2009年に印刷になった研究成果など

UPDATE: 2009年12月31日

紹介させていただきます.

 今年も終わりです.年度は続きますが.そういうわけで,今年,2009年に印刷になった,あるいはアクセプトになった学術論文をここに挙げておき た いと思います.この研究室を卒業した皆さんの努力の結晶ですので,きちんと評価されてしかるべきです.
 まずは,紀要のものから.「信州大学教育学部付属志賀自然教育研究施設業績」に書いたもの.私は理学部所属ですが,井田先生の所属するセンターの紀要に 論文を残しました.



 一つはこれ,佐渡島におけるイワヨモギの帰化.在来のイワヨモギはレッド・データ・プランツなんですが,今は,道路工事の影響なので,大陸産のイ ワヨモギがあちこちに進入してきていることが知られて今ます.佐渡島でも発見してしまいました.
 島野光司・清水理恵.2009.佐渡島におけるイワヨモギ(キク科)の帰化.信州 大学教育学部附属志賀自然教育研究施設研究業績, 46:11-13.

  佐渡島の自然は,北海道で在来のイワヨモギが生育している植生に近い植生が海岸沿いなんかにあるんです.ですから,そうしたところに入っていく と,進入種なのか,もともと佐渡島にあったのかが分からなくなってしまいます.こうした事態は避けなければならないので,小さなことですが,報告する次第 です.
 本当は,これ,「植物地理・分類研究」というところに書いていたんですが,その雑誌の査読者がこうした報告の意義を認めないような人だったので,取り下 げて,井田先生のところの雑誌にお願いしました.こうした情報は,共有されて初めて価値があります.皆に良かれと思って,はじめは地理・分類研究に出したので すが,査読者からは「誰にとって良かれ,なのか分からない」という手紙をもらいました.まあ,あそこはそういう雑誌,と言うことですね.いいでしょう.ということは,あの雑誌だけを見ていても,そういう情報に触れられないと言うことですね.残念です.で,私としては,植物地理・分類研究に新産 地などを報告しても,研究者としての評価にはなりませんので,いろいろ面倒ならば,紀要のがいいです.ネット上でもアクセスできますし.皆さん,情報を共 有しましょう.


 もうひとつは,ノウサギの雪上の足跡を用いた,ノウサギの好適な環境の把握.ノウサギがある環境を好んでつかうということは,そのあたりで餌を食 べたり,キツネや猛禽類から隠れるシェルターとして使う,ということで,足跡が沢山あるはずなんです.で,地面の上だとわかりせんが,冬,雪の上ならば足 跡がしっかり残りますので,この,一定の環境における,面積あたりの足跡延長の長いところほど,ノウサギにとって好適な環境である,という仮定のもとに, 足跡の長さを違う面積同士のデータ間で比較するための計算方法を提案しました.
 普通,足後長1:面積1=足後長2:面積2とやってしまいがちですが,これは,1次のディメンジョンと2次のディメンジョンが混ざっているため,この式 ではダメです.で,どうするかというと...あとはこちらをどうぞ.
 島野光司・清水理恵.2009.雪上足後を用いたノウサギの好適な環境の把握.信 州大学教育学部附属志賀自然教育研究施設研究業績, 46:15-17.




 白水さんの卒業論文,生態学会紙和文誌にアクセプト・印刷になりました.大学とかからならCINIIで見られます.
 白水由季・島野光司.千曲川,梓川の河畔植生とその環境条件.日本生態学会誌 59:1-12.
 千曲川,梓川とも同じ信濃川水系の河川ですが,本流の千曲川中流域は砂河川,一方上高地から下り松本を経て千曲川に注ぐ支流・梓川は礫河川.そうした環 境の違いで出現する植物が異なります.同時に,ひとつの河川の中でも,立地の水面からの比高がたかかったり,低かったりすることで,やはり出現する植物が 変わります.そんなことを,植物の調査,環境条件の調査を行うことで明らかにしました.いやあ,努力が報われるのは素晴らしいですね(地図なんかは私が描 き直しましたが).
 私の研究室から,学生の論文が査読付きの学会誌にアクセプトされたのは,この論文が初めてです.その意味でも,記念碑的な論文です.白水さん,おめでと う.



 竹内くんの卒論は,英文で国際誌へ.
 TAKEUCHI, Keita and SHIMANO, Koji. 2009. Vegetation succession at the abandoned Ogushi sulfur mine, central Japan.Landscape and Ecological Engineering.5:33-34.
 よく,鉱山跡地では,硫黄などの影響で土壌が酸性化し,植生の回復が遅れることが知られています.長野県と群馬県の県境に位置する小串鉱山跡地ではどう な のだろうかと竹内くんが調べました.植物だけでなく,土壌の硫黄や,pH,炭素量なども調べました.その結果,ここでは,土壌の酸性化の影響は植物の成長 に影響を与えるほどでなく,むしろ,鉱山の採掘にともなって起こった斜面崩壊によって,土壌が未発達であることが植生の回復の遅れを引き起こしていること が明らかになったというわけです.
 いやあ,竹内くん,英文を書くの,当時,ずいぶん頑張ったよね.そういう苦労は,きちんと身につきます.おめでとう.(植生図は俺が描いたけど(笑))



