発展問題 ~氷の構造など

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(Aの方が少し難しい)
問題5-2(炭化水素類の構造)も発展問題扱いです。

発展問題

以下の問題は順不同で(好きな順序で)回答してください。


問題 9 (氷) 難易度A

下図は氷(Ice Ih)の単位格子である。氷の構造をいくつかの方向から図示せよ。酸素原子のみを示せばよい。(水素原子は示さなくてよい)

氷の結晶は非常に美しい(と思う)ので、ぜひこの問題に挑戦してみてください。

(赤丸は酸素原子の位置)
単位格子に含まれる水分子の数 4

単位格子だけを示すのではなく、構造の特徴がわかる大きさ(原子 100 個程度以上)で描いてください。
[Ball-and-stick]モデルで、隣接分子の間に線を引くと構造の特徴がわかりやすいでしょう。
(線の引き方)

ヒント これまでの問題と異なり、単位格子が立方体ではありませんから、単位格子の繰り返しの計算にはベクトルの考え方が必要です。
(ヒント1→ワークシートの例)
(ヒント2→立方体以外の単位格子での繰り返しの考え方)

できあがったら、分子が等距離(約 2.74 Å ※)に 4 つの最隣接分子を持つことを確かめてください。距離が違っていたり、最隣接分子が 4 つになっていないときは、計算が間違っています。
(※単位格子の一辺として小数点以下 2 桁までの値を使っているので、小数点以下 3 桁以上の値は ずれます。)

描かれた構造を見ると、氷の結晶は「すきま」を多く含んでいることがわかります。液体の水の構造は、氷の構造の特徴を強く残していますが、一部の水分子がこの「すきま」に入り込むために、固体(氷)から液体(水)になるときに密度が高くなります(氷は水に浮かぶ)。このような特徴を持つ物質は極めて稀です。(他の例としてはアンチモン(Sb 原子番号 51)がある)
これは氷の隣接分子数(4 個)が、通常の結晶(面心立方格子、体心立方格子など)に比べ非常に少ないことと関係しています。

ice Ih は常圧で見られる氷であり、1000 気圧以上の高圧では他の構造(ice II や III など)が現れます。これらの氷の密度はいずれも 1 g cm-3以上です。(水よりも密度が高い)
中には 100 °C 以上で存在する氷も知られています。


問題 10 (ダイヤモンド) 難易度B

下図はダイヤモンドの単位格子であり、単位格子(立方体)の一辺は 3.567 Å である。
構造をいくつかの方向から図示し、その特徴(隣接原子数や角度など)について述べよ。

ダイヤモンドの単位格子 (「分子・固体の結合と構造」、David Pettifor著、青木正人、西谷滋人訳、技報堂出版)

単位格子だけを示すのではなく、構造の特徴がわかる大きさ(原子 100 個程度以上)で描いてください。
隣接原子間に線を引くと構造がわかりやすいでしょう。(線の引き方)

できあがったら、原子が等距離(約 1.545 Å ※)に 4 つの最隣接原子を持つことを確かめてください。最隣接原子が 4 つになっていないときは、計算が間違っています。(※単位格子の一辺として小数点以下 3 桁までの値を使っているので、小数点以下 4 桁以上の値は ずれます。)

ダイヤモンドもすきまの多い構造であるといえます。なぜこのような構造を持つダイヤモンドが、とびぬけた硬さ(かたさ)を持つのでしょうか。今後学習する電子軌道などとともに考えてみてください。また、ダイヤモンドは非常に高い熱伝導性を持つことでも知られています。

(参考) 室温付近における熱伝導率
物質名 熱伝導率 / W m-1 K-1
ダイヤモンド 600~2100 (純度によって変動)
400 (at 0 ºC)
ステンレス(18-8) 15 (at 0 ºC)
ガラス(パイレックス) 1.1
2.2 (at 0 ºC)

問題 11 (グラファイト) 難易度A

(1) グラファイト中の最隣接の炭素原子間距離は 1.418 Å である。炭素原子 50 ~ 100 個程度で構成されたグラファイトシート(六角網平面) 1)最近は グラフェン シート とも呼ばれます。セロハンテープを使ってシートを 1 枚にするという驚きの実験方法が 2010 年のノーベル物理学賞の対象となり、話題となりました。 1 枚の構造を図示せよ。

(2) グラファイトの層間距離は 3.348 Å である。グラファイトの構造を図示せよ。(α-黒鉛とβ-黒鉛の 2 種があるが、図示するのはどちらかでよい。)

(1)のヒント 繰り返し単位としての単位格子は六角形ではなく、2 つのベクトルで表される四角形(平行四辺形)となります。

グラファイトは常温、常圧で最も安定な炭素の同素体です。ダイヤモンドは絶縁体ですが、グラファイトは電気を流します(電気伝導性を持つ)。これはそれぞれの構造とも関係しています。また、ダイヤモンドは透明ですが、グラファイトは黒色です。この違いはどこからきているのでしょうか。


問題 12 (六方最密) 難易度A

亜鉛(Zn) は六方最密充填構造(hexagonal close-packed structure) を持ち、最隣接原子間距離は 2.66 Å である。
構造を図示せよ。

実は割と難しい問題です。層と層の間の距離は三角関数を駆使して計算しないと、「最密」構造にはなりません。


問題 13 (クラスター) 難易度B

通常の結晶性物質は単位格子が 3 次元的に数千回以上繰り返され、数十億以上の非常に大量の原子(分子)から構成されている。これに対し原子(分子)が数個から数千個のみ集合した微小粒子は「クラスター」と呼ばれ、その特異な物性が注目を集めている。
金の結晶構造から、直径 1.0, 1.5, 2.0 nm 程度の球形粒子を切り出し、含まれる原子の数を見積もり、表面に存在する原子と固体内部に存在する原子の数の割合について考察せよ。

ヒント あらかじめ大きめの(四角い)結晶構造を作っておき、中心原子からの距離をエクセルシート上で求め、エクセルの[ソート](並び替え)機能を使って、各原子を距離順に並べます。

問題 13 のヒント

エクセルのソート機能

  • 並び替えを行いたい領域を選択しておき、メニューから[データ]-[並び替え]を選択。
  • 並び替えの基準にする列を選択。([昇順]=小さい順、[降順]=大きい順)
  • [OK]を押すと、行の並び替えが行われる。

問題 14 (ゼオライト) 難易度B

説明は次ページを参照してください。

ゼオライトの結晶構造をひとつ選び、構造を図示してその特徴について述べよ。
(物質名を示すこと。)


脚注

1 最近は グラフェン シート とも呼ばれます。セロハンテープを使ってシートを 1 枚にするという驚きの実験方法が 2010 年のノーベル物理学賞の対象となり、話題となりました。