の方は疲れてコメントも少なめ(笑)



 次回,佐渡植物記4 へ.いよいよ2007年の佐渡植物記もいよいよ大詰め.


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