 こちらは田村くんの卒業論文が,景観生態学会の雑誌,「景観生態学」に載りました.っていうか,頑張って載せたんですが.
 田村 元・島野光司.2009.長野県松本盆地の神社林が提供する植物の生育環境の比較.景観生態学14:53-66.
この論文のコンセプトは,街中に散在する 神社の境内が,開発された周辺には残っていない植物たちのレフュージア(逃避地)になっている,というものです.神社があるおかげで,その辺にはないよう な山の植物や,水辺の植物があり,しかも外来種の割合が少ない,というそんな論文です.なかなか価値ある物だと思います.
 この論文,私はずいぶん苦労しました.今回ここに上げる諸君は,クミちゃんを除き,皆とっくに卒業して社会人として働いているので,データの直しから, グラフ作成,図の作成,数値の検定など,全部私がやるんですが,この田村くんの論文では,査読者に,「常在度ではなく,被度の平均を示すべき」といわれ て,田村くんがおいて行った表を私が全部計算し直しました.それだけならよくあるエピソードですが,最終的に論文に書いた地名と,エクセルファイル中の地 名(コード名)が一致しておらず,どれがどれやらわからず,大変苦労しました.私へ提出する前に,整理しておいてよ,田村くん(笑).
 もう一人の査読者は指摘が抽象的だったり,担当編集者からは「常在度表を出すような専門的な(たぶん,植物社会学的な,といいたいのだろう)論文は,よ そに出して」といった趣旨のコメントをもらうなど,結構まいりましたが,ま,終わってみれば良い思い出か.しかし,またこの雑誌に出すとなると,いろいろ 考えてしまいます(笑).
 あ,それから「常在度でなく,被度の平均...」と指摘していただいた査読者からは,表組みの組み方について,教えを受けました.どなたか名前は分かりませんが,お礼申し上げます.
 ともあれ,田村くん,おめでとう.


 雑誌に印刷になるのは,もう少しあとですが,on line版が公表されています.久保田さんの卒業論文だった,スキー場の植生.
  KUBOTA, Hitomi and SHIMANO, Koji 2010. Effects of ski resort management on vegetation. Landscape and Ecological Engineering. in press.
 一応,in pressとしておきますが,ネット上ではもう全文が見られます.
 スキー場って,土壌が雨で流されるエロージョンや,薬剤散布なんかで環境にマイナスなイメージがあろうかと思うんですが,実は,人為的な草刈だったり, 雪解け水の排水をするための素掘りの水路などがあるために,今は貴重になった草原性の植物や水性・湿生植物の生育地として機能しているんです.そのことを 明らかにしたのがこの論文.これは,きちんと英文で国際誌に書くことの意義がありますね.川の植物だとか,神社の植物は,地域性がありますから,むしろ日 本語のほうがよいのですが,こういうのは使い分けです.
 あ,それと表の組み方については,例の蛭間博士にいろいろ御教授願いました.御礼申し上げます.
 久保田さんの調査に付き合ったおかげで,私も知らない植物にずいぶん出会いました.おめでとう.


 久美ちゃんの論文ですが,やっとアクセプトになりました.印刷は来年の5月の予定.
 北川久美子・島野光司.2010(予定).長野県松本盆地における乾性放棄水田か ら水辺植生復元のための埋土種子評価.保全生態学研究 in press.
 もう乾いてススキなんかが生えている耕作放棄水田でも,耕して水を引いてやれば,水生植物が埋土種子から発生して,水辺植生を復元できることがわかりま した.実際に放棄水田を耕したりして,たいへんでしたね.連名にはなっていませんが,多くの方々の協力があって初めて成し遂げられた貴重な研究成果です.
 この論文の査読,査読者二人の方向性がちがったり,途中で査読者がいなくなったり(もう一方の査読者にしたがって論文を直して進めていたら,あとから復 活!ありあえない!),果ては担当編集委員,というか編集委員長まで変わってしまったり(最終的には,受け付けた当時の編集委員長が判断)と,いろいろ戸 惑う査読でした.私も,こんなことは初めてかな(笑).まあ,終わってしまえばいい思い出か(久美ちゃんにとっては.私はまだこれに付き合う可能性がある ので苦笑い).ともあれ,北川さん,もろもろおめでとう.修論その他,おち着いたらお祝いしましょう.

 私は,今の地位(大学の准教授)という立場で,研究室の学生諸君がやっていった研究をなるべく多くの人の目に触れる形で残してい行こう,と思って います.信州大学というのは,たしかに地方大学ですが,だからといって,研究のレベルが低いということは,全くないです.しかも,フィールドに恵まれてい る点は,都市部の大学生諸君に対して大きなアドバンテージです.そんなことで,信州大学理学部の,物質循環学科の,植生・生態研究室の諸君が,きちんとや れることを,そしてやったことを世に示して欲しいとおもっています.そのことは,自分たちの努力が成果として実を結ぶことを意味しているのですから.
 そんなことで,大晦日,やっと私は飲みに行けます.

お世話になった査読者の皆様がた,ならびに担当編集委員,委員長のみな様には改めてお礼申し上げます.