11月です.10月になると授業が始まってしまい,後期は科学英語なぞを担当しているのですが,10月には水,金と基礎実習で午後がつぶれたり,物質循 環学序説の担当がまわってきたりして,大変なんです.序説→英語→実習となると,朝9時から夕方4時過ぎまでずっとだったりしますので.
 そんな中で特別天然記念物のカモシカに関する会議に出たり,植生学会に出たり,川の調査やら,3年生の現場の視察やら,いや,大変です.
 それだけなら良いんですが,卒業した学生諸君の投稿論文のコレスポンディング,コレスポンディングって言うか,私が論文なおしたりグラフ作ったり植生図 描いたりする訳なんですが,これがまた大変.知らない論文も読ませて頂き,勉強になりました.

 で,また明日から日常の日々はやってくるのですが,投稿論文を送り返して時間が空いた日曜の午後,て言うか晩ですが,久々にweb siteを更新.カモシカの委員会で山形へ行った折,蔵王に 行ったのでその話を.オイオイ,イントロ長いよ!!

 山形市内と蔵王山って近いんですね.全然知りませんでした.市内から1時間も車でかからなかったと思います.で,ロープウエイ.
 目指す「いろは沼」は山地帯の落葉広葉樹林(ブナ林)と亜高山帯の常緑針葉樹林帯の境界域に位置します.

 針葉樹林と,落葉広葉樹林の両方を見られてお得な「いろは沼」,時間がないので有名な「お釜」は今回はお預け.
 ロープウエイからスキー用のリフトに乗り換えると,紅葉の中を,まさに空中散歩. 気持ちいいですよ,これ.
ミヤマナラ
 蔵王はですね,ミヤマナラ,というミズナラの高山型の変種がありま す.背が低くて,大きくなりません.多雪に対する適応でしょう.
ミヤマナラ
 葉を見てもミズナラそっくりで良く違いが分かりませんが...
ミヤマナラ
 裏面脈上に伏せた毛があるのが分かりますね.これが特徴.私が学生 時代の後輩がこれを研究していて,「寝た毛がある」と繰り返していたのを思い出します.
イチイ
 あとはですね,針葉樹,イチイ.上高地でも見ますね.葉が綺麗には 並ばず,ランダムに生える感じがイチイ.あとで出てくるオオシラビソと比べて下さい.
ハクサンシャクナゲ
 亜高山の広葉樹といえばシャクナゲですが,これはハクサンシャクナゲ
ハクサンシャクナゲ
 裏に毛があるのが特徴ですが,ケナシハクサンシャクナゲというのは毛がないので,どうやって見分けるのか分かりませんね(^^;
シロバナトウウチソウ
 ワレモコウの仲間ですが,シロバナトウウチソウ,といいます.これ はもう枯れているのですが,花は白.そして穂が短く,垂れません.
 あとで出てくるナガボノシロワレモコウは穂が垂れます.
シロバナトウウチソウ
 こちらはシロバナトウウチソウの葉.紅葉していますが,葉のようなものが7枚くらい見えますが,これらは小葉(しょうよう).これが全部集まって一枚の 葉です.奇数羽状複葉.
 で,このシロバナトウウチソウは,小葉に葉柄がある(小葉柄がある)のが特徴のひとつ.

 それにしても濃い色ですね.アントシアニンでしょうか.
キタゴヨウ
 再び針葉樹.ゴヨウマツの仲間ですが,キタゴヨウです.チョウセン ゴヨウはもっと葉が長いのですが,これは比較的短いので区別が付きます.
 あと,分布.チョウセンゴヨウは雪の少ない中部山岳地域に出ますが,キタゴヨウは雪のある東北などに分布します.
キタゴヨウ
 球果の写真もお見せしましょう.
キタゴヨウ
 ゴヨウマツ,五葉松という名の通り,葉が束になって出ますが,1ヵ所から5本の針葉を出します.
 アカマツ,クロマツなんかの二葉松は二本.
オオシラビソ
 こちらはオオシラビソ.シラビソと違い,雪の多い地方に行くほど多 くなります.シラビソはこうして枝葉を見たとき,上から見て枝が見えますが,オオシラビソは枝の上にも葉が生えているので枝が見えません.
 これで見分けられます.
ハナヒリノキ
 ハナヒリノキ.これも紅葉がこいですね.
ハウチワカエデ
 これはブナ林の樹木,ハウチワカエデ.コハウチワカエデやオオイタ ヤメイゲツが葉身(葉のうちの葉柄を含まない部分)と葉柄の比が1:1ぐらいなのに対し,このハウチワカエデは明らかに葉柄が短く,葉身の1/2位しかありません.
オオカメノキ,ムシカリ
 オオカメノキ.これもブナ林の林床に出るものです.私個人はムシカ リとよぶことが多いです.
 東京,三頭山に「ムシカリ峠」というのがあって,その影響です.
ミツバオウレン
 ミツバオウレン.こちらは亜高山の針葉樹林下に出るものですね.
ナンブアザミ
 さて,アザミ.地域のフロラを見ると,ザオウアザミというのがある ので期待したんですが,これはナンブアザミザオウアザミは総苞片が斜上するのに対し,こちらナンブアザミは反り返ります.
ナンブアザミ
 ナンブアザミ,葉を見ると,上の方は鋸歯があっても切れ込まないんですが...
ナンブアザミ
 下の方に付いている葉は,羽状に切れ込みます.ということで,葉で見ても,ナンブ アザミということで.
ヒメヌカボ
 うーん,イネ科が出てきてしまいました.ヒメヌカボかなんかでしょ うか.
ヒメヌカボ
 こんな感じなんですが.どなたか教えて下さい.
いろは沼
 ...と散策している間に,いろは沼に到着.大小たくさんの沼があるということで「いろは」に例えているのだと思います.
いろは沼
 ああ,いいじゃないですか.オオシラビソの森に囲まれて.

 草本が紅葉することを「草紅葉」とよびます.「枯れている」という と残念な感じですが,「草紅葉」っていうと,ちょっといい感じでしょ?
イワショウブ
...ですが,植物を見分けるのは,ちょっと大変.枯れてしまっているんですが,イ ワショウブではないかと思います.
イワショウブ
 こんな感じ.イワショウブであれば,白い花だったはずです.ユリ科.
キンコウカ
 ええ,こちらも枯れていてよく分からないんですが...キンコウカで すかね.だとすると,咲いていたときは黄色い花でした.
キンコウカ
 葉っぱがこっちは少し見えますね.キンコウカもユリ科です.
アカミノイヌツゲ
 アカミノイヌツゲ.文字どおり,実が赤いです.岩場に出たり,湿原 の脇に出たりしますので,生理的には広い環境幅に適応可能で,しかし競争には弱い,といったものだと思います.

 夏に来たら,と想像をふくらませます.また来たいですね.
サラサドウダンツツジ
 これも紅葉が見事です.サラサドウダンツツジ
コミネカエデ
 こちらはミネカエデ.コミネカエデがブナ林,すなわち山地帯に分布 するのに対して,このミネカエデは亜高山帯に生育します.
クロヅル
 クロヅル.ツル植物ですが,これ,多雪地帯に生育するので,これが あるところは結構雪が降る証拠です.
オオシラビソ
 これも,雪が降る証拠.オオシラビソの枝が下にさがっていますが,冬の積雪が沈降していくときに引っ張られて下向きになってしまいます.雪のない時期で も.
 この高さは雪の深さの大まかな指標になりますね.
ザオウオヤマノリンドウ
 ザオウオヤマノリンドウ,というのがあるそうです.普通に見ればオ ヤマノリンドウ.花が一番上にだけつきます.良く花屋さんで見かけるのはエゾリンドウの仲間で花が何段にもつきますね.
 このザオウオヤマノリンドウ,オヤマノリンドウの地域型か何かでしょう.誰か調べてみて下さい.
タケシマラン
 こちらはタケシマラン.葉はとっくに枯れていますが,実はまだ残っ ています.動物は食べてタネを散布してくれないのかな?
ヒメモチ
 ブナ林の林床に出る常緑樹を2種.
 こちらはヒメモチ.ヒメアオキじゃありません>自分.葉柄が濃い紫色なのが特徴です.
 どちらも,寒い冬期の間,雪のカバーに守られて氷点下何十度とかにならずに済んでいるため,標高の高いところでもok,と考えられています.
ツルシキミ
 もう1種はこちら,ツルシキミ.ミヤマシキミの多雪地型です.
ノコンギク
 冠毛があるのでノコンギク.いわゆる野菊を代表する種のひとつです ね.
ナナカマド
 ナナカマドも,しっかり紅葉しています.実が横向きに付いています が,ここ,蔵王ではタカネナナカマドは確認されていないと言うことなので,ただのナナカマドでしょう.
ブナ林
 ブナ林も紅葉しています.
ブナ林
 こんな感じ.
ブタナ
 さて,リフトもロープウエイもスキー用を兼ねているので,スキーのゲレンデを歩いてみましょう.
 で,ブタナを発見.いきなり現実世界に戻ってきたような気分.
 ちなみに,ゲレンデ,というのはどうやらドイツ語.英語ではスキー・スロープといいます.
オニウシノケグサ
 こちらは外来牧草,オニウシノケグサ.うーん,スキー場です.この 日はここまで.

 前日は蔵王を見て,午後から会議.で,翌日.カモシカが洋ナシを食べたりして被害を起こしていると.その対策を見に行きます.
 洋ナシを食べるというか,枝や芽を食べてしまって,木をダメにしてしまうんですね.
洋ナシ ラ・フランス
 立派な洋ナシです.ラ・フランスだそうな.この,ヒョウタン型とい うか,2段になっているのが特徴.

 お世話になっているバーで,秋の季節,「洋ナシのフローズン」というのがお勧めのカクテルになっています.私はウイスキーばかりですが.

 ウイスキーの話になってしまうと,また夜の話になってしまうので,戻ります.
 カモシカよけのネットは,こうしたもの.長野県担当の方と話をしたんですが,長野県では同じようなものでも「シカ対策用」で予算を組んでいる関係で,実 際にはカモシカ対策にもなっているかもしれないが,「カモシカ対策はしていない」ことになるのだとか.
 難しいっすね.
ヤマブドウ
 地元の観察担当者が来られるスキー場へ.スキー場の縁に行くとヤマブドウが 青い空と綺麗にコントラストを作っていました.
ナガボノシロワレモコウ
 スキー場の脇が少し湿った草地になっているので,植物を見てみましょう.がんばってもカモシカは見られないでしょうから.
 先ほどシロバナトウウチソウのところで触れた,ナガボノシロワレモコウで す.まず,穂が長いために,まっすぐ立たないで,垂れていますね.
ナガボノシロワレモコウ
 で,ですね,小葉が多いんです.11枚から15枚くらいあるそう で,ここでは13枚.

 確かに,多すぎ.
アカバナ
 この前のミズオオバコを見た水田脇の,湿った草地でも見ました,アカバナ. 実をつける部分が細い棍棒状に長く伸びます.
アブラガヤ
 アブラガヤでいいでしょ?小穂が独立していると,何とか,とか聞き ますが.

 といったわけで,蔵王周辺の自然を満喫しました.仕事のついでではなく,またきちんと訪れたいな,と思います.
 それからですね,蕎麦がうまいんですよ,山形.信州も蕎麦ですが,どうしてなかなか,山形も侮りがたい.駅前周辺の「なかの」,だか「なかま」って言う 飲み屋さんで,締めにざるそばを食べたんですが,挽きぐるみの,香りの強いくろい蕎麦を,カツオだしたっぷりの濃いツユで頂く.たまりません.このお店で は,この地方名物のサトイモの「イモ煮」を出してくれて,山形の風土をおいしく味わった感じです.ありがとうございました.
(飲み屋さんは,やっぱり地元の人が利用している所じゃないとダメですね)

作成後記
 蔵王の植物を調べるのに,その地域の植物図鑑を買おうと思って探したんです.よく,「上高地の花」とか,そんなのがあるじゃないですか.そういうやつ. で,amazonで,和書で「蔵王」って入力したんですね.本を探そうとして.そしたら,少女漫画がたくさん出てきて,どうも作者さ んが蔵王なんとか,って言う人なんです.

 で,少女漫画でもいいんですが,ジャンルがですね,なんですか,ボーイズラブ,って言うんですか,そういうやつなんです.いやあ,こまる んですよ.amazonって,一度クリックすると「最近クリックした商品」とか,一度買ったすると「島野さんへのお勧め」とか出てきて,いや,困ります. 大学のネットにつないでいるパソコンで.

 人生,生きていると,いろんなことに出会いますね.

(結局,「フラワートレッキング蔵王連峰」無明舎出版,というのを買えましたけど)


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